「環境課題への挑戦」 カーボンニュートラル燃料の導入
不順な天候に翻弄されたこともあり“カオス”な展開の中、2台のNISSAN Z GT500が1-2フィニッシュを決めて本年の開幕戦を飾ることになった。しかし2台のNISSAN Z GT500がライバルを一蹴した、という展開ではなく、実際にHonda NSX-GTが3位、TOYOTA GR Supra GT500が4位で続き、今シーズンもSUPER GTでは3メーカーの3車種、15台による激戦が期待できそうだ。
そんなSUPER GTだが、今シーズンは競技規則が一部変更となっている。そもそも、レースに関しての規則は車両規則と競技規則の2つに大別され、車両規則は文字通り、競技車両に関する規則で、車両を製作する上では事細かにチェックすべき規則だが、今シーズンのSUPER GTに関して大きな変更点はない。一方の競技規則は、競技をする上での規則で、競技へのエントリー(参加申し込み)から始まって公式練習から公式予選、決勝のすべてにおいて進行の手順などが決められている。今シーズンは、この競技規則が変更されているのだが、その変更点は2つで、ひとつは使用燃料の変更。もうひとつは使用するタイヤ本数の変更、の2点。今回は前者、使用燃料の変更について紹介する。
国内で開催されるレースでは一般的に、サーキット内のガソリンスタンドで販売される燃料を使用することが義務付けられている。SUPER GTでも、昨年まではサーキットで購入できるガソリンを使用していた。ちなみにこのガソリンは、その元売りメーカー、鈴鹿だったらシェル、富士だったら日本石油が街中のガソリンスタンドで市販しているハイオクガソリンと同じものが市販されていて、自動車メーカーではそのガソリンに合わせたファインチューニングを施してレースに出走してきた。ところが今年のSUPER GTでは、環境志向の世情に合わせてカーボンニュートラルな燃料=CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料を採用することになったのだ。具体的にはハルターマン・カーレス社(英独合弁)製のGTA R100というカーボンニュートラルフューエル(CNF)で、GT500は全車が開幕前の公式テストから使用していた。
お馴染み#100 STANLEY NSX-GTをはじめとする全車のボディに貼られたカーナンバーのZFロゴの下には、このCNFのブランド名である「ETS」追加されている。トヨタと日産、ホンダの3メーカーでは事前にベンチでテストを実施し、またシーズンオフの間に実施されたメーカーテストでも一部のチームが実車テストを行っていたようだが、3月初めに岡山国際サーキットで行われた公式テストでは3メーカーの技術者は、新燃料への適合がまだ不十分だとコメントしていたが、開幕戦までには納得いくレベルに到達していたようにも見受けられた。もっとも、ドライコンディションでの走りが、決勝レース直前のウォームアップ走行と決勝レースのスタートから数周だったことから、進化の判断は次戦、5月のゴールデンウィークに開催される第2戦の富士大会までお預けとなった。ただし、公式テストでは関係者、特に競技車両をメンテナンスするメカニックからは臭いについて「異臭感がある」といった感想が聞かれていたが、この点に関しては開幕戦までには改良されていたようだ。
当初はGT300も開幕戦からCNFの使用を予定していたが、FIA-GT3やGTA-GT300、GTA-GT300MCと様々な車両規則に則った多種の競技車両が参加しており、また海外自動車メーカーが販売している車両も少なくないために、新しい燃料に対応するためにはもっと時間が必要との理由から、GT300クラスに関しては「第2戦の富士大会後の5月8、9日には鈴鹿サーキットにおいてGTエントラント協会によるGT300クラス車両によるテストを予定しており、各チームが調整してきた上で参戦車両にGTA R100を入れて再確認し、鈴鹿のレースから全車に導入しようという形で進んでいる」とGTAの坂東正明代表が記者会見でコメントしている。開幕前の公式テストではメーカーの対応も統一ではなく、海外メーカー製のFIA-GT3車両では「メーカーに対応を打診中」などの声が聞こえていた。こちらも、メーカーの対応が進むであろう5月の鈴鹿テスト、そして6月初めの第3戦鈴鹿大会までには適合の進捗が明らかになるはずだ。