真スーパーヒーロー作戦X-GEAR~another wars~

AD2018~偽りのプロローグ

・目を覚ましたジアフェイ・ヒエンは記憶の混濁を得た。
「……あれ、」
軽い頭痛を覚えながらもスマホを見て日時を確認する。
2018年12月3日。友人であるジキル・クルセイドこと朝明星吹葵が25回目の誕生日を迎える日でもある。
「……ああ、今日はあいつらと出かける約束してたっけな」
我ながら珍しくカレンダーにはジキル誕と記載(メモ)していた。誕生日プレゼント:特に予定なしとも。
ベッドから起き上がり、シャツに着替える。カラーはもちろん黒。
「ん?」
しかしそこでまた記憶の混濁を得た。今日は月曜日だ。ならば学校に通うはずでは?それに着るのは私服ではなく制服では?
「……いやいや何を言ってるんだ」
あいつが25と言う事は自分も同い年……いや、誕生日はもう少し先だから実は24だが、そんな男が学校に通うはずないじゃないか。ただでさえ卒業して1年後に円谷高校を訪れた際には先輩からのサービスとして男女とも知れない後輩の机の引き出しにこっそりとJS口腔器用化週間~目指せ全国一のバキュームガール~全129巻を入れておいて、後で元担任にばれて呼び出しを喰らったがあれから7年経っているのだからそんな馬鹿も出来ない。今同じことをやったらポリス案件だ。
「待ち合わせは10時半か」
現在時刻は9時。いつも通りの朝時間。ちなみにカレンダーを見たらこっそりと今日は有給消化日とも書いてあった。自分はどうやら有休を使ってまで友人の誕生日に町をブラ行く予定だったらしい。まさか自分にそんな他人想いな部分があったとは、今すぐ精神科に走りこみたいような周到さだ。
「さて、荷物は……まあ金属バットとモシンナガンは手放せないとして、」
必要な火器をリュックに詰めていく。
「これで十分かな」
姿見を見ればあら不思議。さっきまで不躾な寝間着姿だったおっさんがいつしか黒いシャツの上からグランドジオウのコスチュームを着こみ、M16と、グレネード3発&モシンナガン&金属バット&テンコマンドメンツを仕込んだリュックを背負い、頭に「革命上等」と書かれた鉢巻をすれば輝かしいさわやかな青年に早変わりだ。おっと、ちゃんと左手にはバイパーウィップもインストールしてるぞ。
「……ん、妙だな。なんかこの格好で外出ようとするといつも速攻で突っ込みが入ったんだが。まあいいや、」
10時ごろに出発だ。まだ30分以上ある。仕方がないので付属してたMDMAを服用しながら、JSシリーズの薬物汚染が激しすぎて頭パーになっちゃったから性的義務教育を!の222巻を読むことにした。
「そろそろ序盤も終わりの時期かな。スウォルツが女児たちに薬漬けにされ始めてるし」
これを読んでいるとつくづく作者の頭がおかしいことを実感できて世界は平和だと言う事を実感できる。でもいくらなんでも木之本さくらと芳乃さくらが同一人物設定って言うのはハイスキャンダルじゃないのか?まあ、だから次回作の主人公がカードキャプターマジカル義之になっているのは笑うけど」
盛り上がってきたところで時間を見れば11時を過ぎていた。
「……やっべ。そろそろ行くか」
多少急いで家を出る。チャリに乗って10分もすれば待ち合わせの場所に到着する。
「……お前、何考えてるわけ?」
待ち合わせ場所であるズ・ゴオマ・グ石像前ではトゥオゥンダ・ギミーとジキル・クルセイドが鬼の形相でたまごっちをしていた。
「悪いな。JSシリーズ読んでた」
「またあのシリーズかよ。そのうち警察に捕まるぞ?いくら内閣に認められているからってあれはポルノとしてヤバいって」
「大丈夫だ。陽翼ちゃんを信じる」
「そうかい。まずは腹減ったな。お前のおごりでいきなりステーキ食いに行くか」
「プレゼントはしないって約束だぞ!?」
「贈呈ではなく弁償だお前の場合」
「謝礼を要求する」
「……仕方ねえな」
そう言って3人でいきなりステーキに向かった時だ。一発の銃弾が胸元に炸裂した。
「ぐっ!!」
上手く防弾チョッキと鎖帷子がかみ合った場所に着弾したからか軽く吹っ飛ぶだけで済んだ。しかし、銃撃が来るとは予想していなかった。
「……呆れた幸運ね」
声。正面。悲鳴と逃げ惑う雑踏が消えた場所に一人の少女が立っていた。
「……暁美ほむら……!?」
「あら、私を知っているのね。光栄だわ。でもあなたはここで死になさい」
ほむらは再びその手にしたハンドガンをこちらに向ける。
「ヒエンは下がってろ!!」
「ここは俺達が引き受ける!」
言うや否や前に出たトゥオゥンダとジキルはベルトにガイアメモリを差し込んだ。
「サイクロン!トリガー!」
「「変身!!」」
「サイクロントリガー!!」
ヒエンの目の前で二人は仮面ライダーWサイクロントリガーに変身を完了した。
「……は?」
「「さあ、お前の悔いを数えろ!!」」
「悔い?懺悔ってこと?……必要ないわ。だって既にそれを滅ぼすために私はここにいるのだから」
ほむらはスカートのポケットからアナザーウォッチを取り出した。
「今度はアナザーウォッチ!?」
「行くわよ、」
「鎧武!!」
ほむらがアナザー鎧武ウォッチをベルトに入れるとどこからともなく角笛の音色が響き渡り、その姿がアナザー鎧武・ほむらアームズへと変わった。
「ほむらアームズ、魔法少女カタストロフィー」
電子音が終わると同時、アナザー鎧武は倭刀とコンテンダーを構えてから迫る。
「「ライダー銃撃戦と行こうか」」
Wはアナザー鎧武の斬撃をバックステップで回避。同時に左手の拳銃を発射。しかしアナザー鎧武の装甲に弾かれる。逆にアナザー鎧武が発射したコンテンダーからの、もはや爆撃と言っていい一撃がWのボディを軽く貫通する。
「「うぐっ!!!ぐがああああああああっ!!」」
「お、おい!」
いきなり意味不明な状況に置いてけぼりにされていたヒエンだが我を取り戻してWに駆け寄る。
「「ば、馬鹿か。あっちいけ。逃げろよ!!」」
「あの子の狙いはこっちだろ!?と言うかアナザーライダーは元になったライダーかその力を持っているか、魔王じゃないと倒せないんじゃなかったのか!?」
「「今ここに鎧武はいない!!」」
「だからって!」
倒れたままのWを背にヒエンは前に出た。
「どうして君はこっちを狙う?と言うかどうして君がこの世界にいてしかもアナザーライダーになってるんだ?」
……繋がりは分かるけれども。
「……私の願いは知っているかしら?」
「……鹿目まどかの解放」
「そう。でもそんなの事後処理じゃない。だから私は願ったのよ。全ての魔法少女が誕生する前に死ぬなりその原因を排除すればそもそも魔女とか魔法少女とか起きやしない。ついでにインキュベーターも地球に用はなくなる。いいとこづくめだわ」
「……僕が魔法少女になるとでも?」
「ふざけないで」
アナザー鎧武が倭刀で切りかかる。ヒエンは金属バットでそれを受け止め、M16だけを取り出してからリュックをアナザー鎧武に叩きつけ、発砲してリュック内のグレネードを起爆させる。3発のグレネードが同時に爆発し、轟音と爆発でわずかな間だけ世界を塗り替える。
「逃げるぞ!」
その間にヒエンはWに肩を貸してその場から走り出す。逃げながらカオスな脳内で今一度現状を整理してみる。
暁美ほむらがアナザー鎧武に変身して、トゥオゥンダとジキルが変身したサイクロントリガーと戦って、けど瞬殺されて今は逃げている最中。彼女の目的は鹿目まどかがアルティメットにならないためにすべての魔法少女がそうなる前に彼女達を殺害する事、あるいは魔法少女誕生の原因を排除する事。そのために……恐らくタイムジャッカーと契約してアナザー鎧武に変身した。で、どうして自分達が終われているかと言えば自分達が魔法少女になる恐れがあるから、ではなく後者。自分達がどこかの魔法少女の誕生の原因となっているかららしい。
「「……くっ、いいから逃げろっての!!」」

Wが自力で立ち上がり、ヒエンを振り払う。
「「いくらお前が空手やってたからってアナザーライダーを相手に生身は無理だ。先に逃げろ。お前が逃げたって十分わかったら俺達もすぐに逃げる。約束する」」
「いきなりステーキ、予約して待ってるからな」
「「ああ、腹いっぱい食わせてもらう」」
踵を返したヒエン。逆にWは追いかけてきたアナザー鎧武に向かっていく
「トリガー・マキシマムドライブ!!」
「「行くぜ!!」」
発射された必殺の銃撃。それがアナザー鎧武の甲冑をぶち破り、コンテンダーを貫いて破損させる。
「くっ!」
「「うおおおおおおおおおお!!」」
走るW。追い風がベルトの風車を回し走る速さを倍増させていく。それが頂点になった時Wは跳躍してアナザー鎧武に向かって飛び蹴りを放つ。
「こんなもので!」
しかしアナザー鎧武は倭刀を引き抜き、飛び蹴りを受け止めつつWの胸を貫く。
「「がああああああああああっ!!!」」
「お前達!!」
絶叫するヒエンの視界で小さくなったWは悲鳴を上げ、火花を散らしながら倒れて大爆発した。
「……ついでに頂いていくわ」
アナザー鎧武はその残骸に無地のウォッチを向けるとウォッチがアナザーWのウォッチに変わる。
「……お、おおおおおおおおおおおおお!!!」
叫ぶヒエンはアナザー鎧武に向かって走る。その姿が少しずつ異形の者へと変わっていき、尋常ではないほど力の込められた拳がアナザー鎧武に向けて放たれる……その寸前に。
「まあ、落ち着けよ」
声がした。同時、ヒエンの手首を一人の男が掴んだ。そして、代わりにヒエンとアナザー鎧武の間に一人の少女が姿を見せた。
「……木之本さくら!?」
気でも違ったのかと思ったが違う。確かに目の前にいるのは木之本さくらだった。しかも中学生の。ちょうどほむらと同い年くらいの。
「……誰?あなたは」
「木之本さくらだよ」
「……聞き覚えがあるわ。3年前にクロウカードを集めていた一人の少女。でもあなたがここに来てどうしようって言うの?」
「あなたを封印します」
「……アナザーライダーの私を?クロウカード、いいえさくらカードの主であると言うだけのあなたがどうやって?」
「……夢の力を秘めし鍵よ、真の姿を我の前に示せ。契約のもと、さくらが命じる。封印解除(レリーズ)!!」
さくらは封印の杖を解放する。
「……何をするつもりなんだ?」
「……あの子が言っただろ?あのアナザーライダーを封印するんだ」
ヒエンの質問に男が答える。と言うか、男をよく見る。
「門矢士……!?」
「俺はただの通りすがりだから別にどうでもいい」
「……いや、待て。クリアカードの支配者ならアナザーライダーを封印できるのか!?」
「そんなわけないだろ。だが、条件が合っているだけだ」
「条件?」
「……確かにアナザー鎧武はアナザーライダーだ。本物の鎧武かそれを継いだジオウの力じゃないと倒せない。だが、元はどうだ?」
「元……」
「暁美ほむら……いや、あのアナザーほむらは魔法少女だ。だったら同じ魔法を使う少女の力なら対処できるだろ」
「んな理論で!?」
「主亡き者よ、夢の杖の元、我の力となれ!固着(セキュア)!!」
呪文を唱えたさくら。それを受けたアナザー鎧武は当初こそ微動だにしなかったがしかし徐々に異変が起こり始めた。
「……こ、これは何……!?」
アナザー鎧武に変身しているアナザーほむらの方が少しずつ力と存在を奪われ始めていた。きゅうべえと契約していない関係で、時間を戻すことも出来ない。アナザー鎧武の力はそのままだがそれを動かす力が既に枯渇されかかっている。
「とどめを刺す」
士がアナザー鎧武に向き、ネオディケイドライバーにカードを差し込んだ。
「変身」
「Kamen Ride ga-ga-ga-Gaimu!!」

士は仮面ライダーディケイド鎧武へと変身した。
「なれるのかよ!」
「俺に壁はない」
言いながらディケイド鎧武は走り、構えた刃の二振りでアナザー鎧武を切り裂いた。
「いやああああああああ!!!まどかああああああああ!!」
悲鳴を上げ、アナザー鎧武は大爆発。後にはアナザーほむらとアナザー鎧武のウォッチだけが残った。
「士さん、私がいれば戦う必要はないって言ったじゃないですか!」
ふくれっ面のさくらが抗議してくる。
「念には念をだ」
ディケイド鎧武は変身を解除した。まだまだ抗議したりないと言う感じのさくら。そこでやっとヒエンが口を開いた。
「……助けてくれて礼を言う。けど本当に木之本さくらと門矢士なのか?」
「はい、そうです」
「それ以外の誰に見える?サクラ姫とジンガにでも見えたか?」
「その時空とか何でも構わない姿勢、確かに本物だな。で、そんなあんた達がどうしてこの世界に来たんだよ。まさかこの世界はリ・イマジネーションの世界だとでも言うのか?」
「作られた世界だって言うのはその通りだな。だが、この世界の持ち主はあんただぞジアフェイ・ヒエン。いや黒主零」
「……黒主零……」
その名前に覚えはもちろんある。ああ、そうだ。確かに自分はジアフェイ・ヒエンだなんて名乗ってはいるが今の名前は黒主零だ。そして本名は甲斐廉でもある。しかしそれでわざわざ黒主零だとこの男が呼びつけたからには理由があるのだろう。
「……パラドクス関連か」
「まあ、ある意味間違ってはいないかもしれないが正確に言えば少し違う。……調停者どもだ」
「……<全宇宙の調停者>ディオガルギンディオ……奴らが本格的の動き始めたって言うのか」
「……理由は分からないし、さすがの俺も奴らの前ではたまに目に付く程度のネズミに過ぎない。だが何かあったんだろうな。それにタイムジャッカーが便乗したんだ」
「どういうことだ?」
「……ブフラエンハンスフィアを知っているな?」
「……甲斐廉が黒主零となったあの日にナイトスパークスとジ・アースとカオスナイトスパークスとで相反する力を得た事で世界に歪みが生じた。それによって誕生した甲斐廉を模した終の進化を司るディオガルギンディオ。会った事はないがそれくらいのことは知っている」
「そうだ。ジオウによって多くのアナザーライダーを倒されたタイムジャッカーは新たな戦力として最強のアナザーを生み出すことを計画した。……アナザーエンハンス。十三騎士団の中でも第4位の実力を持ち、パラドクスの中でもトップクラスの実力者であるカオスナイトスパークス、そして地球の守護者であるジ・アース。この要素を持ち合わせた異例の調停者であるエンハンスをアナザーライダー化して手ごまに出来たらどうか。それこそあんたほどの男でもなければ太刀打ちすら出来ないだろう」
「……それでこっちを狙っていたのか。だけどそれならすぐにでもアナザーウォッチを使えばよかっただろうに。どうしてあんなことまで……」
「それでは意味がないからだ。今のあんたにブフラエンハンスフィアの力はない。ばかりかナイトスパークスとしての力もプラネットの力もないはずだ」
「……確かにそうかもな」
忘れていたとはいえ、そんな力があればとっくに使っているだろう。特にプラネットの力を使えばアナザーライダーの制約を無視してでも強制的に倒す事だって可能だったかもしれない。ここが異世界、しかもまた意味不明なほど力を抑制された世界だから使えないのだろうか。
「けど、だったらどうして今の自分を狙う?アナザーヒエンなんて意味がないだろう?零のGEARもないわけだし」
「かもな。だが、今のあんたにも1つだけ価値がある。それは新しいブフラエンハンスフィアを生み出すことだ」
「新しいブフラエンハンスフィアを!?」
「そうだ。俺が聞いた話だとあんたがブフラエンハンスフィアを生み出すには条件がある。1つは以前に大切な人を失っている事、2つにあんたが黒主零ではないこと、つまり零のGEARを持っていない事。そして最後に目の前で大事な存在をなくすことだ」
「……」
全てに心当たりがある。なるほどつまり、
「……その条件で生み出されたばかりのブフラエンハンスフィアを襲撃してその力を奪うことでアナザーブフラエンハンスフィアを生み出すのがタイムジャッカーの計画ってわけか」
「そうだ。で、俺が来た理由は2つある。1つはこの事実を話すことであんたに耐性を持ってもらうことだ」
「耐性?」
「ああ。もう1つの理由に関係しているから言うが、あんたにはこれから俺達と一緒に少しの旅をしてほしい。この世界にいる限り度の時空だろうとあんたは存在し、そこをタイムジャッカーが襲撃するだろう。当然あんたの大事なものを狙ってな。だが、同じ時空に複数の存在はなしえない。だから俺と一緒にすべての時空を渡り、その度にタイムジャッカーを迎撃。戦力を可能な限り削り、今回の作戦を不可能な状態にまでする。元々ジオウによってアナザーライダーが倒されまくってる状態だ。そんな長旅にはならない。来てくれるか?」
「……そうだな。この世界の意味もまだ分かっていない。どうして力がない状態なのか。それも分からない。アナザーエンハンスなんて意味の分からない存在を作られてもこれ以上同じ顔が増えるのは困るだけだ。行くぜ、世界の破壊者」
「……それはもう古い名前だ」
「おっと、さくらちゃんもよろしく頼むぜ」
「はい。こちらこそ」
二人と握手をしてからヒエンは世界の壁を越えた。この世界の意味を知るために。
そして、ヒエン達が去った直後にアナザーデンライナーが町に落下した。

AD2014~逆転反転ドリームゲーム~

・時空のカーテンを超えた先。到着したヒエン達は突然の大音量に衝撃を与えられた。
「ライブ……?」
原宿。街中。ビル街にある望遠モニターに映っているのはやはりライブの映像だった。
「Do it! Do it! Do it!やるなら1秒でも早く」
「Dress codeを破るよ、ハラハラ波乱万丈」
「Good lead Good lead Good lead!リードは得意よ任せてね」
「「「ドリームコードなんてルール要らない!!」」」
元気な3人の歌声が町中に響き渡っていた。
「ど、ど、ど、ドレッシングパフェだぁぁぁっ!!!」
興奮するヒエンにビビるさくら。一方で士はヒエンに背中をバンバン叩かれまくりながら周囲の様子をうかがう。
「……人があまり多くないな。しかもところどころ町が破壊されている。既にタイムジャッカーが来た後かも知れない……そろそろ痛いんだよお前!」
遂にキレた士にツボを突かれたヒエンは笑いが止まらなくなり昏倒した。しかし何だかとても幸せそうな顔をしていた。


調子を取り戻したヒエンはやってきたこの世界が2014年じゃないかと推測する。
「根拠は何だ?」
「ドレッシングパフェがNo D&D codeを歌うのは無印の頃の1期とアイドルタイム1期の頃だけだ。だが、あのコーデでライブしていたのは前者の時期しかない。つまり2014年だ」
「……名推理だな。オタク様々だ」
「……ちょろっと馬鹿にしてないか?」
「してないしてない。自虐心と一人でかくれんぼしてるだけだ。そんなことよりもそのドレッシングパフェってのはどこにいるんだ?」
「あ?プリパラの中じゃないのか?」
「士さん、まさか……」
「ああ。タイムジャッカーは今度は間違いなくお前の前でドレッシングパフェとやらを襲う。俺はアナザーライダーの気配を辿ってこの2014年に来たんだ。その理由はお前が大事だと思っているもの、目の前で失ったらその時点で深い悲しみや怒りに身を噛ませて心を支配されてブフラエンハンスフィアを生み出してしまうほど愛のある相手に限る。それがこの2014年にいるとしたらほぼ間違いなくお前が熱狂的に執着しているあのアイドル達だろう。で、彼女達はどこにいる?」
「パラ宿」
「は?」
「パラ宿だ。だが、そんなものは実在しない。一番近いと言えばここ、原宿だな」
「……厄介だな。流石の俺もフィクションの中の詳しい場所にまで通路を用意できない」
「……もしくはプリパラの中か」
「そのプリパラの中に入るにはどうすればいい?」
「男じゃ無理だな。あそこは女の子しか入れない。例外除く」
「……だったら」
「……ほえ?」
ヒエンと士の視線がさくらに注いだ。
そして15分後。さくらは原宿のプリズムストーンショップにやってきた。
「あ、あの、プリパラに入りたいんですけど……」
「はぁい。プリチケは持ってるかな?」
出迎えてきたのはめが姉ぇだった。
「あ、はい。これを」
さくらは士が用意した自分のプリチケを見せる。
「あら。初めてみたいですね。ではご一名様案内しまーす。システムでーす!」
ゲートを超えてさくらはラブリーアイドルさくらとしてプリパラの中に入った。
「……すごい。可愛い女の子ばっかり。私も、小学校時代の姿になってる。……知世ちゃんがすごい喜びそう」
町の1つ1つに感動しながらさくらはドレッシングパフェを探す。手掛かり自体は意外と結構あった。なんでも、さっきの放送でドレッシングパフェがライバルであるソラミスマイルに勝利して最初の決着がついたと言う事で軽く賑わいを見せているのだ。プリパラの街並ではドレッシングパフェ3人のポスターやグッズなどが散見している。あと、そこら中にさっきのめが姉ぇと同じ姿をした人がたくさんいて少しだけ頭痛がした。その中の一人を捕まえてドレッシングパフェに会いたいからどこにいるか教えてほしいと頼む。しかし有力な情報は集まらなかった。ただ、アイドルなら町に多数あるステージ施設のどこかにいる可能性は高いとのこと。とりあえずちょくちょくと外にいるヒエン達と連絡を取りながら各施設を巡り、ドレッシングパフェがライブの予約をしていないか確認して回る。
探し回って3時間ほどが過ぎた。町の時計を見れば午後5時過ぎ。しかし少女たちが帰る様子は見られない。どうしてかと理由を聞いてみた。
「だって外危ないし」
「危ない?どうして?」
「だって、また怪獣が出たら嫌じゃん?」
「怪獣!?」
一瞬だけ兄の顔が頭に浮かぶがそれを振り払い、さくらはヒエン達に連絡した。
「……ああ、今度は怪獣か」
ヒエンがため息をつく。
「やはりそうか。見ろ、町のあちこちが破壊されている。だが、アナザーライダーがいくら強力でもここまで大きな被害を作るのは難しい。だが、巨大怪獣だって言うならまあ納得できるな。で、この2014年に出現した怪獣で相応しい奴はどいつだ?」
「……恐らくファイブキング」
「ファイブキング?」
「そうだ。この2か月前にウルトラマンギンガとウルトラマンビクトリーによって倒された合体怪獣ファイブキング。だが奴はこの時期ならもう倒されているはずだ」
「……なら倒された後なんだろう。番組ならともかくリアルならいつどこで怪獣がいつまで何体出現するかなんてわかるはずがない。だから人々が怯えるのも無理ない話だ。2か月スパンが空いてたとしても関係はない。まあ、2年ならまだ分からないだろうがな」
「……2年後も2年後で怪獣はまだいるんだけどな。と言うかこれまで地球に怪獣がいなかった時期なんて21世紀なら2009年と10年と11年くらいしかないんじゃないのか?」
「……お前は少し詳しすぎる。まあいい、さすがのタイムジャッカーも怪獣相手にはどうしようもないだろう。それよりもこれからどうするかだな。さくらはプリパラの中で夜を過ごさせればいいとして俺達はどうするか。野宿もいいが11月に野宿は少し厳しい」
「そうだな。……ん、」
ヒエンは町を走る一人の少年を見つけた。
「あれは榊遊矢!?」
「……今度は何だ?」
「……ちょっと様子を見ていいか?」
「……分かった」
そうして二人は走る榊遊矢の後を追いかけた。やがて、周囲の建物が壊れた公園のような場所に到着する。
「……バイクの音がするな。アナザーライダーが来ているのかもしれない」
「……いや、バイクの音がしてるとしたら危ないかもしれないな……」
「どういうことだ?」
「ユーゴが来る……!」
直後、一人の少年が宙を舞い、地面に叩きつけられた。
「榊遊矢か?」
「……いや、あれはユートだ。……すげぇ。テレビで見るのと全然違う。確かに遊矢と同一人物に見える……。いやそれより……!!」
ヒエンは倒れたユートを介抱する。
「大丈夫か!?」
「くっ、どこの誰かは分からないが、逃げた方がいい。奴は普通じゃない、アカデミアがこんな武器を持っていたとは……」
「武器!?」
ヒエンがバイクの音に振り向く。と、そこにいたのは見たこともないアナザー電王だった。
「ユーゴ参上!!」
「ユーゴがアナザー電王になってる!?」
「ちっ!」
アナザー電王に向かって士が走り、カードを取る。
「変身!」
「Kamen Ride de-de-de DEN-O!!!」
「俺、参上!!」
ディケイド電王クライマックスフォームとなってアナザー電王にタックル、バイクごと転倒させる。
「どけ!!俺はリンを探し出すんだ!!」
「そこの奴が攫ったのか?」
「そうにちがいねえ!!同じ顔をしているんだ!!」
「お前も同じ顔だろうが!!」
ディケイド電王がアナザー電王にタックル。アナザー電王は受け止めて手4つで抑え込む。その間にヒエンがユートを背負ってその場から離れる。その途中で遊矢を発見した。
「榊遊矢!お前も来い!!」
「え、あ、ああ!」
「と言うか家に泊めさせてください!!このままだと11月に野宿なんです!!」
「あ、うん。はい」
「……あいつ、それが狙いでここに来たな」
ディケイド電王が小さくため息。するとややアナザー電王がパワーで勝ってきたため、その力をいなして相手を投げ飛ばす。
「ぐっ!」
「悪いがお前には用がないが生きててもらっちゃ困る。大人げないがこれで終わらせてもらう」
ディケイド電王は3枚のカードを取り出した。
「行くぞ、俺の美技に酔いな」
「Attack ride ka-ka-ka-Kabuto! Clock up!!」
1枚目が発動し、タキオン粒子がばらまかれてはディケイド電王以外の時間が超遅延する。
「Attack ride ryu-ryu-ryu-Ryuuki! StrikeWent!!」
2枚目が発動され、ディケイド電王の右手がドラグレッダーの頭部に変わり、その口から強力な火炎が放たれ、動けないままのアナザー電王を焼き尽くす。
「Final Attack ride D-D-D-DEN-O!!」
「電車斬り!!」
そして炎の中のアナザー電王に向かってディケイド電王が必殺の一撃を叩き込む。
「クロックオーバー」
攻撃後にディケイド電王が呟くと、遅延していた時間が元に戻ると同時に背後でアナザー電王が大爆発した。

「が、がはっ!!な、何があった……」
爆発からボロボロのユーゴが出て来て倒れる。
「……おい、こいつはどうする?拾っていくか?」
「そうしてくれ!!」
ヒエンの返事を聞いて士はユーゴを担いでヒエンの後を追いかけた。


榊家。ヒエン、士、そしてユートとユーゴはそこの世話になった。遊矢は母親と二人暮らししているらしいが父親が不在のため部屋は余っていた。とりあえずユートとユーゴの顔を見た遊矢の母がしばしブチ切れていたがやがて収まった。
「え、アカデミアではない!?」
ユートとユーゴはそれぞれ事情をヒエンから教えてもらう。本当はあまりルール違反なことはしたくないがちょっと歴史を変えてみたくなったから仕方がない。だからと言って悲しませる理由もないため遊矢の父親に関しては何も言わなかった。また、ユーゴにアナザー電王になった理由を問うが、よく覚えていないらしい。
「アカデミアがタイムジャッカーと手を組んでいる可能性があるかもしれないな」
「おい、アカデミアってなんだ」
リビングで榊母のご機嫌を取るためパフェを作りながら士が問う。
「アカデミアは融合次元に存在する軍と言うか組織だ。赤馬零王って奴が総司令官を務めている。どういう訳か異次元をある程度自由に渡れるらしい。目的は4つの世界に分かたれてしまった娘の魂を回収して復活させることだ」
「……なるほど。大体わかった。確かに出所不明な時空転移の技術からタイムジャッカーと関係している可能性はなくもない」
「ああ。それにユーゴがアナザー電王に変身できるのも気がかりだ。ユーゴは本来ユーリと言う男に襲われてこの世界にやってきた。つまりユーリにはアナザー電王を撃退するだけの力が備わっている可能性もある。或いはユーリによってアナザー電王の力を与えられたか」
「……アカデミアとプリパラ。タイムジャッカーに関係する大きな要素が2つも出て来るとはな」
「なお偶然だろうがどっちも2014年から2017年まで放送されていた。プリパラに関してはアイドルタイムが始まったからもっと続くし続いてほしい状態に現在進行形でフォーエバーでぶっちゃけもっとドレッシングパフェの活躍とか見てみたかったしソラミスマイルとの真の決着とかもっともっと見たかったって言うか」
「そこまでにしておけ。噂の片割れじゃあるまいし。だがここで時空を超えるとなると少しまずいな。さくらを回収しないといけなくなる。かと言ってプリパラの方も放ってはおけないだろう。アカデミアの方に手掛かりがなかったとしたらその間にお前の大好きなドレッシングパフェとやらは奴らにつかまりかねない。そうなったら逆にアカデミアの方に手掛かりがあったとしても人質にされるか或いは目の前で殺されて奴らの思うツボだ」
「最低限ドレッシングパフェとは合流しておきたいな」
「あのさ、」
そこで遊矢が口をはさんだ。ユートとユーゴがデュエマをやっているのを見ていたが飽きたらしい。
「さっきから言ってるドレッシングパフェって東堂シオン、ドロシー・ウェスト、レオナ・ウェストの事か?」
「ああ、そうだ。お前もファンか?」
「いや、ファンではないけど。俺の中学の後輩だけど?あの3人」
「…………そうじゃん!!お前中学生じゃん!!」


