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【コラム#01】 捕鯨活動家・ワトソン氏の釈放について

 日本の国際手配に基づきデンマークで拘束されていた捕鯨活動家ポール・ワトソン氏が、12月17日に釈放され、22日にはフランスで記者会見を開き、活動再開を宣言した。

 ワトソン氏が設立した団体「シー・シェパード」は、火炎瓶の投擲や体当たりといった暴力的な手法による捕鯨妨害活動を繰り返してきた。1986年にはアイスランドの捕鯨船を沈没させた過去もある。日本からは、14年前に日本の捕鯨船へ火炎瓶を投げつけ、日本人乗員に火傷を負わせた容疑で国際手配されていた。この団体は企業や個人から多額の支援金を受け取っているという。

 さて、今回の釈放をめぐる問題について、以下の3つの論点が考えられる。

1点目:フランス民主主義の矛盾

 今回の釈放にはフランス政府の尽力があったと見られる。ワトソン氏が拘束された直後、マクロン大統領は移送に反対する姿勢を表明し、同氏を保護する方針を明らかにした。この対応は、フランス政府が暴力的活動家を擁護したことを意味する。

 しかし、フランスでは通常、このような暴力的活動家は逮捕されるはずである。実際、環境保護を掲げる「Just Stop Oil」が「モナ・リザ」にトマト缶を投げつけた行為は罰せられた。一方で、鯨保護を主張する団体が火炎瓶を投げても罰せられないという矛盾が存在する。民主主義国家であれば、いかなる主張を通すためであっても暴力は許されないはずだ。むしろ、フランスはこれまでそうした行為を厳しく取り締まってきた国である。

 今回のフランス政府の対応は、民主主義の原則に反しており、国家の根本にある価値観を揺るがす行為であると考えられる。

2点目:西洋中心主義の問題

 非民主的な暴力行為が今回のように許容される背景には、ワトソン氏の行動が「アジアの前近代的な価値観を正す」ものと見なされていることがあるのではないか。

 捕鯨を「前近代的で誤った行為」と考えるのは、あくまで西洋的価値観に基づく主張に過ぎない。この価値観が普遍的に正しいわけではない。それにもかかわらず、東洋の価値観を一方的に侮蔑し、「誤り」と決めつけて正そうとする姿勢には、オリエンタリズム的感覚が垣間見える。このような西洋中心主義こそ、今回の問題の根底にあると言える。

3点目:日本外交の弱さ

 今回の事態において、日本政府は「自国民に国際法違反の暴力を行った人物」を見逃した形となった。そして、政府の対応は「遺憾だ」というコメントにとどまった。

 しかし、フランス政府が積極的に関与した点を踏まえれば、フランス政府への抗議や西洋社会全体に対する被害訴求を行う余地はあったはずである。無論、そのような行動により一時的に日仏関係が悪化する可能性はある。しかし、自国民の保護が必要であれば、日本政府はそのような外交的カードを迷わず切るべきである。

 最大の国益は、強い対応によって同様の事件を抑止することにあり、さらに日本政府が自国民保護のために断固たる姿勢で外交手段を行使することを国際社会に示すことである。外務省には、国民保護を最優先に据えた積極的な外交を求めたい。

記事のトップ画像: Witty lama - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=6012983による

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