VRChatユーザーは、本当にアバターを平均5000円だと思っているのか? ―VRChat向けアセットの価格イメージに関する調査報告―
概要
当調査では、GoogleアンケートフォムをTwitterで拡散し、VRChatユーザーに対して「アバター・衣装・アクセサリ・ワールドアセット・シェーダー」に関する平均価格へのイメージを調査した結果、得た177件のデータを、記述統計量から分析した。
結果としては、例えば、アバターの平均価格イメージは想定どおり5000円程度に集中している一方で、あくまで5000円を選ぶ人は半数程度であり、想定よりも個々人の価格イメージにバラツキが存在することが判明した。
また、アバター本体とアバター衣装に関してはクリエイターの皆様の値付けの参考になるよう、どのくらいの価格から「安価」「高価」と感じるのかといった点に関しても調査を行った。
加えて、クリエイターであるフレンドへのヒアリングから、「Quest対応やVRM対応にどのくらい支払い意思があるのか」という設問を採択し、予備調査の最中に得られた希望より、ワールド本体やシェーダ―そのものの平均価格イメージに関しても設問を採択して、調査を行った。
あと、前からhatenaとかで記事を書くたびにフレンドから「文章が堅くて長い」と怒られてるので、今回は図表をたくさん作りました。時間がない場合は各図表のみご覧になることでも、ザっとお楽しみいただけます。
調査を行ったサークル
変なビジネス系の人たちのせいで、「経済」という単語そのものがVRChatユーザーに警戒されるようになった結果、うさんくさい団体だと思われがちで泣いている同人サークル「ばーちゃる経済研」
ご興味があられましたら、ばーちゃる経済研のTwitterをフォローいただくことで、調査中に関連する情報を受け取れます。
はじめに
VRChatを利用する際、現在の日本のコミュニティにおいては筆者の知る限り、Booth等を利用して購入したアバターや衣装をUnityを利用してカスタマイズしてアップロードすることや、同じく購入した家具モデルなどをワールドに設置することが一般的に行われています。
そのため、初心者向けの説明などにおいてはアバターに関して「平均はだいたいこのくらい」という説明が行われることも多いですが、こちらに関してはあくまで筆者の知る限りですが、恐らくその典拠となるべきデータ等は従来あまり存在してこなかったと思われます。
また、これら価格感は、筆者が始めた約2年前において約3000円程度と伝え聞いていたものが現在は約5000円程度へと上昇しているなど、時間とともに推移している可能性が高いと考えられました。
さらに、お堅い話をするなら、これら社会的な値段への感覚というものは、基底現実社会においても、生産者側の価格決定に強い影響力を及ぼすと考えられ、経済金融当局が経済情勢把握上で使用しています。(例:内閣府「消費動向調査」「景気動向指数」や、日本銀行「日銀短観」、日銀黒田総裁「家計の値上げ許容」失言など)
そして、恐らくVRChatにおいても、これら皆んなが持っている価格感というものは、クリエイターの皆さんがアバターや衣装などのアセットの価格を決定する際に念頭にあると考えられます。
したがって、調査を行うことはクリエイターの皆様における価格付けの参考の1つになるとも考えられました。
他にも、本来ならば買い手が直面する物価の推移等に関しては、値付けと購買数を利用した統計を、例えば消費者物価指数など、国家がその権威を利用して調査しています。
しかしVRChatに関しては、hibitさんのBOOTH3Dモデル市場概況(2021年)や、私が昨年末に書いたどんな要素がVRChat向け作品の人気に関係していそうか、統計解析してみた! ~VRChatと経済学②~における図のように、作者側がつけた値付けは把握できても、購買数そのものはクリエイター様本人以外には取得できず、結果として、従来の分析には、購入者側が実際に直面している値段そのものは把握できないという欠点がありました。
そこで、当サークル仮想現実経済研究所においては、このたび「VRChat価格イメージ調査」を行うことにより、VRChatユーザーの皆さんが9月末時点で、①アバター本体・②アバター衣装・③アバター向けアクセサリ・④ワールド本体・⑤ワールド向けアセット・⑥シェーダーについて、それぞれどのような価格イメージを持っているかを調査いたしました。
注意事項
当調査はあくまで有意抽出によるものであり、VRChatユーザー全体を母集団として、その傾向を統計学的に正しく抽出したものではありません。
アンケート調査には確率抽出か非確率抽出かを問わず、様々なバイアスがかかります。また、著名人が行うような大規模調査とは異なり、今回の個票数では分散も小さくなりません。
本稿で述べられている内容には、数値や分布表のような客観的な情報以外に、筆者による主観的な考察が含まれています。
本稿の内容を基として何かを行われた結果として出た損害等に関しましては責任を負いかねますので、本稿を読んでどのように知見を活用するかに関しては、あくまで自己責任で行ってください。
著作権に関する法令が定める例外を除いて、この記事を、政策形成活動や特定の政策支持を含む政治活動、商業活動、宗教活動に利用することを禁じます。
1.アバター本体に関する結果
では、さっそくですが、実際にアバター関連では、どのような結果が得られたのでしょうか?