翌日。日中は合流したさくらとカラオケに行ったり遊園地に行ったりして時間を潰し、夕方。遊矢にはドレッシングパフェの3人を連れてくるよう頼んでいた。万一行き違いになることを回避するため同じ顔故校内で活動しても怪しまれることの少ないユートとユーゴも手伝わせている。ちなみに女子のコミュニティを活用したいために柚子にも手伝ってもらっている。その結果昼休みに話が出来たらしく、無事放課後での合流が可能となった。本人達はライブがあるからサインなら早めにと言っているがぶっちゃけそれどころじゃない。敵の狙いになってるだろうからせめてこの時代のタイムジャッカーの戦力を全滅させるまでは一緒にいないといけないし、そんな事情がなくとも好き好き大好きみたいにどっかに監禁したい。別にラバースーツ趣味じゃないけど。
「お前、大事があるから見逃されてるけど十分やばい奴だろ?」
「今更か?人畜無害がブフラエンハンスフィアとか生めるかよ」
とりあえずカラオケではひたすらさくらを歌わせまくって全て録音した。
そして放課後。なるだけ学校から近い場所を合流地点にした。士もヒエンも周囲を警戒させながらドレッシングパフェの合流を待つ。遊矢からLINEでそろそろ到着するとメッセージが着た瞬間だ。
「……厄介なお客様の登場らしい」
「え?」
士が言うと同時、激しい金属音のような叫び声が夕暮れの空を貫いた。ヒエンが空を見上げると1体の巨大怪獣が空から降ってきた。
「宇宙怪獣ベムラー!!」
「偶然じゃないだろうな。タイムジャッカーの仕業だろう。いくら俺でもあれは厳しい。対象を連れて逃げた方が早い」
「分かった」
士のバイクに二人で乗ってノーヘルのまま走り出す。非常事態だから許されるだろう。まっすぐ走るとやがて正面に小さく遊矢やドレッシングパフェたちの姿が見えた。しかしどうも様子がおかしい。
「……まずいな!」
「え」
「変身」
「Kamen Ride ka-ka-ka-Kabuto!」
「クロックアップ!!」
「Clock-up!」
変身からそのままクロックアップに突入して光より速いスピードでヒエンを乗せたまま遊矢たちの元へ向かう。と、
「面白いね、君」
声。同時に何者かに横から蹴りを入れられた。
「ぐっ!!」
転倒し、クロックオーバーするディケイドカブト。同時に驚愕と激痛に襲われたヒエンがおかしな悲鳴を放つ。
「……ちっ、」
ディケイドカブトが起き上がり、相手を見る。それはアナザーエグゼイドだった。
「おいおい、アナザーエグゼイドならもう倒されたはずだぞ」
「知らないよそんな話。僕の役目はただ一つ。あそこにいる彼女達を君達の前で殺すだけ」
アナザーエグゼイドは笑いながら怯えるドレッシングパフェに近寄る。
「てめぇ!!その声忘れねえぞ!!」
「うるさいよ、融合くん」
殴り掛かったユーゴを蹴り一発で吹っ飛ばした。吹き飛ばされたユーゴは空中で尋常でない量の血を吐き散らし、コンクリートに叩きつけられるとそのまま動かなくなった。
「君達、残機0で僕に勝てると思ってる?」
「融合次元のユーリか!!」
ヒエンが叫ぶ。と、アナザーエグゼイドはゆっくりとこちらを振り向いた。
「へえ、君。僕の事を知っているんだ。だとしたら君が彼の言っていたジアフェイ・ヒエンかな?くすっ、変な名前。威勢がいいようだけど君、これから地獄を生むことになるんだけど分かってる?」
「その前に俺がお前を倒す」
ディケイドカブトはカードを手に取る。
「kamen Ride E-E-E-ExAid!!」
「コンティニューなんてさせるかよ」
ディケイドエグゼイドとなってアナザーエグゼイドに向かっていく。
「ふふっ、同じ力で僕に勝てると思ってるの?」
「素人がアナザーライダーごときの力で本物に勝てると思うなよ」
「君だって偽物じゃないか。それに僕は決して偽物じゃない。アナザーエグゼイド、つまりまた別の道を選んだ本物の仮面ライダーエグゼイドなんだよ。その時点で君は僕に一周遅れなんだ!」
ディケイドエグゼイドのパンチをアナザーエグゼイドは受け止め、そのままアームロック。が、ディケイドエグゼイドはアームロックされたままの腕でアナザーエグゼイドを持ち上げてスープレックス。先に起き上ってアナザーエグゼイドに向かおうとするが、そこでディケイドエグゼイドの動きが止まる。
「ぐっ、何をした……!?」
「ふふっ、だから君は一周遅れなんだよ。僕はアナザーエグゼイド。最強のゲーマーであり医者でもある。医者である以上は毒も薬も使う。ふふっ、楽しいよ。僕が作り僕が施術し僕が毒とも薬とも取れないものを注いで患者がどうなるのか。50%の確率で患者の命は救われるけど別の後遺症で生涯苦しむことになる。そして一生僕の患者として僕の毒を受け続けるのさ。ご苦労なことに何度も何度も使えきれないほどのお金を払ってくれてまでね!!」
「毒……だと……」
ディケイドエグゼイドは膝を折り、苦しみに震える。
「さあ、仮面ライダーディケイド。君にはどんな症状が出ているのかな?少なくとももう君は戦えない」
アナザーエグゼイドがゆっくりと歩み寄り、しかし足が届く範囲になると機敏に動いては恐ろしくキレのあるバックスピンキックでディケイドエグゼイドを吹っ飛ばす。
「あはっ、クリティカル」
「ぐっ……!」
壁に叩きつけられるディケイドエグゼイド。完全にぐったりしていて指も動かせない状態のようだ。
「なぁんだ、もう終わりか。ライダー相手だからってちょっと張り切った毒を作っちゃったかな?」
アナザーエグゼイドがディケイドエグゼイドの首を掴む。そしてそのまま縊り殺そうとした瞬間。掴んでいたディケイドエグゼイドの姿が水になって消えた。
「……は?」
直後黒い両足が側面からアナザーエグゼイドの顔面にぶち込まれて、その体を何メートルも吹っ飛ばす。
「……おいおい、」
ヒエンが絶句。立ち上がったアナザーエグゼイドが左頬を抑えながら立ち上がる。正面にはエグゼイドではないディケイドが立っていた。
「何だお前……」
「俺は太陽の子!仮面ライダーディケイドRX!!」
ディケイドRXはアナザーエグゼイドから受けた毒を体内で分析。それに対して体内で新しいライダーカードを精製した。全く新しいライダーカードを精製するのは難しかったが一度会った事があるライダーならば少しは楽になる。それで得たRXバイオライダーの力でアナザーエグゼイドの握力から脱出、解毒しながら顔面にRXキックを叩き込んだのだ!
「この野郎!!」
アナザーエグゼイドが無数のチョコブロックを生み出し、すべてに毒を埋め込んだ状態でファンネルのように射出。全てでディケイドRXを狙った。
「俺に小細工は通用しない」
すぐさまディケイドRXはロボライダーへと変身し、向かって来たチョコブロックを全てボルテックシューターで破壊、そのまま接近して身構えたアナザーエグゼイドのガードごと重いパンチをぶち込んでアナザーエグゼイドを再びぶっ飛ばす。
「ベムラーがいることを忘れるなよ!!」
アナザーエグゼイドが叫ぶと、ベムラーは甲高い絶叫を上げながら青い熱線をロボライダーに向けて吐き散らす。だが、ロボライダーはびくともしない。
「何!?」
「知らなかったのか?ロボライダーにはどんなに熱くても炎は通用しないんだ。さあ、お楽しみはこれからだってな」
ロボライダーが3枚のカードを出す。
「Attack ride fa-fa-fa-faiz! start up」
ファイズアクセルフォームの効果が発動し、10秒間だけスピードが1000倍になる。
「Atacck ride o-o-o-OOO! gatakiriba!」
そしてガタキリバコンボの効果で速さが1000倍になったロボライダーが100人に分身する。
「ボルテックシューター!!」
100人のロボライダーが同時に引き金を引き、秒速100発のボルテックシューターがもはや光線のように束となってベムラーに撃ち込まれる。それが7秒間続きベムラーは大爆発。
「お前には3秒で十分だ」
「Kamen Ride E-E-E-ExAid maximum gamer LV99!!」
ロボライダーは分身したまま全員がディケイドエグゼイドのマキシマムゲーマーレベル99へと変身。1000倍のスピードでアナザーエグゼイドに接近してベルトを通して体内構造をぐちゃぐちゃに書き換える。
「あ、あ、な、何をするんだ……あああああああ!!!」
「ちょっとどころじゃない。最大限くすぐったいぞ?」
2秒間100体で体内構造をめちゃくちゃに書き換えるくすぐりをして、ラスト1秒で
「マキシマムクリティカルブレイク!!」
1体に戻りながらゼロ距離の飛び蹴りを叩き込み、アナザーエグゼイドを吹き飛ばす。
「があああああああああああああああ!!!」
空中でアナザーエグゼイドは大爆発。爆発の中から生身のユーリが飛び出ては壁に頭から突き刺さる。
「ゲームは一日1時間。だが、お前相手じゃ10秒で十分だったな」
セリフを終えると同時にアクセルフォームの加速が終わり、通常のディケイドエグゼイドの姿に戻った。
「……お前、色々やりすぎだぞ」
ドレッシングパフェの3人を背後に庇いながらドン引きした表情のヒエンが吐き捨てる。もっと背後にいたさくらは完全に涙目だった。
「あいつは少し、いや些か戦い慣れしていたからな。アナザーとは言えエグゼイドは基本スペックも高い。まああそこまでコテンパンにしたんだからもうしばらくは戦えまい」
ディケイドエグゼイドが壁に突き刺さってるユーリを無視してヒエンに歩み寄る。
「その3人を保護する。そしてアカデミアに向かう。タイムジャッカーと関係のある可能性が高い組織なのは確定したようだしな」
ディケイドエグゼイドが変身を解除した次の瞬間。
「そう。だから常に油断をしてはならないと言うのだ」
「!」
生身の士に戻った瞬間、その胸を背後から刃が貫いた。
「士!!」
「……ぐっ!!」
血を吐く士。その背後には真紅のドレスを身に纏い身の丈ほどもある真紅の刃を士に突き刺す少女。
「近くにアナザーライダーの気配がなくて油断していたな、世界の破壊者。いつも猿真似しかしないそなたを余は気に入らなくて仕方なかったのだ」
「……赤セイバー……!!」
ヒエンが見る。士を刺したのは赤セイバーことネロ・クラウディウスだった。いや、基本的にフィクションなキャラ、しかもその時代には何の関係もないキャラがいるのはおかしい。恐らくはあの時のほむら同様にこの赤セイバーはアナザー赤セイバーなのだろう。しかし今優先すべきは士の状況だ。
「いいザマだな。門矢士。アナザーエンハンスの誕生を防ぐ貴様こそがアナザーエンハンス誕生の原因になるとは」
「……まだ決まったわけじゃない……!!」
士は血を吐きながらもヒエンに向かって手を伸ばす。それにより、ヒエンの前に時空のカーテンが出現した。
「士!?」
「いけヒエン!俺はここでリタイアする。だが、お前はお前の手で自分を取り戻し、そして自分に勝て!そのための力がこの先にはある!行け!!黒主零!!」
「……すまない!!」
ヒエンはさくら達の手を引きながら時空のカーテンを抜けた。しかし、気付けばその手には誰の手も引いていなかった。しかし、そのことにさえ気づかずにヒエンは時空の狭間を敗走した。士の言葉を信じてこの先の時代にある力を手にするために。

AD2003~ひとりしかいない十字路(クロスロード)

・京都の山々は戦々恐々に震えていた。夜の帳に鳥が哭けば未だ紅葉にはやや早い木々が崩れ落ちる。
「せやかて工藤!いつまで走ればいいんや!?」
「ばーろー!!お前死にたいのか!?」
炎すら巻き上がることなく消えていく京都の山を二人の高校生が駆け下りていた。片方が西を代表とする高校生名探偵と名高い服部平次だとすればもう片方は自然、東を代表とする高校生名探偵の工藤新一だと推定できるだろう。
二人は今高校の制服ではなく、和服に身を寄せていた。とは言えもちろんここへ来たのは修学旅行でもなければ私用でもない。況してや心平静となるようなバカンスでもない。現在進行形で命を狙われている状況だ。しかし二人は高校生ながらも命の危機がある状況には慣れてしまっている奇異な人物だ。その二人がここまで命からがらに全力で逃げているのはつまりそこらの殺人事件ではないと言う事だ。
「こんなの誰が想定できるって言うんだよ!」
新一は一度だけ後ろを振り返る。
「ふふふ……」
死屍累々。朽ちた木々の先には異形の存在が嘲笑していた。右手をゆらりとこちらに向ける古の服を着た長身の男。
「いいざまやな、名探偵」
後ろには紫色の本を持った和服の男がいた。
「流石の名探偵も魔物には勝てへんやろ。それ、マグネシルガ!!」
男は叫ぶ。すると、前にいた男の右手が暗く輝き、扇状の閃光が前方を襲う。
「くっ!!」
新一と平次は慌てて、転ぶようにしゃがむ。直後に二人の前方の木々が消し飛び、暗く燃え上がった。
「ったくこんなのありなんか!?」
「あり得ちまう以上は何とかするっきゃないだろ!町に出ればあいつらも諦めるはずだ。その後警察へ行って状況を説明する。俺達が話せば目暮警部も信じてくれるだろう!」
「あのシマリスのおっちゃんはどうだか分らんけどな!」
愚痴を言いながら再び走り出す。この燃え盛る夜の山中ではもはやこのような事態に陥った経緯を思い出すのも億劫だしそんな余裕もない。現在進行形で人知を超えた脅威が二人を襲っているのだから。
「蘭と和葉は上手く逃げられてたらいいんだが……」
「今は俺達の心配せえ!!」
「……そろそろうざくなってきたな」
「そうやな、マエストロ。この山火事や。サツがいつ来てもおかしない。一気に終わらせる」
男が心の力を本に注ぐ。手前の二人をまとめて消し飛ばすための力を。
「ほな、やるで!!ギガノ・マグネルド!!」
そして放たれた紫色の光の塊はすべてを砕く美しさを秘めたまま夜の闇を貫く。その殺意のまま新一と平次に突き刺さろうとしたその時だ。
「ラシルド!!」
突然地面から黄色い壁が出現すると、その一撃を受け止める。
「ちっ、」
男は舌打ち、マエストロは口角を上げる。新一と平次が驚く中、巻き上がった爆発の中から中学生らしき一人の少年と5,6歳くらいに見えるマントで金髪の少年が姿を見せた。
「行くぞガッシュ!!」
「うぬ!!指示をくれ清磨!!」
清磨と呼ばれた少年が赤い魔本を握りしめ、輝きを起こす。
「ザケル!!」
叫ぶ。と、ガッシュと呼ばれた少年の口から電撃が放たれた。
「大河!!」
「マグネシルガ!!」
応対し、マエストロが再び攻撃を繰り出す。両者の間で力と力が激突し、爆発が生まれる。
「走るぞ!!」
同時に清磨は新一と平次に向き、指示を出した。二人とも現状の理解よりも行動を優先して言葉通りに走り出す。
「逃がさんで!!ガンズ・マグネルド!!」
怒号にも近い声の後発射されたのは光の連射。
「ラシルド!!」
清磨が再び叫べば、地面から楯が出現して攻撃を防ぐ。やがて二つの技は消えるが、その頃には既に新一たちの姿は炎の大分先にあった。
「大河、逃がすのはまずい!」
「分かっとる!!」
大河と呼ばれた男とマエストロもまた加速。
「な、何なんだ一体!?」
「工藤新一さんだよな!?」
「あ、ああ。お前は!?」
「高嶺清磨。こっちはガッシュ。さっきからの戦いとか電撃に関してはノータッチで頼む!」
「……この状況じゃ脅されてるようにしか見えねえよ……!けど頼まれたから頼むぜ高嶺!!」
炎の中を走る。時折背後から攻撃が迫ればガッシュがそれを相殺させる。
「このまま町へ出られたら……!」
「町!?」
新一の言葉に清磨が疑問する。そしてその答えは目の先に見えてきた。
「……何だと!?」
4人がたどり着いたのは京都の町ではなく、海だった。しかも海の色は日本のそれとはまるで違う。つまりここは海外である可能性が高い。
「工藤新一、あんたどうしてフランスに来てるんだ?」
「フランスだって!?俺達は京都にいたはずだぞ!?」
「京都!?」
驚き合う4人。そこへ、大河とマエストロも到着した。
「……馬鹿な、ここがフランスやと!?」
「……近くに異空間を操る魔物がいたのかもしれない。……ゴームか、いやまさかな。あいつがあの男の傍を離れるわけもない」
一瞬の思考の後マエストロは右手をガッシュたちに向ける。
「さあ大河。ここが日本でないのは不幸中の幸いだ。まさか京都で起きた事件をフランスの警察が知っているはずもない。むしろあの山火事で死んでしまったことにしてここで生きながらえるのはどうだ?」
「いやや!俺は義経になるんや!マエストロ!まずはあのがき二人を殺せ!」
大河の視線の先にいるのは新一と平次。それを覆うように清磨とガッシュが立ち構える。

「ガッシュ、事情はよく分からないが後ろの二人は守らないといけない。やるぞ、ガッシュ!!」
「うぬ!!」
身構えた清磨。その赤い魔本が輝く。
「……これは、新しい呪文!?さっき第四の術を覚えたばかりなのに!?……まあいい、やるぞガッシュ!!第5の術!!ザケルガ!!」
呪文を唱える。と、ガッシュの口からビーム状になった電撃が放たれる。
「ふん、今更下級強化か!?押し返したる!!ギガノ・マグネルド!!」
呪文の行使から一瞬の後にマエストロの掌からエネルギーの塊が発射される。何度目かの術同士の激突。結果は再び相殺に終わる。
「馬鹿な!?どうしてギガノ級が相殺される!?」
「大河……無計画に呪文を使いすぎたようだ。もうお前の心の力はほとんど残っていない」
「んな、んなあほな!!」
「ガッシュ!攻めるぞ!!ザケルガ!!」
再び放たれた稲妻の一撃。しかしマエストロは半歩下がると大河から魔本をひったくる。
「え……」
「ここでお別れのようだ」
直後、マエストロは大河の襟首をつかみその体を片手で持ち上げると迫る稲妻に向けて投げ飛ばす。
「!」
「マエストロぉぉぉぉぉ!!!」
稲妻を背中から浴びた大河は絶叫を放ちながら宙を舞い、血だらけのまま砂浜に落下した。
「あ、あいつまさか自分のパートナーを盾に使った!?」
「くそっ!!死なせてたまるか!!」
「あ、おい工藤!!」
平次の手を払い、新一は大河に駆け寄る。
「まだ息はある!!急いで救急車を……いやダメだ!ここはフランスだ!しかも、こんな人里離れた海!どうすればいい!?」
「清磨……」
「……俺にもここでどうしたらいいか分からない。けど、フォルゴレなら何とかしてくれるかもしれない。あいつはフランス人だし携帯の番号も知ってる。まだ国内にいてくれたらいいんだが……」
清磨は携帯を取り出してフォルゴレに電話を掛けた。しかし中々繋がらない。
「くっ、もしかしてもう空港に入っちまったか!?」
清磨が携帯と戦っていると、ガッシュがそのシャツの裾を引っ張った。
「……どうしたガッシュ!なにか……」
続いて清磨は言葉を失った。何故なら正面。空が割れてそこから電車が走ってきたからだ。


乾巧はファイズと戦っていた。しかしそれは精神的な勝負とかそういうものではない。現実的に物理的にファイズが牙をむいて来ているのだ。
「くっ!」
発端は先程。1体のオルフェノクを倒した後に突然ハンマーを持った男が現れるや否やファイズフォンが奪われた。取り返そうとしたら突然そのファイズフォンを使って男が異形のファイズに変身して、現在進行形で追い回されている。オートバジンのおかげで何とか持ちこたえられているがこのままでは時間の問題だ。あのファイズ……アナザーファイズは巧が変身するファイズよりかも強く見える。放出しているフォトンブラッドのせいかもしれないが近くにいるだけで寿命が縮むようだ。
「やれアナザーファイズ。自分の運命を殺して確立するのだ」
いつの間にか戦場を取り囲むように並んでいた仮面の男が叫び、アナザーファイズがついにオートバジンを殴り倒して巧に迫る。
「……やるしかないか」
覚悟を決めた巧の表情に異変が起き始めたその時だ。
「おわああああああああああああああああ!!!」
悲鳴、絶叫が空から降ってきた。否、落ちてきたのは音だけでなく男だ。ジアフェイ・ヒエンだ。ヒエンが空からアナザーファイズに向かって落ちてきた。
「ぐっ!!」
アナザーファイズが吹っ飛び、その身でバウンドした影響でヒエンはうまく受け身が取れて無傷で立ち上がる。
「し、死ぬかと思った……」
「……あんたは……?」
「ん、お、もしかして乾巧か!?ってことは2003年……なるほど。あいつが言っていた力を取り戻せってそういう事か」
ヒエンがひとりでに納得すると、
「あいつ、時空を超えて来たぞ!!」
「ってことは未来から報告があったジアフェイ・ヒエンか!!」
仮面の男たちが喧騒を立てる。
「……あれはオベリスクフォース……!やっぱりアカデミアがタイムジャッカーに協力してるのは間違いないのか。どっちにせよ既にファイズの力は奪われてるみたいだし、状況は圧倒的に不利だな。逃げるぞ、乾巧!!」
「あ、おい!!」
ヒエンは巧を連れて走り出す。一番オベリスクフォースの陣形が薄い方に向かって。
「捕らえろ!!」
隊長らしき仮面が叫ぶと、他の仮面たちがヒエンと巧に向かう。と、再起動したオートバジンが空中から機関銃を発射して仮面たちを撃退。着地するとバイクに変形してヒエンと巧を乗せてアクセル全開で走り出した。
「くっ!追え!!それと未来に報告!2003年にジアフェイ・ヒエンがやってきたと!!」


走ること1時間弱。その間にヒエンと巧は情報共有を行い、到着した街はずれの公園で一度休憩に入った。
「未来から来る。そんなことがあるなんてな」
「意外と落ち着いてるな」
「……ファイズの力を奪われたからな。今の俺には何の力もない。それならまだ無関係でいられる」
「色々違うだろ。お前にはまだ力があるだろうに。それにアナザーファイズはまだお前を狙ってくるだろう。元になった奴なんだからそいつを殺さない限りアナザーライダーは別の時空に移動することが出来ない。アナザーライダーを戦力にあらゆる時空や世界を侵略しようとしているタイムジャッカーがお前を放置するわけない」
「……色々知っているようだが、これからどこへ向かう?宛はあるのか?」
「宛はあるが場所が分からない。なあ、ダメもとで聞くけれども丹羽大助って知ってるか?」
「丹羽大助?いや、聞いたことがないな」
「そうか。そいつに会えれば何とかなったかもしれないが」
「……その丹羽大助って言うのはライダーなのか?」
「いや、ただの中学生だ。だけど、そいつの中にいる奴が最重要存在だ。そいつに会うためにこっちはこの世界にやってきたと言っていい」
「……何なんだ。もう何言っても驚かねえぞ」
「……いや、知らないならいいんだ。話してしまうのもどうかと思うしな」
ヒエンは一度考え、巧に向き直る。
「ちなみにお前はどうする?さっきは消すとか殺すとか言ったような気がするけれども実際奴らは無理に命を奪うつもりもないと思う」
「どういうことだ?」
「アナザーライダーが本物になりさえすればいいんだ。だからお前含めてこの世界が修正されればいい。平たく言うとオルフェノクもライダーシステムもこの世界から消えてしまえばいいんだ。この世界のものであるファイズが、しかしそれを覚えているのがアナザーファイズしかいない状況になればアナザーファイズは自身の存在を保てるし、別の世界にも行ける」
「……よく分かんねえよお前の話。俺が殺されるか、世界からファイズやオルフェノクが消えれば奴らの目的は叶うって言うのか?だったらどうしてお前を狙うんだ?」
「この時代、2003年に派遣されているタイムジャッカーの目的がアナザーファイズの確立。そのためにお前を殺すかこの歴史を修正するかであって奴らの背後にいる本隊の目的がこっちってわけだ。だからお前が殺されない可能性も十分ある。むしろ……」
ヒエンの脳裏に目前で剣を刺された士の姿が思い浮かばれる。
「……こっちの傍にいるとお前が殺される可能性が非常に高くなってしまう。だからここまで連れて来てくれればそれでいい。もうあとは自分の場所に戻ってもいいんだ。ただし、二度とファイズの力は戻ってこないかもしれないがな」
「……ファイズの力か。けど、俺が手にしていいものなのかあれは」
「どういうことだ?」
「……もしかしたらあんたは知ってるかもしれないが俺は人の味方していい存在じゃないんだ。だから仮面ライダーファイズに俺は相応しくない。今までは成り行きで戦っていたがオルフェノクと戦う正義の味方ってバトンを手放してもいいんじゃないかって俺は時々思うんだ。少し気に食わないけど、俺より強い奴が仮面ライダーやってるわけだしあいつならきっとスマートブレインを倒してくれる。俺には何もないがあいつには復讐心と、……多少歪んでいるかもしれないが正義の心もある。あいつに任せておくのは本当に気に食わないがもしかしたらそっちの方がいいかもしれない」
「……なあ、力に渡される意味なんてあると思うか?」
「あるだろそりゃ」
「渡された意味はあるかもしれないけど、元から渡されるだけの人間なんていると思うか?いやまあ王族とかそういう特殊な連中は除いてな。お前は偶然かもしれないがしかしファイズの力を手にした。それで今までオルフェノクと戦ってきた。人間を、その夢を守るために人類の敵と戦ってきた。それだけの男が仮面ライダーファイズを名乗れないなんてあるものかよ。……まあ、ファイズの力を諦めろって言った奴のセリフじゃないな」
「……お前……」
「……少なくとも奴らは後一度はお前と接触するだろう。その命か歴史かのどちらかを修正するために。そして利用するだろう。こちらの力を狙って。だから、もしもお前がその命も仮面ライダーファイズとしての自分も諦めたくないって言うのならちょっと利用されてみないか?」
「……分かった」
巧の言葉にヒエンが小さく笑う。すると、
「……新しい相棒は見つかったようですね」
「!?」
声。その主を探すヒエンと巧。その警戒を和らげるために白い翼の男が空から飛来した。その姿を見た巧は警戒を強め、ヒエンもまた驚きをあらわにした。
「お前、クラッド!?」
クラッドと呼ばれた男は着地し、その白い翼を折りたたむ。
「……正直俄かには信じられませんよ。ただの黒翼の片割れである私にまさか別の世界ではあのような役割が与えられていたとは」
「……おい、こいつは一体……」
「ごきげんよう。私の名前はクラッド。氷狩の一族に宿りし者であり、そして初代ナイトバーニング」
クラッドは丁寧にお辞儀をする。
「……クラッド、お前が出てきたと言う事は……」
「ええ。状況は察せていますとも。あなたをダークの元へと案内すればいい。そういう事でしょう」
「そうだ。そうすれば少なくとも自衛は可能になる」
「ですが、残念なお知らせがあります」
「は?」
「……丹羽大助はタイムジャッカーの手にあります。時の秒針をエサにつられてね」
「……なんてこった」
「お、おい、説明しろよ。何がどうなってるんだよ!」
「いいでしょう。彼が頼りにしていた力の持ち主。丹羽大助。しかし丹羽大助は既に敵の手に落ちていると言う訳です」
「……どうやって先手を取られた?あの反応からして奴らは本隊の作戦自体は聞いていたみたいだがこの時代に来た目的は飽くまでもアナザーファイズの確立にあったはずだ。仮面ライダーに関係がない丹羽大助を狙う理由がない。アカデミア本隊の連中だって2014年にいるはずだ。そして、アナザーエンハンスなんてものを作り出したいのならアナザースパークスを生み出す必要はないはずだぞ!」
「……確かに。私も少しだけ言葉を間違えていました。なので正しく言いましょう。確かに丹羽大助はタイムジャッカーの手に落ちた。しかし、時の秒針を使って丹羽大助を拉致したのはタイムジャッカーではありません。あなたの本来の世界に存在するパープルブライドなる存在です」
「パープルブライドだと!?」
ヒエンの驚き。もはや巧はいじけて木の棒で土に絵をかいていた。
「そもそもあなたが本来の世界を外れてこの世界、正確に言えば2018年の世界ですか?そこに落とされたのもあのパープルブライドの仕業だったのですよ。私が動かなかったのはまあ、2003年9月25日までは私はこの世界での役割を果たす必要があったからと言うのと、時空犯罪は管轄外であることですからね」
「……おいおい、」
嘆息。これではこの世界に来た意味がない。それだけじゃない。タイムジャッカーを倒すことも難しいだろう。本隊そのものは本来の歴史でジオウが何とかするかもしれない。しかし、タイムジャッカーに乗せられているアカデミアは別だ。ユーリにアナザーエグゼイドの力を与えていたように他にもアナザーライダーがアカデミアにはいるかもしれない。それも、ジオウが倒すべき敵ではない存在として。何せ既に本来のエグゼイドから力と歴史を奪って誕生したアナザーエグゼイドはジオウに倒されている。だからユーリが変身したアナザーエグゼイドはコピーなのだろう。コピーと言えどもアナザーライダーを倒すには元になったライダーの力か、それを与えられたジオウか、アナザーほむらに対する木之本さくらのように関連した力を持つものでないといけない。ジオウは本来の歴史にいて、ディケイドはタイムジャッカーの手に落ちている以上木之本さくらのような存在を期待するしかないだろうがそれは極めて難しいだろう。例えばアナザーファイズ。あれを倒せる可能性があるのはやはりファイズアーマーを持ったジオウか、ファイズに変身できるディケイドか、ファイズ本人である乾巧くらいしかぱっとは思いつかない。
「……ん、そう言えばあのアナザーファイズって誰が変身してるんだ?」
「ん?ああ、何かハンマー持った奴だったな。青い髪でヘルメットみたいなのしてた」
「ハンマー持ってて青い髪でヘルメットみたいなのしてる男……?なんか一瞬頭に思い浮かんだような気がするな……」
しかし咄嗟には思い出せない。アナザーほむらとアザナー鎧武の関連を思い出そう。あの二人の共通点は作者が一緒だ。そういう条件だからアナザーライダーになれたとは限らないがしかし、見捨てていい要素でもない。だとすればアナザーファイズ。つまり乾巧と何か関係がある存在がアナザーファイズに変身している可能性もある。とは言え、アナザーエグゼイドとユーリやアナザー電王とユーゴみたいに関連が薄いものもある。考えろ、何かあるはずだ。乾巧に関する事……猫舌?狼?夢がない事?18歳?どれだよ。特に18歳なんていくらでも候補が上がる。しかしハンマー持ってる18歳ってのも特に思いつくことがない。一瞬壊し屋我聞が思い浮かんだが高3だったかは怪しい。
「で、どうするんだよ。その丹羽大助ってのがカギだったんだろ?だけど敵の手に落ちてる」
「……クラッド、時空を超えられないか?常盤ソウゴを連れて来たい。ジオウくらいしか打破できる奴がいないと思うからな」
「……残念ながら今の私にはそんな力はない。9月25日までは私は黒翼の片割れに過ぎない」
「……今何にちよ」
「9月4日。3週間ここで待てば君の要望はかなえられる」
「……んなに待てるか!」
しかし選択肢としては残しておいた方がいいかもしれない。クラッドも片割れであるダークに異常が起きたからこそこうして自分達の前に姿を見せたのだから。
「……お前、2代目選べないものな。非常時じゃないと」
「選べますけど?」
「……そうだよな。選べないよな。何か作戦を考えないと……ってちょっと待て。お前今何て言った?」
「2代目ナイトバーニング。ここで任命する事なら出来ると言ったのですよ。あなたを、3代目ナイトスパークスではなく2代目ナイトバーニングにしてあげられると言っているのです」
クラッドの発言。それは断じて想定できたものでも容赦できるものでもなかった。
「……お前は知らないかもしれないけど2代目ナイトバーニングは……」
「知っていますよ。2003年の12月にあなたの義弟が本来任命される。そしてあなたは本来2003年の8月に3代目ナイトスパークスに任命される。だが、あなたは黒主零となった時点で過去の影響を受けなくなった。例えば2003年にダーク・マウジーが復活しなかった歴史があったとしてもタイムパラドックスの類であなたがナイトスパークスから解任されることもあり得ない。現在のあなたがナイトスパークスでないのは単にその力をどこかに置いてきてしまっているだけ」
「……3代目ナイトスパークスと2代目ナイトバーニングを兼任すると言うのか?」
「それも恐らくは不可能。ですが一時的に力を貸し与えることは出来ます。あなたがナイトスパークスの力を取り戻したその時には返してもらえばいい。尤も借りパクしようにも恐らく溢れてしまって私のところに帰ってくると思いますが」
「……」
クラッドの発案は分かった。それでも俄かには受け入れがたいものだ。しかし、もしもタイムジャッカーの手にアナザースパークスなる存在が誕生した可能性があったとすれば、生半可な力では対抗できないだろう。先程無双しまくったディケイドでも怪しい。だとすればクラッドから一時的にナイトバーニングの力を借りるのは必要だろう。
「……分かった。頼むぞ、クラッド」
「……ええ、では、一時的に私の、灼熱の騎士(ナイトバーニング)の力を分け与えましょう」
クラッドの胸から小さな太陽のような光球が出現し、それが真っすぐヒエンの元へと向かっていき、その胸に吸い込まれていく。
「……これがナイトバーニングの力か」
目に赤いラインが走り、ヒエンが左手を前に突き出す。
「来い、紅蓮!!」
その名を叫ぶと、大地から火柱が上がり一本の槍が出現し、それをヒエンがつかみ取ると全身に炎が纏い、次の瞬間には灼熱の騎士(ナイトバーニング)へと姿を変える。
「……これが……」
しゃがんで地面に落書きしていた巧が後ずさりながら驚きの声を上げる。
「……嫌かも知れないが行くぞ、巧。アナザーファイズをどうにかしたいがまずは丹羽大助を救出する。場合によればアナザースパークスとも交戦するぞ!」
ヒエンは巧の手を取ると炎と共にその場から消えた。
「……私が手助けできるのはここまで。ここから先は黒翼の片割れ、氷狩の一族の走狗であるクラッドとして羽ばたきましょう」
つぶやきを残し、クラッドもまた白い羽吹雪の中に消えていった。
ID2003~アイツ&ダーク

