【コンフューズド・ブライカン・バーサス・レイジョウ】
この作品はニンジャスレイヤーの二次創作作品です。
性質上ニンジャスレイヤー第四部、第四章までのネタバレが含まれます。ご注意ください
「つまりあたしがニンジャになれば解決ですね!」意思の強い目がブライカンを見つめていた。ブライカンの思考を後悔が占拠した。
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話はこうだ。ネオサイタマのどこかの御令嬢が誘拐され、それを聞いたブライカンは仔細を確認せず飛び出し、カラテとワザマエで悪党を退治した。
そこまではよかった。遥かに良かった。見目麗しい令嬢を抱えて炎上する悪辣なニンジャヤクザのアジトを脱出したのはあざといほどにロマンと自尊心を大いに満たした。
気を失った令嬢は病院に運び込んだ。病室で簡単に検査がなされ異常もなし。IRCで家族にも連絡が行っている。もう四半刻もあれば駆けつけるだろう。
キャバーン!バウンティがブライカンに振り込まれた音だ。あとは馴染みのオイランハウスにしけ込むだけ。令嬢の整った顔を見つめながらブライカンのサイバネでブーストされた思考力が今日ベッドの上で語るべき冒険譚を導きだす。その直前、体表のセンサーが自身に触れようとする動きを検知した。令嬢はフートンから指先をわずかに見せていた。
「おっと、起こしちまいやしたか。失敬。ブライカンと申しやす。オヒメサマ。」ブライカンは大きな刺激を与えぬよう、ニンジャ存在感を抑えてアイサツした。「あなたが.…..私を……?」令嬢が身を起そうとするのを助ける。消毒液の刺激臭に混じり果実に似た香りが髪からただよった。ブライカンはやや興奮した。
「ああ!私覚えてるわ!燃え盛るヤクザの事務所からあなたの腕に抱えられて飛び出したこと!」令嬢の瞳は次第にしっかりとブライカンを見つめるようになり、むしろ尋常ではない輝きを帯びるようであった。「私、アサノサン・デンチと申します。この度は命をお救い頂き誠にありがとうございました。」
深く頭を下げるデンチにブライカンは頬を掻き恐縮した。「ドーモ。ですがアッシはバウンティ目当てに助けただけ。こんな下賤なニンジャはさっさと忘れて元の生活に戻った方がいいでしょう」「そんな!私が良くてもブッダが許さない!」「バウンティと追加報酬は十ニ分に受け取っています。」努めて涼しく振る舞い、引き留める声に手を振って病室を辞した。
ブライカンは歩きながら思う。ニンジャリアリティ・ショックにさらされたモータルは徐々にその原因となる事件やニンジャのことを忘れるのだという。モータルはニンジャの脅威を覚えながら生きていけるほど強くはないのだ。デンチお嬢様もすぐに事件とブライカンのことを忘れ、退院できるだろう。ブライカンもニンジャなのだから。
重金属酸性雨が肩を濡らし始めた。三度笠をかぶり直し、オイランハウスへ向かう足を速めた。
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ネオサイタマ、ニチョーム路地裏。表通りの目も眩むようなネオンの明かりも届かぬ闇に、溶け込むように影がひとつ。ニンジャである。ニンジャは文明の影に生きる半神的存在であり都市の暗闇に恐れをなさない。影は雨を落とす空をにらむと跳躍。ビル壁面を駆け上る。
雑居ビル、アナグマ第51ビルジング 11階。届出済み合法ニョタイモリレストラン<上品のまな板>従業員用裏口に影は降り立ち、そのまま中に消えた。
その10秒後!肩を落としニンジャは店を出てきた。ブライカンである。先日の令嬢救出で得た金をオイラン遊びで使い果たしたブライカンは金を無心するためにネオサイタマ中の店を回っていたのだ。
表通りにさまよい出ると、「ワーのタヌキローンがお金をたくさん貸す!」のネオン看板。当然使えぬ。懐を探るも僅かばかりのトークンもなし。普段は頼もしいスリケンの感触も今日ばかりはむなしく思える。ああ、このスリケンを道行く下等な非ニンジャに投げて、金を巻き上げればどんなに愉快だろう。内なるニンジャソウルの囁きが聞こえた瞬間、ブライカンは目の前の市民へ色つきの風となって飛びついた!