1-0. 重要な用語の説明
中央値:皆さんから得た回答の中で、例えば99人いたら上から50番目の人のように、一番真ん中の順位の人がイメージしている数値のこと。
最頻値:選択肢別にみて、単体で一番回答が多かった選択肢
1-1. アバターの平均価格のイメージ
アバターの平均価格のイメージに関しては、予想通りともいうべきか、その中央値には5000円が来ることとなりました。
つまり、調査時点では皆だいたい、アバターの価格は5000円くらいが主流だと思っているということです。
予想通りと言えば予想通りの結末ではありますが、一方で、よく聞く話が実際に多くの人に信じられているというのは、それはそれで重要な結論かと思われます。
ただ、一方で。
中央値とかだけでなく「そもそも、みんなの価格イメージがどのように分布しているか」というのも重要で、それを見たのが下の図です。
確かに、基本的にはアバター本体の平均価格は5000円と思っている人が半分ほどを占めており、それは中央値として表れています。
しかし、ここで重要なのは、平均価格が5000円と思っている人は、実は半分しか存在しないということです。
良くグラフを見てみると、アバター本体の平均価格は5000円より安い4000円だと思っている層が9%、逆に、平均価格が5000円より高い5500円と思っている層は8%、6000円だと思っている層は18%も居て、実は皆のアバター本体の平均価格へのイメージは、現状5000円より高い方に少し比重が傾いていることが分かります。
このことから、一般に言われる平均価格が5000円という状態から既に、再び価格イメージの更新が進み始めている可能性も、見て取られます。
実際、皆のイメージの平均をさらにとると5237円と5000円を少し上回っており、こうして価格のイメージが上がって高いアバターへの支出が当たり前になれば、やがてつられてアバター側の値付けも上がっていくことが予想されます。
ただ、アバターの値段が上がっている要因については、この記事では明らかにすることはできません。
通常、経済統計を作る際は、値上がりのうちどのくらいが「商品の品質の向上分」で、どのくらいが「同質の商品の値上がり分か」を調整し、後者のみによって統計を作り出しますが、当アンケートでは平均価格イメージの上昇のみしか補足することは不可能です。
そのため、市場価格が同じ質の商品でも上昇傾向にあるのか、それとも単純に商品の質が上がったから値上がりしているのかについては、識者による複数の意見や議論が持たれる余地があります。
1-2. アバターは、どのくらいの価格以下なら安価と感じられているのか?
では続いて、皆が「このアバターは安価だ!」となる値段は、果たして何円以下なのでしょうか。
そして、調べてみた結果、その中央値は3500円に来ることが分かりました。
こちらは筆者としては意外な帰結で、3000円程度が来るものと予想していただけに、思ったよりも「安価」の基準が高かったということが分かりました。
実を言うと、後で分布の図を見ていただければわかる通り、最頻値は確かに3000円で、おそらく筆者の感覚自体が取り立てて狂っているという訳ではないのですが、より高い回答が全体としては多かった、ということになります。
確かに、所感としてアバターのセールでは5000円のアバターが4000円になるケースが多いようにも感じますが、その値付けには、思ったよりも深い洞察があるのかもしれません。
特に、平均値は3802円と中央値を上回っており、「安価」と思う基準は3500円より高い側に傾いている傾向が見えます。
ただし、分布図を見て取れば分かるのですが、全体の9割を取り込める「安価」は2500円以下なのも事実であり、どの層をターゲットに、どのように販売するかという戦略は、中央値と平均値だけ見て成立するものではないということも、あえて併記しておきます。
1-3. アバターは、どのくらいの価格以上なら高価と感じられているのか?