・時の秒針。それは氷狩(ひかり)の一族が作り出した命ある呪いの美術品の1つ。文化改革以前に生み出された物語であるアイスアンドスノウと深い関連性を持つ。はた目から見たらそれは溶けない氷の結晶であり、よく見るとその内部では時の止まった時計を黄金の剣が貫いているのが見える。この時計の中にいるのが美術品・時の秒針の本体である雪女を彷彿とさせるような少女で、黄金の剣はアイスアンドスノウに登場する王子様であるエリオットの魂が眠っているとされている。曰く、時の止まった吹雪吹く雪国にとらわれたお姫様フリーデルトを救いに行くエリオットの冒険譚を描いた物語なのだがしかし真実は違う。アイスアンドスノウの原作はアイスアンドダークと呼ばれる戦争小説であり、また愛憎深きドロドロの三角関係を描いた悲劇の物語でもある。結果としてフリーデルトもエリオットもその命を落とし、せめてエリオットの命と魂を吸った剣とフリーデルトの命と魂を吸った時計を同じ場所に葬り、二度と他者から触れられないようにするためにと、このように氷の中で剣に貫かれた時計と言う美術品にされた曰く付きの一品。しかし、フリーデルトが宿っているとされていた時計の中にいるのは飽くまでも時の秒針と言う少女でしかない。時の秒針と言う少女もまた己の時間を失った少女に過ぎない。フリーデルトがエリオットを想って放った願いを叶えたためにフリーデルトの肉体と時間を時の秒針は得た。その時の秒針を事情を知らぬものによって剣で貫いているだけに過ぎない。
「……」
このまま永劫に時の止まった雪原の中で過ぎぬ時が経るのを待ち続けることに嫌気がさした時の秒針は丹羽大助と言う少年を呼び寄せた。彼はある意味自分と同じだと思ったからだ。彼は美術品「黒翼」の影響で14歳の誕生日にその心にダーク・マウジーと言う精霊を宿した。つまり時の秒針とフリーデルトの関係に近いのだ。彼ならば時間が止まったこの雪原と外の世界とを行き来出来る。元々ダーク・マウジーの目的は黒翼含むすべての呪いの美術品を回収して封印することだ。少しその順番を早くしてもらっただけに過ぎない。その際に自分が封印されてこの世から存在が消えるのはまだいい。ただ、いつまでもこのままではフリーデルトもエリオットも浮かばれないだろう。意味がない事だとは承知の上で身勝手を言うなればフリーデルトから与えられたこの身にエリオットが宿ったとされる剣を受けて葬られたい。
しかしその贅沢も今やかなえられそうにない。
「……」
時の秒針は見る。吹雪の止んだ銀の草原の中、寂しげにたたずむ花嫁の姿を。即ちパープルブライド。この報われぬ自分への鎮魂歌さえも許そうとしない事態を作った銀の花嫁。せっかく呼び出した丹羽大助を捕らえて彼の魂に共存しているダーク・マウジーを抽出してしまおうとしている。自分には詳しい事情は分からないが、何やら大事件が起きているのは間違いないようだ。
「……心配することはない、時の秒針。あなたの望みはすべてが終わった後でかなえてやる」
彼女は言う。ひどく冷たい声だが人間の、少女のそれだ。
「……あなたの目的は?」
「……とある人を救いたい。そのために私はこの時代にやってきた」
「……時代……」
「私もあなたと同じでこの2003年の人間ではないと言う事だ。尤も私の場合は未来から来たのだからあなたとは正逆……」
パープルブライドはそこで言葉を止めた。
「……どうやらここまで来てしまったようだ。少しだけ計画を早めないといけない」
そう言ってパープルブライドは雪原から姿を消した。
「……」
時の秒針は、無言のまま再び吹雪が生まれ始めた銀世界を眺めるだけだった。


美術品である時の秒針が収められている場所は美術館だ。もちろんただの美術館ではない。氷狩が管理する美術館であり、時の秒針はその貴重価値の高さ及びその呪いの濃度から普段は公開されていない。地下で似たような美術品と共に厳重に管理されている。
「……ここか」
そこへヒエンと巧は姿を現した。
「クラッドの野郎はついて来てないか、まあ仕方ない。この美術館への結界を解いてくれただけでも十分すぎるか」
「……で、どうするんだよ」
「クラッドは時の秒針を利用して丹羽大助が攫われたって言っていた。ならここで時の秒針を探す。もしかしたら丹羽大助だけならばまだ時の秒針の中にいるかもしれない。あいつを助け出して、場合によってはこの世界にやってきているタイムジャッカーの連中を可能な限り倒す。戦力を減らしておくに越したことはない連中だからな。そこにいればアナザーファイズも何とかしてお前にファイズの力を返す。そこから先はまだ分からない。場合によってはお前と共に2014年に行かせてもらうことになるかもしれない」
「……まずはそれよりも先に歓迎されるようだぜ」
「そうだな」
前方。美術品である時の秒針の前の時空が歪み、そこからアナザーファイズが姿を見せた。
「いきなりアナザーファイズか。幸先いいな」
「……ジアフェイ・ヒエン。まさかナイトバーニングになるとはな。大幅な歴史の修正が起きるはずだ。特に貴様自身以上に貴様の弟のな」
「減らず口は要らない。さあ、噛ませ犬になってみろ」
紅蓮の槍を構えたヒエンが走り出す。アナザーファイズは槍の一撃を受け止めるが、威力までは殺せずに押し戻され、背後の壁まで叩きつけられる。しかし、アナザーファイズは咄嗟に左手を伸ばして壁に飾られていた美術品を掴む。それは石板だった。
「ここは呪いの美術品が集まった博物館だ。獅子身中の虫はつぶされる運命だぞ」
アナザーファイズが力を発動すると、石板が輝き、次の瞬間にまるで顔はオオカミだが体がゴーレムのような姿の魔物が出現してヒエンを殴りつける。
「何だこいつ、まさか1000年前の魔物!?」
「そのようだ。ふむ、名前はウルフバーグ……因果なものだ。だが本はある」
アナザーファイズは魔本を手に取ると、
「ギガノ・ナグルセン!!」
呪文を唱えると、ウルフバーグと呼ばれたゴーレムの右腕が巨大化し、まるでミサイルのようにヒエンに向かって発射される。しかもヒエンの背後には巧の姿もある。
「ちっ!!」
受け止めるヒエン。すると、
「ふははははは!!」
超スピードでアナザーファイズが走ってきてはヒエンの顔面に膝蹴りをぶち込む。後ずさったヒエンをウルフバーグが掴み上げてそのまま天井に叩きつける。
「ええい!!うざってえ!!」
全身から炎を巻き上げたヒエンがウルフバーグを払いのけ、そのまま炎の握りこぶしを叩き込む。しかし、
「それは俺の株だ」
「!」
アナザーファイズがまた炎に燃える拳を生み出してはクロスカウンター気味にヒエンのボディに叩き込んでいた。
「ぐっ!燃える拳だって……それにハンマー……まさかこいつ、コロッケか!?」
「ほう、俺を知るのか。そう、俺はアナザーコロッケ。バンクなんてなかった世界で俺は父さんを失った。その怒りと悲しみを込めたこの一撃を受けてみろ」
アナザーファイズが再び燃える拳に力を注ぐ。まるで小さな太陽のようになったそれを構えてヒエンに向かって走る。繰り出す。
「ハンバァァァァァァァニングウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!」
「ぐうううっ!!!」
十字受けで止めたヒエンが、何メートルも吹っ飛び反対側の壁に叩きつけられる。
「ジアフェイ!!」
「乾巧、貴様をもう一度炎で殺してやる。生憎と龍の力までは持っていないがな」
アナザーファイズが巧に歩み寄る。その時だった。
「ザケルガ!!」
「!?」
突然の声と電撃。その電撃を受けたウルフバーグが吹っ飛んでアナザーファイズに倒れこむ。
「ちっ、何だ!?」
アナザーファイズは打ち破られた扉の向こうに清磨、ガッシュがいるのを見た。
「貴様、ガッシュ・ベル!?馬鹿な、この時期貴様はフランスにいるはずだ!!」
「理由はどうでもいいだろう。タイムジャッカー!話はすべて聞いているんだ」
清磨がヒエンを見る。
「あんたがジアフェイ・ヒエンだな?俺の名は高嶺清磨。ここは俺達に任せて先に行ってくれ」
「……2003年の人物がどうしてこっちの事を知っているんだ……?まあいい、遠慮なく行かせてもらう!」
ヒエンはアナザーファイズの脇を通って時の秒針へと走る。
「ちっ!」
「させない!」
立ち上がったアナザーファイズに対して清磨が指を向け、ガッシュが口を開く。
「ザケルガ!!」
「いいかげんにしろ!」
アナザーファイズはどこからかハンマーを取り出して電撃を防ぐ。
「ウルフバーグ!!ギガノ・アムルグ!!」
そして呪文を唱えるとウルフバーグが咆哮を上げ、その両腕が大きく膨れ上がりガッシュと清磨に向かっていく。その突撃を二人は回避し、
「ザケル!!」
舞い上がり、ウルフバーグの背後に回り込むと同時にガッシュの電撃。その背後に立つアナザーファイズ。……その背後に時空の歪みが出現する。
「!?」
「はああああああああっ!!」
少年だった。その手には剣が握られていて、アナザーファイズを切り裂く。
「何者だ!?2003年に貴様のようなものがいるはずがない!」
驚くアナザーファイズ。その背後でガッシュが素早く走り出して清磨の背後に回り込む。
「遅いぞ剣人。一緒にデンライナーから出なかったのか!?」
「仕方ないだろ。電車なんて俺知らないんだから!自動ドアとか知るかよ!」
「剣人……!?まさか貴様風行剣人か!?」
「おお、そうさ。俺の名前は風行剣人!ナイトメアカードの司界者!そして色々とお前を許せない男だ!!」


炎を纏ったヒエンは雪原の中にいた。
「……ここが時の秒針か。確かに大助達が全員パジャマでも問題ないくらいに意外と寒くないな」
一面の雪景色に足跡を刻みながらヒエンは雪原を歩く。
「……大助がとらえられているあの建物はどこにあるんだ?アニメと違ってよく分からないな。どこもかしこも銀世界」
しかしヒエンは足を止め、紅蓮を握りしめた。
「……姿を見せたらどうだ?パープルブライド」
声を放った先。吹雪の中から花嫁姿を彷彿とさせるような白銀の甲冑に全身を纏わせた人物がゆっくりと歩んできた。紫電の花嫁パープルブライド。
「……ここまで来てしまったか」
「ん、」
ヒエンはわずかに違和感を得る。しかし、この人物から違和感が得れるほどこの人物に対して知っていることなどそう多くない。
「おい、零のGEAR返せよ。あれ意外と便利なんだ」
「あなたはもう黒主零ではないはずでは?」
「あ~。確か零のGEARを持っている者が黒主零の名前を継ぐんだったっけか?けどこちとらまだ後継者を選んじゃいないぞ。第一奪われたままってのは癪だ。だからまずはそれを奪い返させてもらおうか」
紅蓮を握ったままヒエンは走り出した。本来この雪原ではかなり脚力は制限される。しかし人智をはるかに凌駕した十三騎士団の一人であるヒエンにはほとんど無関係。パープルブライドが構えた時には既に距離を完全に詰めていて、その穂先を胸に向かって突き出す。しかし、それは何者かに弾かれた。
「!」
パープルブライドの傍ら。そこには赤い髪の少年……丹羽大助が立っていた。状況からするにこの少年が今の攻撃を弾いたのだろうがしかし、そんな力があるとは思えない。その矛盾にヒエンがわずかな躊躇を覚えていると状態は動いた。
「……」
「それは!?」
大助がポケットから取り出したのは1つのアナザーウォッチ。そこにはナイトスパークスが映っていた。
「まさか!」
「……変身」
大助は自らそれを胸に添える。すると、大助の姿が変貌し、アナザースパークスの姿になった。
「アナザースパークス……まさか丹羽大助に使うとは……!!」
驚くヒエンにアナザースパークスが迫る。その手に持つのは万雷に酷く似た剣・差し詰め偽万雷とでも言おうか。
「くっ!」
アナザースパークスの振るう偽万雷の一撃をヒエンは回避した。紅蓮で受け止めるのもよかったが偽物同士とは言え受け止め切れるとは思わなかった。それほどまでにヒエンは今まで万雷で多くの敵を葬ってきた過去を信じていた。それが今ヒエン自身に迫ってきている。立った一撃だけでも喰らえばまずいかもしれない。その恐怖がヒエンを後ずらせている。そしてそれをパープルブライドは許さなかった。
「ナイトバーニングの力を借りているのか。どこまでも人間を捨てたい男め」
「くっ!!」
背後に回り込んだパープルブライドが背後からヒエンの両腕を、手首をつかんで下から締め上げる。
「ぱ、パロ・スペシャルだって!?」
肩関節から両腕を極められるその技はかなりのパワー差がない限り覆すことは不可能。これだけでも厳しい状況だが前方からアナザースパークスが偽万雷を向けて迫ってくる。
「だったら!」
ヒエンはパープルブライドの股下から後ろに滑り、パープルブライドの背後に回り込む。
「!」
「真のパロ・スペシャルは自分の両足で相手の両足を極めてこういう回避も封じる技なんだ!だがそうするには自分の股間を相手の尻に押し付ける必要がある。……羞恥心には勝てなかったようだな!」
外れた両腕。逆にヒエンはパープルブライドの背後からしゃがんだまま相手の両手足を一気につかみ、そのままスープレックスで背後の地面に叩きつける。
「ぐっ!」
背中から全体重を雪原に叩きつけられて怯むパープルブライド。ヒエンは追撃せず迫りくるアナザースパークスの斬撃を紅蓮で受け止め、
「バーニング・スピンクス!!」
右手で偽万雷を掴み、左手で握った紅蓮の穂先をアナザースパークスの胸に叩き込む。
「ぐうう!」
「サウザウントォォォォッ!!!」
後ずさるアナザースパークスの肩を掴み、動きを封じてから至近距離で発勁を込めた穂先の連打を何度もその胸に叩き込む。
「くっ、」
背後でパープルブライドが立ち上がった気配を感じ取ると連撃をやめ、
「おらああああああああぁぁぁぁっ!!」
紅蓮を一度虚空に戻すとアナザースパークスの両肩に手を置き、巴投げ。背後にいたパープルブライドに叩きつける。
「力はそこそこあるみたいだが戦い慣れしていないようだな。特にパープルブライド。何故か妙にこちらの戦い方に慣れているようだが、アンチに徹されればそれこそやりやすいってものだ」
振り返ったヒエン。直後に立ち上がったばかりのアナザースパークスに紅蓮を横薙ぎに叩き込む。よろめくアナザースパークスに対してヒエンは紅蓮を握った右手を脇手に深く構え、肘を曲げた左手をアナザースパークスに向ける。
「さあ、見せてやる。ここでしか味わえないオリジナルの技!」
そして前に倒れこむ勢いで駆けだす。疾走に加速が加わり、加速が縮地へと変わる。縮地を伴った右手の穂先の一撃が亜音速でアナザースパークスの胸に叩き込まれるその寸前に、
「……くっ!!」
パープルブライドはその攻撃を己の身で受け止めた。
「!?」
驚愕と鮮血が同時にヒエンを襲う。今の攻撃に対応できたことも不思議だがパープルブライドが庇ったことがもっと驚きだ。庇わずともアナザースパークスはスパークスの力でないと倒せない。今の一撃を受けたとしても精々戦闘不能になり、変身が解除されてしまう可能性がある程度で、パープルブライドがその身を挺して庇う必要などどこにもない。アナザースパークスの変身が解除されてアナザーウォッチがヒエンの手に渡ったところでスパークスの力がヒエンに帰ってくるわけではないのだ。何故ならアナザースパークスはヒエンではなくダークをもとにして作られたはずなのだから。そのダークも丹羽大助の中に入るはずであって初代ナイトスパークスとしての力を使えるわけではない。あの時のクラッドのように精々一時的にナイトスパークスの力を貸してもらうくらいの事しか出来ないはずだ。
「かはっ!!……くっ!!」
吐血しながらパープルブライドは後ずさる。銀世界に赤をこぼしながら少しずつその姿を透明へと変えていく。
「パープルブライド!!」
「……その名前は私のものではない……」
「だったら教えろよ。お前は何者なんだ。どうしてこっちをこの世界に連れて来てこんなことをする?」
「……私は……」
しかし言葉は続かずにパープルブライドは消えた。それを見てアナザースパークスは後ずさる。ヒエンは若干の逡巡を経てアナザースパークスへと視線を向ける。
「とぁぁぁぁぁっ!!!」
紅蓮を力任せにたたきつけ、アナザースパークスは火花をまき散らしながら倒れる。そして銀世界に倒れると同時に大助の姿に戻った。
「……ううう、」
「大助!!」
声が被った。ヒエンの声でありながらその声はヒエンのものでなかった。
「……これは……!!」
突如としてヒエンを襲う黒のイメージ。それはかつて経験のある現象。自分が新たな自分になると言うその瞬間を脳裏が再び焼く。ナイトバーニングの装甲に亀裂が走り、背中から紫色の翼が生える。
「……時の秒針!フリーデルトに戻れ!!お前の願いをかなえてやる!!」
「……!」
僅かに表情を変える時の秒針。それを見ないままヒエンは大助を担ぎ上げて飛翔する。吹雪の中を貫いて飛翔する紫色の翼。大助の手に握られたスパークスのアナザーウォッチにも亀裂が走り、破損。中からスパークスの力がヒエンに注がれ、比例するように大助の意識が戻っていく。
「……うう、」
そして大助の目が開かれた時、
「…………ダーク…………?」
「気付いたようだな大助」
大助を担いでいたダークが小さく笑い、声をかける。
「……どうして僕の前にダークがいるの?と言うか、時の秒針さんは?」
「説明している暇はない。あいつなら大丈夫だ。まずはここから脱出するぞ!」
「え、あ、うん!」
黒翼を広げたダークが大助を担いだまま吹雪の空を貫く。


それはヒエンの心の中の闇。しかし闇にしては異常なまでに暖かく、心が安らぐ。そして、ヒエンはこの感覚をとても長い時間忘れていた。
「……これは、黒のイメージ……」
言葉が頭に浮かぶ。そして記憶が徐々に明確になっていく。そう。3代目ナイトスパークスに任命されてからはこの闇の中を通り抜けないとその力が使えなかった。何も分からない、小学生時代の自分を励ます言葉を格好つけたがりな減らず口と共に自分に告げるあの男もまたこの闇の中にいた。
「……ダーク……」
「よう、まさかまたこうして会えるだなんてな」
闇の中、うっすらとその姿が見える。ダーク・マウジー。黒翼の片割れであり、初代ナイトスパークスだった男。そして、最初にブフラエンハンスフィアを生み出す原因となってしまった男。
タイムジャッカーにしてみれば格好の獲物だったはずだがこの情報を知らない可能性も高い。何せ、ブフラエンハンスフィアを生み出したあの瞬間、その場にいたのは自分とダークしかいなかったのだから。だからタイムジャッカーは、パープルブライドはダークをただのアナザースパークス発生の依り代にしただけ。
「……ダーク、お前こっちの事を覚えているのか……!?2003年だろここ!と言うかいつの間に……!?」
「お前が時の秒針の中に来た時だよ。確かにスパークスとしての力はアナザーウォッチに吸い取られていたが俺は今の本体である大助がアナザースパークスの中にとらわれちまってたからお前の中に入ったってわけさ。だからお前はアナザースパークスを倒すことが出来たんだ。んで、お前の中にいる間にお前の中の力を使ってアカシックレコードを見させてもらった。そして2003年から2000年以上の、お前の歴史を見させてもらった」
「……つまり、」
「もちろんブフラエンハンスフィアの事も知っている。お前は三咲を守ろうとして、けど守れなくてあの結末を迎えた。それからは黒主零として生きる決意をして2000年以上も彷徨い続けてきた。……それのどこが悪い?」
「どこって、全部じゃないのかよ!?キーちゃんを守れない状況になってるってわかってて、それでも世界と天秤にかけてこっちを始末しに来たお前を殺しちまったんだぞ!?」
「裏にいた奴らが悪いんであって俺達はただの被害者に過ぎないってだけさ。それに俺だって大助と別れてそのまま消滅するはずだったのを10年以上もお前の中にいることで延命できたんだ。普通じゃ体験できない色んな人生をお前を通して体験できたんだ。楽しかったぜ」
「けど、けど……お前は、結局のところ……」
「それ以上言うなって。お前の中に俺はいる。お前が望む限りな。……さて、そろそろ別れの時間だな。どうやら俺の依り代になったお前と大助は同時にはいられないようだ。だから大助はこのまま俺が送り届けてやる。その前に俺がもう一度お前をナイトスパークスにしてやるよ」
「……けど、こっちは今でもナイトスパークスじゃないのか?」
「ああ、そうさ。だけどお前は自分で蓋をしちまったんだ。この世界に来た際、いやもしかしたら俺を失ったあの時のフラッシュバックをあのアドバンスって奴相手にした時にな。だから一時的にお前は自分で自分の中のスパークスの力を封じ込めていた。どこか別の場所に置き忘れていた振りをして、俺を使ってそれを覚えていないふりをしていたのさ。だから今俺がそれを打ち破ってやる。お前はもう自分一人の力で十分飛べるんだ」
ダークがヒエンの肩に手を乗せた。その感触には記憶の奥底を揺らぐ懐かしさがあった。あの最後の戦い以来の温もりがあった。
「……ダーク……」
「じゃあな、廉。……Set up!! Sparkz=Rei=Chain!!」
温もりが離れる。そして、白く染まる闇を打ち砕き、ナイトスパークスの姿になったヒエンがアナザーファイズ達の前にやってきた。
「ジアフェイ!!」
「巧、清磨、ガッシュ。……で、剣人!?」
「よう、また会ったな」
ヒエンに対して剣人が軽くハンドサインする。対応し、ヒエンが一度だけ後ろを振り向く。
「……」
既にダークや大助の姿はなく、美術品・時の秒針は砕けていた。その氷の残骸の中には黒い羽根が散らばっていた。
「……さあ、残党退治だ。相手はアナザーファイズ……いや、アナザーコロッケだ!」
ヒエンが構えると、アナザーファイズとウルフバーグが身構える。
「だが、問題なのはどうやってアナザーファイズを倒すかだな。結局のところファイズの力は今どこにもないし」
「だから俺が来たんだろうが」
剣人が笑って見せた。
「どういうことだ?」
「……なぁに、父親を殺された少年のアクターを持っているのはあいつや乾巧だけじゃないってことだよ」
剣人が剣を構える。
「やるぞ、ヒエン!!」
「応よ!剣人!!」
二人の剣士が武器を構えてそれぞれの敵に向かっていく。
「殺してやる!!父親を失っている癖に俺に向かってくる奴全部!!」
アナザーファイズが両手の拳を炎に燃え上がらせて迎撃。しかし、その両方の拳はヒエンに受け止められ、脇を通り抜けた剣人によって肩からバッサリと切り裂かれる。
「ぐうう!」
「おらあ!!」
怯んだアナザーファイズに剣人が飛び蹴りをかまし、後ずさったアナザーファイズにヒエンが切りかかる。
「轟け、万雷ぃぃぃぃぃ!!!」
稲妻を伴った斬撃はアナザーファイズの装甲を大きく破壊し、吹き飛ばす。
「が、があああ……や、やれ!ウルフバーグ!!」
吐血を伴いながら叫んだアナザーファイズに対してウルフバーグが咆哮を放ち、ヒエン達に向かっていく。
「魔物の相手なら俺達がやる!!」
「清磨!!」
「ああ!ザケル!!」
放たれる電撃がウルフバーグに炸裂する。しかし、それでもウルフバーグは怯まない。
「そうだ!殺せ!!殺してしまえ!!新たな呪文を唱えてやる!!ディガン・グルド・アムナグルク!!」
唱えた呪文を受けたウルフバーグが激しい咆哮を上げると、その姿がさらに膨張し、腕が4本となって筋骨隆々な怪物の姿となった。
「何!?」
「ぐがああああああああああああああああああああああああ!!!」
ウルフバーグのパンチがガッシュと清磨をまとめて粉砕しようとしたその時。2本の黒い何かがそれを受け止めた。
「何!?」
ヒエン達が見ると、それは砕けた氷の残骸や散らばった黒羽から伸びていた。
「……あの質感、もしかして……鼻毛!?」
「その通り!!」
そして床をぶち破って大男が姿を見せた。
「ボボボーボ・ボーボボ!?」
「2003年は俺のぉぉぉ……アニメレジェンドビギニング!!」
出現したボーボボがウルフバーグを鼻毛で投げ飛ばす。
「想定外すぎるぞ!?どうしてボーボボが出て来る!?2003年だからって現代日本が舞台じゃない世界の奴がそう簡単に出て来れるはずがない……!!」
「想定外?何それ俺ボーボボなんだけど」
言いながらボーボボは剣人の隣に着地する。
「何だか分からないが頼りになりそうな味方だな……」
「見る目があるじゃないか小僧。鼻毛真拳を教えてやろうか?」
「ともかくやるぞ、剣人、ボーボボ!」
さらにヒエンが並び、一斉にウルフバーグに向かっていく。対してウルフバーグは僅かな躊躇の後に3人に向かっていく。
「神速(クイック)・サブマリン!!」
カードを発動した剣人が時間より早く動き、ウルフバーグに斬撃を打ち込んでいく。
「鼻毛真拳奥義!!電車が止まります!!」
超光速戦闘領域中でありながらボーボボが暴走電車に乗ったままウルフバーグに突っ込む。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!」
「行くぜ!!」
そしてヒエンまでもが超光速戦闘領域の中に突入して吹き飛ばされたウルフバーグに斬撃と電撃を同時に叩き込む。
「が、があああ……」
超光速戦闘領域が解除されると同時、ウルフバーグは元の姿に戻って倒れた。
「ちっ!」
後ずさるアナザーファイズ。が、違和感を感じて足を止める。見れば背後に巧がいた。しかもアナザーファイズが持っていたファイズフォンをその手にしていた。
「貴様……!!」
「行くぜ、」
555
「Standing by?」
「変身!!」
「Conplete」
ファイズギアを装着した巧の姿が変わる。その姿は仮面ライダーファイズだった。
「……行くぜ!!」
手をスナップしてからアナザーファイズに突っ込んでいき、そのひび割れた胸に飛び蹴りを叩き込む。
「ぐっ!!」
「おりゃああ!!」
後ずさったアナザーファイズにもう一撃蹴りをぶち込む。着地と同時にファイズポインターを右足に装着。
「Exeed Chage」
フォトンブラッドの注入が開始されたタイミングでファイズが跳躍。空中で宙返りを打つと同時にポインターから赤いターゲットが放たれてアナザーファイズを捉える。
「ぐっ!!」
「おりゃあああああああああ!!!」
そしてクリムゾンスマッシュが放たれ、直撃を受けたアナザーファイズが後方に激しくぶっ飛ぶ。
「うう、あ、ああああ……!!」
アナザーファイズのアーマーが砕け、アナザーコロッケが姿を見せた。床に落ちたアナザーファイズのウォッチも砂となって消えていく。
「……お、俺が……俺は……」
アナザーコロッケが血を吐きながらファイズに向かっていく。が、その炎に燃える手が届く前にアナザーコロッケは倒れた。
「……ウスター、プリンプリン、リゾット……俺の旅って間違ってたのかな……」
「……旅に間違いなんてない。ただ、お前はもう休んでいい。これは夢に過ぎない」
「……そっか。夢か……」
アナザーコロッケは一度だけ小さく笑うと、動かなくなり、やがて消えた。跡にはアナザーコロッケのウォッチが落ちていた。
「……アナザーライダー以外でもアナザーならウォッチを落とすのか」
ヒエンがアナザーコロッケのウォッチを拾い上げる。


