東大,京大物理学専攻 素粒子理論 院試体験記
はじめに
物理学科の院試の中でも特に素粒子理論は難関というウワサが巷では飛び交っていますが,実際のところどうなのか筆者が受験してみた所感を書いていきます。筆者は東大物理学科の内部生です。
この体験記は,筆者が所属予定の研究室で院試合格後に知り得た情報(要するに内部事情)は一切含まず,受験生が通常の手段で知りうる情報+個人の院試受験の感想のみから構成されることをあらかじめお断りしておきます。
院試結果
東大物理学専攻 (以下物理学専攻):第3志望の研究室(素粒子理論)に合格
京大物理学・宇宙物理学専攻 (以下京大):筆記試験通過,口述試験を辞退
東大広域科学専攻相関基礎科学系 (以下相関基礎):第1志望の研究室(素粒子理論)に合格
試験対策
本格的な試験対策は4月(すなわち本番の4ヶ月ほど前)に始めました。その時点での筆者のステータスは
• 学科内での成績はよくわからないが多分中の上くらい
• 講義で習ったことは教科書などを読めばほぼ全て思い出せるが,何も見ずに再現はできない
• バイトなどはしておらずやろうと思えば勉強だけできるほど暇
でした。
院試の勉強(詳細)
院試の勉強として行ったのは以下のようなことでした。勉強は土日も含めて毎日行っていました。
勉強を始める前の1番最初に過去問を1年分時間を測って解く。
4~5月 物理学演習Ⅰ~Ⅴという講義の演習を全て解き直す。
6月
物理学演習でわからなかったことを教科書などを読んで潰す。週末は物理学専攻か相関基礎の過去問を1年分解く。
7月
ほぼ毎日相関基礎の過去問を解く。相関基礎の院試終了後は講義の試験対策とレポート。
8月
毎日物理学専攻か京大の過去問を1~2年分解く。
過去問について
過去問演習は
物理学専攻: H17~R6 までの19年分を2周
京大:適当な年度(忘れた)を3年分
相関基礎:H26以降の8年分を2周
しました。
過去問の出来についてですが,物理学専攻に関して言うと,1番最初は7割くらい,直前期だとミスがなければ9割↑,ミスがあると7割という感じであまり安定していませんでした。そこで見直しの時間を増やしてあとはミスが減るようお祈りするだけでした。
勉強方法についての所感
市販の問題集は必要ない
個人的には市販の問題集をわざわざ購入して取り組む必要はないと思います。最も重要なのは言うまでもなく過去問演習であり,市販の問題集に割く時間を過去問演習に回した方が絶対いいです。ただし自分の場合,4月からいきなり解き始めるには基礎力が足りていなかったので,物理学演習をクッションに挟んだという感じです。基礎が身についている人は6月くらいからいきなり過去問で問題ないと思います。
過去問をやり込む
前節を見てもらうと分かる通り,過去問は異常なほどやり込みました。京大の過去問でやった問題がそのまま物理学専攻の本番で出題されて助かったので,併願しない人でも他の大学の過去問を解いてみるといいと思います。また,1回解いただけでは理解が曖昧なところを炙り出すという点で過去問2周目は非常に有効だと感じました。僕の周りには時間を測らないで解く人もいましたが,初見のときは時間を測って解いた方がいいと思います。
教科書について
教科書は正直なんでもいいです。物理学科に所属している人であれば,自分の大学の講義資料+有名な教科書1冊(電磁気なら砂川とか)で十分だと思います。特に物理学専攻の問題は基本的な問題ばかりなので奇抜な対策をする必要は一切ないです。相関基礎については力学と熱力学の対策を行う必要がありますが,これらに関しては相関基礎所属の教員の講義レジュメや,1年生の時に使っていた教科書を参考にしました。
相関基礎について
相関基礎以外は8/20近辺,相関基礎だけ7/20に本番がありました。相関基礎は近年傾向の変化とともにどんどん難化し,正直マジでむずいです。僕は本番全然解けなかったのであまり有効なことは言えないのですが,合格のためには選択問題の選び方と,解ける問題と解けない問題の見極めが大切なのは確かです。数学が激ムズだったり簡単だったりするので,素点ベースで考えると噛み合いが重要なのは否めない気がします。試験日程の関係上物理学専攻との併願先としては最適だと思います。
素論などを志望することについて
他の体験記では8月から勉強始めました!みたいな記述が見られましたが,素論だと8月からでは絶対落ちます(ごく一部の例外を除く)。理論系を志望する方は実験系の志望者と同じ温度で院試に取り組むのはお勧めしません。もちろん実験系と理論系で研究内容自体に優劣はないのですが,合格に求められるレベルは全く異なると思います。特に周りの内部生の素論志望者には優秀な人が多かったので,素粒子理論のボーダーが他の分野より高いのは事実だと感じました。しかしだからといって9割取らないと絶対受からないというわけではなくて,当たり前ですがボーダーは年によって揺れます。他の素論志望者を上回る点数を取れば合格ということです。そういうわけで,何割取れれば受かるみたいなことは一概には言えないので,あまり気にしない方がいいと思います。ここまで書いてきて筆者のレベル感は伝わったと思うので,「この程度で素論に受かる」の参考になれば幸いです。
当日
相関基礎
僕は第2問,第3問,第4問を選択したのですが,解けなすぎて絶望しました。体感5割。熱力学の大問に関しては dU = TdS-PdV しか書けませんでした。終わり。終わった後学科同期と話した感じ僕が1番解けていなかったので不合格を確信し一生萎えてました。しかし結果的にはなぜか合格できました。5割でも何か噛み合えば素論に合格できることがわかりました。
物理学専攻
相関基礎で解けなかったのが悔しくて8月に入ってからずっと自分を追い込んで勉強した結果,ほぼ全ての問題を完答することができました。第4問の固有方程式の固有値がもとまったときは自分天才すぎると思いました。第4問の一番最後を真だと勘違いして証明を一生考えていたのですが,終了後友人から偽だと言われ自分のアホさに眩暈がしました。個人的には結構できたと思っていたのですが,第1志望に受からなかったのは少し意外でした。要因はいくつか考えられますが,第1,2志望の研究室の合格者は1人ずつであること,素論のレベルが高いことが大きいと思います。僕よりできた人がいたのだろうと思い,悔しかったです。
京大
受験時点で相関基礎に合格をいただいていたので,京大への進学の可能性は消えており,非常にモチベが低いまま受験。あまりできなかったですが,一応口述試験には呼ばれました。出来は午前7~8割,午後7~8割という感じです。院試ではあまり見かけないハミルトン-ヤコビ理論がガッツリ出てマジかと思いました。実験パートはほぼ白紙です。合格枠を埋めてしまっても申し訳ないので口述試験は辞退しました。
口述試験について,僕は口述試験を相関基礎と物理学専攻の2つ受けましたが,いずれも内容について口外してはいけないということなのでここには書きません。
点数開示(東大物理学専攻のみ)
相関基礎の開示は点数がわからないらしい(AとかBとかCとかしかわからない)ので物理学専攻のみ開示を載せます。
外国語(TOEIC) 93点
専門第1問 100点
専門第2問 100点
専門第3問 100点
専門第4問 84点
合計 477点
でした。95%とったのに第1志望受からないってマジ?でも個人的には満足のいく結果でした。勉強を頑張った成果です。
おわりに
この体験記を書くにあたって
• 自慢にならないこと
• 不必要な情報を極力省くこと
• (当たり前だが)有料にしないこと
の3点に注意しました。ネットには他にも参考になる体験記が散見されますが,特に素論を始めとした理論系志望の人の参考になれば嬉しいです。