一方で、安価の基準が3500円なら、高価の基準はどこにあるのでしょうか。
その答えは、中央値で見れば8000円ということになります。
少しお詫びをする必要があるのは、今回も平均値は出ていますが、これは先ほどまでと違い、推計値に過ぎないということです。
というのも様々な都合上、選択肢は20000円までとしたうえで、その先には「2万円より高い」という項目を用意していたのですが、3%ほど選んだ方がいらっしゃった関係で、その選択肢は平均の算出にそのままでは使えないため、今回はあえて「30000」を代入し、少し高めに推計値を出しています。
さて、実際に内訳をやはり分布図で見てみると、先ほどまでよりも更にばらけていることが分かります。
中央値こそ8000円ですが、1万円未満なら高価ではないという見方が約1/4を占める一方で、6500円以上の価格を高価だと見なす層も、全体の約1/5を占めています。
これ自体は購入側の購買力の差や、直面している価格層のばらつきを反映していると思われますが、逆に販売側から考えれば、高値の設定の時には、どの層をどこまで取り込むのかが重要そうです。
9500円くらいでも高価と思わず手を出しそうな層が居る一方で、7000円以上だと高価だと思ってしまうシビアな層も図より半分くらい居ることを思えば、安値よりむしろ、こちらにこそ難しさがあるのかもしれません。
1-4. Quest対応には、果たしてどのくらい追加で支払うことが出来るのか?
さて、ここまではアバター本体への価格イメージを見てきましたが、ここではいったん、Quest対応にどのくらい支払いの意思があるかというデータを見てゆきましょう。
とはいえ、Quest対応という文言には複数のニュアンスがあり、Quest向けにポリゴンやマテリアル数を削りに削ったアバター素体から、単純に初心者でもQuestでそのままUpload出来るよう、シェーダーなどを調整したモデルなど、様々なニュアンスがあります。
そのため、ここでのQuest対応は、あくまで設問に「※Quest向けのセットアップが済んだ状態のプレハブが同梱されている状態を想定しています。」と、アンケートに書いて行ったことを明記しておこうと思います。
(それでも誤回答した人が一定数居る可能性は否定できません。)
では、実際に見てみましょう。
購入する気がある人の中央値は1000円ほどでしたが、一方で分布図を見ると、購入する気がない人が34%程いることが分かります。
これらへの需要は欲しい人が限られているため、すべてに同梱して値上げをするよりは、本人の支払い意思に応じて選べるようにした方が需要が縮小しないと予想されるため、恐らく二部価格制を取り入れた方が良いと思われます。
つまり、「Quest対応していないモデルは5000円」「Quest対応したモデルは6000円」みたいな感じですね。
また、平均値の推計においては、先ほどと同様これら「F.2000円より高い」を選んだ人には、以降3000円を代入して試算しています。
1-5. VRM同梱の場合は、果たしてどのくらい追加で支払うことが出来るのか?
また、VRMが同梱されている場合は、果たしてどのくらい追加での支払いが生じるのか、見てみましょう。
注目すべきは、「購入するつもりがない」がおよそ2/3に及んでいることです。
半ば想定通りとは言えますが、現時点では、VRChatにおけるVRMへの需要というものは、そんなに大きいものではありません。
ただ、購入する気のある人の支払い意思額の中央値は一応1000円ほどには及んでおり、一定の需要があることも確かですが、平均値が中央値を下回るなど、全体的な分布の比重は1000円より低い方向にあり、不確実な売れ行きに、VRMを作成する手間等を考えると、現時点ではファンサービスの一種に近い状態とも考えられます。
ただし、あくまでこれはVRChatユーザーを対象に行った調査ですので、「VRChatを想定して作ったアバターにVRMを付与したら、VRChatは利用しないけどclusterを利用してる人が買うようになった」なんて状態に関しては、考察することは不可能です。
2.アバターの衣装とアクセサリに関する結果
では、次に、実際にアバターの衣装とアクセサリ関連では、どのような結果が得られたのでしょうか?