「それで、これからどうするんだ?」
夜明けの公園。ヒエン、巧、清磨、剣人、ボーボボがコーヒーを飲みながらベンチに座る。ガッシュは疲れているのかバッグの中で眠っている。その中、巧がつぶやいた。
「……ああ、スパークスとしての力も取り戻せた。それに付随してか、プラネットの力も取り戻せた。これなら地球のアカシックレコード経由で時空の移動が可能になった。だから、タイムジャッカーを追いかけて仲間を助け出す」
「じゃあ、2014年に行くのか?」
「……いや、その前にもう1つ寄っておきたい未来があるんだ」
「……俺はどうしたらいい?」
「お前は、もう仮面ライダーファイズだろう?自分のやりたいこと、見つけたんじゃないのか?」
「……かもな」
「……剣人とかボーボボはどうする?」
「俺は元の世界に帰るぜ。パラディンの奴がまた胡散臭いことしててな」
「……あの野郎、ちゃんと琥珀を見ているんだろうな……」
「何か言ったか?」
「いや、別に。で、ボーボボは……っていない!?」
いつの間にかボーボボの姿は消えていた。まるで最初から幻だったように。
「……ったく、せっかく剣人とツーショットだったってのに」
「ん、俺とあいつ何か関係あるのか?」
「……」
ヒエンは少しだけにやりと笑った。
ナイトメアカードとボボボーボ・ボーボボはどっちも2003年に、初めて書いた小説だからな。
「ダークとの再会と言い、士の奴は全部わかってて2003年に送ったのか?……まあ、いいや。それじゃそろそろ行くわ」
ヒエンは飲み干したコーヒーの缶をごみ箱に捨てると時空を歪ませる。
「清磨、この先想像すらできないくらい大変な戦いがいくつも待っている。それでもできればガッシュを、やさしい王様にしてやってくれ」
「ああ、元からそのつもりだよ」
「剣人。今度はちゃんと婚期掴めるといいな」
「は?」
「巧」
「ん?」
「この時代の仮面ライダーをよろしく頼んだぜ」
「……ああ」
そしてヒエンはほほ笑んでから時空の歪みの中に消えていった。

AD2011~紫電の閃光(スピードスター)

・ヒエンがやってきたそこは西暦2011年。高校3年生の時の頃だ。とは言え高校3年生の自分はここにはいない。無関係だが不名誉を被るわけにはいかないと不遜を考えたヒエンは当時の姿に若返って見せた。
「……懐かしいものだな」
自宅……甲州院の家。小学校からは近く、中学校へは遠く、逆に高校へは近いそんな場所にあるマンション。20年前からあるにしては珍しくカードキー式の集合住宅だ。そこの6階にヒエンは住んでいた。もうカードキーはないが、その程度幾らでも複製できる。複製したカードキーで中に入り、やってきた自室。
「……」
感慨深い。人間であった頃、まだ一度も世界のリセットが行われていない頃はずっとここで暮らしていた。生まれた時からプラネットだった。いや、プラネットとして生まれてきた自分を当時2代目ナイトスパークスだった父親が拾って、しかし仕事や任務で忙しかったからか友人の甲州院の家に預けられて、義弟と一緒に暮らしていた日々。ここはまさしく、黒主零でもジアフェイ・ヒエンでもない、甲斐廉の家だったのだろう。畳の上に大文字になって寝っ転がってみる。古びたブラウン管テレビにはニンテンドー64が挿さっている。この時代でももうとっくにレトロになっているがしかしまだまだこの家では現役だ。
「……よし、」
そこで2時間ほどウェーブレースやウルトラマンバトルコレクションを楽しむと、そろそろ昼下がりもいい時期だ。授業には参加できないがしかし、あの懐かしき部活には参加出来るだろう。
2003年では丸一日を過ごした。それは必要なもの、それも最重要レベルで入用だったものの回収だったからまだ許されるだろうが今回に関してはそこまで重要なものでもない。だから2011年で過ごすのは今晩までにしよう。
「……お、授業ぶっちぎって置いて今更部活にだけ来た奴がいるぞ?」
午後3時半。囲碁部の部室。そこに顔を出せば既に遊戯王デッキ片手に碁盤を挟んで対局してる二人組がいた。もちろんトゥオゥンダとジキルである。あの時アナザー鎧武に殺されたのは2018年の二人であってまだこの時点での二人は殺されていないのだから生きているのは当然だ。若干精神に揺らぎは起きたが気にせず二人の隣のパイプ椅子に座る。
「珍しいな、お前が授業さぼるなんて」
「何で別のクラスのお前が知ってるんだよ」
「あのボディビルダーが言ってたんだよ。見つけたらショッカーとの戦争に連れてくとか」
「……あのボディビルダーはいるのか」
と言う事はショッカーもいる可能性が高い。つまりこの2011年も本来の歴史とは若干違う歴史と言う事になる。面倒な話だ。タイムジャッカーとショッカーが内包されている世界とは。けど逆に言えばイシハライダーを戦力に連れて行けば……いや、アナザーイシハライダーとか意味不明なものを作られても困る。ここは大人しくしてもらおう。
「遅れましたー」
と、そこへ後輩が二人やってきた。辻綾乃と田中クウェイサーの二人だ。どちらも大人しい後輩で軽く先輩3人に会釈をしてから卓に就き、すぐに対局を始めた。
「甲斐先輩、石原先生が探していましたよ?」
「ああ、知ってる。ここにまで来たら迎撃するから気にしないでくれ」
囲碁部員は5人で奇数だ。誰か一人は必ず余る。現状トゥオゥンダとジキルが、辻後輩と田中後輩が対局をしているため自然とヒエンだけが余っている。余っている間何もしないのも暇だと思い、部室備え付けのXPを起動して一時になっていた情報を見る。それは2011年含むアニメや特撮などの情報だ。2003年ではガッシュや巧が平然と現実世界にいた。つまりそれらの番組は放送されていなかった可能性が高い。
そして調べてみた。当然ながら現在=2011年より未来の、まだないはずのアニメなどはページ自体存在しない。仮面ライダーのウィキもディケイドで止まっている。
「……おいおい、」
つまりディケイドまではあると言う事だ。ウィンドウを下の方に送り、平成ライダーシリーズの作品集を見ればそこにはファイズも存在していた。これがどういうことか。
つまり、この世界には少なくともファイズが実在していない。虚構の世界になってしまっていると言う事だ。アナザーファイズを倒していると言うのに。ついでにガッシュやコロッケも調べてみるがやはり存在する。これはどういうことか。少なくともアナザーファイズと戦ったあの2003年とこの2011年は地続きではない。そしてどうして平成ライダーが2009年のディケイドで止まっているのか。確か一緒にディケイドを見ていたであろうトゥオゥンダに質問してみた。
「おい、ディケイドって覚えてっか?」
「ライダーの?2年前にやってたな」
「あれって最後どうなったっけ?」
「ディケイドがディエンドに打たれたところで終わって続きは劇場でってなった」
「その劇場版は?」
「見てないから知らない」
会話中、平成ライダーのスレを確認してみる。しかしなかなか見つからない。2年前で交信が止まっているのだから仕方がない。うん?しかもよく見たらウルトラマンの方も列伝がやっていないようだ。ウィキの方を更新してウルトラシリーズを見てみると、メビウスで止まっていた。超8兄弟放映で止まっている。
「……ウルトラマンもライダーも平成1期で止まっている?」
プリキュアや特捜戦隊シリーズを調べてみると現在進行形でやっているようだ。キュアマリンとキュアサンシャインのスレの人気がやばい。うん、わかる。あの二人は可愛い。しかし今は優先したいことがある。現実の2011年とこの2011年の剥離が気になる。もしかしたらあまり関係がないことかもしれない。しかし、アナザーライダーの性質から、本来2011年時点では存在しているはずの作品が存在していない場合、タイムジャッカーが干渉している可能性も考えられるからだ。アナザーライダーを上書きして装備していたならともかくアナザーコロッケ単体とかアナザーほむら単体で来られたら中々厳しい状態だった。運よく、木之本さくらや剣人がいてくれたおかげでどうにかなったものだ。
「……そう言えば、」
あの時、2014年で士を襲ったアナザー赤セイバー。彼女の存在から、フェイトエクストラのページを探す。しかし、見つからない。型月のページで探しても例の格ゲーで製品情報が止まっている。本来ならフェイトエクストラは2010年に発売している。しかしアナザー赤セイバーの存在からフェイトエクストラは世に出なかったようだ。或いは作られてすらいないのかもしれない。ちなみにアナザーほむらの関係から魔まマとか鬼哭街とか調べてみたら前者はやはり存在していない。後者は普通に存在していた。飽くまでアナザーほむらが持っていた倭刀は本人の武装と言うか趣味に過ぎないのだろう。本人と言うか作者だが。しかし魔まマが放送されていない世界とかいろいろ大丈夫なのだろうか?原作のないオリジナルアニメ、それも世界系が息を吹き返した直接の原因と言ってもいい。まあ、個人的には魔法少女を悪く扱った作品はいい印象がない。そっちの方も魔まマが原因と言うか戦闘を突っ走ったと言ってもいいだろうし。
「ともあれ、」
アナザーが存在する作品はこの世界ではメディア化すらされていない。存在していたが既に倒されたものに関しては現実には存在していない設定だがしかし現実同様にアニメ化などはされている。このため2011年時点で存在するはずなのに存在していないのならそれはアナザーが存在する可能性が高いことになる。
即ち、ウルトラマンで言えば2008年の超8兄弟から2009年の銀河伝説までの何かがアナザーとなっている可能性が高い。個人的に可能性が高いのはゼロまたはベリアルだろう。その両方と言う可能性も高い。アナザーカイザーダークネスなるクッソ面倒な存在とも戦闘になる可能性があるのだ。本物の助けなんて借りれる手段はないし、ディケイドもさすがにウルトラマンにまでは変身できないだろう。となると戦闘になったとしたら倒せる何かが見当がつかない。一方、ライダーで言えばディケイドが終わっているがしかしWが放送されていない。つまりアナザーWが生み出されている可能性が高い。こちらはまあ、士を救出してから何とかしてもらえばいいだろう。
「ん、」
何か引っかかった。何か無視できないことがあったはずだ。何だ?何が違和感だ?
「おーい、ヒエン。いつまでネットサーフィンやってるんだ?」
「早く交代してデュエルしろよ」
「いや囲碁しろよ」
まあ、元々この部活での遊戯王:囲碁:その他の割合は4:2:4くらいの不真面目度だからその辺は今更だ。ちなみに二人はさっきちらっと見たがエクシーズを使っていた。つまりゼアルまでは普通に放送されているみたいだ。と言うか2014年でアークファイブ勢と会っているから哀しいことに遊戯王からアナザーライダーに選ばれた者はいないらしい。尤もアカデミアが全力で暗躍しているおかげで通常の歴史にもならないとは思うが。
「……そもそも原作がああなのもタイムジャッカーに戦力とか奪われまくったとかが原因だったりして」
意外と笑えないのが何とも言えない。ただ、2014年であいつら一度も遊戯王をやってないんだよなぁ……。
「おーい、ヒエンー」
「今行く」
仕方なく席を立ち、トゥオゥンダと交代してジキルの相手をすることに。しかしデッキなんて持ってきていない。況してやこの時代に適したデッキなどあるかどうかすら分からない。
「ほら、囲碁するぞ」
「え、囲碁やんの?遊戯王やらない?」
「デッキ持ってきてないからNGだ」
「は?お前何しに学校来てんの?」
「勉強しろよ。そして今は囲碁しろよ」
そう言えばこいつは授業中はいつも寝ているらしい。らしいなのは一度も同じクラスになったことがないからだ。トゥオゥンダやボディビルダーから聞いた話だ。
そう言えばボディビルダーも本来は創作の作品から生まれた存在のはずだがこの学校、2011年では普通に存在するらしい。例えばこの前、2003年の剣人に関しては自分に関する情報を知っていたことから一緒に50年後の世界でスライト・デスと戦ったあの剣人が誰かに連れて来られてまた一緒に戦った。だから創作のキャラクターではない。しかしイシハライダーはどうだ?創作の方のイシハライダーなのか?それとも元居た本来の2010年にもいたあのイシハライダーなのか?
「はぁ、気になるな」
「ん?俺の新戦術に参ってるのか?」
「あほか。おら」
「あ……」
ジキルのどや顔を考えなしの1秒で打ち砕き、脳内の整理を続ける。そう言えば、あの世界の本来の、大倉機関が存在する2010年のジキルはもう少し囲碁が強かったような気がする。真面目に囲碁部活動をしていた証拠かもしれない。それにあちらの世界に遊戯王はなかった。つまり遊戯王があったせいでこいつの囲碁は弱くなったと言う事か。と言う事はだ。まさかとは思うがあの2010年はタイムジャッカーによってほぼすべての文明がアナザー化されている可能性もあると言う事か。版権と言う名のタイムジャックによって。まあ、タイムジャッカーを滅ぼしたとしてもアナザーを倒さない限り消えた文明は元には戻らないからそのあたりは前の世界は厳しいだろうな。
「こ、これでどうだ?」
「はい」
考えなしのカウンター。5秒考えたのち、ジキルは投了した。
「え、もう終わったのかよ!まだ10分程度だぞ!?」
隣の対局を見ながらトゥオゥンダが驚く。確かに隣の後輩同士の対局はまだ中盤だ。基本的に田中後輩の方が上手だから辻後輩にはハンデありで戦っているのだがそれでもなお、基礎的な能力が違う。まあ、経験値の問題だ。それでも今回辻後輩は中々に粘っている方だ。いつもなら既に終盤戦に入っている頃合いだがまだ中盤。まあ、飽くまでも粘っているレベルだから結果は変わらないだろう。ちなみに自分もハンデなしだと田中後輩には勝てない。だが何故か相性の問題なのかジキルの奴はたまに勝ってしまう。世界七不思議の1つに挙げてもいいレベルだと個人的には思う。なお、トゥオゥンダと田中後輩が戦った際にはほぼ五分五分の勝率なのだが大抵トゥオゥンダの敗因は遊びすぎることにあるから、根本的な実力ではトゥオゥンダの奴がトップなのだろう。元院生だから当然と言えば当然だ。逆に辻後輩とジキルに関して言えばほぼ互角だと言っていい。この両者が戦った場合につき、勝率は辻後輩の方が上だが全体的の勝率に関してはジキルの方が上となっている。妙な力関係になっているが、この二人で比べたら辻後輩の方が実力は上なのだがジキルの場合時たま恐ろしいジャイアントキリングをかますことがある。ぶっちゃけ他4人すべてに敗北の後に低確率ながら勝利し、その後また負けるを繰り返すのがこいつだ。逆に辻後輩は単純な実力ならジキルよりも上なのだが格上相手に勝ったことが一度もないため残念ながら部内ランキングでは最下位となっている。……ここまでくれば分かると思うが自分のランキングはちょうどど真ん中だ。上位2名にはハンデがあったって勝てず、逆に下位2名にはほとんどの場合圧勝する。つまり何が言いたいかと言うと、ほぼ絶対に負ける勝負とほぼ絶対に勝てる勝負しかこの環境には存在しない。超サイヤ人にはまず負けるがしかし純粋な地球人相手だとまず負けないピッコロみたいなものだ。ぶっちゃけ退屈な環境である。そしてその環境を終わらせる動きがあった。
「失礼します」
入室した少女。それは赤羽美咲だった。真っ赤なツインテールを持った中学3年生であり、空手の弟子にあたる。しかし、それが関係しているのはあの世界だけのはずだ。
「赤羽……」
「甲斐さん。そろそろ稽古、よろしいでしょうか?」
「……ああ、いいぞ。じゃあ」
「ちぇっ、部活放って置いて女子中学生とデートかよ、いいご身分だな」
放つトゥオゥンダを無視して荷物を持って赤羽の後を追いかけた。

高校から歩くこと20分弱。そこに赤羽と稽古を行う空手道場が存在する。
「甲斐さん、胴衣を持ってきてないんですか?」
「ん、ああ。そう言えばな」
実際には大倉機関の道場のロッカーに置き去りだ。数の黒が稽古後に勝手に洗濯して干してくれてその上でまたロッカーに入れてくれるから非常に便利だ。故にこういう、別の道場で稽古をする場合には持ってきてもらわないと胴衣がない状態になる。しかし、それはあの世界ではほとんど必要のない話だ。だから、赤羽とあの道場で稽古をすることが日常となっているこの2011年の世界は色々とおかしい。
「じゃあ仕方ないからジャージでやるぞ」
「は、はぁ……」
ジャージに着替えた。何でジャージだけあったのかは分からないがひょっとしてこの世界に置ける前日とかにここに置き忘れていたのかもしれない。対して赤羽は既に超常服(サイスーツ)と呼ばれるワンピース型の胴着だ。軽く準備運動をしてからとりあえず適当に赤羽に対して指示を飛ばす。その間自分はキン肉マンを読んでおく。まだ完璧超人編は始まっていない。しかし、本当に20世紀のキン肉マンの絵は何とかならないものだろうか。面白いのは間違いないのだが。
「甲斐さん、メニュー終わりました」
「よし、じゃあ続けるか」
胸にナイフを秘めたまま次の指示を飛ばす。次はいよいよ組手だ。
「……いつもより早めですね」
「そうか?」
ジャージの上からだからか、赤羽の攻撃でも当たれば中々痛い。しかしそれを超えるパワーとスピードを赤羽にぶつけていく。
「くっ!」
「そら!!」
左手で赤羽の右肩を掴みその握力で彼女の体を真上へと投げ飛ばす。そして自身もスクワットの要領で真上に跳躍する。
「これは……」
「直上正拳突きィィィィィィィィィィッ!!!」
落下してくる赤羽の左肩から鎖骨にかけたあたりに跳躍の勢いを乗せた右の正拳突きを叩き込む。ただの激突ではなく、命中してもなお上昇する勢いによって拳が鎖骨の隙間から内臓系にまで衝撃を与える。さらに跳躍による上昇は続いていき、赤羽の全体重を支えながら天井まで突き上がってはその背中を天井に叩きつける。
「ぐっ!!」
「今だ!!」
背中から天井に叩きつけられて怯んだ赤羽。その体重を左肩で支え、彼女の両足を両手でつかみ、無理やり開脚させる。さらに万歳状態になった彼女の両手に自分の両足をかけ、そのまま畳に向かって落下。
「行くぜ!!完璧(ペルフェクション)バスター!!」
落下激突。二人分の体重と落下速度によるエネルギーがヒエンを通じて赤羽の両手足と股関節、腰を同時に激しく貫いた。
「うううううっ!!!」
絶叫に近い苦痛に満ちた声を発しながら赤羽はうつ伏せに畳に沈む。無理もない。こんなのは人間業ではない。ナイトスパークスの力があってこその超人技だ。それを普通の女子中学生が浴びたら、下手をすれば日常生活に支障が出るレベルの後遺症も生まれるだろう。しかし、赤羽は息も絶え絶えと言う有様だが立ち上がってきた。
「す、すごい技ですね……でもこれ空手じゃない……」
「まあな。だがな、赤羽。今の技は本来人間が耐えられるものじゃないんだ」
「え?」
「あのキン肉マンだって失神するくらいの威力を、生身で人間で女子中学生の赤羽美咲が耐えられるはずがない。思い出に浸りすぎたようだな、パープルブライド!!」
直後、ジャージ姿からナイトスパークス姿になり、万雷を赤羽の首に向けた。
「……いつ分かったのですか?」
同じように赤羽もパープルブライドの姿になった。しかし、仮面は外している。
「2003年の世界でお前はこちらの技を完全に見切っていた。しかしそれは本来ありえない。あの世界ではまだタイムジャッカーの手がほとんど回っていなかったからこっちの情報も伝わっていないだろう。じゃあ空手か?確かにこっちの戦術は空手が混じっている。だが、その空手を始めたのは2003年。初心者であるが故、まだ戦術も固まっていない頃だ。だのに完成している今のこっちの技を完全に見切れるなんてのはどうしても条件が合わない。無理やり条件を探せば、女性でこっちの技をこれでもかと言うほど一番近い位置で見て来て浴び続けてきてそれで強くなった赤羽美咲しかいないんだ」
「……ですがおかしい話ですよね?私がパープルブライドなら、ナイトスパークスのあなたから零のGEARを奪えるほどの力があるなら3号機程度相手に後れを取るはずがありません。第一、あなたがパープルブライドに襲われて零のGEARを奪われた時には私は仲間達と一緒にスライト・デスと戦っていたじゃないですか」
「ああ、そうさ。だから君は本物のパープルブライドじゃない。言ってみればアナザーパープルブライド。2003年で初めて見た時から違和感があったんだ。2003年で戦ったパープルブライドは雰囲気が違うし、何より弱い。本物のパープルブライドはさっき君が言ったように零のGEARを奪えるほどの実力者だ。しかし今の君は少し人間より強い力を出しただけでそのざまだ。アナザーライダーの領域にも達しているか微妙なほどだ」
「……」
「答えろ、赤羽。どうして僕をこの世界に落とした?どうしてアナザーエンハンスなんて生み出したいんだ?」
「……あなたからすべての力を奪いたかった。そうして元の人間に戻したかった……」
「元の人間に……?」
「ブフラエンハンスフィアはパラドクスのカオスナイトスパークスとも違う、ほぼ完全なるもう一人のあなた。その存在の歴史をなくすればあなたは、普通の人間のまま死ねたかもしれない。……あの人と一緒に死ねたかもしれないんです……」
「……あの人……やはり君は、一緒にスライト・デスと戦った赤羽美咲ではないな」
「……私はこの世界の、2011年の赤羽美咲です。パープルブライドの力を使わないと2003年には行けません。もちろんあなたの言う2010年の世界に行く事も出来ないでしょう。しかし記憶は逆継承しています」
「……初代赤羽美咲ってことか」
「一番新しい赤羽美咲から言えば、そうなります。私の知っている最上火咲さんは私とは異母姉妹と言うだけでそれ以上の関係性はありません」
「……だから僕を甲斐さんって呼ぶんだな。それで、どうする?まだ僕をアナザーエンハンスにしたいか?」
「……可能であれば」
「しかし君はそれを真実望んではいない。何故ならさっき部室で誰も殺さなかった。他に誰もいないあの状況であの4人を殺されれば恐らくその場でアナザーエンハンスが作れていただろうにそれをしなかった。……君にはまだ迷いがある。タイムジャッカーの情報を教えるんだ。これ以上歴史を修正させちゃいけない」
「……どうしてですか!?あなたはもはやあの時から普通の人間じゃいられなくなった!まともに死ぬことさえできなくなった!愛し続けたあの人の最期だってほとんど覚えていないんじゃないですか!?そんなの哀しすぎます!!」
「……そうか、君はあの子の事を知っているんだな……」
「……その最期には間に合いませんでした。私の方が先に死ぬので。ですが、私は今わの瞬間の時間を切り取られてアナザーパープルブライドとしてもう一度この2011年にいます。全ての情報を与えられたうえで!甲斐さん、あなたに、人間として生きて、それで死んでほしくて……」
「……」
理屈は理解できた。今となっては普通の人間とはとても言い切れない自分だがしかし、この初代赤羽美咲は違う。普通の人間だった頃の自分しか知らないんだ。だからその普通の人間だった自分が愛した彼女の事もほとんど覚えていない、忘れてしまい、代わりに人間ではない力をいくつも得て、世界のため宇宙のため地球のために戦い続けて2000年な自分の事を到底受け入れられず、歴史を修正してでも本来の形に戻したいんだろう。だが、
「……あ」
万雷の刃で赤羽を切り裂いた。たったひと振りで紫電の装甲は打ち砕かれ、赤羽が畳の上に倒れる。そしてアナザーパープルブライドのウォッチが落ちた。
「……」
そしてそれを黙って万雷で斬り砕く。
「……あ……」
「……歴史にいいも悪いもない。もうこの世界に帰ってくることもないし、君とまた会うこともないだろう」
変身を解かぬままで入口へと向かう。そのすれ違いざまに
「あ」
「……じゃあな」
軽くその頭を小突いた。
「……甲斐さん、このまま2014年に行くつもりですか?」
「ああ、そのつもりだ」
「……タイムジャッカーは甲斐さんが見た作品が多い時代を積極的に狙っています。そして、それが多いほどに侵攻は遅くなっています。恐らくもうタイムジャッカーやアカデミアは2014年にはいないと思います」
「……もっと未来に?」
「はい。ですが2014年の侵略を終えたばかりです。次の世界に侵略するまでに時間がかかるはずです。ですので、あと1つか2つは寄り道が出来ると思います」
「寄り道?」
「タイムジャッカーとアカデミアに対抗できる力を集めてください。何も出来ないままに負けた私が言うのもなんですが、今のあなたでは……」
「…………かもな」
士を救出する前にアナザーライダーを出されたらどうしようもない。しかし仲間を求める場合には必然的に作品も多く、それでいてタイムジャッカーの侵攻の手が進んでいる可能性が非常に高い。だが、それは逆を言えば一石二鳥になりうる。仲間を増やしながらタイムジャッカーの戦力を削れる可能性があるのだから。
「……じゃあな」
最後にもう一度だけ呟き、2011年の道場を去っていく。


赤羽美咲は傷ついた体で再び円谷高校にやってきた。
「ちっ、しぶといぞこいつ!」
「ボディビルダーは何をしているんだ!?」
そこではガイアメモリを使用したショッカー怪人・テクスチャーが暴れていて、Wサイクロントリガーが応戦していた。
「……W以降の仮面ライダーはいない。Wも放送されていない。でもディケイドの劇場版は放送された。Wがゲストで登場しているうえ必要不可欠であるあの戦いに参加していた。つまり、Wは存在している。アナザーWによって消されたわけじゃない。むしろオーズ以降のライダーがアナザーライダーにされたからずっとWとイシハライダーが現実で戦い続けているだけ」
赤羽は胸ポケットから1つのガイアメモリを取り出した。
「これを!!」
赤羽がそれをWに向けて投げた。
「「赤羽!?」」
Wがそれを受け取る。そしてWドライバーに突き刺す。
「サイクロン!トリガー!!」
「「これは……!!」」
「フェニックス!!!」
Wの姿が変わっていく。そして、サイクロントリガーフェニックスと言う姿に変わる。
「「行くぞ!!」」
「フェニックス・マキシマムドライブ!!」
Wが炎の翼を生やして飛翔。空から無数の火炎弾をバラまき、その全てでテクスチャーを焼き尽くす。
「「……何とかなったか」」
着地したWが変身を解除してトゥオゥンダとジキルに戻る。
「……あれ、赤羽は?」
「さっきまでいたんだが……と言うかどうしてガイアメモリを持ってたんだ?」
二人が疑問視ながら周囲を見渡しても赤羽の姿は見えなかった。ただ残ったのはフェニックスのガイアメモリだけ。
AD2006~究極の混迷

