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広東省の低空経済の未来:空飛ぶクルマ(eVTOL)商業化への挑戦と可能性をわかりやすく解説

私がの住む広東省は、今後数十年にわたり、世界の低空経済の中心地として確固たる地位を築くことが予想されています。

低空経済(Low Altitude Economy)は、都市部や地方の低空域を活用した新たな経済圏を指し、特にUAMやドローン技術が関連する分野として注目されています。従来の航空業界が高空での移動や輸送を中心に発展してきたのに対して、低空経済はより低い高度、つまり都市上空や郊外の空間を活用することで、物流、農業、通信、交通など多様な分野で革新を促進する可能性を秘めています。

特に注目すべきは、空飛ぶ自動車、すなわちeVTOL(電動垂直離着陸機)技術の商業化に向けた急速な進展です。

eVTOLは、都市間や都市内の短距離移動を革新する可能性を秘めた、電動式の垂直離着陸機であり、まさに未来の都市交通を変える技術として期待されています。

この技術が商業化されることで、広東省は世界的に見ても先進的な都市型空中交通の拠点となり、2025年にはその商業化に向けた重要な一歩が踏み出されることが予測されています。

広東省は、すでに中国全体の低空経済産業の30%以上を集積しており、その中心となる広州、深セン、珠海の三大都市は、低空経済における世界的なハブとして急速に成長を遂げています。これらの都市を舞台に、低空物流、都市型空中交通、航空救援といった分野が体系的に発展し、政府と企業が一丸となって「1+3+N」プラットフォームという、低空経済を支える壮大なビジョンを実現しつつあります。このプラットフォームは、単なるインフラ整備にとどまらず、低空経済における商業化の道筋を切り開く重要な要素として、広東省の未来に大きな影響を与えることになるでしょう。


eVTOL産業の急成長とその可能性

低空経済の中でも、特に注目を集めているのがeVTOL技術を基盤とした「空飛ぶ自動車」産業です。この産業は、都市間輸送の効率化や交通渋滞の解消だけでなく、環境への負荷軽減という点でも大きな可能性を秘めています。広東省は、こうした革新的技術に特化した企業が次々と登場し、急速に市場を拡大しています。中でも、億航智能(EHang)、小鵬匯天(Xpeng AeroHT)、峰飛航空(AutoFlight)といった企業は、eVTOL技術の商業化を加速させる存在として、業界全体から注目を集めています。

1. 亿航智能(EHang)の革新

Ehangの公式サイトより

会社概要

億航智能(EHang)は、2014年に創立された中国のeVTOL産業の先駆者で、特に「空飛ぶタクシー」としての商業化を目指しています。広東省広州市に本社を構え、世界中の空飛ぶタクシーや物流分野におけるeVTOLの商業化をリードしています。同社は、eVTOLの設計・製造・運航に関する全ての段階で技術革新を遂げ、特にその技術と品質が評価されています。

技術の特異点と革新性

億航智能は、2020年に中国民用航空局(CAAC)から、eVTOLに必要な型式認証、製造認証、適航認証の「三証」を取得した初の企業として業界に革命をもたらしました。この認証は、eVTOLが商業運航を行うために必須の公式承認であり、これは同社の技術と運営が国際的な基準を満たしていることを証明するものです。さらに、億航智能は完全自動運転のeVTOL機を開発し、無人での運航を実現しました。この技術は、運航コストの削減や安全性の向上に寄与し、将来的な商業運航において非常に重要な役割を果たすことが期待されています。

事例と商業化の進展

2024年、億航智能は、10年以上にわたる赤字からついに脱却し、調整後の純利益が115万元(約2300万円)に達しました。これにより、同社はeVTOL産業の商業化が実現可能であることを証明しました。さらに、同年には新たに広東省雲浮市に生産拠点を拡張し、収益は前年比で3倍の4.54億元(約90億円)を達成する見込みです。この拡張は、同社がさらなる生産能力を確保し、将来的な商業運航に向けた重要な一歩となります。加えて、億航智能は国内外での商業運航を加速するため、都市間輸送や観光業界への進出を予定しています。

2. 小鵬匯天(Xpeng AeroHT)の戦略

会社概要

小鵬匯天(Xpeng AeroHT)は、2021年に設立された小鵬自動車の子会社で、飛行車やeVTOL技術の商業化を目指しています。小鵬自動車は、電動自動車の分野で大きな成功を収めた企業であり、その経験を活かして、eVTOL産業にも積極的に参入しています。小鵬匯天は、広州に世界最大規模のフライングカー工場を建設し、未来の空中移動手段の提供を目指しています。

技術の特異点と革新性

小鵬匯天の特徴的なアプローチは、自動車製造で培った技術をeVTOLに活かしている点です。自動車製造において、精密な製造プロセスや品質管理、バッテリー技術の高度化などを得意とする小鵬は、これらのノウハウをeVTOLにも応用しています。特に、飛行車の設計においては、航空機のような性能を保ちながらも、車両としての利便性を兼ね備えたハイブリッド技術を採用しています。この結果、Xpeng AeroHTのeVTOLは、航続距離や安定性、エネルギー効率の面で優れた性能を発揮しており、将来的な商業化において大きな強みとなります。