2-1. アバター衣装の平均価格のイメージ
(※この項目には「買わないからわからない」を選んだ人が約8%居ましたが、内容の観点より集計においては除外されています。)
まずは、アバターの衣装の平均価格イメージですが、こちらは1500円と、およそ直近の情勢を踏まえるに、適当と思われる数値となりました。
衣装の平均がいくらくらい、という話に関しては、あまり寡聞にして記憶がないため過去にどうだったのかはわかりませんが、少なくとも2022年秋時点で、購入者側は平均1500円くらいの価格に直面している可能性が高いとは思われます。
そのため、販売側に立つと、およそ1500円程度の値付けを行ったところで、あまり衣装が売れなくなってしまうということは無いように思われます。
ただし、注意が必要なのは、平均値が中央値より下へと振れているということです。
これはつまり、全体的な平均イメージの比重は、どちらかというと下側へ振れているということを示しています。
実際に分布図を見てみると、1000円帯と1200円帯にも大きな帯があることが分かり、このことからは、より多くの人に平均価格程度と認識してもらうためには、1000円程度の値付けが欠かせない現実が見えてきます。
また、衣装の価格はアバター本体より価格が低いため、50円や100円単位の差が思わぬ売れ行きの差を生む(経済学:価格弾力性が大きい)可能性は否定できず、そのうえで考えるならば、この500円の幅は思ったよりも難しい現実を反映している可能性があります。
また、平均値の推計においては、先ほどと同様これら「F.3000円より高い」を選んだ人には、以降4000円を代入して試算しています。
2-2. アバター衣装は、どのくらいの価格以下なら安価と感じられているのか?
(※この項目には「買わないからわからない」を選んだ人が約7%居ましたが、内容の観点より集計においては除外されています。)
一方で、アバターの衣装が安価と感じる価格イメージですが、こちらは800円となりました。
おそらく、実感としてもそんなに乖離していない数値だと思われます。
ただし、こちらに関しても平均値のイメージと同じく分布の広がりが大きいことは注意に値します。
例えば、アバター衣装を1000円以下だと安価と感じる人が半分弱ほどいる一方で、約1/3ほどの人は500円以下が安価だと感じているようです。
この辺は、個人ごとの購買力の差が如実に表れている可能性等が指摘できますが、原因は不明です。
ただ、本当に多くの人に安価だと感じさせたいならば、500円以下にするとよいということが分かります。
一方で、もしも、ある程度安価性を感じさせたいなら、800円程度で半分以上は取り込めるとも言えます。
2-3. アバター衣装は、どのくらいの価格以下なら安価と感じられているのか?
(※この項目には「買わないからわからない」を選んだ人が約6%居ましたが、内容の観点より集計においては除外されています。)
また、アバターの衣装が高価と感じる価格イメージですが、こちらは2450円となりました。
筆者の実感としては思ったよりも高く出たような感じでしたが、思ったよりもVRChatユーザーには購買力があるというのを実感します。
ただし、分布という観点ではもはやカオスとも言える領域です。
例えば、約1/4が1800円以下で既に高価と感じている一方で、3000円以上でなければ高価と思っていない層が1/3居るなど、どちらかというとVRChatユーザーのお財布のひもは青天井にゆるみやすいという実情を表しているような気もします。
また、これら高価イメージの執筆中に気づいたのですが、アバター衣装の場合は複数アバター向けの同梱で販売されているものもあり、それらの価格は一着単体より上がるため、この質問項目では、そこを区別できていない可能性があります。
2-4. アバターのアクセサリの平均価格のイメージ
(※この項目には「買わないからわからない」を選んだ人が約13%居ましたが、内容の観点より集計においては除外されています。)
さて、アバターのアクセサリの平均価格を見てみると、こちらは中央値が500円と、予想すべきとでもいうべき結果になりました。
とはいえ、「アクセサリ」と言っても、指輪・イヤリング・ネイル・その他にも装備できる銃など様々なものがあるわけで、概しての平均と思うと、今までよりは、ハッキリと価格の傾向を説明しづらい状態です。
一応、「例えばネックレスや手に持てる銃など、何某かの小物を想定しています」と書いてアンケートを行ったわけではありますが、分布域が300円から1000円と大幅に触れた原因も、そこにあるのかもしれません。
ただ、概してアクセサリ類は、想定通り現在も高い価格で売られているわけでもなければ、筆者の主観的には、大して昔から値上がりしているわけでもないというのは、一つ順当な着地点と言えるのではないでしょうか。
3.ワールドに関連するアセットの結果
ここまでは、アバターに関連するアセットに関して見てきましたが、一方で、VRChatをする際には、ワールドなどの作成も確かな醍醐味です。
では、それらに関する価格はどのようなイメージを持たれているのでしょうか?