・2006年。1月1日の日曜日になった瞬間に世界は一変した。
「今度の妖逆門の舞台は逆ではないこの日本よ~!!」
突然黄色と緑の化け物が出現しては空にいくつもの穴が開き、そこから妖怪が無数に出現した。それに伴い、地球で息をひそめていた怪奇生命体のワームが大量出現。4月からはデジモンがいくつも出現し、さらに7月からはナイトメアリアンを率いる魔女サンドリヨンの軍が出現し、さらには26年も出現記録が更新されていなかった怪獣まで目を覚ましては次々と出現して町を蹂躙し始めている。
「妖召喚!!一鬼!!」
少年、多聞三志郎が札を切ると、同時に札から緑色の怪物・一鬼が出現しては正面にいる似たような怪物とぶつかり合う。
「大!!」
「おう!!」
三志郎の合図で後ろから同い年くらいの少年が走ってきた。
「フエ!」
「あいよ」
三志郎の影から黒い何かが出現し、足場を作ると、勢いを殺さないまま大と呼ばれた少年・大門大が走り抜け、その足場で跳躍。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
大が飛び上がり、一鬼が抑え込んでいる怪物に殴り掛かり、全体重と腕力を込めて右こぶしを叩き込む。
「兄貴すげぇ!!」
後ろでアグモンが大きな口を開けた。しかし、
「デジソウルが出て来ねえ!!こいつデジモンじゃねえ!!」
「気付いてなかったのかよ!?」
着地してから叫ぶ大に三志郎が突っ込む。
「どうすんだよ兄貴!!」
「デジモン殴らないとデジソウルチャージできねえ!!どっかにデジモンいねえのか!?」
「この状況下でさらに敵の増援とかやめてほしいんじゃが……」
静かに突っ込む三志郎。しかし、
「兄ちゃん、そいつはフラグになっちまったぜ」
「どういう……」
声に返事をする前。三志郎の前にモノクロモンが出現する。さらにその角にはアラクネアワームの成虫が2体、ムカデナイトメアリアンが15体とそれを指揮の真似するランダージョがいる。
「行け!ナイトメアリアン!ワーム!モノクロモン!サンドリヨン様のご機嫌のために!」
ランダージョが無駄に叫ぶと、敵側が進軍を始め、闊歩の衝撃でランダージョが頭から地面に落下する。さらにその衝撃で地割れが発生し、地面から地底怪獣グドンが出現する。
「おいおい、いくら何でも俺達でどうにかできる規模超えとるんじゃが……」
「だが、売られた喧嘩は買うぜ!!行くぞ、アグモン!!デジソウルチャージ!!!」
「アグモン進化!ジオグレイモン!!」
アグモンが進化したジオグレイモンがナイトメアリアンたちを蹴散らしながらモノクロモンと正面からぶつかり合う。しかしグドンの放った鞭の一撃でまとめて吹き飛ばされてしまう。
「妖召喚・一角!!」
三志郎は一鬼を召喚したまま次の妖を召喚した。それはトンボと龍を一緒にしたかのような怪物。三志郎は一角に乗って空へと飛翔する。
「どうする気だ兄ちゃん」
「どうもこうも……こんな状態で地上にいられるかよ。大はナイトメアリアンに殴り掛かっちまってるし。と言うかどうしてナイトメアリアンが俺達のところに来るんじゃ……?」
「奴らの本命であるエルデの鍵……即ち草太を三銃士が匿っているからな。中々こちらの本丸を見つけられなくてあぶりだそうとでもしているんだろうさ。それより兄ちゃん、悪い知らせだ」
「今度は何だよ?」
「あれを見ろ」
声が伸びた先を三志郎が見る。それはもうすっかり人がいなくなったと思われていたゴーストタウンとなったここに少女がひとり迷い込んでしまっていた。中学生くらいだろうか。
「お兄ちゃん……日和お姉ちゃんどこ……?」
「おいおい嘘だろ……!!一鬼!!あの子まで行かせるな!!一角!急いで向かってくれ!!」
三志郎の指示で2体の妖が動く。しかしそれより早く2体のワームが動き出した。
「ワームが……!!」
急ぐ三志郎。しかし、
「……まったく、相変わらずのじゃじゃ馬め」
声。同時に銀色の何かが姿を見せた。それはマスクドフォームの仮面ライダーカブトだった。
「お兄ちゃん!!」
「樹花、先に帰って待っていろ。今日はおいしいチャーハンの作り方を教えてやる」
「う、うん!!」
走る少女。追いかけようとする2体のワームをラリアットで止めるカブト。
「……キャストオフ」
「Cast off」
マスクドフォームの装甲に亀裂が走った直後にその装甲が亜音速で全方位にまき散らされ、破片が散弾銃のように2体のワームに叩きつけられ、弾き飛ばす。
「Change Beetle」
そしてライダーフォームになったカブトが、倒れている2体のワームに接近し、立ち上がったばかりの2体を再び蹴り倒す。そのまままだ息があったナイトメアリアンの群れに突入、カブトクナイで脈を切り裂いてとどめを刺していく。
「……ライダーキック」
「Rider Kick」
スイッチを3回押し、右足にエネルギーを集約。そして勢いよく振り返れば背後には2体のワームがいて、まさにカブトに襲い掛かろうとしていた。その2体のワームの胴体を横から切断するように右の廻し蹴りを叩き込む。
「!!」
実際に赤く光る右足は2体の胴体を切断し、カブトの体が左足を軸に360度回転して光が止まった右足を地面に置くと同時に背後で2体のワームが大爆発する。
「……さすがだな、カブト。よし、ジオグレイモン!!お前もパワーを振り絞れ!!」
「分かった!!メガバースト!!」
起き上がったジオグレイモンが口から爆炎の塊を光線に乗せて発射。その一撃がモノクロモンに命中し、その巨体を吹き飛ばし、グドンの下腹部に命中して大爆発した。しかし、グドンそのものは一切無傷で咆哮して暴れ始めた。
「兄貴、さすがにあれは無理だよ!!」
「くっ!だけどこのまま放って置くってのも……!!」
「……いや、来たみたいだ」
カブトが小さくつぶやく。すると、空の彼方から赤い光が飛来した。
「来たか」
三志郎が見上げる。それはウルトラマンメビウスだった。
「はあっ!!」
メビウスが走り、方向を上げたグドンに飛び掛かる。迎撃に放たれた鞭をその身で受け止め、脇に挟むことで動きを止めたグドンにショルダータックル。そのまま飛び蹴り。そこから足を地に戻さず巴投げ。起き上がると、脇に挟んだ鞭を手で掴みなおし、そのまま倒れたままのグドンに対して宙返りからのドロップボム。再び起き上がったメビウスを、もう一方のグドンの鞭が迫る。しかし、メビウスはそれを中段内受けでブロック。ブロック後その鞭をもつかんで止め、両脇に鞭を挟んだ状態でグドンをスープレックスで背後に投げ飛ばす。頭から地面に叩きつけられたグドンの角が折れ、両手の鞭が切断される。
「よし、あれでもうあの鞭野郎は文字通り手も足も出ないぜ!!」
「いや、足は使えるんじゃないじゃろうか……」
「それより兄ちゃん。また来るぜ」
「は?」
声に三志郎が耳を澄ませて疑問を作る。すると、再び地鳴りが発生した。そしてグドンの背後の地面から2本の細い鞭のような何かが迫るとその首を締めあげる。
「!」
メビウスが見る。地中から出現したのは古代怪獣ツインテールだ。ツインテールは下についた口でグドンの右足を噛みつき、頭に生えた尻尾と腹筋のようなものを使って一気にグドンの首を締めあげ、その体を弓のように反り上げる。そして、数秒後にグドンは背骨がへし折れて生命活動を停止させた。ばかりかそのまま威力は続き、ツインテールの尻尾はグドンの胴体を腰から真っ二つにする。そして、
「!」
咆哮と共にグドンの上半身をメビウス向けて投げ飛ばす。
「くっ!」
慌てて横に側転で回避するメビウス。すると、今度はツインテールがL字ボディの直角部分で地面をたたくことでメビウスに向かって真っすぐ跳躍。立ち上がったばかりのメビウスの顔面に噛みつく。さらに下に垂れた2本の尻尾でメビウスの両足を締め付け、全体重を両膝を負った状態のメビウスの背後の地面に移してその顔面と両足と腰にダメージを与える。
「ぐううううううう……!!」
苦痛の声を上げるメビウスのカラータイマーが点滅する。
「~~~!!!!」
咆哮を上げたツインテールは追撃とばかりに尻尾の一本をメビウスの足から離すと、路肩に止まっている車を次々と拾い上げてはメビウスの鳩尾のあたりに叩きつけまくる。車はメビウスの胸に命中するとその威力で爆発し、余計にメビウスを苦しめる。
「あの怪獣、奇怪な体してる割にかなり戦い慣れしてるな」
「ああ。差し詰め怪獣のヌシとでも言ったところか」
大とカブトが呟く中、三志郎は一角に乗ってメビウスへと向かう。
「一鬼!!あいつの目を狙うんじゃ!!一角も!!」
三志郎の合図で一鬼が刀を持って走り、ツインテールの目に向かって突進する。一方で一角も三志郎を乗せて飛行したまま角から電撃を繰り出してツインテールの目を狙う。
「どっせぇぇぇぇぇぇぃ!!!」
結果として避雷針のように一角の電撃を吸い寄せて帯電した一鬼の刀がツインテールの右目に突き刺さる。
「~~~~~!!!!」
激痛でメビウスから離れつつ悲鳴のような叫びをあげるツインテール。しかしただでは離れず、持っていた車を一鬼向けて投擲。
「うおおおおおおおあああああああああ!!!」
「一鬼!!」
三志郎が一鬼を戻すより先に車の激突を受けた一鬼はその爆炎の中に倒れた。メビウスがそれに一瞬気を取られていると、ツインテールは引きちぎられたグドンの右手鞭を尻尾で掴み上げて遠心力ばっちりにメビウスに叩きつける。
「くっ!!」
「鞭で鞭を掴んで……!?」
「道具を使えるのは人間だけかと思ったが認識を改めないといけないな。ただでさえリーチの長い鞭で鞭を扱えばリーチは倍以上。鞭はリーチから生み出される遠心力を威力に乗せる武器だ。今の奴の攻撃力は先程までの倍以上」
その倍以上になった鞭でメビウスを叩きまくるツインテール。メビウスが防御の姿勢に移れば今度はグドンの鞭をメビウスの両足に引っ掛けて動きを封じ、自身の2本の鞭でメビウスの両手を締めあげてスープレックス気味に背後に投げ飛ばす。
「くっ、うううう……ああああ……」
点滅が激しくなったカラータイマー。メビウスは胸を押さえながら瓦礫の海の中に倒れ、姿を消した。
「……ウルトラマンメビウスが負けた……!?」
「……退くぞ。今の俺達に出来ることはない」
「あ、お、おう!!」
先に動き始めたカブトの後を大が追った。


「……なんだよあれ」
少し離れたビルの屋上。そこにヒエンはいた。
「……ワームはいるわ、妖はいるわ、ナイトメアリアンはいるわ、デジモンがいるわ、怪獣までいるわで2006年ハザードのバーゲンセールすぎだろ。しかもあのツインテール、メビウスに勝っちまったぞ。知ってる作品が多い世界にはタイムジャッカーが苦戦しながらも大規模な侵略かけてるって赤羽言っていたがこれ、タイムジャッカー負けてる世界なんじゃないのか?無理に戦力手に入れようとし過ぎてとんでもないことになってるっぽいし。オベリスクフォースも出てきてないしなぁ。これもう帰っちゃっていいかな?」
これだけの騒ぎでありながらカブト以外のライダーがいない、GUYSも出撃しない。つまり、前者は怪獣によって、後者は侵入してきたワームやナイトメアリアンによって滅ぼされてしまったのだろう。会話に出てきたから三銃士は無事かもしれないが。大以外のテイマーもいないみたいだし、相当絶望的な状況なのは間違いない。
「GUYSがいないのにツインテールのような地球怪獣がまだ生き残ってるってことはまだ暗黒四天王とかが出張ってきてないだろうから場合によってはあのメビウス、バーニングブレイブにもなれない可能性があるな。あったらツインテールなんてとっくに燃えてるだろうし。カブトもハイパーにはなれないだろうな。歴史が修正されるどころか下手しなくともこのまま滅亡しかねない」
ヒエンが頭を抱えている間にツインテールはグドンの死体を掴んだまま地中に帰っていった。目を凝らせば、メビウスがいた場所にひとりの青年が倒れていた。
「……まずはミライを回収するか。あの感じだと正体明かしてないみたいだし」
ヒエンは屋上から飛び降り、飛翔の形で倒れている青年の傍まで接近する。途中ナイトメアリアンが1体だけ残っていたため拳の一撃だけで粉砕した。
「……ナイトメアリアンってこんな弱かったのか」
感心しながら青年の傍に着地した。
「おい、ミライ。しっかりしろ、ミライ」
「…………うう、」
「お、起きたか」
「あ、あなたは……?」
「ジアフェイ・ヒエンって言うんだ。訳あって未来から来てる。あ、別に未来って言ってもお前の事じゃないぞ?」
ヒエンの発言に青年は首を傾げた。
「僕の事……?」
「え?ヒビノ・ミライじゃないのか?」
「僕は……バン・ヒロトですけど……」
「…………あちゃ~~~」
数秒貯めてから仰け反った。もう、今夜は焼肉っしょ~!!ってあれくらいに。ちょっと腰痛くなったからヒエンが体を起こす。
「けどウルトラマンメビウスだよな?」
「あ、はい。えっと今から半年くらい前に仕事で火星にいて、怪獣のナメゴンってのに襲われていたところをウルトラマンメビウスに助けてもらったんです。ですがナメゴンの酸を受けて全身の神経が死んでしまった僕は爆発寸前の宇宙船から逃げることが出来ませんでした。そこであのウルトラマンが僕に憑依することで完全に体が治るまでの間一緒になったんです。ただ、条件としてこういう風に怪獣が出現した際には変身して戦うことを約束しました」
「……」
これは思い切った状態になったと思った。
本来の歴史でならメビウスは間に合わず、バン・ヒロトはナメゴンに殺されている。しかし彼の遺言を届けるためにメビウスは彼の姿をコピーし、ヒビノ・ミライとして地球にやってきて……色々あってそのまま地球で戦うことになるのだが。
「……最初から歴史が狂ってる?」
そうとしか思えない。タイムジャッカーの仕業とは考えにくい。連中が宇宙空間での、別の星での出来事に干渉できるとは思えないし、何よりするメリットがない。タイムジャッカーなら場合によってはそこでアナザーメビウスなどを生み出したりするはずだ。しかし、それがない。あのメビウスもアナザーと言う訳ではなく、本物っぽかった。
「いや、待てよ」
ヒエンは思い出す。この世界にはカブトがいる。つまりクロックアップと言う現象がある。あれはタキオン粒子を操作してクロックアップ発動者以外の時間を超鈍化させる技術だ。しかし、タキオン粒子をその身にまとっているウルトラマンであればクロックアップの影響を受けないとしてもおかしくはない。つまり、半年前までにカブトが何回かクロックアップをしていた場合その間だけ他の時間は遅くなり、しかし地球に向かっているメビウスはその影響を受けなかった。だからその影響でバン・ヒロトの救出にギリギリながら間に合ったと言う事か。
「あの……」
ヒロトが困惑している。見ればそこらじゅう打撲をしていて立っているだけでも辛そうだ。
「ああ、悪い。どこかで休もう。しかし地球がこんな状態じゃどこで休めるか分からないな」
「あの、でしたら……」
「ん?」

ヒロトに案内された場所。そこはおもちゃ屋・童遊斎。
「ヒロトさん、大丈夫かよその傷!!」
そこでは先程のメンバーである三志郎、大、アグモン、それに仮面ライダーカブト/天道総司、天道樹花、日下部ひより、さらには吉永双葉、吉永和己、小野寺美森、梨々=ハミルトン、赤ずきん、白雪姫、いばら姫、木ノ下りんご、鈴風草太、三島塔子、三島燐子、橘一がいた。
「…………………………あ~~、こりゃタイムジャッカー帰るわ」
ヒエンは頭痛を覚えながらとりあえず状況説明を行った。ヒロトがメビウスである事は何か隠してるみたいだったためそこと各人が辿る未来については省いたが、タイムジャッカーやアカデミア、アナザーライダーについて話しておいた。また、逆に各人から現状についても説明をしてもらった。
まず、三志郎。本来行われる妖を用いたオリンピックと言っていいかもしれないゲーム「妖逆門」は今回妖たちの世界ではなく、この地上で行われた。しかも速攻でタイムジャッカーらしき存在の手にかかって進行役のねいどがアナザーねいどになってしまった事で妖たちによる人類皆殺しゲームへと変わってしまった。しかし、中には人類が大好きな妖もいたためその妖が
個魔であるフエを通して三志郎に協力。現在アナザーねいどの手に落ちた殺人妖達と戦っているらしい。ちなみにアナザーねいどはフエ曰く同じ力を持つものによって既に倒されたらしい。
「……妖(あやかし)逆門(ぎゃもん)か」
脳裏に一度だけ黄緑色の少女を思い浮かべた。そして赤銅の鬼仮面の姿も。
次に話を聞いたのは大とアグモンだ。今年の春ごろ、妖達に触発されたのかデジモン達がデジタルワールドからこの世界にやってきた。しかも大半が自我を失った暴走デジモンとして。それを追いかけてきた正常なアグモンと大が出会った時から二人の戦いが始まったらしい。仲間は他にはいない。デジヴァイスもアグモンが持って来たらしい。それでも大やアグモンに一切干渉してこないとなるとDATSは存在していないか或いは大に干渉する前に怪獣か何かに壊滅させられたかもしれない。現状、アグモンは成熟期のジオグレイモンまでしか変身できないらしい。うん。原作通りに事を進ませるのは物理的に不可能だ。
で、お次。天道兄妹達。やはりと言うかZECTは存在していないらしい。また、隕石も7年前に落ちていないと言う謎の経歴がある。
「本来ならあの隕石にネイティブワームが乗ってきて、それを追いかけてきた外様のワームと、ネイティブからもたらされたシステムを用いて変身した仮面ライダーが戦うのが物語のはずなんだがなぁ」
こちらもメビウス同様に何かしらの事件が起きているようだ。天道がカブトに変身している以上、アナザーカブトが存在しているわけではなさそうだが。隕石が落ちたのが7年前となると1999年。世紀末。その年に何かが起きたと言う事でありほぼイコールでタイムジャッカーの手が99年に及んでいると言う事だ。しかしネイティブが来ていないとなるとベルトやワームたちはどこからもたらされたものなのか。
「……それに、」
ヒエンは料理をしているひよりを見た。
日下部ひより。天道総司こと日下部総司の実の妹。しかし7年前の隕石落下に巻き込まれて死亡。たまたま近くにいたネイティブワームが彼女に擬態してその記憶と人格を引き継いでいるのが彼女の現状のはずだ。だが、隕石がそもそも落ちて来なかったとなると、普通に天道の妹としているはずだが先程自己紹介があった際には日下部ひよりを名乗っていた。天道との関係も原作序盤のような形だ。
「……分からないものを無理して理解しようとするのもよくない話だ。先に進もう」
吉永家。双葉、和己、美森、梨々の4人。本来ならまあ色々ある4人だ。事情を聴くと、吉永家在住の自動門番型石像ガーゴイルは現在吉永家が存在する御色町に出現した大量のナイトメアリアンやワームを殲滅しているとのことだ。梨々の保護者である怪盗百色もまた似たようなものだが彼の場合は各国を渡って政府関係者たちと対談をするのがメインの仕事らしい。自衛隊や米軍では勝てない怪獣やワームの脅威にどう立ち向かうのかがポイントだそうだ。
「遺憾ながら我の力では御色町を完全に守り切ることが出来ない。双葉達は避難をするのだ。我もたまに顔を見せる」
と言い残したガーゴイルは確かに週に一回くらいのペースでここにやってきては御色町含む日本の状況を報告してくる。ちなみにガーゴイルもタキオン粒子の影響を受けないらしく、クロックアップを発動したワーム相手にも普通に戦えているそうな。
原作における時期は不明だが、少なく見積もっても3巻以降は確実か。
「で、エルデの鍵か」
「は、はい」
「言っておくけど草太はかなり重要な存在なんだゾ!」
やや怯える草太の前にりんごが立つ。
本来、赤ずきんと白雪、いばらの3人はこことは違うファンダヴェーレと呼ばれる魔法の世界からやってきた三銃士と呼ばれる存在であり、ファンダヴェーレを闇に落とした魔女サンドリヨンが狙う草太を守るのが使命だった。このエルデと呼ばれる世界で三銃士が合流したら一度ファンダヴェーレに戻ってサンドリヨン軍と戦っていたが、ファンダヴェーレの王・フェレナンドから伝言を頼まれてきた隠密兵のハーメルンよりエルデに戻るよう言われたため5人は再びエルデに帰って来た。しかしエルデにもナイトメアリアンが襲撃してきているため迎撃しているとのこと。それも、三銃士が出て行っては草太の場所を知られる可能性があるとのことで三銃士はこの童遊斎から一歩も離れずに草太の警護を行なっているらしい。
「ナイトメアリアン自体は大した強さじゃないんだけど、ヘンゼルって言うサンドリヨンの部下が厄介なんだよね。ってヒエンさんどうして私の声を録音してるの?」
「いや、国民なので」
「?」
ヘンゼルにまだ脅威を示していると言う事はもっとヤバい幹部であるトゥルーデがまだ出てきていない序盤の時期だろう。つまりまだ赤ずきんはプリンセスモードに変身できない。仮にトゥルーデが攻めてきたら全滅は必至。ヘンゼル相手でも厳しいかもしれない。特に他の連中と組まれたら厄介だ。何せ、最低でもヘンゼルはここの場所を既に感づいているに違いない。ヘンゼルと言う幹部は魔術の腕はトゥルーデに大きく劣るが、部下の采配や情報の収集などの戦闘に関係しない部分でも非常に優秀な奴なのだ。実力に関しても三銃士が相打ち覚悟で何とか引き分けに持ち込めるほど。アナザーライダーに匹敵するかそれ以上とみていいだろう。トゥルーデともなればアナザーライダー3体分では少ない見込みかも知れない。現状最も注意をしなくてはいけない存在だろう。
「……で、」
この山奥にある玩具屋・童遊斎に元々住んでいる三島姉妹。塔子と燐子。あと一応保護者?な超絶ロリコン野郎の橘一。
特に目立ったことはなく、いつも通り悪夢と呼ばれる人間の精神や夢などに忍び込んでは現実の一部を非現実に塗り替える怪奇現象を解決している夢使いと言う仕事をしているそうだ。ちなみに何故か双葉、和己、美森、梨々にも夢使いの素質があるらしく少しだけ護身術程度の力を与えているらしい。
「橘さん、双葉ちゃん達いて楽しそうっすね」
「うん!まあね!!でも流石の僕もナイトメアリアンくらいじゃないと相手にならないからちょっとこの状況にふがいなさを感じているよ。一応大人の男って僕しかいないしさ」
大&三志郎、三銃士達は中学生、天道とヒロトは20歳、塔子とひよりが高校生であり他が小学生ばかりとなると29歳の一は確かに最年長でありある意味全員の保護者と言ってもいいかもしれない。しかし夢使いは飽くまでも悪夢を解決するだけの戦闘能力しか持たない。似たような名前のナイトメアリアンでも相手に出来るだけましな状態なのだ。あと、一応この童遊斎の店主は塔子だし。
「で、話をまとめるか」
2003年の時と比べると、比べ物にならないくらい状況がぶっ壊れてて正直どうしようもない状態だった。しいて言えばメビウスに、ウルトラサインを出してもらってウルトラ兄弟を呼び、半ば強引に事を解決するのが手っ取り早いか。それでもサンドリヨンが相手だと楽勝ルートは辿れないだろう。
「ぶっちゃけサンドリヨン軍とかタイムジャッカー2つ分くらいは戦力あるからなぁ……。女児アニメで出していい戦力じゃねえよあれ」
幹部どもの強さが異常だし。ともあれ、サンドリヨン軍に関しては必要最低限の対処で十分だろう。しかし警戒は最重要。しかしそうなるとどこから出現するのか分からないワーム、妖、デジモン、怪獣を相手にする必要がある。メビウスの話によれば既にボガールは倒しているらしい。となると次に仕掛けてくるのがあの異次元粘着質半世紀負け続け陰湿野郎となるわけだ。しかし、歴史をもとに戻す要因がアナザーライダーの撃破だった2003年とは比べ物にならないほど複雑だ。何せ、もう歴史修正=原作再現が事実上不可能な状態にある。これはもうどうしようも……
「戻ったぞ」
と、そこでガーゴイルが瞬間移動でやってきた。
「あ、石ころ。お帰り」
「うむ。しかし見慣れぬものがいるな。しかも我のレーダーによればそやつは人間ではないと見受けするが?」
「あ、ああ。流石だな最強の門番。実は……」
ガーゴイルに説明しながらヒエンは1つの事を思い出した。
「なあガーゴイル。高原イヨはどこにいる?」
「高原イヨをどうして汝が知っている?」
「いいから答えてくれ」
「……我も詳しい場所は聞いていない。しかし探そうと思えば探せるだろう」
「……ならまだ希望はあるかもしれない」
「どうすんだ?」
双葉がガーゴイルにドロップキックしながら疑問した。
「……高原イヨはタイムマシンを持っている。これで2006年の元旦に行ってそこですべての原因であるタイムジャッカーがしでかす前に叩きのめす。そして歴史を修正するんだ」
それは世界の修正であり、そして歴史を再び分裂させるたった一つの残酷なやり方だった。

AD2006~歴史の修正

・高原イヨ。それは自動門番型石像ガーゴイルを製造した錬金術師の一人である。昭和2年に他の錬金術師たちとガーゴイルを生み出した後、始まってしまった太平洋戦争に出兵した息子ともども必ず生きてまた再会することを願って賢者の石をその身に宿し、不老不死となったデンジャラスアルケミストおねーさんなのだ。
「よく私がタイムカプセル持ってるって知ってたわね」
ガーゴイルの案内の元、ヒエン達は新宿駅に来ていた。当然既に電車は動いていない壊滅状態で人もほとんどいない。そんな駅の一角に結界を張って高原は何かをしていた。
「姉ちゃんなら何持ってても驚かないけどな」
「あら双葉ちゃんお久しぶりね。美森ちゃんや美少女ちゃんも。……あの黒いのはいないみたいね。それで、私にタイムカプセルを持たせて何の用かしら?」
「もちろん時間を戻してほしい」
ヒエンは宣言する。対して高原は訝しむ。
「タイムカプセルで戻したところで現実は変えられないわよ?2006年の9月はこの有様のまま変わらないわよ?」
「いや、そうでもない。僕には考えがあるんでね。それより高原さんはどうしてここに?」
新宿。つまり本来ならネイティブワームが地球にやってきた時の隕石が落下した場所だ。当然妙な歴史になった現在はそのような過去は存在せず怪獣災害やワーム、ナイトメアリアンなどの影響で廃墟となっているだけだ。
「それがね、この新宿は妙なのよ。何がどうってうまくは説明できないんだけれどもこの新宿だけ時間が戻りつつあるのよ」
「時間が戻る?」
「ええ。本来この新宿は最初に出現した怪獣によって発生した大火災で焼け野原になっているはずなのよ。ただ、私が一週間前に来た際にはその残滓が一切残っていない。ただ人がいなかったりワームやデジモンが通った際の破壊の跡が残っているだけなのよ」
「……」
ヒエンは見る。確かに新宿の破壊具合は他の町と比べると幾分か低く見える。それも妙な話だ。先程までいた小さな町ならともかく新宿のような大きな町の破壊が低度に収まっているのは不自然極まりない。
「……時間が戻っているのは新宿だけ?」
「分からないわ。でも何かとてつもなく大きな力を感じるのはこの新宿駅周辺だけよ」
高原はいつの間にか美森と梨々を抱いては櫛で髪を梳かしてやっている。双葉は拒否したらしい。
「で、これでもまだタイムカプセル使うつもり?」
「ああ。今年の1月に向かいたい。元旦の夜だ。最初にアナザーねいどが出現した場所だ」
「アナザーねいど?まあいいわ。あなたには何か作戦があるようだし。この世界が元に戻るならそれでもいいわ」
「感謝する」
2006年1月1日に向かうメンバーはヒエン、三志郎、天道、ヒロトの4人だ。他のメンバーは自衛に留まってもらうことにする。
「なあ、いいか?」
三志郎が質問する。
「何だ?」
「兄ちゃんはさ、2011年から来たんだよな?」
「そうだけど?」
「だったら時間を操れると言うか自分の力で過去に戻れるんじゃないのか?」
「……それなのにタイムカプセルに頼る理由が分からないか。難しい話になるんだが、こっちは歴史レベルで異変が起きている時点にしか移動できない。2006年で異常が起きている時点としてやってきたらこの9月だったってわけだ。まあ実際、異常のオンパレードだったわけだが流石にこの状況をもとに戻すことは難しい。少なくともタイムジャッカーが隙を狙っているかもしれない状況で大規模な歴史の修正を行うのはあまりに無防備だ。かと言って何も事件が起きていない1月1日に狙っていくのはまだ不慣れ。少しでもタイミングがずれたら意味がないからな。だからここは科学の力を借りようと思った」
「……もう1つ質問だ」
今度は天道が。
「高原イヨはタイムカプセルでは歴史の修正が出来ないと言った。だがお前は1月1日に飛べればそれが出来ると言った。それはどういうことだ?」
「……この世界ってゲームは存在するか?」
「するぞ。俺はゲームボーイアドバンスを7台持っている」
「……そ、そっか。でだ。歴史の修正をする前に歴史の保存……ゲームで言うセーブをする必要があるんだ。この歴史はここを起点に進んでいくと言うようにな。そしてこの世界は1月1日午前0時に毎年オートセーブされる。だからタイムジャッカーは年を跨いでの地続きな侵略が出来ない。しかしそこを狙ってタイムジャッカーは1月1日に攻撃を仕掛けてきた。まあ、実際にはいろいろな世界から要素を持ってき過ぎたせいで奴らの手にも負えないくらいの飛んでも状況になって奴ら自身は侵略を断念せざるを得なくなったと推測できるが。つまり奴らは1月1日すぐの時点で歴史の修正、セーブは行えていない筈なんだ。こんな大がかりな状況を用意する必要があるからな。だから先手で奴らを攻撃して2006年から排除。歴史が新しくセーブされるよりも前にセーブしてこのとんでも歴史をなかったことにするんだ」
「……そのセーブってのは後からでもできるのか?」
「さっき言ったろ?地球の化身ジ・アースであるこっちなら時間や手間はかかるがセーブデータを弄ることでゲームデータをある程度自由に修正できる。奴らはセーブデータの修正やロードは不可逆だが、こちらは少し力を使えばそれが出来る。ただ、この混迷を極めた状態。奴らもこっちがこの2006年に来た可能性は想定しているだろう。だから奴らの前で油断を見せる大掛かりな歴史の修正は出来ない」
「……俺達が護衛についてもか?」
「厳しいだろうよ。奴らには戦力となる人物をアナザー化できる能力がある。直接アナザー化させられたら元になった奴がどうなるかは知らないが、そこから生まれたアナザーはそのもとになった奴か所以があるやつにしか倒せない。こっちが作業している間にお前達が倒されるならまだしも、その間にお前達がアナザー化させられて敵に回る可能性も十分考えられるし、それは中々最悪だ」
「……地球での歴史をお前は修正できると言ったが、アナザーをもとに戻すことは出来ないのか?」
「出来なくはない。だが、難しいだろうな。少なくともどうやっていいのか見当がつかない」
「……なるほど。参考になった」
天道はそれから口を閉じる。他に質問者もいないようなのでヒエンはタイムマシンを起動させる。タイムマシンが不気味な音と光を醸し出していると、再び三志郎が挙手した。
「最後の質問じゃ。歴史を変えたら俺達はどうなるんだ?」
「……消えることはないだろう。だが、正しい歴史になるだろうから恐らく今のままではない。可能性として高いのは、お前達は恐らく二度と会えない」
「……そっか」
ヒエンの返答に三志郎達が互いに顔を見合わせた。そして、時空が巻き戻る。