「どうか!どうかお恵みを!この哀れなるブライカンにお恵みをくだせえ!ああ!御履き物に汚れが!待ってて下さいねすぐに御履き物と言わずおみ足もこの万能サイバネ・タンできれいに」「ようやくお会いできましたね、ブライカン=サン」「エ?」上を見上げると知った顔と香りがあった。
「ゴキゲンヨ。私の運命の人」
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「それで、アッシを探していたと?」「はい。あなたは風のように一所に留まらないので、なかなか見つけ出せませんでしたが......」カブキチョの高級料亭に連れてこられた当初は幸福だった。デンチはメガコーポ重役の一人娘であり、カネモチだ。直接にお礼がしたいとこの料亭に連れてこられ、スシとサケを存分に貪った。
スシとサケ、美人令嬢。ニューロンを多幸感でいっぱいにしていたブライカンだが、徐々に自身に備わるニンジャ第六感が警告を出し始めていることに気がついた。
デンチは開始当初より隣に座り、接待をしている。しかし当初あった3インチの距離は、今や完全にゼロ。むしろその弾力のある肌がサイバネ腕に食い込む分マイナス値だ。キモノもやや緩んでいる。「オヒメサマ、そんなはしたない.…..」
何かがおかしい。しかしそう思う度にブライカンの耳に音が響き、正常な思考を妨げる。
ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。
聴覚センサーはこの音が全方向から同音量で流れていることを示している。あてにならない。他サイバネのステータスはどうだ。
サイバネアイ:総じ緑な
触覚センサ:総じ緑な
対人・対物レーダー:総じ緑な
振動センサ:総じ緑な
「ダメダーッ!」デンチのキモノはいよいよ肩まで露出し、危険域だ。これ以上下がれば、ブライカンのなけなしの理性は崩れ落ち、今宵は楽しい一晩となることだろう。
しかし、相手はメガコーポのお嬢様だ。一晩の楽しみと引き換えにどのような責任が発生するか未知数!ともすればブライカンは二度とニチョームで遊び歩けない身になるだろう。
ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。ヨイデワナイカ・パッション重点。
部屋のホット・アトモスフィアは最高潮に高まっている!ニューロンはこれまで遊んだ数々のホット・オイランをブライカンにソーマトリーコルめいて見せ、今夜のプレイリストを作成し始めた!
「私今、体温何度あるのかな…..?」デンチがいよいよキモノを完全にはだけようとした、その時である!ソーマトがブライカンに最近購入した装備を思い起こさせた!デンチを助け出した際に得たバウンティの大半をつぎ込んで闇市で購入し組み込んだニンジャソウル探知サイバネである。
祈りを込めて起動!...作動!反応が示すのは下方向、鍋や酒が置かれたチャブの下だ!
「イヤーッ!」CRASHHHHHH!サイバネ腕が高級タタミごとチャブをひっくり返す!その下からニンジャがPOP!ブライカンはタタミをひっくり返した勢いのまま宙返り!「グワーッ!」つま先が敵ニンジャの顎をとらえた!
「ドーモ、ブライカンです。」デンチを背中に隠しながらアイサツ。ビルの中に作られた中庭、バイオ錦鯉が泳ぐ池に叩き込まれた敵ニンジャもよろめきながらアイサツを返す。「ドーモ、ブライカン=サン。ムードメーカーです。......雇い主よ、カラテは契約に入っていないぞ。俺の役目はこの宴会のムードを高めて既成事実を作るだけだったはず」
「......その通りです。」ブライカンの後ろから声がした。すでに服の乱れを直したデンチであった。「以前に好意を寄せた方は、イクサの果てに亡くなられたそうです」
デンチが語る人物もまたニンジャであった。名はメイヘム。ネオサイタマが超自然の緑に覆われた日、ニンジャスレイヤーとのイクサの末に爆発四散した。デンチはこのイクサを知らぬ。しかし邪悪なるジツが込められた瞳でトリコとなっていた状況から脱したことから、メイヘムが爆発四散したことを導き出したのだった。
しかし、短い時間ながらも共に過ごしていたデンチは、凄まじきカラテを持つメイヘムを忘れることができなかった。
「それ以来、ずっとあなたのようなカラテに自信のある素敵な人を探していたのです。あのヤクザ事務所から助け出してくれたあなたこそが、私の運命の人!」
デンチはいつの間にかブライカンの胸にしがみついていた。ムードメーカーを見やるが最初のアイサツ以降、彼は両手を腕に上げて敵意無しをアピールしている。目を下方に戻せばうるんだ目がブライカンを見つめていた。「戦士はイクサバに向かわれるもの。少しでも長くお引止めしたく、このような手段を取ってしまいました。指でも、腕でも、ケジメ致します。ですがせめて御傍に置いていただけないでしょうか」
「......残念ながらそれは受けられないですよ、オヒメサマ。もしもアッシと一緒にいたらまた同じ目に会い、今度こそ命はないかもしれない。アッシの隣に立ちたければニンジャにでも,,,,,,」
「つまり私がニンジャになれば解決ですね!」意思の強い目がブライカンを見つめていた。ブライカンの思考を後悔が占拠した。
◆◆◆
その後デンチは物好きなニンジャソウル憑依者がセンセイを務めるモータル向けドージョーに通っている。カネモチの子女にとって一定のカラテを修めることは当然であるため問題にはならなかった。センセイのカラテも身元も確かなものだ。
しかし、このようなドージョーで果たしてリアルニンジャの頂に至ることができるのか。それにはどれだけの時間が必要なのか。時々デンチにカラテ家庭教師として招かれるブライカンには全く予想がつかない。はっきりしているのはこの半年でデンチは強く美しくしなやかになり、益々ブライカン好みになったことだけだ。
「それで」今日のトレーニングを終え、倒れ伏していたデンチが身を起こした。「今日のスシは何にされますか?マグロもサーモンもありますし......」息を荒げ上気している。
「変わり種では、コブラもありますよ」
ブライカンの鼻孔をアシッドの香りがくすぐった。