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アップルが中国市場での巻き返しを目指しアリババとのAI提携を模索
2025年2月11日夜、米国メディアThe Informationが独自の情報筋を引用して報じたところによると、アップルが中国国内のiPhoneユーザー向けに人工知能機能を開発するため、アリババ・グループとの提携を検討していることが明らかになりました。この報道が伝わると、ニューヨーク市場におけるアリババの米国預託証券は瞬時に反応し、一時3%を超える急騰を記録しました。
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この協業は中国市場で過去最大級の販売不振に陥っているアップルが、ソフトウェア面での競争力を強化することで失地回復を図る戦略の一環と位置付けられています。ただし、現時点で両社とも公式なコメントを控えており、具体的な提携内容や時期については未確定の状態が続いています。
アップルと百度の協力関係の終焉
2024年12月に、アップルが中国市場向けに百度のAI技術をiPhoneに導入する計画が報じられ、大きな話題となりました。この計画は、中国国内の規制に準拠したAI機能を提供するため、百度の大規模言語モデル「文心一言(ERNIE)」を活用する内容でした。しかし、2025年2月に入り、状況が変化したようです。
しかし、アップルは百度との協力関係を終了し、代わりにアリババとの提携を進めていることが明らかになりました。この変更は、百度のAIモデルがアップルの期待する品質基準に達しなかったことが主な理由とされています。アップルは2023年から複数の中国企業のAIモデルをテストしており、百度の「文心一言」もその一つでしたが、最終的にはアリババの「通義千問(Qwen)」モデルを選択しました。百度にとって屈辱と言える事件ですが、同社は既に自社開発を諦め、DeepseekのR1を利用することになっています。
中国版Googleの百度の大規模言語モデルERNIEが突然DeepseekのR1モデルに接続されたことが業界内外で注目されています。
— 吉川真人🇯🇵深セン1日1note投稿チャレンジ中 (@mako_63) February 11, 2025
ERNIEはかつて大きな期待を集め、中国のAI業界の未来を担う存在として位置づけられましたが、2023年には「人工知能」ではなく「人工知障」と揶揄されていました。 pic.twitter.com/NxpY3Dj7vr
アップルのAI技術進化の歴史と中国市場特有の壁
アップルのAI技術への取り組みは、2010年に音声アシスタント「Siri」の開発元を買収したことに始まります。当時は「質問に答える単純な機能」と見られていた技術が、2017年にはiPhone 8シリーズに搭載された「A11 Bionic」チップ内のニューラルエンジンによって飛躍的な進化を遂げました。画像認識や機械学習の処理速度が向上したことで、顔認証システム「Face ID」やカメラのポートレートモードなど、ハードウェアと連動したAI応用が可能になったのです。
2024年6月に開催された「WWDC」では、「Apple Intelligence」という新コンセプトが発表され、メールの自動要約や画像生成ツール「Image Playground」など、生成AIを活用した機能が世界の開発者に向けて披露されました。しかし中国市場では、厳格なデータ管理規制やAIモデル審査制度の存在から、これらの機能がローカルモデルに置き換えられる必要が生じています。アップルは中国当局との調整を続けているものの、審査プロセスの長期化が新機能導入の足かせとなっている状況です。
熾烈化する中国スマートフォン市場のAI競争
中国市場におけるAI技術の導入競争は他地域とは異なる独自の進化を遂げています。地場メーカーの雄であるファーウェイは、自社開発の「盤古(Pangu)」AIモデルをスマートフォンに統合し、リアルタイム通訳や文書作成支援機能を強化しています。
2024年下半期には、OPPOやvivoといったメーカーも大規模言語モデル(LLM)を搭載した新機種を相次いで投入し、AIを活用した写真編集や音声アシスタントの高度化で差別化を図っており、私が普段利用しているシャオミのMI MIX FOLD4に超级小爱と呼ばれる生成AIが導入されており、単なるSiriのシャオミ版という域から一気に脱して、文章の生成や画像から描写することができるようになりました。ただしこれだけでは特別なにか便利になったとは言えないのが正直なところであり、各社手探り状態と表現するのが正しいでしょう。
特に注目されるのが、中国独自の「スーパーアプリ」文化との融合です。WeChatやAlipayといったプラットフォームでは、AIチャットボットが予約管理から金融アドバイスまで多岐にわたるサービスを提供しており、ユーザーが1つのアプリ内で生活全般を完結させるニーズが高まっています。このような環境下で、iPhoneの従来型AI機能だけでは中国消費者にとっての魅力が薄れつつあることが、市場シェア低下の一因と分析されています。
急降下するiPhoneの中国販売実績
調査会社Canalysの報告書によれば、2024年第四四半期(10~12月)の中国スマートフォン市場において、iPhoneの出荷台数は前年同期比25%減の1420万台に留まりました。これは市場トップ5ブランドの中で唯一のマイナス成長であり、2位のファーウェイが32%増の1600万台を記録したことと対照的です。アップルが2025年1月に公表した2025年度第1四半期(10~12月)決算でも、大中華地区(中国本土・香港・台湾)の売上高は11.1%減の185億1,000万ドルと、2四半期連続の二桁減益となりました。