「今度の妖逆門の舞台は逆ではないこの日本よ~!」
2006年1月1日0時0分1秒。東京の空にアナザーねいどが出現した。そのアナザーねいどが時空に門を開けようとした瞬間。
「妖召喚!一角!!」
三志郎が一角を召喚。一角が高速で接近して電撃をアナザーねいどに放つ。
「あれれれれれぇぇぇ~!?」
「クロックアップ」
同時に変身した天道がクロックアップを発動させて周囲の状況を確認する。現状異変が起きているのは空で戦っている一角とアナザーねいどだけだ。他に変化がないか、バイクを使って東京中、日本中をくまなく走り回って調べる。流石にクロックアップ発動状態であっても日本2周するのに10分ほどかかってしまった。その間に一角によってアナザーねいどはフルボッコにされ、時空を歪ませる力を奪う。そしてヒエンは素早く歴史の修正を開始する。
「……この世界を妖逆門の世界にしてしまうことにはなるかもな。場合によってはこの後三銃士達が来るかもしれない。だが、少なくともワームとデジモンの襲来は防げるだろう。……いや、ワームがどこから来たのかが分かっていない以上ワームだけは厳しいかもな」
「……戻った」
そこへカブトが帰って来た。流石に能力を使いすぎたからか声には疲労が混じっている。
「異変は?」
「ここ以外には見当たらない」
「……タイムジャッカーの息がかかったアナザーねいどによってデジモンとか妖やワームがこの世界にやって来たのだろうか?いや、だとしたらあの子が……」
ヒエンの推測はそこで止まった。
何故なら、背後でカブトが何者かに蹴り飛ばされてビルの壁に叩きつけたからだ。
「!」
振り返ると同時にその首に尋常ではない握力がかかる。
「ぐっ……そうか。既にいたのか……!!」
正面。見ればそこにはダークカブトがいた。否、アナザーダークカブト。しかもハイパーフォームだ。
「……悪いけどここで死んでもらう」
「死ぬだぁ?タイムジャッカーの手にしてはナンセンスなことを言っているな。ひよりちゃんよぉ!!」
その手を払い、スパークスの姿になると同時に万雷を引き抜いてアナザーダークカブトを切り払う。
「ぐっ!!」
「アナザーライダーは歴史を修正する存在だ。それ故に自身は歴史の修正の影響を受けない。だから君は恐らく、こことは違う、そうだな。何かしらのバッドエンドな未来を迎えた日下部ひよりだ。そこでタイムジャッカーによってアナザーダークカブトにされた。そしてハイパークロックアップを使って歴史の修正を行った。さっきまでいた2006年9月の世界はそこそこ最悪な世界だがそれでも君の望むべき世界の1つに違いはなかったようだ。それを変えようとしてきたうちらに襲い掛かるくらいにはな」
「能書きは要らない……!!」
立ち上がったアナザーダークカブトがハイパーダーククナイガンを二刀流にして襲い掛かる。斬撃を受け止めたヒエンは足払いで相手を怯ませてから放電、アナザーダークカブトの動きを止めると、地に手を置く。
「受け取れ、天道!!」
「!」
傍まで駆けてきたカブトに何かが飛来。カブトがそれを受け止める。
「これは……」
「ハイパーゼクターだ!それを使ってハイパーキャストオフしろ!」
「……どうしてハイパーゼクターが……!?」
アナザーダークカブトがカブトに向かおうとするがヒエンに斬り倒される。その間にカブトはハイパーゼクターをベルトに装着。
「ハイパーキャストオフ」
「Hyper Cast Off」
電子音が響くと次の瞬間にはカブトの姿が変わり、ハイパーフォームとなっていた。
「天道!」
ヒエンがアナザーダークカブトをカブトに向かって巴投げ。投げ飛ばされてきたアナザーダークカブトの手を取ったカブトはまるでフォークダンスしているように舞い、迫りくる斬撃を斬撃で受け止めて金属音のワルツを奏でる。その間にヒエンが再び歴史の修正を始める。が、
「……この気配、まだアナザーライダーがいるな」
歴史の修正から気配の広域察知に移る。と、すぐに異変が起きた。それは倒れて動かないアナザーねいどから起きていた。
「三志郎!!すぐにそいつを粉々にしろ!!」
「は?」
ヒエンの言葉を聞いた瞬間、アナザーねいどが大爆発する。そして、爆発の跡には時空の歪みが発生し始める。まだ大量の妖が出て来るような規模ではない。しかし、その歪みから人影が2つ出現したら話は別だ。
「……」
「……」
仮面をつけた少年とお面をつけた少女。意匠は違えど共に和服。片方はまるで忍者のように漆黒。片方は陰陽を諮るように白と赤。
「……まさか僕達がここへやってくることになるとはな」
「…………」
少年は喋り、少女は無言。
「……須貝正人か……!!」
「フエ……?」
「兄ちゃん、気をつけろ。あの鬼仮面の方は前回の妖逆門の優勝者だ。そして妖(あやかし)逆門(ぎゃもん)と深い関係性を持つ奴だ。奴は前回からかなり大規模に妖達や妖逆門のルールに無茶苦茶な修正をかけてデスゲームに変えようとしていた。妖逆門によって何とかそれは止められたが奴の実力や危険性は本物だ。そいつがもしもアナザーライダーとやらになって自分自身が戦えるようになっていたとしたら……!!」
「変身……」
その鬼仮面がアナザーウォッチのスイッチを押す。すると、その姿がまるでヒップホップダンサーのような姿に変わる。そして紫色のジャケットを羽織っては角の生えた鬼のような仮面に掛かったフードを取る。
一方、狐面の少女もまたウォッチのスイッチを押すと、似たようなフード姿に変わり、そのフードを取る。
「……おいおい、まじかよ」
遠くから見ていたヒエンが思わず己の時間を止めた。
「灼銅の鬼仮面があれは、アナザーウィザード……?だがあんなスタイルは見たことがない。それにアナザー塔子はアナザーゴーストなのかあれは……?だがやっぱりどっちも見たことがない。まさかとは思うがあの二人アナザーライダーでオリジナルフォームになっているのか……!?」
ヒエンが驚くのも無理はない。鬼仮面が変身したアナザーウィザードは原作には存在しない鬼仮面専用の姿であるフォービドゥンスタイルとなっていたし、狐面の少女が変身したアナザーゴーストもまた彼女専用の夢魂と言う姿になっている。どちらもアカデミアの尖兵としてはエースであるはずのユーリですら成し遂げていなかったアナザーライダーのフォームチェンジを行っていた。
「……まずは雑魚を仕留めるか」
アナザーウィザードが三志郎を見る。
「兄ちゃん!!逃げろ!!ここで死んだら兄ちゃんはここで死んだ歴史として地球に刻まれるぞ!!」
「え……!?」
三志郎が逃げようとした瞬間、アナザーウィザードはそのすぐそばまで来ていてその手に装備した鉄爪を三志郎の頭に振り下ろす。
「くっ!!」
三志郎の影から伸びた黒い何かがそれを一瞬だけ防いで霧散する。しかし、その一瞬でヒエンは距離を詰めて万雷で鉄爪を受け止める。
「ふっ、流石に速いな。だがお前に僕を倒せるかな?」
「2006年に来た事を全力で後悔しているさ。けど!!」
アナザーウィザードの腹に膝蹴りを打ち込み、後ずさった相手に斬りかかる。
「くっ、」
その一撃を受けたアナザーウィザードは火花と電気を散らしながら後方に下がる。と、無言のままアナザーゴーストが迫る。
「ヒエンの兄ちゃん!!」
三志郎が叫ぶと1枚の札を出す。
「妖召喚・焔斬!!」
切り札は召喚された。撃符から生み出されたのは炎を纏った赤い牛のような妖だった。焔斬と呼ばれた妖は亜音速で走り、そのままアナザーゴーストに突進。わずかに怯んだアナザーゴーストの下腹部に万雷の斬撃を叩き込むヒエン。
「……っ、」
「ほほうほう、やっと声を上げたな塔子ちゃんや。そんなにお父様からの慰めがお気に入りなのか?」
軽く笑い、次の斬撃。が、それはアナザーウィザードによって止められる。
「下種な趣味だな」
低く吐いたアナザーウィザードはその指輪を光らせる。と、腕に装備されていた鉄爪が炎を纏う槍へと変わり、一撃で焔斬とヒエンを弾き飛ばす。
「フォービドゥンストライク!!」
そして側転とバク転を繰り返しながら魔法陣を貫いて飛び上がったアナザーウィザードの飛び蹴りがヒエンの胸に叩き込まれる。
「ぐうううううううううううううううう!!!」
万雷の鞘で直撃を防ぐが、しかしそれでも十分すぎるだけの破壊力に貫かれたヒエンは三志郎の傍の壁に叩きつけられ、めり込む。
「……最高だよ、この力」
アナザーウィザードが小さく笑い、崩れ落ちたヒエンを蔑むように見る。と、傍らにいたアナザーゴーストが手をかざす。すると、一瞬で戦っていた場所の風景が変わっていく。数秒程度で東京の都市から林道へと変わってしまった。
「何だこれは……」
「これは悪夢だ……!」
「悪夢……!?」
「前に一度塔子姉ちゃん達が戦ってたのを見たことがある。人間の精神を侵略して世界の一部を刈り取って独立させることで少しずつ人間が住む世界を失くしていく、そんな現象じゃ……!!」
「……妙だな。塔子ちゃんが夢使いになったのはあの事件が起きた後のはずだ。2代目童遊斎と日曜星夢使い、この2つを同時に継いだのはあの子が中学生になってからのはずだ」
訝しむヒエン。その前方でまた新たな変化が起きる。道の傍らにある林。その一つ一つが人の形になっていく。しかもそれは青年よりかは歳の行った男性の姿に見える樹体である。
「……おいおい、まさかあの塔子ちゃんはこれを糧にしたのかよ……!」
「どういう事じゃ!?」
「……中学生にはまだ早すぎることだ。と言ってもこれをしているあの子も大して変わらない年齢だと思うがな」
ヒエンは立ち上がり、万雷の一撃で迫りくる樹体の数体を粉砕する。と、その残骸からアナザーゴーストの手が伸びてヒエンの右腕の関節を極める。
「っ!」
「お父様を傷つけていいのは私だけ……」
アナザーゴーストが全身を出してヒエンの腕を極めたままもう片方の手に持った箒神の杖でヒエンの後頭部を殴りつける。遠心力がかかった一撃に脳裏を揺さぶられたヒエンがバランスを崩せば、今度は正面からアナザーウィザードが迫り、その槍を叩きつける。
「ぐっ!!流石にラスボス格のアナザーライダー2体相手は少し厳しいか……!?」
何とかアナザーゴーストを振り払い、再び接近したアナザーウィザードを蹴り飛ばしてから距離を取る。
すると、
「間に合ったようだな」
カブトの声。同時にアナザーゴーストの前にアナザーダークカブトが投げつけられる。
「……天道!?どこに行ってたんだ!」
「未来に」
ヒエンの傍らにカブトが着地。そしてその背後には6つの影。
「日曜星、」「火曜星、」「金曜星、」
「「「遊び奉る!!!」」」
「輝くエレメンタルクローバー!!」
「1,2,3、じゅ~すぃ~!!」
夢使いの力を発動させた塔子、燐子、一、三銃士の6人が構えていた。
「まさかハイパークロックアップで……!?」
「魔法使いと夢使いの相手をするなら同じ魔法使いと夢使いの力が必要なはずだ」
「それに、悪夢を相手するのが夢使いの使命ですから」
「歴史を修正すればサンドリヨンの侵攻も阻止できるかもしれないもんね」
「……援護はする。だからアナザーライダーを頼んだぞ」
ヒエンの言葉と同時に6人が繰り出す。
「ふん、ファンダヴェーレの三銃士と言っても所詮は生身の人間。アナザーライダーに勝てるはずがないだろう?」
「そうかな?君は一人で、私達は3人だよ!」
アナザーウィザードの槍を双剣で受け止めた赤ずきん。同時にいばらの放つツタがアナザーウィザードの手足を縛り、それを白雪が氷漬けにする。
「こんなもの、」
アナザーウィザードは槍の炎で氷を解かす。しかし、
「もっと熱い炎はどうじゃ!?」
三志郎の声と同時に炎を纏った焔斬が突撃し、アナザーウィザードをぶっ飛ばす。そして宙を舞うアナザーウィザードにヒエンがドロップキックをぶち込み、
「受け取れ!三志郎!!」
「!」
三志郎に何かを投げた。それは赤い球だった。
「上位召喚の球だ!!それを使って焔斬を進化させろ!!」
「上位召喚……分かった!!」
三志郎はその球を撃盤に溶け込ませる。すると新たな撃符が出現する。
「行くぞ!!上位召喚!!火皇け!!焔龍!!」
その撃符をスラッシュして読み込ませると、地に降り立った焔斬が激しい炎に包まれ、その姿が変わる。龍の上半身と両腕を備えた上位妖の焔龍となり、その手に矛を握りしめ咆哮を上げながらアナザーウィザードへと突進を始める。
「上位召喚だと!?」
焔龍の斬撃を受け止めるアナザーウィザード。驚愕こそしてはいるもののまだパワーはアナザーウィザードの方が上であり、徐々に焔龍は押し戻されていく。しかしその背後では三銃士達がそれぞれの魔力を1つに集中させていた。
「!」
「トライアングルイグニッション!!」
炎・水・地。3つの属性が1つになった魔力の塊が放たれては、焔龍をすり抜けてアナザーウィザードの胸に命中する。
「うおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ!!!」
その足が大地から、その手が槍から、その体が焔龍から離れて宙を舞い、吹き飛ばされた上空でアナザーウィザードは大爆発した。
「が、あああああ……」
大文字に倒れる鬼仮面。その仮面は砕け、須貝正人としての素顔が表に出される。
「少しずっこいかもしれないけど、一人だったお前が悪いんじゃ」
三志郎が須貝正人に駆け寄ってから呟いた。
そしてどこからか鈴の音が響く。

一方。林道を埋める勢いで無数の樹体が闊歩する。進撃する先は3人の夢使い。
「お姉ちゃん、ここだとドリームサイクロンは使えないみたい!」
「なら正攻法で行きましょう」
塔子はドリル戦車のおもちゃをどこからか出すと箒神の中に入れる。すると、箒神の先端がドリルに変わり、
「せーの、」
高速回転させたドリルを突き出したまま突進を開始。人間離れしたスピードとパワーで次々と樹体を貫通し、虚空へと樹体を消す。
「金曜星、遊び奉る!!」
一が仮面ライダーカリスのソフビを箒神に入れる。
「現世は夢、夜の夢こそ真実!!」
祝詞を唱えると、一の姿がカリスのものに変わり、そのスピードとパワーで次々と樹体を粉々に破壊していく。と、
「あなたは許されない」
アナザーゴーストが残骸から出現し、カリスに後ろから前蹴りを叩き込む。
「ぐっ!!」
「あなたの命、燃やします」
カリスの背中を手を置くと、何かを引き抜いた。
「一!?」
驚く燐子の前でカリスは物言わぬボディとなって崩れ落ちた。
「……どうやら他人に触れただけでその魂を引き抜けるようですね」
塔子は冷静に、しかし猛烈な速さで接近し、一瞬でアナザーゴーストから魂をかっさらう。
「!」
「これでも私、最強の夢使い・2代目童遊斎ですから」
そして倒れて動かないカリスに箒神で触ると、元の一の姿に戻り魂を入れてやると、
「……くっ、ひどい目に遭った」
一が意識を取り戻して立ち上がる。それを見てアナザーゴーストは無言のまま、しかし殺気を備えて塔子に迫る。
「塔子ちゃん!そいつは君だ!!」
「ええ、分かっています」
塔子は一瞬だけ忌々しく悪夢と化した空間を見やる。幼いころに父と過ごした空間。これを実体化させられるほど脳裏に浮かぶことが出来るのは自分しかいない。自分にアナザーがいるとは驚きだがしかし今は怒りが勝っている。
「やっ!」
迫ったアナザーゴーストを箒神で払いのけると、その一撃で悪夢となっていた景色に綻びが生じる。
「現世は夢、夜の夢こそ真実」
言いながら塔子は懐から依り代と呼ばれる紙人形を取り出し、そこに自分の吐息をかけてから箒神に入れる。
「日曜星、遊び奉る!」
その箒神で地面をたたくと、次の瞬間には悪夢となった景色がまるでガラスのように割れて元の東京深夜に世界が戻る。また、正面のアナザーゴーストの様子もおかしくなる。変身者であるアナザー塔子はアナザーである前に悪夢の化身でもある。その悪夢が打ち破られた今その存在証明に亀裂が走ってしまっている。戦闘どころではなく、苦痛がアナザー塔子を襲い、苛む。
「……お姉ちゃん……」
やや恐怖を覚えながら傍による燐子の頭を撫でながら塔子はその断末魔を真顔で見届けた。最後にはアナザーゴーストのウォッチと狐面だけが残っていた。

砕けていく悪夢。飛び散る破片の間を目に見えないほどの速さで何かが行き交っては激突を重ねていた。
「くっ!」
アナザーダークカブトが背中から地面に叩きつける。既に何度目は数えるのを放棄されている。
「……お前では俺には勝てない」
傍ら。無傷のカブトが天に指をさしている。
「教えろ、どうしてお前がタイムジャッカーとなった?どうしてずっと俺の傍にいた?ジアフェイ・ヒエンの前で誰かを仕留めるだけの機会ならあったはずだがそれをしなかった理由は何だ?」
「……僕は、ただお前と一緒にいたかっただけなんだ……。僕のいた未来では誰も生きられなかった。タイムジャッカーだ。奴らのせいで生まれたアナザーカブトがみんなを殺した。カブトの力を奪われたお前も為す術なく……。だけど僕は……奴らの目にかなった。そのおかげでこのアナザーダークカブトになれた。ハイパーゼクターも手に入れた。今の僕は時空を超えられる。タイムジャッカーにも捕まえられないままお前と一緒に暮らせた。だけど、あいつが、ジアフェイ・ヒエンが歴史の修正を行なったら僕は元の歴史に戻されるかもしれない。あの、もう誰もいない世界に一人だけ戻ることになるんだ……。それだけは絶対に嫌だ……」
「……おばあちゃんは言っていた。痛みは自分で耐えることしか出来ない、しかし悲しみは癒してくれる誰かが必ずどこかにいるものだと。ひより、お前はここにいていい」
「……タイムジャッカーに目をつけられているんだぞ……?」
「だが、そのタイムジャッカーももういない」
カブトはアナザーウィザードとアナザーゴーストのウォッチを指さした。
「お前はここで俺と一緒にいていいんだ。それとも雌雄を決したいか?」
「……お前にはかなわないよ。……………………お兄ちゃん」
そしてひよりは変身を解除した。


「……三局の戦いが終わったか」
戦いを見届けたヒエンは引き続き2006年の歴史の修正を進める。
全く原作と同じ歴史にすべきだろう。だがしかし、あれを見させられたら仕方がない。
須貝正人の存在しない妖逆門の歴史とひよりが二人いるカブトの歴史。なに、大した問題でもないだろう。
「そう言えば、結局あいつはどうしたんだろうか」
ヒエンは空を見上げる。生まれたばかりの2006年の雪夜空。それをずっと超えた先。
「せやぁっ!!」
火星。メビウスがナメゴンを撃破する。火星基地に破壊の跡は見られない。この時点でのバン・ヒロト含む調査部隊員達が驚きの声と表情でこちらを見ている。今度は誰一人として死傷者は出していない。
ウルトラ兄弟の一人から歴史を迂闊には変えてはいけないとアドバイスをもらったことがある。今の自分がやっていることは歴史の修正或いはその手伝いに相違ないだろう。実際に今光の国からこの時点での自分が地球に向かってきている。このままではあと数分ほどで鉢合うことになるだろう。
「……」
意味のない話かもしれない。もしかしたら虚空に消える歴史の中かもしれない。しかし、自分に出来ることをしたい。
「……行こうか」
メビウスは最後に火星と地球を眺めてから時空の歪みに飛び込んだ。向かう先は2006年の9月の世界だった。
「……」
それを感覚で理解したヒエンは何も言わずに歴史の修正を始めた。その最後の一歩前。集まったメンバーを前にヒエンは1つ疑問を思い出した。
「なあひよりちゃん。この世界では新宿に隕石は落ちなかったんだろう?じゃあどこからカブトゼクターやワームは来たんだ?」
7年前の新宿に隕石が落ちた事件。あれに乗っていたひより含むネイティブワームによってカブト含むゼクトのライダーシステムは人類にもたらされた。しかしこの世界にその後は見当たらない。ならばどこからカブトゼクターのシステムはやって来たのだろうか。
「多分だけど、僕が元居た世界からカブトゼクターはやってきたんだと思う。僕を追いかけて再びこいつの元にやってきたんだ。それで、この世界のワームの出現理由についてはよく分からない。ただ、7年前に落ちるはずだった隕石は確かにワームの母星を出発している。どんな理由があるかは分からないけど地球を目指して出発して、その途中のどこかで破壊されたか或いは誤って海に沈んだとかそんな事故があったからこの世界のワームはまともに地球に姿を見せることが出来なかった。……とか?」
疑問視混じりの発言。矛盾とか質問とかはあるが、しかし問うべきではないだろう。彼女はただこの世界にこの歴史に亡命してきただけなのだから。
「……じゃあ、そろそろ行くか」
「……ヒエン、このまま2014年に行くのか?」
「いや、気になることがあってな」
ヒエンはスマホを出した。この時代にはまだない代物だがしかし電波や情報は元居た時代から無理やり引っ張ってきている。つまり2018年の情報がここには入っている。そこで先程歴史の修正を行なった後に少しだけウィキペディアを見て念のため影響が起きていないかを確かめている。その結果中々とんでもないことが起きていた。
「ここか或いはそれ以上にやばいことになってる歴史をもう1つ修正してからタイムジャッカーとかアカデミアには殴り込みを仕掛けようと思ってる」
「……俺達はついていかなくてもいいのか?元々敵戦力を削る事だけじゃなくて味方戦力の補充も目的だったんじゃないのか?」
「……まあ、確かにその通りだったんだけどな。2006年の歴史を1月1日からやり直すことにしたから2006年は皆それぞれ自分の1年間を過ごさないと正しい2006年には戻らないんだ。だから、誰も連れていけない」
「……そうか。悪いことをしたな」
「いいさ」
最後にヒエンはその場にいた全員と握手をすると、時空トンネルを発生させてから次の時代へと進んだ。
そう、ウィキペディアから情報が消滅していた世紀末の時代に。

AD1996~果実を継ぐもの

・ドラゴンボール。7つすべて揃えたらどんな願いでもかなえられると言う不思議な球。かつて地球に降りたナメック星人の一人が作り上げたものはその規模を地球だけに限定していたのだが本物の神が作り上げた伝説のドラゴンボールの規模は全宇宙にも影響を与えるすさまじいものだった。しかし代償としてプラネットが存在する惑星でしか使用できず、1年以内に他の惑星で願いを叶えない限りその惑星のプラネットは消滅してしまい、星もまた死に至ると言う。
「………………」
時空を跨いだ直後の上空でヒエンは偶然その伝説のドラゴンボールを7つすべてキャッチしてしまった。通常のドラゴンボールと違い、やや赤澄んでいるその7つの球は見間違いようがない。
「……まじかよ」
空を下りながらヒエンは項垂れた。これが地球にあると言う事は1年以内に別の星でこのドラゴンボールを使わないと自分も地球も死んでしまう。かと言って他のプラネットが存在する星に移動してドラゴンボールを使用すると言う行為がヒエンには不可能な事である。何故ならプラネットはその惑星の脳或いはインターフェースのようなもの。星を出てしまえば本体から切り離されたも同じであり、ジアフェイ・ヒエンとしてはやはり死が確定する。アドバンスとの戦いの際には赤羽のおかげで死体のまま地球に帰ったため大気圏突破したあたりで息を吹き返せたが今回はそれも不可能だろう。
「それに、」
ちらりと空を見る。太陽よりも月よりも近くに星が見える。
「……伝説のドラゴンボールがあって地球の傍に別の惑星がある……決まりだな。今ここは1996年、ベビーが悟空を倒し地球を侵略してえた伝説のドラゴンボールで故郷のツフル星を復活させた直後だ……!」
記憶を整理する。ベビー。宇宙の天才科学者であるドクターミューが開発したツフル星人の遺伝子を組み込んだ突然変異金属生命体(ミュータントエイリアン)の最高傑作。ツフル星人と言うのは悟空やベジータと言ったサイヤ人がかつて滅ぼした星であり、大変科学技術力に優れていたらしい。その遺伝子を受け継ぐベビーもまた科学力に関しては宇宙でもトップクラスだろう。そして実際の戦闘力に関してもその時点で悟空の最強の姿である超サイヤ人3で挑んでも歯が立たないほど。ベビーの目的はツフル星の復活とサイヤ人への復讐。惑星ミューで一度だけ交戦した際に悟空たちから得た地球と言う星に先回りし、悟空の知り合いや家族含めたすべての地球人たちを洗脳して悟空たちを孤立させて精神的にぶちのめしてから弱った悟空をフルボッコにして処刑するのがその目的であり、現状それは恐らくなしえている状況だ。ベビーが伝説のドラゴンボールを用いてツフル星を復活させるのは悟空を倒した後なのだから。
しかし当然ながら悟空は死んでいない。確かギリギリのところで助けが入ったと記憶がある。とは言えそれを加味しても悟空は今地球にはいない。そしてベビーに関してもツフル星に移動して統治を始めている頃だろう。
「しかしこれはまたしてもタイムジャッカーが途中で逃げ出してるパターンじゃないのか?全アナザーライダー集めたってベビーには勝てないだろうし」
着陸したヒエン。すると、正面。怪しいフードを被った集団が火を持ちながら闊歩していた。その集団、どこかで見覚えがある。しかしさすがにこの時点で嫌な予感以上の推測は出来ない。いや、
「……1996年ってことはほぼ確定してるからなぁ。それに地球がこの状況だし、ほぼ間違いなくアイツらなんだよなぁ……」
とりあえず虚空から生み出したリュックサックに7つのドラゴンボールを入れて背負う。しかし状況は2006年の時よりまずいかもしれない。2006年では妖、デジモン、ワーム、怪獣、悪夢、サンドリヨン軍など敵が盛りだくさんだったが全てどれも各個撃破が可能な連中だ。何よりアナザーねいどによって人類の味方側も呼び出されている。しかし今回は厳しいだろう。何せベビーによってほぼすべての地球人は洗脳されている。そのベビーを倒そうにも悟空は地球にはいない。それにベビーも地球にはいないし、もう用もないだろう。地球に来ることもなければ、邪魔だと判断したが最後一撃で地球粉砕と言うのも十分あり得る。
「……とりあえず洗脳されていない人間を探すか」
ヒエンはプラネットの力で広域スキャンを開始する。地上にまだ残っている人間達の一人一人のDNAを検査、洗脳されている状態とされていない状態に切り分ける。開始して10秒もすれば地球上のすべての人間のDNAの解析が完了できた。
「……思った以上に洗脳されていない人間もいるな。それにこの反応……」
ヒエンは気になった反応の座標を確認するとそこへ瞬間移動した。

「魂のない人形は導かれません」
「魂のないものは悪魔なのです」
「悪魔は滅ぼさなければなりません」
怪しいフードの連中が呪文のように感情のない声で唱える。
「馬鹿野郎!!こいつらが悪魔なもんか!!」
対しているのはポニーテールの少年だった。金メッキに似せた黄色いカラーリングが使われた白い甚兵衛、麻布製のズボン、腰には十手、独特な訛りなど、どう見ても江戸っ子な風貌。彼の名は間宮小樽。髪が長く、童顔なこともあってか以外に見えるかもしれないが既に16歳である。その小樽は背に4人の少女を隠していた。
「小樽……」
小樽に似た白と黄色カラーの着物、下は全身タイツで胸と股間を隠すように白い金属製のパーツがついている。何より目立つのがバスケットボールほどの大きさもあるルビーをつけた頭に巻いたバンダナだろう。その少女の名前はライム。
「小樽様……」
葛飾北斎あたりの絵に描かれそうな如何にも江戸美人と言える風雅な和服に身を包み、ライムのそれと同じくらいの大きさのピンク色の宝玉を2つ頭に付けた少女。チェリー。
「……小樽!」
まるで祭囃子の中にいて太鼓を叩いてそうな派手な和装と小樽のそれをはるかに超える毛量のポニーテールを生やした大柄な少女・ブラッドベリー。
そして、
「……小樽、大丈夫……?」
へそ出し黄色シャツとミニスカと紛うような短パン、カチューシャをつけているがそれでも全く抑えられていない鬣のような茶髪の癖っ毛を持った少女。その名もまたライム。
この4人の少女達を背に小樽は今にも十手を抜いて目の前のフードたちをぶっ飛ばさん勢いで相手を睨んでいる。ただし小樽はそこまでタイマンに強くない。況してや相手は5人。小樽一人で挑めば間違いなく返り討ちにあって2,3日はまともに体を動かせなくなるだろう。相対しているフードたちはその表情を一切見せずに少しずつ小樽たちへの距離を縮めていく。そしてその人ならざる手が小樽に迫ろうとした瞬間。
「てやんでぇ!!」
空からミサイルのようにヒエンが飛来してフードの5人をぶっ飛ばす。
「ぐっ!」
「な、何だ!?空から人が!?」
「……やっぱりマリオネットがいるのか……!しかもライムが二人いるだと……!?それよりも……!」
ヒエンがフードの5人を見る。やはりその姿は人ならざるものだった。
「キリエル人!!ベビーに支配された地球でさえも乞食しようと言うのか!?」
「……我々を知っているのか……」
「知らないこともあるがな。おい、今すぐ答えろ。タイムジャッカーはどこにいる!?」
「……え?」
後ろでカチューシャライムが小さくつぶやいたのをヒエンは聞かなかったことにする。
「……知らない話だ」
それだけ呟くとフードの連中はすーっと消えていった。
「……あんた一体……」
「ジアフェイ・ヒエンだ。間宮小樽」
「……あんたどうして俺の名前を……!?」
「話したいこと、聞きたいことが色々あるからどっか案内してくれないか?」

