福祉と生産性について
最近、SNSの広告で時々「福祉業界は自治体からの補助金で儲かる!起業のノウハウ教えます」的なものを見る。でも個人的にはそういう広告に飛びつく人には福祉業界に参入しないで貰いたいと、思わずにはいられない。
私が以前働いていた精神障害者就労継続支援施設の社長はの口癖は「生産性」「それ、金になるの?」「ここは、社会の厳しさを教える為の場所だから」「利用者と会話するのは時間と金の無駄」だった。
利用者さんに健康状態や生活の様子の確認も兼ねて会話をしているのを見つかると社長からは「サボるな」と注意をうけていたし、社長から利用者さんへの暴言も酷かった。
例えば「お前は頭も悪いし、取り柄は力だけだから、何があっても食らい付いていけ」と言って、発達障害の利用者さんを1日500円未満で朝7時から夜9時までスタッフも同席しない中、他害癖のある利用者さんと平日も休日も2人きりで自社の事務所のリフォーム作業をさせていた。
また利用者さんが使う文房具も「利用者はパクるから」との理由で会社側は買わず、とは言え作業に際して文房具も必要なので結局持参しない利用者さんに貸すための文房具はスタッフが自腹をきって購入するなど、社長の関心は報酬だけに向いていて、現場はスタッフや何も言えない利用者さんの我慢によって支えられた無法地帯と化していた。
また役所に提出する為の書類作成の為のパソコンも携帯もスタッフは私物を使っており、通信費も移動や通勤にかかる費用も全て自腹な上に、結局私の退職直前の1ヶ月分の給料も未払いのまま今に至る。(おかげで私は月4万円の赤字)その上当時の私の私物の携帯は24時間平日土日関係なく『いのちの電話』になっていた。
私はそういう『搾取』する社長の経営方針についていけない事や、たまたま別の会社から声を掛けてもらった事もあり7ヶ月でその会社を辞めたけど、(実は引き抜いてくれた会社も入ってみると似たり寄ったりで、結局そこも辞めて今に至る)後から聞いた話では、施設での建築作業で心身に傷を負った利用者さん(もちろん本来なら必要な事故の報告などはしていない)の親御さんが乗り込んできて突然退所することになるなど、相変わらず人の出入りが激しくブラック極まりない環境らしい。
このように、「福祉業界に競争原理を持ち込む事で切磋琢磨を促しサービス向上を目指す」という謳い文句を皮切りに、今では福祉の分野は玉石混交?玉は滅多に無く、ほぼ石かも?の様相を呈している。
そして今、介護現場にITを持ち込む事で「効率」を求めようとする動きが起こりつつある。
https://twitter.com/zenroren/status/1473216653152628742?s=21
これについて、一応介護初任者研修修了者でもある私としては「絶対に改悪」だと思っている。
例えば徘徊する利用者さんがベッドから床に足をつけたら反応するセンサーが鳴ったところで、結局マンパワーが足りなければ、対応のしようがない。ただでさえ3Kで職員の高齢化と給料が他職種と比べて月給で平均7万円ほど安いというワーキングプアの業界なのに、職員の一人当たりで対応する人数を増やすという緩和政策を行えば、会社は当然上限である職員数×4人の計算で利用者さんを募り、既にマンパワー不足で疲弊し崩壊している現場にトドメを刺すのは目に見えている。
人を助ける事は人間にしかできない面もある。もちろん、ITで効率化出来るところはするべきだ。でも人の心や体の健康は人にしか癒せない部分があると私は思う。
なぜなら福祉は利用者さん一人一人の心に寄り添う事が求められる要素が多く、それはどれだけ機械で見守った所で実際に機械がオムツを替えたり、ポータブルトイレや車椅子に移乗させたり、食事を口に運んでくれるわけではない。それにどれだけビッグデータで解析したところで、その日その日で変化する麻痺の具合やADL、心の状態などを勘案し一人一人に寄り添った温もりある対応をする事は機械には難しく、結局は人間の仕事量が増えてますます心の余裕を無くし、充分にコミュニケーションをとる時間を奪う事につながる事が、容易に予想されるからだ。
何がIT化出来て、何が出来ないのか。机上の空論で決めてしまうのではなく、もし制度を変えるにしても、現場の声を聞きながら一つ一つ仕分けし精査した上で制度の見直しを検討すべきだと私は思う。