事例と商業化の進展

小鵬匯天は、2023年に広州に世界最大規模のフライングカー工場を設立し、年間1万台の生産能力を目指しています。この工場では、eVTOLの設計・製造における高度な技術を駆使し、将来的には個人向けの飛行車市場をターゲットにしています。また、同社は「先行飛行コード」の発行を開始し、限定300件の先行予約を受け付けています。これにより、アーリーアダプターをターゲットにしたマーケティング戦略を進めており、2024年以降には本格的な商業運航が開始される予定です。さらに、全国200カ所以上の飛行基地を整備中であり、海南省との協力を進めるなど、着実に事業を拡大しています。

3. 峰飛航空(AutoFlight)の実績

新華社『中国製の2トン級「空飛ぶクルマ」、日本を初飛行 』より引用

会社概要

峰飛航空(AutoFlight)は、2020年に設立された中国のeVTOL企業で、深センを拠点に空飛ぶタクシーや都市間輸送、物流分野への進出を目指しています。同社は、業界内で非常に高い技術力を誇り、短距離輸送の分野に特化したeVTOLの開発を行っています。特に、都市間輸送や緊急輸送などの実運用における可能性を模索し、商業化に向けた大きな一歩を踏み出しています。

技術の特異点と革新性

峰飛航空は、eVTOL技術において独自のアプローチを採用しており、その最大の特徴は、短距離輸送に特化した設計と最適化された航行技術にあります。例えば、eVTOLの搭載システムには、他の同型機と比較して飛行効率を高めるための新しいエネルギー管理システムが組み込まれており、これにより飛行時間の延長とエネルギー効率の改善が可能となっています。また、同社のeVTOLは、モジュール化された設計を採用しており、メンテナンスや修理のコスト削減に寄与しています。この技術は、将来的にeVTOLが大規模に商業化される際に非常に重要な要素となるでしょう。

事例と商業化の進展

峰飛航空は、2023年に深センから珠海までの55kmの航路で、eVTOLを使用した初の実証飛行を成功させました。この実証飛行では、従来の陸上移動では2.5~3時間かかる距離を、eVTOLを使用することでわずか20分で移動できることが証明されました。これにより、eVTOLの短距離輸送における優位性が明確になり、都市間輸送に革命をもたらす可能性が示唆されています。峰飛航空は、2026年までに商業運航に必要な認証を取得し、商業化を進める予定であり、その動向が非常に注目されています。特に、都市間輸送の効率化や、通勤・観光向けの利用シーンが拡大することで、同社のeVTOLが市場に広く普及する可能性があります。

eVTOL産業の商業化に向けた課題とチャンス

eVTOL産業の商業化は、技術革新と規制対応が鍵となる大きな挑戦です。しかし、その潜在能力は非常に大きく、数年後には社会全体に革命的な変化をもたらす可能性を秘めています。このセクションでは、eVTOL商業化に向けた主な課題と、それを乗り越えることによって期待されるビジネスチャンスについて、より詳細に探っていきます。

1. 技術面の課題

eVTOLの商業化には、先進的な技術的課題の克服が必要です。特に、バッテリー技術や航続距離、積載能力、そして自動運転技術の向上が焦点となります。これらの課題が解決されることで、eVTOLは実用段階に移行し、広範な産業での利用が現実のものとなるでしょう。

バッテリー技術

eVTOLにおける最も重要な技術のひとつは、バッテリーです。現在、ほとんどのeVTOLはリチウムイオンバッテリーを使用していますが、その性能が航続距離や積載能力に大きく影響します。広州に本拠を置く「巨湾技研(Gotion)」などは、超急速充電バッテリーの開発を進めており、充電時間を7.5分で80%まで短縮することを目指しています

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この技術が実用化されると、eVTOLの運行効率は飛躍的に向上し、商業化に向けた大きな一歩を踏み出すことができます。しかし、バッテリーの性能向上には依然として多くの課題があります。特に、電池容量の増加とそれに伴う航続距離の延伸が求められます。加えて、急速充電と長時間の飛行を両立させるためには、安全性と効率性を兼ね備えた新しい電池技術が必要です。

航続距離と積載能力

現行のeVTOLは、都市間の短距離輸送や都市内の移動に適しているものの、商業運行を見据えた航続距離や積載能力には限界があります。現在のeVTOLは、最大でも10~50キロメートル程度の範囲で運行されることが多く、都市間輸送や物流向けの商業化にはまだ不十分な性能です。長距離運行が可能なeVTOLが開発されれば、これらの技術が都市間輸送に革命をもたらし、より広範な利用が期待できるようになります。したがって、航続距離を延ばしつつ、積載能力を向上させる技術の進化が求められます。