小樽に案内されたのは小樽が住居としている飛脚屋「間宮」。
よく考えたら2014年以来全く食事をしていなかったヒエンは小樽と共に江戸時代の飯をたらふく平らげる。
「それで、話してくれねえか?」
「ああ」
一息ついたところでヒエンはこれまでの経緯などを話す。そして逆に現在の地球の状況を質問した。
「ああ。1か月くらい前にいきなりあのベビーって奴が現れてあっという間に地球人たちを洗脳しちまったんだ」
「……違和感だなぁ」
「何が?」
「いや、何でもない。で、どうしてお前は無事なんだ?」
「守ってくれたんだ、こいつらが」
小樽は背後で遊んでいるライムたちを見る。確かに自動人形であるマリオネットまではベビーも洗脳出来ないだろう。あれ、寄生型だし。
「……4つ確認したいことがある」
「おう、何だ?」
「1つ、この星には普通の、人間の女性も存在しているのか?」
「当たり前じゃねえか」
「……2つ、孫悟空って知ってるか?もしくはミスターサタン」
「孫悟空ってのは知らねえがサタンってのは聞いたことあるな。何か格闘技の世界チャンピオンとかってテレビでやってた気がする」
「……江戸時代人がテレビを見るのか」
違和感抜群だがしかし飽くまでも江戸時代をモデルにしただけで実際は22世紀以降が舞台だったから技術的な問題はないだろう。
「3つ目、この世界にGUTSって組織はあるか?」
「確か1年くらい前まではあった。けど、ベビーの襲撃の際に多分全滅しちまってる」
「……ウルトラマンティガもか?」
「ウルトラマンティガ?なんだそれ」
「……じゃあ、最後に」
ヒエンは一度だけカチューシャライムを見た。カチューシャライムはバンダナライムたちと遊んでてこちらの会話は聞こえていないようだ。だから告げた。
「あのカチューシャつけた方のライムとはいつどこで知り合ったんだ?」
「……どういうこった?」
「……あまり言いたくはないが、あっちのライムは時代が違うんだ」
「時代?」
「ああ、こっちが未来から来たってことは伝えたよな?それで間宮小樽、ライム、チェリー、ブラッドベリーは確かに1996年に存在していた。だが、その際にライムはあっちのバンダナ巻いた方のライムなんだ。カチューシャつけて洋服来た方のライムは……ちょっと複雑だがとにかく同時に存在できるはずがないんだ。何故ならカチューシャの方は遥か未来にてあのバンダナ巻いたライムの2号機として製作されたんだからな」
「……つまりそれってことは……」
「……本来この時代に存在しない存在。つまり、あのカチューシャつけた方のライムは……」
「……そうだよ。僕はタイムジャッカーのアナザーライムだよ」
と、そこへカチューシャライム改めアナザーライムがやってきた。いつもの子供のような笑顔でなく覚悟を決めたような真顔で。
「……あっけなく告げたな」
「……うん。君がジアフェイ・ヒエンなんでしょ?」
「そうだ」
「……でも僕は小樽を殺さない」
「……」
「だって僕小樽のこと好きなんだもん……」
一瞬、ヒエンは否定の言葉を吐こうとした。このライムが好きなのは小樽ではなくヴィレイ・ジュニアなのだと。ジュニアと小樽は確かにDNAレベルで酷似しているが全くの別人。たとえアナザーであってもそこを違えて欲しくはないとそう願ってしまった。だが、それもまたむごい話だろう。アナザーライムがいると言う事は彼女がいたロマーナの未来はタイムジャッカーの襲撃を受けている可能性が高い。そしてアナザー化して小樽を好きになっていると言う事は本当のカチューシャライムのジュニアへの想いもまた消えているかもしれない。アナザーでほぼ同一人物とは言えその心は全くの別人だ。同じ姿だからって同じ人を好きになれと言うのは傲慢な話だ。
「アナザーライム、いや敬意を表してカチューシャライムと呼ばせてもらおう。カチューシャライム、君はタイムジャッカーを裏切るのか?」
「……うん。タイムジャッカーからは君が来たら小樽を殺せって言われてるんだけど僕はどうしてもそんな気になれないよ」
そうしてカチューシャライムは懐からアナザーライダーのウォッチを出した。そこには見たことがないライダーの顔が刻まれていた。
「何だこれは……?」
「このアナザーライダーが誰かは分からないけど、でも僕はこれを使うつもりはない。僕はただ、小樽と一緒にいられたらそれでいいんだ」
「……分かった」
「いいの?君の目的はタイムジャッカーの戦力を削る事でしょ?」
「そうだぞ?けど君に戦うつもりはない。なら戦力じゃない。だから僕は君を倒すつもりはない。その代わりにこの96年の情況を教えてくれ。タイムジャッカーから派遣されてきたアナザーは誰でどれくらい来ている?」
「……僕が知っている限り二人。一人は分かると思うけど……」
「……アナザーティガ」
「そう。半年ほど前に、タイムジャッカー最初の手としてティガ復活の直前に光のピラミッドからティガをアナザー化させた。だからこの世界にGUTSはいてもウルトラマンティガはいない」
「……だからキリエルの連中がのさばってるってわけか」
「キリエル人は古代人で、今の地球人とは組織が違うとかでベビーも洗脳しなかったみたい」
「……話の腰を折ってしまうが、ベビーが、いや、悟空とかがいるってことは魔人ブウとかもいるわけだろう?って事はこの星も何回か破壊されてるんじゃないのか?」
「だから地球は今までになかった防衛装置として君を作った。1994年1月14日。でも、」
「魔人ブウによる地球破壊はその後のはず。……つまり地球がプラネットを、僕を作り上げたきっかけはセルのはずだ。あいつのかめはめ波は太陽系すら消し飛ばすからな。だが、それだとつじつまが合わない。……いや、そうでもないのか」
「……魔人ブウに破壊された地球をドラゴンボールで復活させた時に君も生き返った。つまり君は既に一度生まれて間もない頃に魔人ブウに殺されてるってことになるね」
「……だが、少なくとも僕が生まれた時に魔人ブウがどうのこうのって歴史はなかった。恐らく僕がそこで生まれ変わった際に歴史の修正を行なって地球をぶっ壊せるような連中の存在を排除したんだろう。だが、そうなるとまたおかしいことが起きる。じゃあどうして再び地球を脅かすような存在が地球を襲っているんだ?95年までは現実に起きていたドラゴンボールの物語は96年にアニメ「ドラゴンボールGT」としてアニメ化された。その上で世界5秒前説の要領で過去に起きたドラゴンボールの物語もただのアニメとして歴史は修正されたことになるはずだ。それでどうしてGTのベビーが現実を襲っている?」
「……そこまでは僕にも分からないよ」
「……悪い。喋りすぎた」
隣を見れば小樽は理解を放棄してバンダナライムたちに取り合いのエサとされている。見ればカチューシャライムはうずうずしている。あの取り合いに参加したいようだった。
「……まあいいや、で、悟空はどこにいる?」
「あの世。そこで界王神から尻尾生やさせてもらってると思う」
「よし、行ってこい」
ヒエンの合図から0.1秒でカチューシャライムはミサイルのように小樽に飛び込んだ。それをほほえましく見ながらヒエンは椅子に座り、コップに酌まれた水を飲みながらスマホを見た。もちろんウィキを参照するためだ。主に96年のウィキを見る。しかし、何もページがない。先程解決し、確立したばかりの2006年も2003年もページが一切存在しなくなっている。つまり本来フィクションとして歴史に刻まれるはずだったドラゴンボールの物語が現実(ノンフィクション)になってしまった事で96年以降の歴史が白紙になってしまったと言う事だろう。
「……本来2006年を侵略する予定だったアカデミアはしかし2006年が混迷過ぎた影響で撤退。その代わりに1996年を襲ったと言う事か?」
原因はともかくとしてこれからどうするか。悟空があの世から帰ってきてツフル星でベビーを倒すまでの間に出来ることと言えば精々キリエル人を蹴散らす事くらいだ。いや、厳密に言えばほとんど情報はないがアナザーティガの存在は確定している。ならばアナザーティガを……倒す?どうやって?
「流石にあのサイズをどうにかするってのはなぁ……」
ライクーザがあればまだしも生身で戦うのは少々厳しい。それに戦えたところでアナザーティガを倒すことは不可能だ。恐らくアナザーティガを倒せるのはティガ本人を除けば超古代の戦士と言うのが条件……。
「……お、」
邪心が芽生えた。今自分の顔はベビー並みに凶悪になっているだろう。
「小樽、少し席を外す」
「あ、お、おう……!あ、こら!ライム!!腕!!腕外れちまう!!」
小樽の様を声に出して笑いながらヒエンは瞬間移動した。


「!」
「よう、」
到着したのはキリエル人がアジトとしている地底都市だった。無数のフードたちがヒエンを見て驚いたり警戒したりしている。その中ヒエンは邪悪な顔をして告げた。
「アナザーティガって知ってるか?超古代の戦士であるお前達ならばアナザーティガを倒すための条件は整っているはずだ。探し出して倒してみろよ。そうすれば地球の神話の1つくらいにはしてやるぜお前達」
その日よりキリエル人は全精力を上げて地球の至る所でまるで魔女狩りのようにアナザーティガひいてはアナザーティガのウォッチを持った人間の捜索を開始した。
「……あっさりと寝返るよなアイツら」
キリエル人を脅迫してから三日。悟空の帰還を待ちながら小樽の家でくつろぐヒエン。
「なあ、カチューシャライム。ベビーとタイムジャッカーは繋がってないのか?」
「知らない。でも最低でも一度くらいは関わってると思うよ?あなたの言う通りフィクションで終わったはずのベビーが現実世界に出て来てるんだから」
「……その際にタイムジャッカーの手引きはあるはずか。しかしタイムジャッカーもアナザーエンハンスを生むためだけに96年以降の全歴史を歪ませるものか?」
ベビーによって地球を侵略。しかしベビーは地球の外にいるためヒエンは直接手出しは出来ない。だからベビーを倒せる悟空を待つしかない。その間ヒエンに出来ることはこの小樽のところで暇をつぶしながらアナザーティガを探し続けるしかない。そうして、ヒエンから動けない状況を利用してアナザーライムを用いて小樽かバンダナライムとかでも始末すればあっさりと事は済む。そう言う算段としては悪くはない。だが現にアナザーライム……カチューシャライムはタイムジャッカーを裏切って日常している。このままいけばいたずらにベビーによる歴史崩壊を進めるだけだ。ベビーの目的はサイヤ人への復讐とツフル人文明の復活だけで、別に地球がどうなろうと知ったことではないのだから仮にタイムジャッカーから交換条件としてヒエンの周囲を殺せと言われたところで従うとも思えない。暫くはツフル文明復活で忙しいだろうし。そしてこちら側からも最悪ベビーは放置して構わない。
「……そう言えば原作であの後ツフル星どうなったんだろうな」
メタなことを考える。現状ツフル星は太陽や月よりも地球に近い位置にいる。しかし自転や公転はしていない。このままだと場合によっては地球のそれに何かしらの影響を成すかもしれない。場合によってはツフル星にも影響がある。もしそうなればベビーは地球を破壊するかもしれない。
「……いや、」
その考えは甘い。この距離で地球を破壊すればそれこそツフル星に影響と言うか被害があるだろう。スライト・デスの時は互いにプラネットがいたから相手の星を攻撃しても自分の星を守ることが出来た。しかし地球はともかくツフル星にプラネットはいない筈。だからベビーも地球を攻撃できない。
「……ブルマに何かさせるかもな」
現在ベビーはベジータの肉体を乗っ取っている。その妻であるブルマも洗脳している。そのブルマの科学力を用いればツフル星をどこかへ移動させるかもしれない。まあ、ツフル星にバリアを張って地球を破壊する可能性もあるが。
「しっかし、こちらから動けないのは癪だよな」
現状ヒエンに出来ることは限られている。ベビーを刺激しないように、アナザーティガを探しながら静かに待機。そのアナザーティガ捜索もキリエルの連中にやらせているためヒエン本人としてはやることがない。かと言ってあまり時間をかけすぎるとタイムジャッカーやアカデミアの本隊が動き出してしまう。それに士も危ない。
「……士、さくら、シオン、ドロシー、レオナ……どうしてるだろうな」
2014年の戦いから体感時間は約5日。アナザーライダーを倒せる戦力である士はもしかしたら処刑されているかもしれない。最低でもアナザーディケイドの材料にはされているだろう。
「……」
ヒエンはあれから風呂に入る時以外ずっと身に持っているリュックサックを見る。その中にはドラゴンボールが入っている。これを使えばある程度の願いはかなう。ベビーを倒せは無理だろうがツフル星を宇宙の彼方に移動してほしいとかならかなえられるだろう。ただし、このドラゴンボールを地球で使えば1年後に地球は滅ぶ。もしそこで歴史の修正をしてしまえば地球の歴史は1997年で終わってしまう。かと言ってヒエンは地球の外には出られない。だからこのドラゴンボールは最後の切り札だ。
「……」
2006年の時のようにこのドラゴンボールを使ってベビーが来る前の時間に戻すのはどうだろうか。その上で歴史の修正を行なえばほぼ間違いなくベビーの存在はフィクションに戻る。しかしその後にタイムジャッカーによってベビーを連れて来られたらどうしようもない。よしんばベビーが戻ってこなくてもそうなった場合地球の寿命がどうなるか分かったもんじゃない。歴史の修正を行なっても1年後に、1997年に地球の消滅は確定するのか。それとも歴史の修正でドラゴンボールを使わなかったことになるから無事なのか。
「……あ」
1つ、可能性を忘れていた。
ベビーは現在地球人の大半を新生ツフル人としてツフル星に移住させている。現在地球にはほとんど人間は残っていない。それにアナザーティガは通常のティガ同様ウルトラマン、アナザーウルトラマンであるならば普段は地球人の姿をしている可能性が高い。
「……ツフル星にいる可能性があるのか……!!」
ベビーとタイムジャッカーに何かしらの関係がある以上アナザーティガもまたツフル星でベビーとともにいる可能性は十分に考えられる。それどころか地球人を媒体にしている以上ベビーに寄生洗脳されている事だって十二分に考えられる。ベビーがもしもヒエンに関する情報を、ザ・プラネットと言う事を知らされていた場合自分もアナザーティガもツフル星と言うヒエンが手出しできない状況に置き、ドラゴンボールを使おうにも地球でしか使わせない=1年後に地球の自滅を引き起こすのを誘っているのだとしたら、
「……詰みなのか……!?」
悟空が帰ってきてもツフル星にはベビーだけじゃない。アナザーティガまでいる。ベビーの洗脳済みだとしたら悟空の敵に回る事だってあり得る。そうなれば悟空は強敵であるベビーだけじゃなくて決して倒せないアナザーティガの相手までさせられることになりかねない。もしそうなれば原作通りに悟空が勝利すると言う運命が覆るかもしれない。
「……あと今更気付いたがワームの乗った隕石が地球に届かなかった理由は、ベビーがツフル星に向かって落ちてくると思って迎撃したからだなきっと」
だとすれば少なくともあと3年はベビーが生き残る。つまり悟空は勝てないと言う事の証明になってしまう。
「……これドラゴンボールでどんな願いを叶えたら万事解決するんだよ」
「……あまり悩みすぎても体に悪いぞ?」
小樽が水を汲んで戻ってきた。
「……そう言われても仕方がないだろ。地球の危機なんだから」
「けどそれだったらお前ぇだけの危機じゃないよな?」
「……お前に何か出来るって言うのか?」
「確かに俺はお前ぇよりはるかに弱いさ。あのキリエル人だってタイマンじゃ勝てないだろう。けど俺は地球の外に出られるんだぜ?」
「……お前まさか……」
「ああ。俺ならツフル星に乗り込んでそのドラゴンボールってのを使える。ツフル星を宇宙の彼方に移動させるって言うプランも実行できるんだ」
「……だけどそんなことしたらお前はどうするんだよ!どうやって宇宙の彼方から帰ってくるつもりだ!?」
「……さあな。まあ願いを叶えたらベビーに殺されるか洗脳されるかだろうな。ライムたちが庇ってくれるだろうが多分あいつらがぶっ壊されちまう。だから俺一人で行く」
「死にに行かせられるか!」
「ならほかにどんな方法があるってんだ!?いつベビーが気まぐれで地球ぶっ壊すかもわからねえ!このままいけば孫悟空って奴もベビーに勝てねえ!!じゃあどうする!?他に何か、どんな方法があるって言うんだ!?」
「それは……」
「……確かに俺が死んじまえばお前はアナザーエンハンスってのを生み出しちまうかもしれねえ。でもそうじゃないかもしれないだろ?ライムたちは残す。あいつら好きに使っていいから元気に……」
「駄目だよ小樽!!」
と、そこでバンダナライムがミサイルのように突っ込んできた。
「ごふっ!!」
「小樽、死んじゃうの!?そんなの僕やだよ!!」
「私も、とても我慢できません……」
「どうして一人で死にに行こうって言うのさ。あたし達だってどこまでだって小樽についていくよ!?」
「お前ぇ達……ツフル星に行けばお前ぇ達は間違いなくぶっ殺されちまうんだぞ?」
「それでも小樽と離れたくない……」
「……」
小樽がそれでも何かを言おうとした時だ。
「!!」
ヒエンがとてつもない悪寒を感じた。そして、
「お前達だな?ベビーと戦おうとしてるのは」
ドアを開けてやってきたのは魔人ブウだった。
「魔人ブウ……!!」
物心つく前に自分を殺した存在。既に2000年以上経っても心がそれを覚えているのか、魔人ブウのいる雰囲気だけで不整脈が起きそうになる。しかし魔人ブウは続けた。
「俺も一緒に行く。俺がベビーの気を引き付ける。悟空が来るまで時間を稼ぐ。だからその間にお前達がツフル星でドラゴンボールを使え。俺は瞬間移動が使える。もしもドラゴンボール使った後に俺が生き残れていたらお前達連れて地球に帰る。これならお前達生き残る確率は0じゃない」
「……お前ぇ、地球を滅ぼしたのに地球のために戦ってくれるって言うのか?」
「地球滅ぼしたのは俺じゃないブウだ。俺、友達のために地球のためにベビーと戦う!」
「……友達のため……」
「……魔人ブウ、お前の生まれ変わりの事は知ってるか?」
「……ウーブだな?」
「そうだ。あいつも恐らくまだこの地球上のどこかにいるはずだ。ベビーの洗脳を受けていない。あいつも連れていけ。恐らく2対1でもベビー相手は厳しいと思うが一人よりかはマシのはずだ」
「……分かった」
「……ところでどうしてお前、ここでうちらがベビーと戦おうとしている事を知った?」
「聞いた。空飛ぶ電車の中にいる奴に」
「……空飛ぶ電車?……デンライナー!?」
「そんな名前だった。それでこいつもあずかってる」
ブウは口から石板のようなものを出す。そこには一人の青年のような姿が刻まれていた。
「……マドカ・ダイゴ!?」
「知ってるのか?」
「……いける」
「え?」
「……行けるぞ!この勝負、行けるかもしれない!!」
ヒエンは久方ぶりに笑顔を見せながらダイゴが眠る石板に駆け寄った。

AD1996~Pr0of of Myse1f

・一晩。魔人ブウがウーブを探し出し連れて来て、目を覚ましたダイゴ共々事情と作戦を話した夜。
「……」
カチューシャライムが満月の代わりに夜空を飾るツフル星を見上げていた。
「……どうした?」
ヒエンが厠から出て来る。
「……うん。僕はどうしようかなって。あっちの僕達と気持ちは一緒だよ。僕も小樽を守りたい。でも、アカデミアは許さないよね。アナザー態でありながらアカデミアを裏切ってオリジナルと仲よく恋愛してるなんて」
「……ベビーに真っ先に始末されるかもしれないって事か」
「それだけじゃないよ。もしかしたらこれを強制的に使わされるかもしれない」
カチューシャライムはアナザーウォッチを出す。そこに写るのは見たこともないライダー。アナザースパークスやアナザー電王つまり丹羽大助やユーゴは半ば操られる形でアナザーライダーになって襲い掛かってきた。つまりアナザーライムとしては自由があるがアナザーライダーになったら最後、アカデミアやタイムジャッカーの意思に逆らえなくなる。最悪の場合バンダナライム達と戦い、そして小樽をその手で殺めてしまう可能性がある。それをカチューシャライムは恐れているのだ。
「……僕はどうしたらいいのかな」
その問いはヒエンに対してではない。月光を遮るツフルの星と、池に映る自分の顔と自分自身に対しての問いだ。しかしその答えはツフルの星も月も太陽も池の水もカチューシャライム本人にも出せない。
「……カチューシャライム、いや、ライム」
「……なに?」
「君は自分を人間だと思うか?」
「僕はマリオネットだよ。……ううん。それをコピーしたアナザー態に過ぎないからどうなんだろうね」
「じゃああっちのライム達は自分達の事をどう思ってると思う?」
「……わかんないよ、そんなの」
「ああ、そうさ。自分の事も他人の事も分からない。それが人間って奴なのさ」
「……僕が人間……?機械の体をしているのに?」
「そんなに珍しい事じゃない。こういったら人間至上主義と思われるかもしれないが、心のないものは人間じゃない。けど、心が芽生えたらその時点で既にそれは人間なんだ。いや、ただ感情だけで動くような連中もいるからそいつらよりもよっぽど心の綺麗な人間。君は今、そんなところにいる」
「……それで、僕はどうしたらいいの?」
「それは君が決めることさ。人間ならそれが出来る。それが出来るから人間は強いのさ」
ヒエンもまた満月の代わりとなっているツフル星を見上げた。
「……ジュニアがいない仲間もいない。自分が作られた偽物だってわかってる。そんな孤独の中でも君は新しい星を見つけられたんだ。その星のために粛清を恐れずに自分の心に素直になっている。大したものだよ」
「え?」
カチューシャライムがヒエンの方を見る。と、
「あ」
寝室からダイゴが出てきた。
「厠……トイレならあっちだぜ」
「あ、ありがとう」
ダイゴが厠に向かう。その前に
「ねえ、」
「ん?」
「君は僕を人間だって思う?」
「……人間とかそうじゃないとかってそんなに重要な事でもないと思う」
「え?」
「自分は……自分にしかなれないから。でも、人間は自分と言うものを変えられる。人間は自分の心で光にも闇にもなれるんだ。作られただけの機械ならそのどちらにもなれないよ」
それだけ言ってダイゴは厠に向かった。
「……僕、光になれるのかな?」
「……なれるさ。もっとすごいものにだってな」
ヒエンは軽く笑い、カチューシャライムの頭を撫でた。
「…………」
それらの一部始終を小樽は襖の向こうで聞いていた。


翌日。ついに作戦が開始される。
「ギリギリのタイミングだった」
魔人ブウが言うには今日、悟空が帰ってきてベビーとの決戦に臨むらしい。だからそれに合わせて決行する。
間宮家の庭に集まった顔ぶれ。
小樽、バンダナライム、チェリー、ブラッドベリー、カチューシャライム、魔人ブウ、ウーブ、そしてキリエル人。
この8人がツフル星に向かう。もし悟空より先に到着した場合はベビーの居場所を探り、悟空到着と同時に魔人ブウとウーブが加勢する。悟空の方が先に到着していた場合は無論即加勢。そしてアナザーティガが現れたらキリエル人が戦闘魔人形態であるキリエロイドに変身して応戦。しかし恐らくキリエロイドではアナザーティガには勝てない。だから戦いの間に小樽達がツフル星でドラゴンボールを使う。願うは1つ、マドカ・ダイゴにティガの光を与えること。願いを叶えたらダイゴはティガに変身してツフル星に行き、キリエロイドと協力してアナザーティガと応戦して撃破する。後は原作通り悟空がベビーを倒してくれれば万事解決だ。なお、作戦中にヒエンは地球人たち全員の寄生洗脳を解除する。もちろん作戦終了後にツフル星から帰って来た地球人たちも同じ処置をする。
「こっちが出来ることはほとんどないが、みんな決して無理はせず頑張ってくれ」
ヒエンは一人一人と握手をする。最後にカチューシャライム。
「……行くんだな?」
「うん。小樽を想う気持ちでもう一人の僕に負けたくないもん」
「……そうか」
ヒエンとカチューシャライムが握手をする。
「……小樽より先に会えたらよかったのに」
「ん?」
「何でもないよ」
「……じゃあ行ってくる」
小樽の言葉でカチューシャライムが離れて小樽の傍に寄る。しかし流石にこの雰囲気でいつものような乱痴気騒ぎは起きなかった。
「ドラゴンボールの願いをかなえたら俺がテレパシーで伝える」
「助かるぜ、ブウ」
「……お前殺して悪かった」
「お前じゃないんだろ?」
「……となると僕ですか?」
「ウーブでもない。気にすんな」
ヒエンの言葉を受け、ブウと手をつなぎさらにその者が手をつなぐことで8人が接触し、
「じゃあな」
小樽の言葉と同時に8人はツフル星へとテレポートした。
「……さて、こっちも一応用意だけしておくか」
ヒエンは万雷を引き抜き、気付かれないくらい少しずつ魔力のチャージを始めた。ダイゴはそれを見守りながら静かにツフル星を見上げた。


