10-めまい、吐き気、乱視。過労の症状、残業をし続けたその先
【前回のお話】
(1161字・この記事を読む所要時間:約3分 ※1分あたり400字で計算)
「おー、お疲れ。頑張っているねぇ」
社員一人一人に労いの声をかけながら、社長が夜食のおにぎりを配っている。
時計の針は既に夜の9時を回っていた。
今日も残業だ。
仕事説明で「うちは6時終業よ」とIさんに言われたものの、会社を出るのはほぼ毎日、夜の10時前後だった。
中には会社で寝泊まりする社員もいた。椅子を3つぐらい並べて、ベッド代わりにしているのを見たことがある。
「ありがとうございます」と鮭おにぎりをいただく。
チラッと隣席のHさんを見ると、目が充血していた。食べかけのおにぎりを片手に、じっとパソコンのモニターを見つめている。
Iさんもすごく集中している。おにぎりには目もくれず、ただただ設計図を書き続けている。
(私も早く仕上げないと)
そう思い、モニターに目をやった瞬間、異常なことに気付いた。
(あれ……?)
文字が、画像が……2重に見える。
目を擦ってみたが、やはり2重のまま。
頭を上げて蛍光灯を見てみると、これも2つに見えた。
(睡眠不足で疲れているからかな)
ぐっと缶コーヒーを飲み干し、目の前でちらつく「残像達」をなるべく気にしないよう、仕事に集中した。
アパートに戻った後、母にこのことを伝えたら、「え、あんたそれ乱視かもしれないよ」とのこと。
「目の使い過ぎかもしれないね。それになんかいつも夜遅くまで仕事しているようだけど、大丈夫なの?ちゃんと休みは……」
「大丈夫だって」
慌てて母の話を遮る。
なぜか母に心配されると、いつも焦ってしまうのだ。
「仕事は楽しいし、日曜日は休めているよ」
「日曜日はって……まさか、土曜日も遅くまで働いているってこと?!」
「……」
そう。
週休二日とは聞いていたが、実質休日なんて無いに等しかった。
私が日曜日に休めているのも、クリスチャンで、日曜日は「主日」として教会に行かなければならず「特例」として見てもらっただけ。
しかも、何度も何度も交渉してようやく理解してもらったのだ。
「もう遅いから寝るよ、明日も朝早く出社しないと」
口を滑らせた自分に腹立てながら、そそくさと電話を切った。
仕事は好きだ。
社長も、上司のIさんも、同僚も皆優しい。
けど、流石にそろそろ疲れてきた。
ここ最近耳鳴りやめまいがひどいと思っていたが、まさか乱視にまでなるとは。
(なんで社長は、いつもあんなに元気でいられるのだろう)
ぐったりとベッドに横たわる。
(社会人経験をたくさん積んで、いっぱい働けば、私もこれぐらいのことで体調不良になんかならなくなるのかもしれない)
そう自分に言い聞かせた。
(だから、疲れたなんて言わずにちゃんと頑張らないと)
次の日も、また次の日も、私は朝一出勤と深夜残業を繰り返した。
乱視は悪化。
感情がすーっと消えていくようで、喜怒哀楽が段々と感じにくくなった。
物忘れも激しくなった。
そしてついに、私の身体は限界を迎えーー
(つづく)