販売不振の背景には、人民元安の影響でiPhone 15シリーズの実質価格が上昇したことや、中国メーカーの高機能中価格帯端末の台頭が挙げられます。ECプラットフォーム拼多多では、ファーウェイの最新モデルが公式小売価格より15%安く販売されるなど、価格競争でも中国ブランドが優位に立っています。
AI機能に対する消費者の懐疑的な見方
米国リサイクルプラットフォームSellCellが2024年12月に実施した調査では、73%のiPhoneユーザーが「Apple Intelligenceによって提供されるAI機能に追加費用を支払う価値がない」と回答しています。特に「メールの自動要約」や「Siriの会話能力向上」といった機能については、「既存のアプリで代用可能」とする意見が目立ちました。
中国市場においても、類似の調査で「AI機能だけでは端末買い替えの動機にならない」とする回答が6割を超えるなど、テクノロジー先進国と言われる中国の消費者ですら冷静な反応を示しています。
北京在住のテクノロジーアナリスト李華氏は「中国ユーザーはAIを『便利なツール』と認識する一方で、プライバシー懸念から過度なデータ収集を嫌う傾向がある」と指摘します。アップルが中国市場向けに開発するAI機能には、データの国内保存や審査通過が必須となるため、グローバル版との機能差が生じる可能性が課題です。
ハードウェア革新との両輪が必要との専門家指摘
台湾を拠点とする著名アナリスト、郭明錤氏は最新のレポートで「iPhoneの出荷回復にはAIとハードウェアのシナジー効果が不可欠」と述べています。具体的には「折りたたみ式iPhoneの早期投入」や「バッテリー技術の革新」、「ARグラスとの連携強化」などを提言しています。2024年にサムスンが発売した折りたたみ式「Galaxy Z Fold6」が中国で好調な売れ行きを見せていることからも、形状革新への期待が高まっている現状が窺えます。
一方で、アップルが2026年投入を予定するとされる「iPhone 17」シリーズでは、独自開発の5Gモデムチップ搭載が計画されています。これが実現すれば、通信速度の向上とともにAI処理専用コアの拡充が期待されますが、開発遅延の噂も絶えず、中国市場奪還の切り札となるかは不透明です。
アリババが手にするビジネスチャンス
仮に提携が実現すれば、アリババにとっては自社AI技術のグローバル展開における重要なマイルストーンとなります。同社は「通義千問(Qwen)」と呼ばれる大規模言語モデルを開発しており、2024年11月時点でパラメーター数1.8兆の超大型モデル「Qwen-2.0」を発表するなど、技術力のアピールに力を入れています。杭州市に建設中のAIクラウドデータセンターは、2026年完成時には100万基のGPUを備える世界最大規模の施設となる予定です。
アリババクラウドの責任者である張勇氏は「中国企業の90%が2027年までにAIモデルを業務に導入する」との見通しを示しており、スマートフォン向けAI機能の開発実績が得られれば、製造業や小売業など他分野への技術展開にも弾みがつくと期待されます。ただし、百度やTencentといった競合他社も政府系プロジェクトで実績を積んでおり、アップルとの提携が直ちに市場優位性につながるとは限らないとの見方もあります。
中国市場を巡る地政学リスク
米中対立の激化に伴い、中国当局が外国企業に求めるデータローカライゼーション要件が年々厳格化しています。2024年7月に施行された「AI管理暫定条例」では、生成AIサービス提供者が「社会主義的核心的価値観に反する内容」を排除することが義務付けられました。アップルがアリババと共同開発するAI機能にも、こうした規制への対応が求められるため、グローバル版との機能差が生じる可能性があります。
さらに、台湾問題を巡る緊張の高まりがサプライチェーンに影を落としている現状も無視できません。iPhoneの主要部品供給元である鴻海精密工業(フォックスコン)の鄭州工場では、2024年秋に生産ラインの一部が政治的圧力によって停止する事態が発生しています。AIチップの供給を手掛けるTSMCの動向も、今後の開発スケジュールを左右する要因となり得ます。
業界が注視する今後の展開
今回の提携報道を受け、上海の証券アナリスト陳偉氏は「アリババのクラウドインフラとアップルの端末開発力が組み合わされば、中国ならではのAI応用サービスが生まれる可能性がある」と期待感を示します。具体例として「電子決済との連動による個人財務管理」や「公共交通機関との連携でリアルタイム経路最適化」などのユースケースを想定しています。
一方で、米国務省関係者は匿名を条件に「米国企業が中国企業と先端技術で協力することの安全保障上のリスク」に言及し、ホワイトハウスが監視を強化する方針であることをほのめかしました。技術流出防止法「CHIPS法」の適用範囲がAI分野にも拡大される可能性があり、政治的な思惑がビジネス交渉に影響を与える懸念も残ります。
今後の焦点は、6月に開催予定の「WWDC 2025」で中国市場向けAI機能の詳細が発表されるかどうかにかかっています。過去の事例では、アップルが中国当局の審査プロセスを考慮し、グローバル発表から6~8か月遅れで機能をローンチするケースが多く見られます。中国消費者がどれほどの待機耐性を持っているかが、競合他社との差別化を図る上での重要な要素となるでしょう。
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