自動運航システム

eVTOLは、通常の航空機と同様に、無人での運航が可能な自動運航システムが求められます。無人での運航が実現すれば、人件費の削減や効率的な運行が可能となります。また、無人で運航されることにより、パイロット不足や安全面でのリスクも低減することができます。しかし、完全自動運転の実現には、技術的な障壁がまだ多く、特に安全性や法規制の整備が重要です。

2. 政策面とインフラの課題

eVTOLの商業化を実現するためには、技術的な進歩だけでなく、政策面やインフラの整備も大きな役割を果たします。

航路計画と空域管理

広東省をはじめとする都市部では、空域管理の複雑さが大きな課題となっています。特に、都市間を結ぶeVTOLの運行を実現するためには、航空路の設定や空域の管理を整備する必要があります。現在、珠江デルタ地域では、空港や航空管制塔が密集しており、eVTOLと従来の航空機との調整が求められています。また、eVTOLの運航が進むことで、従来の航空機やドローンとの空域調整がますます重要になるでしょう。特に都市部では、複雑な空域をどのように安全に管理するかが、商業化に向けた重要な課題となります。

空港と搭乗インフラの整備

eVTOLの商業化においては、空港や搭乗インフラの整備も必須です。現在、空港の拡充や都市内のヘリポートの設置が進められていますが、これらのインフラが十分でないと、eVTOLの普及が難しくなります。特に、都市内でのアクセスを重視した「空飛ぶタクシー」型のeVTOL運航においては、都市の中心部や住宅地近くにインフラを整備することが求められます。また、eVTOL専用の乗降場やターミナルの設置が、利用者の利便性向上に貢献します。

運行コストとチケット価格

現時点では、eVTOLの運行コストが高いため、利用料金も高額になる傾向があります。例えば、深センから珠海までの航路では、eVTOLのチケット価格は現在、1,000元(約2.2万円)以上になることもあります。しかし、eVTOLの運行が進むことで、規模の経済が働き、コストが削減され、最終的には利用者にとって手頃な価格で提供できるようになると予測されています。例えば、2026年までにチケット料金が300元(約6,600円)まで引き下げられる見込みもあります。これにより、一般消費者が利用する機会が増え、eVTOLの商業化が加速するでしょう。

3. チャンスと展望

eVTOL産業の商業化には確かに多くの課題がありますが、それを乗り越えた先に待っているチャンスは非常に大きいものです。特に、都市間輸送や物流、災害時の緊急支援など、さまざまな分野での活用が期待されています。

都市型空中交通(UAM)の成長

eVTOLの最大のチャンスの一つは、都市型空中交通(UAM)の発展です。

UAMは都市型空中交通(UAM: Urban Air Mobility)を指し、都市部における空を使った移動手段を指し、eVTOLを利用した新しい形態の交通システムとして注目されています。特に、都市間の渋滞や交通問題を解決するために、空を使った移動が有効であると考えられています。UAMは、将来的に都市内での移動手段を一変させる可能性を秘めており、特に都市間輸送、物流、緊急対応などで活躍が期待されています。

都市部における交通渋滞が深刻化する中で、eVTOLを使った空中交通は、都市間の移動を劇的に効率化する可能性を秘めています。
例えば、深センから珠海までの移動にかかる時間を、eVTOLで20分程度に短縮できることが証明されており、このような高速移動手段は、都市圏の住民にとって非常に魅力的な選択肢となります。

また、都市型空中交通は、短距離の輸送や通勤の新しいスタイルを提供するだけでなく、観光地へのアクセス向上や、物流ネットワークの強化にも貢献するでしょう。

緊急物流・医療輸送の可能性

eVTOLの特筆すべき活用方法の一つは、災害時の緊急物流や医療輸送です。例えば、洪水や地震などの災害発生時に、地上の交通網が麻痺した場合でも、eVTOLを利用することで迅速に物資や医薬品を運搬することが可能です。また、空飛ぶ医療搬送機としての役割も果たすことができるため、医療機関のアクセスが難しい地域や緊急患者の輸送にも有効です。

まとめ

eVTOL産業の商業化には、技術的な課題や規制整備が依然として存在しますが、その先には大きなビジネスチャンスが広がっています。特に、都市型空中交通や物流、緊急対応などの分野では、従来の交通手段に取って代わる可能性があり、社会全体の効率化と利便性向上が期待されています。

広東省は、低空経済の中心地として急速に成長しており、特に広州、深セン、珠海の都市は、eVTOLの商業化を牽引する重要な拠点となっています。政府と企業が連携して技術革新とインフラ整備を進める中で、広東省は中国、さらには世界の低空経済におけるリーダーとしての地位を確立しつつあります。

eVTOL技術が実用化されることで、新たな移動手段や市場が生まれ、交通渋滞の解消や環境負荷の軽減といった利点が現実のものとなります。今後、商業化に向けた課題は多いものの、広東省はその成長を支える重要な拠点となり、世界に先駆けた低空経済の発展を牽引する役割を果たすでしょう。

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