3-1. ワールド全体の平均価格のイメージ
(※この項目には「買わないからわからない」を選んだ人が約61%居ましたが、内容の観点より集計においては除外されています。)
まず、ワールドそのものを丸ごと売っているケースについて調べてみたところ、そもそも61%の人は買わないがためにイメージすらないということが分かりました。
かくいう筆者も、何となくのイメージはあっても実際に購買したこと自体は無いため、状況的には似たようなものです。
そのうえで、平均価格イメージについて分析したところ、平均価格イメージの中央値は、4000円であることが分かりました。
また、内訳を見てみると、その分布は激しくバラけており、2000円以下を答える層が約1/4を占めている一方で、一番回答が多かった最頻値5000円で、これも単体で1/4ほどを占めています。
このことから、個人的には需給が少なすぎる関係で、そもそも決まった価格感が販売側・購入側双方に存在しないのではないかと推測しています。
3-2. ワールドアセットの平均価格のイメージ
(※この項目には「買わないからわからない」を選んだ人が約61%居ましたが、内容の観点より集計においては除外されています。)
一方で、多くの人がワールドを作った経験があるのも恐らく確かな話で、そうした場合は中のアセットのみを購入するケースが多いように思われます。
では、中に置くようなアセットの場合はどうでしょう。
なお、この項目では「Udonのついていない、例えばベッドとか、机とか、ワインや料理とか、ロッカーなどを想定しています。」という注記を付してアンケートを行っています。
結果としては、中央値が675円で平均値が827円と、少し乖離があります。
分布を確認してみると、500円までがほぼ半数を占めている一方で、次にはほぼ間がなく1000円以上が約4割を占めており、ここの差が平均に影響したと言えるでしょう。
本来なら事細かに問うべきなのでしょうが、重要性に反比例して設問数が増え、回答時間の増加や疲れから回答率が急激に下がることを思えば、設問自体が様々なアセットを含んでしまう以上、ここの乖離は仕方がない側面もあるように思われます。
3-3. ギミック付きワールドアセットの平均価格のイメージ
(※この項目には「買わないからわからない」を選んだ人が約61%居ましたが、内容の観点より集計においては除外されています。)
また、ワールドの中へ置くものでも、様々な機能等が付いたもの、例えば触って弾けるピアノみたいなものが沢山あるのも事実であり、その観点から設問を分けて、こちらに関しても問うています。
実際の設問では「声が大きくなるメガホンや、頭の上にタグを表示できるギミック、動くカーテンなど、主にUdonがついているものを想定しています。」と付記して、アンケートを行いました。
調べによると、中央値は1000円となり、一応直感的にはそのような感じがする数字に収まっています。
一方で、再び平均値との乖離が生じています。
分布を確かめてみると、こちらに関しては1000円の層が厚いことが分かります。
そういう意味では、ギミック付きワールドアセットの方が、ギミックの無いものより高価な扱いを受けていることそのものは確かなようです。
ただし、販売の際には少し価格付けが難しいというのも確かなようです。
4.シェーダーに関連するアセットの結果
長かった記事も終わりに近づいてきていますが、最後にシェーダーに関して予備調査中に希望があったため、本調査に加えたものをご報告します。
(※この項目には「買わないからわからない」を選んだ人が約61%居ましたが、内容の観点より集計においては除外されています。)
シェーダーの平均価格イメージに関しては、500円が中央値となっており、特に直観に反する感じにはなりませんでした。
また、乖離自体は分布を見ていると多少ありますが、その幅も非常に小幅であることから、購買者が持っている価格観に驚くような乖離があったり、需要が値付けのブレで極端に変動することは無さそうです。
筆者がシェーダーには全く詳しくないこともあり、最後だけ異様にアッサリしてしまいましたが、本編はちょうど以上でお終いです。
おわりに
まとめとしては
購入側が直面するアバターの価格は、調査当初の考え通り、恐らく過去より上昇していると定量的に示された。
一般にそこまで語られてこなかった、アバター衣装やワールドギミック等に関しても、平均価格のイメージの定量的な証拠を作った。
