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十年ぶりで、親友が訪ねてきた。 月の明るい晩だった。 僕がひとり、月を肴に晩酌を楽しんでいると、突如、けたたましいノックの音がして、行ってみると、親友が立っていた。 お互いに十年分の年をとっているはずだが、向きあってみると、昨日別れたばかりのような気がした。 「実は今日は、お前に頼みごとがあって来た」 親友は、久しぶりだなとも、こんばんはとも言わず、いきなりそう切り出した。 戸口で話すのも奇妙だ。 僕は彼を部屋に招き入れ、晩酌のグラスを、もう一人分追加した。
店の戸を開くと、いつもの客が来ていた。 着古した安いスーツのサラリーマン。 いつもの絵の前に案内すると、男は赤いドレスの女の絵を飽かず眺めていた。絵の値札に並ぶゼロを見下ろし、男が深いため息をつく。 「この絵のモデルはね、画家に殺されたらしいんです。特殊な薬を飲ませてから、その子の血で絵をかくと、いい赤が出るって言ってね」 私は男の隣に立ち、その話を教えた。 男は驚き私を見た。 「本当ですか?」 「まさかですねえ。そんなものとても売れやしません。そのく