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中国のハンバーグ市場で異彩を放つ「肉肉大米」の成功戦略

高価格帯ハンバーグで高い回転率を実現する秘密

中国の外食産業が激しい価格競争にさらされる中、ハンバーグ肉専門店「肉肉大米」が注目を集めています。
肉肉大米は、日本の外食大手企業の株式会社物語コーポレーションが展開する海外向けブランドです。肉肉大米は2022年11月に中国・上海で初出店した後、深圳や杭州などに展開し、2024年10月には香港1号店を沙田のショッピングモール「ニュータウンプラザ」に開業しました。

このブランドは「日本産食材」と「出来立て調理」を核とした戦略で、中国本土では現地向けに牛肉100%のハンバーグを提供し、香港店では九州産黒毛和牛とUSビーフのミックス肉、東北産「にじのきらめき」の精米立て米、日本産生食卵など高品質食材を限定使用しています。
なお、「肉肉大米」は日本国内では展開されておらず、中国本土と香港に特化した業態として設計されています。この点が、類似コンセプトの「挽肉と米」との差別化要素となっており、物語コーポレーションは「自社の方が競争力がある」と自信を示しています。

小红书より

78元(約1600円)という高単価商品でありながら、1日22回転という驚異的な席回転率を記録し、月間100万元(約2000万円)を超える売上を達成する店舗も出現しています。


この成功の背景には、従来のハンバーグ市場とは一線を画した独自の戦略が隠されています。

「和風ハンバーグ」という新カテゴリーの創造

同ブランドが最初に着手したのは市場の空白地帯を見極めることでした。「日式汉堡肉(和風ハンバーグ)」という新コンセプトを打ち出すことで、既存のハンバーグ市場との差別化を図りました。
日本料理が持つ高級感や職人精神のイメージを活用し、単なる肉料理ではなく「和食体験」として位置付けることで、価格に対する心理的ハードルを下げることに成功しました。

原料面では、ステーキ用として知られる「上脳肉」を使用しながら、ハンバーガーチェーンで培われた調達ルートを活用することでコスト管理を実現。ステーキ店の3分の1程度の価格帯に収めつつ、通常のハンバーグより高品質な食材使用をアピールするという絶妙なバランスを取りました。これにより、消費者に「ステーキ並みの品質を手頃な価格で」という新たな価値提案が可能になったのです。

限られたメニューで徹底した品質追求

メイン商品は3種類のハンバーグセットに絞り込み、調理工程の標準化と効率化を図っています。68元の基本セットから88元のチーズインハンバーグまで、10元単位で段階的にグレードアップする価格設定は、顧客に上位商品を選択させる心理的仕掛けとして機能しています。

小红书より

特に溶けるチーズを視覚的に演出する88元セットは、SNS映えする要素として若年層の間で話題を呼んでいます。付属品にも工夫を凝らし、生食可能な卵や自家製味噌汁、厳選米を使用した白飯を無料で提供。一見シンプルな組み合わせですが、「高級和食」の要素を散りばめることで全体の付加価値を高めています。食材の産地や飼育方法を店内で詳細に説明する掲示物は、食品安全への不安が強い中国消費者にとって重要な信頼獲得手段となっています。

五感に訴える空間演出と体験型サービス

店舗設計では「和モダン」をテーマに、木目調のインテリアと間接照明を組み合わせた落ち着きのある空間を演出しています。
オープンキッチンを採用し、肉の裁断から成形までの工程を客席から見えるように配置した点が特徴的です。厨房機器の配置にはU字型レイアウトを採用し、100平方メートル程度の狭い店舗面積でも効率的な業務フローを実現しています。

客席周辺には精米機や米袋をディスプレイし、「こだわりの米」というコンセプトを視覚的に強調。待合スペースでは牧場での牛肉生産過程を紹介する動画を流し、食材の品質に対するこだわりを物語る仕掛けを随所に配置しています。
サービス面では、料理の提供タイミングを細かく管理し、ハンバーグを食べ進めるごとに追加で提供する方式を採用。常に出来立ての状態で味わえるように配慮されています。

消費者の心理的価値を見極めた戦略

従来の中国外食市場では低価格・高回転が常識とされてきましたが、「肉肉大米」は全く異なるアプローチで成功を収めています。78元という価格設定は単なる原価計算ではなく、ステーキとの比較優位性やSNS時代の「体験価値」を精密に計算した結果と言えます。
特にZ世代を中心に、見た目のインパクトや自分で調節できるインタラクティブ性が支持される傾向を巧みに捉えました。

今後の課題としては、和食コンセプトの持続可能性が挙げられます。日本食ブームの終焉後もブランド価値を維持するためには、食材調達ルートの更なる最適化や新たな体験価値の創出が不可欠です。また、高回転率を維持しつつ顧客満足度を両立させるため、接客マニュアルの標準化とスタッフ教育の質向上が今後の成長カギとなるでしょう。

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