さまざまな平均価格イメージは、中央値としてはおよそ想定通りの値をとった一方で、想定よりも個々人の価格イメージにバラツキが存在する場合が多く、必ずしもVRChatユーザー全体が、同様のイメージを共有しているわけではない。
Quest対応や、VRM対応への需要は限られている可能性が高く、販売時は必ず同梱して値上げするより、二部価格制などにした方が良い。
といった風になるでしょうか。
一応、可能な限り善悪などの価値観を示すことなく、データから読み取れる範疇で中立的に書いたつもりではありますが、もしもそうでないと感じられる部分がありましたら、お詫び申し上げます。
本来ならば、年齢層や収入といったデータも同時に取っているため、これらの状態の差は直面する価格層に大きく影響を与える可能性も大きく、クロス集計表の作成なども行いたかったのですが、筆者は現在多忙で、残念ながらそれらは叶いませんでした。
また、そもそも究極的には、すべてのアセットに言える話ですが基本的に多くの方が趣味で作られていて商売でもないと思うので、需給とかを考えるより好きなように値付けしたほうが良いような気がします。
ただ、もしも値付けに悩む際に一つの小さな参考にでもなりましたら、とても嬉しいです。
ちなみに、調査の対象者が偏っていないかなどを確かめるため、非常に簡素な検証として、一連のデモグラフィック属性に関しては以下に付録として記述統計量や統計表を同様に作成しました。
気になる方や時間のある方は、ぜひ確認いただければと思います。
最後に、当調査に関しては、アンケートに回答いただいた177名の方のご協力なくしては成立しませんでした。
末尾の言葉に代えて、こちらでお礼を述べさせていただきます。
朱 玲華
付録(Appendix)
調査の詳細
付録A.回答率など
回答率に関しては、58.8%と低めになりました。
鋭意向上に向けて取り組んでまいります。
付録B:調査対象者と仮想現実経済研究所との関連性
初回答率とフォロワー比率については、それぞれが、当サークルにおいて、いつも行っている仮想現実消費調査とほとんど同じ結果になりました。
どうしても、やはり調査への協力は当サークルアカウントのフォロワーや、回答経験者によるものが2割~3割ほど存在しますが、調査の件数を保つにはこれらの皆様による協力が不可欠であり仕方ない問題であると考えられます。
付録C:調査対象者の属性のバランス
この項目では、そもそも調査対象者自体の属性が他の調査、例えば「ソーシャルVR国勢調査」様や、当サークルが毎月行っている「仮想現実消費調査」と比較することにより、回答者が偏った属性を持っていないかを確認します。
C-1. 年齢と年収に関して
年齢に関しては、平均26.7歳、年収中央帯は200~300万円と、当サークルにおいて、いつも行っている仮想現実消費調査などと、ほとんど同じ結果になりました。
その点では、当調査そのものに対する偏りが大きくあったとは思えませんが、一方で、ばーちゃる美少女ねむちゃんとスイスの人類学者ミラ (Liudmila Bredikhina)さんによるソーシャルVR国勢調査2021(回答者全体の9割が日本在住であり、また、回答者全体の9割以上がVRChatのユーザー)によると、日本のソーシャルVRにおける年代は、10代以下8%、20代48%、30代29%、40代以上15%となっています。
また、柳透さんによるTwitter上でのアンケート調査(2021)においては、10代以下11.5%、20代51.46、30代25.4%、40代以上8.5%となっています。
これらは両者ともにあくまで2021年の調査であり最新の情勢は少し変わっている可能性もありますが、当調査では20代が58%となる一方で、40代以上の回答に占める割合はわずか3%であり、その点においては、少し若めに偏っていると考えられます。
また、年収の方においては、同じく柳透さんによるTwitter上でのアンケート調査(2021)においては、年収は300万円以下が51.1%、300万円~499万円が29.6%、500万円~999万円が14.3%、1000万円以上が5.1%となっています。
当調査では、約61%を300万円未満が占める一方で、残りは上記調査より少しずつ少ないですが、構成比率は割と似通っており、若年層が多いという年代構成に照らし合わせて考えると、特におかしな偏りはないと思われます。
C-2. 性別比とお砂糖に関して
性別比に関しては、男性78%に対し、女性が13%、その他が9%と、当サークルにおいていつも行っている仮想現実消費調査と、ほとんど同じ結果になりました(回答拒否2.8%を除く)。
