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ご当節身請け痴話

アタシぁ朴念仁でしてね。
男女色恋沙汰のこたぁ、あんまり分かったようなこと申し上げるほど、場数踏んじゃいないんですが。

「頂き女子りりちゃん」の話なんですよ。
どうもいい齢して「頂き女子りりちゃん」てなチャラついた言いぐさ、アタシもあんまり言いたかぁないんですが。ご本人がそう名乗っていらっしゃるんで、仕方なく言いますけどね、「頂き女子りりちゃん」。
「頂きのおりり」あたりにして貰えっと、口に馴染むんだがなぁ。

この頃は噂話の足がすっかり早くなりましたんで、「頂き女子りりちゃん」てなこと申しましても、あれ何だっけ?それ?てな具合で、すぐお忘れになられるんでございますが。
「頂き女子りりちゃん」、女郎の源氏名でございました。
このりりちゃんってぇのが、客をこう、身請けするような素ぶりで、上手いこと言いくるめてですな、随分と荒稼ぎしたって話ですよ、1億円だか2億円だか。


払うほうも払うほうだ。
どこの50ヅラぶら下げて年端もいかねえ二十歳かそこいらの小娘女郎が、どうしてなびくと思ったんだ。
よくある痴話でございますよ、ええ。
落語のほうでもこの手の噺がございますわな、『辰巳の辻占』、上方のほうじゃ『辻占茶屋』って言うんですがね。『三枚起請』なんてぇ噺もございます。
もう今じゃ起請文(きしょうもん)が通じないってんで、まずマクラに起請文の説明、入れなくっちゃなんない。
どうもここんとこ古い噺がやりづらくなっちまいまして。

で、このりりちゃんがですな。
指南書作ったんですよ、「こうすりゃ、客から、もっとカネをせしめられる」って。
りりちゃんは、そりゃあ海千山千・手練手管でやすからね、上手くやったんでございやしょう。
ところがこれをズブズブの素人・矢場娘色茶屋娘がそっくり書いてあるとおりにやった。
『子ほめ』の与太郎みたいなモンですよ。「畳は貧乏ボロボロで...」てなモンで。
客のほうは「手前ぇ!嘘八百並べ、たぶらかしやがったな!」と怒り心頭、お上に届け出、足がつく。

お上のほうで調べてくってぇと、どうも矢場娘色茶屋娘に吹き込んだ者が居る、誠に不道徳相けしからんとなり、りりちゃんにまで調べが届いた。
まあ大体こんな顛末なんでございますがね。

アタシぁね。どうも腑に落ちないんだ。
今の東京だとどれぐらい残ってますでしょうかね、わかりませんけれども、京都や大阪ですとね、まだ花街が少し残ってるんですよ。
アタクシがガキの時分にはまだ神楽坂や洲崎、向島のあたりに、少し残っておりました。


京都にゃまだ舞妓と芸妓のしきたりが残ってます。
大店の旦那が舞妓の頃から目をかけ、一人前の芸妓に仕立てあがる頃には小料理屋のひとつも仕立て囲い込む...まあ旦那衆の時間かけた粋なお遊びだったんですな。
京都大阪は商売人の町でございましたから、旦那の花街お遊びの噺がたくさん残ってございます、『親子茶屋』『けんげしゃ茶屋』『百年目』...。
江戸は工人職人とお侍の町でしたから、大旦那の威厳風情っていうんですかね、そういう噺はあまり伝わっておりません。
ましてやそこいらの大工だ桶職人だ金物職人だ田舎侍だの、手前ぇの所帯もままなんねえ有象無象の甲斐性なしが、よそへ女を囲うなんてこたあ、不相応だった。

りりちゃんが客をたぶらかし「電話代が払えないの」「お家賃が払えないの」「田舎のおっ母ぁが長患いで」「年貢の取り立てが厳しくて」とか何とか、金をせびった。
そら騙すのは悪い。嘘つくのは悪い。確かに悪い。
とは言え騙されてんのも薄々わかりながら、よっしゃよっしゃ可愛いヤツよと、ポンッと懐から小判のひと束も置くのが旦那気質、風格、粋な振る舞いってモンじゃねえんですかねえ。
「女郎に騙されたあ!」と騒ぎ、お上の手わずらわせ「カネ返せ」とお裁きを申し出るってえの、しみったれてて野暮じゃねえかなあ、旦那風情のかけらもねえ器の小っせえ女囲っちゃいけねえ不相応な痴話に、どうもアタシにゃ聞こえちまうんですがねえ。





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ガシガシ興戸貝多郎
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