性別比に関しては、ソーシャルVR国勢調査2021では男性89%、女性9%、その他2%となっていますが、こちらは「物理現実」世界での性別を問うているものであり、質問票の問い方の差が大きく影響していると考えられています。
また、少し古いですが、風見鼎さんのVRChatにおける日本人ユーザーの声に関する調査と考察(1)で行われたアンケート調査での男女比は89対11と、おおむねソーシャルVR国勢調査における結果と似た数値が出ています。
他方、最新のMariaさんのVRChatの男女比はどれくらい?Twitterアンケートとブログの流入者数から男女比を割り出す。という記事によると、男女比はブログで73.1対26.9、Twitterでは81対19となっています。
ただ、ブログの比率の方では「運営者が女性である点」が偏りを生んでいる可能性が指摘されると同時に、Twitterの調査では「その他」へ結果だけ見たい人などの投票が相次いだ結果残念ながら「その他」の割合を出せなかったことが記載されています。
どれも貴重な調査結果ではありますが、比較のために上記3つの調査を男女のみに直して考えた場合、当調査はおおよそすべての調査の中間であることからも、当調査に特におかしな偏りはないと思われます。
また、「お砂糖」が居る人の比率は約23%となり、やはりいつも行っている仮想現実消費調査と、ほとんど同じ結果になりました。
単純な接合は不可能ですが、ソーシャルVR国勢調査2021によると「お砂糖経験がある人」の比率は31%であり、別れてしまった人が居る可能性も考えれば、十分におかしくない数値であると思われます。
また、この分野に関しては、バーチャル学会でUtokiさんとてんしんさんによる同時期のアンケート調査の発表が予定されていることもあり、接合できる可能性が期待されます。
C-3. プレイ期間やプレイ時間
一方で、プレイ期間やプレイ時間に関しては、普段当サークルで行っている調査での平均帯が16ヶ月や1600時間程度であることを考えると、これを上回る結果となりました。
プレイ期間では「100ヶ月以上」の方が2名いらっしゃいましたが、残念ながら推計上、一旦100として処理することとなりました。
万が一誤回答であると仮定しても、この差は全体へ1か月も影響しないため、通常時の調査よりも「プレイ期間・時間が長い」回答が集まったのは間違いありません。
また、オズワルドさんによる「VRChatユーザーの睡眠に関する調査」の集計結果では、例えば平均プレイ時間は2726時間となっており、それに比べれば当調査の平均プレイ時間は短いですが、VR睡眠をするユーザーはプレイ時間が長くなる傾向があると一般に言われていることを踏まえると、その差が影響している可能性があります。
C-4. 一週間内の頻度
また、一週間内の頻度に関しては、調査法を少し変えたことにより直接的な接合は不能ですが、やはり従来の結果に近しい結果が得られました。
どのくらいのプレイ頻度が存在するかについては、ソーシャルVR国勢調査2021においても、日本とVRChatの項目では「ほぼ毎日」が51%を占めており、その次の項目が「週2~3回」であることを思えば、むしろ当調査では5日以上の人が約58%であり、少し頻度が多い、つまりコアなプレイヤーが多い可能性があります。
また、同様の結果では、例えば「VRChatユーザーの睡眠に関する調査」の集計結果では、プレイ頻度は「ほぼ毎日」が46%となっており、「週4-6回」が28%であるのと合わせれば、かなり似た分布であるものの、やはりコアな層が多い可能性が考えられます。
参考文献
オズワルド(2022)「VRChatユーザーの睡眠に関する調査」の集計結果
風見鼎(2020)「VRChatにおける日本人ユーザーの声に関する調査と考察(1)」
仮想現実経済研究所(2022) 「仮想現実消費調査」
ばーちゃる美少女ねむ(2021)「ソーシャルVR国勢調査2021」
柳透(2021) 「VRChatの現在の年齢層 - twitter」
hibit(2021) 「BOOTH3Dモデル市場概況(2021年)」
Maria(2022) 「VRChatの男女比はどれくらい?Twitterアンケートとブログの流入者数から男女比を割り出す。」
Utoki・てんしん(2022) 「ソーシャルVRにおける『お砂糖』に関する調査 - twitter」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?