ツフル星。
ベビーが玉座に座りながら、ブルマを侍らせながら家臣とした地球人たちに忙しなく指示を飛ばす。
人間ではなく不老不死で飲食を必要としないベビーだからこそ出来る24時間フル稼働。家臣達も8時間交代で50人3セットずつのシフトでベビーからの指示を遂行していく。
「……ふう、とりあえず三日でツフルの法律と言語は制定出来たな」
「お疲れ様です、ベビー様」
「俺に疲れなど……ん?」
指示を飛ばし、作業に向かった家臣達50人が一斉に姿を消した。見れば全員飴玉になって地面に転がっていた。
「何事だ……?」
「……後でちゃんと元に戻す」
前方。50個の飴玉を念力で操り、瓶の中に入れながら魔人ブウとウーブが姿を見せた。
「なんだ貴様」
「魔人ブウ!」
「そしてウーブ!!」
「……ふん、魔人ブウか。聞いたことがあるぞ。確か1年ほど前に地球を滅ぼした奴だったな。孫悟空が超サイヤ人3になってやっと倒せたと聞いたがその超サイヤ人3も大したことなかった。お前に勝ち目があるとでも?」
「やってみなきゃわからない」
「ベビー!地球人たちの洗脳を解くんだ!」
「ほう、貴様も地球人でありながら洗脳されていないのか。機械人形たちに守られていたわけでもあるまいし、なかなかの腕はあるようだ。……久しぶりに運動でもしてやろう。魔人ブウと最強最後の地球人。肩慣らし程度はさせてくれよ?」
ベビーが指と首を鳴らしながら玉座から立ち上がる。そして、空中にて激突が始まった。
「……アナザーティガとやらはいないようだ」
キリエル人が陰から様子を探る。ふと空を見上げればベビーは両手を組んだまま足だけでブウとウーブを相手している。ベビーが遊んでいるから何とか互角の勝負をしているが恐らくその気になればブウとウーブを瞬殺することだって簡単だろう。
「……我々が地球の守護神となるためにも早くドラゴンボールを使ってくれ。間宮小樽」
キリエルが祈る中、小樽達はベビーたちが戦っている場所とは正反対の位置にいた。ヒエンから預かった7つのドラゴンボールを並べて
「いでよシェンロン!!そして願いをかなえたまえ!!」
小樽の声に反応し、ドラゴンボールが輝く。一瞬だけツフル星全体の空気を揺るがして現れたのはマグマのように赤黒い巨大な竜・伝説のドラゴンボール専用の赤いシェンロンだった。出現と同時にツフル星全体が太陽光を遮断して夜となる。
「……何だ!?」
突然夜となった事でベビーが驚きの声を上げる。
「この現象、前にも見覚えがあるぞ……?まさかドラゴンボールか!?貴様たち!!」
ベビーはパンチの一撃でブウを地平線の彼方までぶっ飛ばし、迫ってきたウーブの拳を受け止めると膝蹴りをぶち込んでから地面に向かって投げ落とす。
「ぐっ!!」
それまでまだ互角にやれていたと持っていた形勢が一瞬で崩れた。ボロボロになって倒れるウーブの真上の空をベビーが貫く。
「せっかく作ったばかりのツフル星を壊されてたまるか……!!
「させない……!!」
猛スピードで空を貫くベビーをブウが羽交い絞めにする。
「貴様!どけ!!」
「どかない!離さない!!俺、前に地球壊した。あれは俺じゃない俺だけど、でも迷惑かけた!今度は謝る番!!そのためにお前止める!!」
「こざかしいデブが!!」
ベビーのエルボーがブウの顔面を貫き、そのまま手刀でブウの体を縦に両断する。が、真っ二つになったブウの肉片が蠢き、膜となるとベビーを包み込む。
「行かせるもんか……!!」
「気持ち悪い奴め!!」
ベビーは殴る蹴るでブウを剥がそうとするがブウは剥がれない。顔面を貫かれようと体を真っ二つにされようともブウは死なない。だが、体力の限界と言うものはある。ベビーの一撃一撃でブウの体力は激しく削られている。ベビーが10秒ほど全力の攻撃を打ち込めばすぐにその限界に到達する。しかしブウはベビーを離さない。
「こいつ、不死身か!?」
「お前を……行かせない……!」
「くそっ!!」
手刀や貫手を用いてブウの膜をぶち破り、外に出ようとすると今度はその体重を何倍にも重くしてベビーにのしかかる。
「貴様……!!」
「……早く……」
死期に近いブウは願う。
一方、小樽達。
「……くっ!」
小樽が膝を折る。十手は折れ、自分を守ってくれているライム達は息を切らせている。
「……いい作戦だったと思うよ」
正面。そこにはアナザー龍騎がいた。
「小樽から離れろ!!」
ライム達4人が一斉にとびかかるもアナザー龍騎はこともなげに4人を叩きのめし、カチューシャライム以外はまとめて蹴り飛ばした。
「ライム!チェリー!ブラッドベリー!!」
「ううう……」
小樽の叫び。3人は苦痛に表情を歪めるのが精いっぱいと言う風に倒れたまま。それを見もせずアナザー龍騎はカチューシャライムをその場に殴り倒して背中を踏みにじる。
「うううう!!」
「君、アナザー態だよね?どうして僕の邪魔をする?君に与えられた役目はジアフェイ・ヒエンの前で間宮小樽を殺すことだったはずだけど?」
「ち、違うもん……!!」
「違わないさ。それとも君は機械のくせに人の言うことも聞けないの?欠陥品じゃないのかなそれって」
「確かに僕は……マリオネットとしてもアナザーとしても欠陥品だと思う。……でも、だからこそ僕は人間になれたんだ……光にだってなれるんだ……!!小樽は光だ!!僕は小樽を守る光になりたい……!!」
「違うよ。君の役目は間宮小樽を殺してアナザーエンハンスを生み出すことだけだ。それ以外を考える必要はない。……出来ないのだったら君を破壊する」
「くっ……!!」
アナザー龍騎が生み出した剣をカチューシャライムに向ける。その時。
「させない!!」
そこへ等身大のキリエロイドがやってきてアナザー龍騎に飛び蹴りを打ち込む。
「くっ!!何だこいつ……使徒か!?」
「そうさ。我々は地球よりの使徒。キリエルの戦闘形態キリエロイド!!」
キリエロイドがテコンドーを彷彿とさせるような流麗な足技でアナザー龍騎を下がらせる。その上少しずつ巨大化していき、52メートルの大きさとなってアナザー龍騎を蹴散らす。
「早く願いをかなえてしまえ!」
「……か、かたじけねえ!!」
何とか立ち上がった小樽が赤いシェンロンを見上げる。
「願いは1つだ。地球にいるマドカ・ダイゴって言う人にウルトラマンティガの光を授けてくれ!!」
「たやすいことだ」
赤いシェンロンの目が輝くと、タイムジャッカーによって修正された歴史の一部が再生され、
「!」
ダイゴの前に1つの光が飛来した。ダイゴがそれをつかむと、光はスパークレンスへと変わった。
「……」
「……ああ」
目くばせしたヒエンはうなずく。スパークレンスを握った瞬間にダイゴは失われたはずの歴史を思い出して構え、スパークレンスを掲げた。
ヒエンの目の前でダイゴは紫色の光に包まれ、次の瞬間にはウルトラマンティガになっていた。
「……ティガ……!!」
感情のこもったヒエンの声を聴き、一度だけティガが振り向き、うなずくと大地を飛びたち、ツフル星へと向かう。
「……くっ、何てことだ」
アナザー龍騎が立ち上がる。見上げれば、シェンロンが消えて全宇宙に散っていく伝説のドラゴンボール達とこちらを見下ろすキリエロイド。そして地球から迫ってくるウルトラマンティガ。
「……龍騎の力でも流石に生き残れないな。なら仕方ないか」
アナザー龍騎は一度変身を解除した。少年の姿だった。そしてアナザーティガのウォッチを取り出してスイッチを押す。と、ちょうどキリエロイドの傍らに着地したティガの前でアナザーティガが降臨した。
「……!」
その姿は異形と言う表現がふさわしい。基本的な姿は確かにティガとそっくりなのだが背中に甲殻類を彷彿とさせるような甲羅を背負い、人間でいうこめかみの位置から黄色の触手を2本はやしている。また、両手足はまるで怪獣のそれのように筋肉質でごつい。
「……何だあれは……ば、化け物じゃねえか!!」
驚く小樽。数秒後に我に返り、ライム達の傍に駆け寄る。
「……さあ、やろうか。本物退治」
アナザーティガが少年の声で笑うと、走り出し、ティガに襲う。アナザーティガの猛烈なタックルを受け止めたティガは、しかし衝撃を殺しきれずに吹っ飛ばされる。
「くっ!!」
「他愛ない!!」
それを見もせずにキリエロイドが華麗な蹴り技を放つ。しかし、アナザーティガは触手でその足をからめとると、
「まずはお前からだ。目障りな使徒め!!」
甲羅から伸びたザリガニのような触腕が発射と言う表現が似合うほど勢いよくキリエロイドに迫り、その胸を貫通する。
「くううううっ!!!」
衝撃でキリエロイドの固定していた両足が切断され、胸に大きな風穴が開いたままキリエロイドの巨体が宙を舞い、立ち上がったばかりのティガの前に落下した。
「……おい!!」
ティガが手を差し伸べる。しかしキリエロイドが動かない。貫かれた胸と切断された両足の断面から光が零れていく。まるで出血しているように。
「お前もこうしてやるよ。光の巨人」
「……止めて見せる!!」
大地を蹴って跳躍するティガ。迫りくる触手と触腕を廻し蹴りや飛行で回避しアナザーティガの背後に回り込む。着地と同時にパワータイプにチェンジしてとびかかればアナザーティガも振り向き、パワータイプのティガと手4つの組み合いに入った。
「……ふん、手こずらせやがって」
ベビーが数分ぶりに外の空気を吸った。足元にはバラバラになったブウ。これでもまだ息がある。しかししばらく動くことは出来ないだろう。
「……シェンロンは去ったか。するとこの星で願いをかなえてしまったという事だ。万一のためにブルマからドラゴンレーダーをもらっておいて正解だったな。人間達に全宇宙を探させよう。だがまずはツフル星で好き勝って暴れている奴らの掃除から始めよう!!」
音速をはるかに超えた速度でベビーは空を貫く。数万キロは離れていた戦場までの距離をわずか数十秒で縮めて、巨人同士が組み合っている戦場に到着する。
「……ベビー……!!」
小樽が見上げる。ちょうどベビーと視線が合った。
「……あいつか」
ベビーは一瞬で小樽の眼前まで飛来する。そして気合当てだけでライム達を吹き飛ばす。
「くううううう!!」
「ライ……!!」
「お前は俺とだけ話せばいい。そしてそのあと死ねばいい」
ベビーの殺気が小樽を振り向かせなかった。
「地球にいるのだな?ジアフェイ・ヒエンとやらか」
「……だ、だったらどうしたってんだ……!?」
「……ふん、答えているようなものだな。なら、」
ベビーは地球に向けて手を伸ばす。その手には小さいが飛んでもないエネルギーを秘めた光球が生成される。ベビーからすれば全エネルギーの1%にも満たないがそれでも放たれれば地球など粉微塵も残らずに消滅するだろう。
「タイムジャッカーなどどうでもいい。だが俺の邪魔をするとなれば誰が相手だろうとも……」
ベビーが地球を見ずに光球を放った。
「やめろ!!」
小樽が叫ぶと同時、目にもとまらぬスピードで光球はツフル星の大気圏を突破して地球の大気圏を貫く。しかしそれ以上先には進まなかった。
「ライトニング・クロノ・ブレイク・キャノン……!!」
同時に地球から発射されたとんでもない出力の稲妻がベビーの放った光球をたやすくぶち破り、そのままツフル星へと迫る。
「何!?」
「間に合って……!!」
カチューシャライムが小樽に全力でタックルを打ち込む。それによってベビーから距離を取った次の瞬間、ベビーは尋常でない出力に包まれて何万キロもの稲妻の旅に吹き飛ばされた。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!?な、何だ……何だ!?」
測定不能なまでの電圧が全身を焼き焦がしていく。抵抗すら出来ないままベビーは全身を焼き尽くされてツフル星の最果てに落下した。
「……が、が、あ、あ……」
その衝撃に穿たれたのはベビーだけではない。ツフル星全体が今の雷撃の余波により環境をめちゃくちゃに破壊された。すべての海は電気分解され、小樽達を除いたすべての生物は感電して身動き1つ取れなくなる。ベビーの姿を模して造られた塔も一瞬で消し炭だ。
「…………上手くいったみたいだな」
地球。ヒエンが煙を放つ万雷を鞘に戻す。
「……さて、後は地球人たちを元に戻すか」
ヒエンが大地に正座して地球環境の修正を始めた。
「……くっ!」
体内の超再生機能をフル稼働させて何とか立てるようになったベビーが黒い煙を全身や口から出しながら立ち上がる。
「……い、今のが……ジアフェイ・ヒエンの力……!?だ、だが2発目はないようだ……。俺の2発目ですぐに消し飛ばしてやる……」
ベビーが再びエネルギー弾を生成した時だ。
「よ、」
「!」
声。振り向くと、大きく抉り割かれた大地に尻尾の生えた少年が立っていた。……孫悟空が立っていた。
「孫悟空!?貴様、本当に生きていたのか!」
「始めようぜ、ベビー。第2ラウンドだ!!」
悟空が構えると同時、その姿が超サイヤ人3に変わり、ベビーに向かって突進する。先ほどまでの300倍のパワーが拳に込められてベビーの胸にぶち込まれる。しかし、
「いまさらその程度が効くか!!」
ベビーは全く動じずに悟空の頭をわしづかみにしてからその顔面に膝蹴りをぶち込み、握力の限りで頭蓋骨の形を変えながら全力で地面にたたきつける。
「ぐっ!!」
「今日の俺は手加減できないぞ!!」
無理やり頭をつかんで悟空を立ち上がらせるとその胸に何度も拳をぶち込み、脳天にエルボーを打ち込んでから廻し蹴りでぶっ飛ばす。
「はあ、はあ、」
ベビーが思わず息を切らせて肩を上下させる。前方10キロ以上先の岩盤に悟空がめり込んでいた。
「……くっ、オラもちょっとは強くなったはずなんだけどなぁ……相変わらず歯が立たない……」
ボロボロになった胴着の上半身を破り捨てながらめり込んだ岩盤から抜け出して地に立つ悟空。子供の姿ではわずか30秒しか持たない超サイヤ人3の力を以てしてもベビーには歯が立たないのだ。悟空が超サイヤ人2の姿に調整していると、
「……悟空、聞こえるか……?」
「この声、ブウ……!?」
「地球を見るんだ。よくわからないけどヒエンがそう言っている」
「……ヒエン?誰だよそれ。地球?」
言われたように悟空が地球を見る。手を伸ばせば届きそうな位置に母星が見えた。とても綺麗な青い星。悟空はあの星を何度も守り抜いてきた。その星の輝きを見た悟空の脳と尻尾に衝撃を与える。
「……っ!!」
次の瞬間、悟空の体がものすごい速度で膨張していき、数秒でその姿が黄金の大猿のものとなった。
「ギャアアアアアアアアアアアオ!!!」
「……何だ、孫悟空が大猿になった!?」
接近しながらベビーが驚く。そして脳内のデータベースにアクセスして検索。
「……サイヤ人は月を見ると、尻尾の中に詰め込まれたその遺伝子が強く反応して大猿へと変身する……か。しかし獣に変わりはないようだな。暴走している」
ベビーが加速して接近。辺り構わず火を吐いたり暴れている悟空の胸にミサイルキックを叩き込み、転倒させる。すると、勢いよく悟空が起き上がり、口から炎を吐いた。
「ふん、」
しかしベビーは光球を発射する。発射された光球は吐かれた炎をたやすく貫通して悟空の巨体をぶっ飛ばす。
「な、何だ……!?」
カチューシャライムとブラッドベリーに肩を貸されながら少しずつ移動していた小樽の近くに悟空は倒れてきた。
「……今度は何なんだよ……」
「……あ!」
カチューシャライムが身構える。その視線の先。そこにベビーがいた。
「ふん、貴様か。俺が地球にやってきた時に少しだけ会ったがまさかそちら側についているとは思わなかったぞ。所詮は人間が作った機械の過ぎないか」
「……僕は機械なんかじゃない!小樽を守るんだ!!」
カチューシャライムは駆け寄ってきたバンダナライムに小樽の肩を渡す。
「……どうする気!?」
「僕は小樽を守ってあいつと戦う。多分絶対に勝てないと思うし、破壊されると思う。でもその間に君達が小樽を連れて逃げて」
「……でもそんなの……!!」
「……僕もライムだけどこの世界のライムは君なんだよ。僕も小樽の事が好き。君達の思いよりもずっと……!!でも、アナザー態は自分に関係のある存在にしか倒されない。僕なら大丈夫だから早く逃げて!!」
「……よくわかんないけど、でも、分かった!後でちゃんと来てよ!!」
「……うん」
二人のライムが視線を交わし、バンダナライムとチェリー、ブラッドベリーは小樽を連れて避難を開始する。
「……ふん、すでにあの地球人どもはどうでもいい。しかし貴様、そこまでおろかだとは思わなかった。確かに貴様はアナザー態。被造物でしか倒せないという特性があるようだがしかし俺もドクターミューに作られた人造ツフル人だ。お前を粉々にする条件は満たせている」
「……うん、知ってる」
「ならどうして勝てない勝負を仕掛けてくる?俺と貴様の性能差は比較にならない規模だ。1兆倍はくだらないだろう」
「……うん、それも知ってる」
「分からないな、マリオネットと言うのは。せっかく生物と言うくくりではない存在で、人間と同じ感情があるというのに貴様は永遠を手に入れたくはないのか?」
「僕は永遠なんていらない。小樽と過ごす瞬間が、鼓動を感じている瞬間があればそれでいいんだ……!」
「……ならば望み通りその瞬間を打ち砕き、貴様の永遠を終わらせてやる!」
構えたベビー。対してカチューシャライムは懐からアナザーウォッチを取り出した。
「何の真似だ?それを使えば貴様はタイムジャッカーに逆らえない。俺と戦うこともできずにその手で貴様の永遠を殺すことになるだけだぞ?」
「僕の光は……そんな支配なんて超える!!」
そしてカチューシャライムはアナザーウォッチのスイッチを入れた。
「変身!!」
アナザーウォッチから解き放たれた原色のエナジーがカチューシャライムを包み込む。一瞬タイムジャッカーのオーラが発生するがそれを3色の光が打ち破る。
「A Person feels a pain,turns to the brave」
英文のコールが流れると同時、カチューシャライムはアナザーゼロワン・ライジングセイバーフォームに変身を遂げた。
「行くよ!!」
「何!?」
アナザーゼロワンが走り、ベビーに刀で切りかかる。ベビーは驚きながらもそれを受け止める。
「馬鹿な……!?どうして理性があって俺に攻撃が出来る!?」
「君の人工知能はまだ心になってない!でも僕には心があるんだ!!心のない力じゃ何もできやしない!!……小樽を守り切ることが出来るのはただ一人、この僕だよ!!」
一瞬だけ背後の4人に声を飛ばしてから力を開放してベビーを押し返していく。
「くっ!これだけのパワーがどこから出てくる!?アナザーライムもアナザーゼロワンもここまでのパワースペックは持っていない筈だ!!」
「スペック表で語れるのは機械だけなんだからぁぁぁっ!!」
そのままベビーを押し切って一閃切り込み、ついたベビーの膝を踏み台にして跳躍する。
「 ラ
 イ
 ジ
 ン
 グセイバーインパクト!!」
足裏のブースターを起動させて空中で加速。マッハ2の速度でベビーに突っ込み、手に握った剣でぶった切る。
「……ぐっ!!」
緑色の血を吐いて膝を折るベビー。同時にアナザーゼロワンの剣が光る。その光がティガと、悟空の胸に注ぐ。
「……そうだ。心があれば誰だって光になれる!!」
ティガはパワーを振り絞ってアナザーティガを組み合ったまま持ち上げて、
「ウルトラヘッドクラッシャー!!」
頭から地面にたたき落とす。
「ぐっ!!」
「たあぁっ!!」
次に放った拳でアナザーティガの背の甲羅を粉砕する。
「!」
その甲羅の破片が散り行く中で悟空はその破片の1つ1つに仲間たちの顔を思い浮かべた。次の瞬間、
「ギャアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオ!!!」
立ち上がり、これ以上ないほどの咆哮を上げる。次の瞬間、黄金の大猿は激しく輝き、直後には人間のサイズと姿になっていた。
「……」
今まで見たこともない黒い長い髪をした男。筋骨隆々とした上半身を赤い毛皮が覆っている。そしてその顔にはどこか見覚えがある。
「……な、何者だ貴様!?」
立ち上がったベビーが視線と疑問を向けた。
「……お前から地球人と地球を救うもの、超サイヤ人4孫悟空だぁぁぁっ!!!」
黄金と真紅のオーラを解き放った悟空が急加速して接近、ベビーの腹に拳をぶち込む。
「がはああっ!!!」
血反吐を吐き散らしながらベビーは空へと吹き飛ばされる。すぐに悟空が追撃。
「だぁぁぁぁっ!!!」
「ほぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
高速の打撃がベビーの全身を細胞レベルで破壊していく。ヒエンの雷撃砲、アナザーゼロワンの斬撃、そして悟空の連続攻撃を受けたベビーはすでに体内の機能のほとんどが破壊されていてもはや寿命すら生じている。そしてその寿命ももう尽きる。
「だ、だがこの肉体はベジータのものだぞ!?貴様は親友をその手で殺せるか!?」
「……」
悟空の攻撃が止まる。しかし今のベビーに反撃する力は残っていない。息を整えるだけで精いっぱいだ。だが、そこへ
「孫悟空ー!!!!」
小樽の叫びが届く。
「地球へ連れて行くんだ!!そこで何とかしてくれる奴がいる!!」
「……分かった」
悟空はベビーにラリアットを叩き込み、そのままマッハ40で移動。数秒でツフル星を超えて地球に到達する。
「おわっ!!」
ちょうど全人類をベビーの洗脳から解放して水を飲もうとしていたヒエンがいた。
「あんたがジアフェイ・ヒエンか?こいつを頼む」
悟空がベビーを離す。
「……お、おう。ベビーだな。……ああ、そっか。ベジータを開放する必要があったな」
ヒエンは倒れて動かないベビーに手を向けると、
「おらああぁっ!!!」
叫ぶと同時、ベビーがベジータの姿に戻り、ベビーは本来の白銀の姿でベジータの肉体から弾き飛ばされた。
「がはっ!!」
緑色の血を吐きながらひざを折るベビー。その背後でベジータが立ち上がった。
「……全部覚えている。よくも俺の体を使って好き勝手してくれやがったな」
「くっ!」
振り向いた直後のベビーの顔面に超サイヤ人2ベジータの拳がぶち込まれる。
「ツフル人の分際で随分と好き勝ってやってくれやがって、何倍ものお返しをたっぷりしてやるぜ!!」
ベジータの一切容赦ない攻撃を受けてベビーがどんどんむごい形状になっていく。
「……あっちはどうなってるか」
悟空がツフル星を見上げる。
そのツフル星ではティガとアナザーティガが再び手4つで組み合っていた。しかしダメージで勝るアナザーティガが今度は押されている。わずかに動きが止まった瞬間にティガに投げ飛ばされる。
「だがまだ触手がある!!」
アナザーティガが頭の触手を伸ばす。超高速で放たれるそれはしかしティガには当たらなかった。ティガは回避しながらスカイタイプにチェンジして高速飛行で触手をすべて回避。さらに冷気を含んだ手刀とキックで触手を切断。
「!」
「たぁぁっ!!」
そのままアナザーティガの顔面に飛び蹴り。無様に背中から倒れたアナザーティガ。その前に着地したティガがマルチタイプに戻る。
「……ば、馬鹿な……僕が。アナザーティガの力が……」
よろけながら立ち上がったアナザーティガ。そこに向かってティガが構える。
指先伸ばした両手を前に突き出し、ゆっくりと左右に広げて紫色のラインを生む。そして、
「ゼペリオン光線!!」
胸の前でL字に組んだ両腕から紫色の光線が発射されてアナザーティガを貫く。
「ぐううううううううあああああああああああ!!!」
大爆発するアナザーティガ。爆発の中でアナザーティガのウォッチは粉々になった。
「……」
それをカラータイマーが点滅したままティガが見届けた。

それから。
ブウによってツフル星に連れて来られた地球人たちは地球に戻されその上でヒエンによって洗脳が解除された。しかしその地球人たちはいろんな事情があって地球にいると肩身が狭い人々だった。
「……」
「ま、いんじゃないのか?」
大量の肉を食いながら悟空と小樽が全く同じ口調で答えた。
だから、殺さないで置いたベビーをそのままツフル星に返した。しかし既に運動機能は破壊されていた。そのためツフル星のメインコンピュータとしてベビーを設置。希望した地球人たちをツフル星に運ぶと地球のドラゴンボールの力でツフル星を宇宙の彼方にまで移動させた。半年後くらいに伝説のドラゴンボールをすべて発見し、ベビーは新しくツフル星を作り出すとそちらに移住。古いツフル星は1年後に消滅した。移動惑星でなくなったツフル星は宇宙を移動することは出来なくなったが指導者ベビーによって新しい文明が築かれた。戦闘能力を失ったことでサイヤ人への復讐は果たせなくなったがもう1つの目的であり命題であるツフル文明の復活は成し遂げられたからか以降の宇宙文明に於いてベビーは一切表舞台には立たず、当然侵略行為なども為さなくなった。200年後には新たなウルトラの戦士が派遣されるほど平和的な星として認められたことを界王達は記録した。


ツフル星での決戦があった後、ヒエンは迷っていた。
このまま歴史を修正すると少しまずいことになるのではと言う可能性があった。何せドラゴンボールの物語がノンフィクションとなっているのだ。マリオネットの存在もある。実際の1996年とはだいぶ変わってしまっている。しかし、ヒエンはあえてそのまま歴史の修正を行なった。なぜならそれから半年も待たずにドラゴンボールの物語が終わるからだ。
ティガに関してもダイゴが無事正史通りにティガの力を手に入れた。ドラゴンボールの力でGUTSのメンバーも復活し無事に元の世界になりそうだった。


「タイムジャッカーの僕が言うのもなんだけどいろいろ無茶してない?」
飛脚屋・間宮。あの時と同じ夜の縁側。しかしあの時とは違い夜空を照らすのはツフル星ではなく満月だ。
縁側に座り、満月を見上げるヒエンとカチューシャライム。既にアナザーゼロワンのウォッチはヒエンに渡している。
「……まさか平成の次の時代のライダーのウォッチだとは」
知った時はさすがに驚いた。すぐにヒエンはこのウォッチを使ってまだ見たことのないゼロワンの歴史をタイムジャッカー侵略前の時代に修正した。だからもうこのウォッチはただのおもちゃのようなもので変身は出来ない。
そのほかにもいろいろあってヒエンは結局この1996年に一週間ほど滞在してしまっていた。
「無茶か。まあしてるだろうな。タイムジャッカーの最初の歴史ジャックの時点で歴史はいろいろめちゃくちゃさ」
「……でも君はベビーを逃がした。あの作戦だってティガの光を願わずにタイムジャック前に戻してくれって願えばよかったんじゃないの?」
「……まあ確かにそうすれば地球は無事に済むし、歴史の修正も簡単だったんだろうな。けど、なんかさ。作戦開始前の三日でいろいろ思ったんだ。ベビーは本当にツフル星の復興しか考えていないみたいで地球への攻撃を全くしていない。ツフル人自体が大本はサイヤ人の被害者だったって言うのにそれをなかったことにするのもなあって」
「地球からの砲撃でベビーもろとも消し飛ばそうとした人の言う事かな?」
「そう言うなって。それに、君の存在もあった」
「え?僕?」
「ああ。君は本来1996年には関係しない存在だ。だから歴史を修正したら君って存在は消滅する」
「……ロマーナのライムは消えないと思うよ?」
「でもロマーナでジュニアと一緒にいながらしかし小樽に恋したライムって存在は君しかいないんだ。それを消すって事はどうしても出来なかったんだ」
一瞬だけ2006年での日下部兄妹を思い出す。あれと似た感傷に過ぎない。
「それに」
ヒエンはスマホでウィキを見る。1996年以降の歴史はあらかた元通りに戻っていた。まあ、ドラゴンボール改などはノンフィクションをモデルにした漫画のアニメ化って事になっていたがしかし誰もそのノンフィクションを証明できないから意味がない話だ。ただ一人、ミスターサタン本名:鳥山明を除いて。
「マリオネットも君たち以外にほとんどいないみたいだし、まあ別にこれでいいだろう」
「……僕はこの後どうなるんだろう?」
「どうも?君の好きなようにやればいいさ。せっかくその自由を手に入れたんだから。君達の寿命も小樽と一緒にしておいたから小樽が死んだあと生き延びるなんてこともない。一緒の棺桶に入れるグッドエンドだけは確定しているさ」
「……君確か戦力を手に入れるためにこの1996年に来たんだよね?それなのに一人で帰っていいの?」
「おいおい、自分の幸せをそうおっかなびっくりに否定すんなって。戦力が手に入らないのはいつもの事だ。だが、いつも通りにタイムジャッカーやアカデミアの戦力は削れた。成果が全くないわけじゃない」
アナザー鎧武、アナザーほむら、アナザー電王、アナザーエグゼイド、アナザーファイズ、アナザーコロッケ、アナザースパークス、アナザーパープルブライド、アナザーダークカブト、アナザーウィザード、アナザー塔子、アナザーゴースト、アナザーティガ、アナザーゼロワン。今までに倒してきた数も十分だろう。
「……僕ね、小樽が好き」
「……ああ、知ってる」
「でも、君の事もそこそこ好き。小樽の次くらいに」
言いながらカチューシャライムはヒエンの頬にキスをした。
「……ずっと忘れないから」
「……ありがたい話さ」
小さく笑うヒエン。カチューシャライムはアナザーゼロワンのウォッチをバッチのように胸元につけた。
そして夜が明けた次の日。ヒエンは小樽達に見守られながら次なる時代へと足を進めた。
目指す時代は……決戦の時。AD2016年、融合次元アカデミア!!

AD2016~覇王と魔王と暴君と

・AD2015年。ヒエンが到着した際にはしかしそこには文明の跡しか残されていなかった。
「……やはり1996年での一週間は少し長居し過ぎだったか」
どうやら既にアカデミアやタイムジャッカーによる侵略を受けた後だったらしい。1996年もアカデミア自体はそこまで動いていなかった。ほとんどベビーやアナザーティガだけに侵略されていた。それ以前に手を付けようとしていた2006年も混迷により侵略の手を伸ばしていない。2時代分の遅れによって2015年の侵略を防ぐことが出来なかったようだ。
「……こりゃ歴史の修正をしてもあまり意味がないかもしれないな。2014年から地続きで来ているというのならここで修正かけてもすぐに2016年から追撃が来る。味方がいない状態で襲撃されたらだいぶ面倒だしな」
そう言ってすぐに2015年を後にしようとした時だ。
「……もしかして、ジアフェイ・ヒエンさんですか?」
少女の声がした。振り向けばセーラーワンピの少女がいた。
「……もしかしてネプギア……?」
「あ、はい。私の事を知ってると言うことはやっぱりあなたがジアフェイ・ヒエンさんなんですね?」
「そうだ。この2015年で何が起きたんだ?」
「はい……。私の事を知っている前提でお話しさせてもらうと、ある日突然アカデミアがこの世界にやって来たんです。歴史を塗り替えるために。当然それを防ぐために私たち守護女神やその候補生たちは戦ったんですけど、相手の数が多すぎて……」
「……まあ、2014年で得た戦力がそのままいるだろうしな」
「それだけじゃないんです。アカデミアが攻めてくると同時に私たちの力の源であるシェアが途絶えてしまったんです。いーすんさんが言うにはプリズムのきらめきが失われたとかで」
「……」
「それで次第に私たちは女神としての力を失っていき、さらに劣勢に立たされました。女神が力を失っていったことにより邪神マジェコンヌが復活してしまい、世界は一気に終焉を迎え始めたんです。それで私たちはゲハバーンと言う救世の悲鎗を用いて、私以外のすべての女神がその命と力のすべてをそのゲハバーンに託し、私がゲハバーンを用いることで何とかマジェコンヌを倒すことに成功したのですが……」
「……既にこの2015年の世界は滅んでしまっていたか」
「……はい。それに私も既に女神としての力を失っています。……一度だけ私たちにゲハバーンの事を教えてくださった男の人にあなたの事は聞きました」
「……どんな奴だった?」
「30代くらいの方でした。すごく整った顔で、あと青い銃を持っていました」
「……あのヤンホモだな」
「え?」
「いや、何でもない。しかしネプギア。君は確かシェアを失ったら消滅するんじゃなかったのか?」
「それは、ゲハバーンが身代わりになってくれたんです。だから今の私は人間と大差ありません。なので残念ながらあなたに協力することは出来ません……」
「……いや、いい情報を教えてくれた。それだけでも十分さ。いつかこの2015年の世界も元に戻す。だけどひとまずは2016年の世界に行かせてもらう。もう少しだけこの世界で待っていてほしい」
「……わかりました。ご武運を祈っています」
と、言葉を交わしてヒエンは2015年の世界を去って行った。


そして2016年。
ヒエンが到着したそこは火の海にうずもれた街中だった。そしてその炎の渦の中心にはいくつかの巨大な影。
「……風の魔王獣マガバッサー、土の魔王獣マガグランドキング、水の魔王獣マガジャッパー、火の魔王獣マガパンドン、そして光の魔王獣マガゼットンに闇の魔王獣マガタノゾーア……!!なんてこったよ!!6体の魔王獣が全員そろってるじゃねえか!?」
着地と同時に周囲の炎をかき消す。そして冷静に状況分析を行う。
街中には6体の魔王獣がいて、大暴れ……した後だからか町が完全に破壊されている。逃げ惑う人々すら見えない。
2011年で調べたことを思い出す。過去、2006年や1996年などで起きた何かによってウルトラシリーズは2008年で歴史が止まってしまっている。つまり2016年に出てくる魔王獣は存在自体しない筈だ。しかしそろい踏みで存在している。魔王獣に集団意識は存在しない。だからこうして6体が連携していることもあり得ない。それがあり得ているということは何か知らの方法で魔王獣は操られている可能性が高いという事。そしてすぐに頭に連想されるキーワードはただ1つ。
「……レイオニクス……!と言うことはやはりそうだな……アカデミアにはアナザーベリアルがいる……!!」
レイオニクスは怪獣を操る力を持った存在だ。そしてウルトラマンベリアルはレイオニクスの因子を受けているため怪獣を自在に操れる。おまけに2009年当時ならばギガバトルバイザーと言う武器にもなるし、怪獣操作を強化するアイテムも所持しているだろう。100体の怪獣を自由に操っていたのだから6体の魔王獣を操れていてもおかしくはない。逆にベリアルほど強力な存在でなければ6体の魔王獣を使役することなど不可能だろう。遠く離れた場所から操作と言うことも難しいだろうからほぼ間違いなくアナザーベリアルはこの2016年の世界にいるだろう。
「……この時点で既にアナザーベリアルと6体の魔王獣が敵対している事確定かよ。とんでもない状況だな」
冷や汗をかきながらヒエンは地球上の気配を探る。どうやら地球上から人間は絶滅したわけではなく、何人かは存在するらしい。しかし恐らくと言う推測込みではあるがアカデミアは2014年から地続きでこの世界を侵略し続けている。戦力が残っていることを期待するのは酷と言うものだろう。
「かと言って融合次元やシンクロ次元、エクシーズ次元に行く手段がないんだよな。赤馬の家に行けば次元転移装置があるだろうがこれだけ魔王獣に蹂躙されている以上、無事で済んでいるはずもないし。と言うかあの6体の魔王獣が野放しになっているってことはそれを封印していた6人のウルトラマン達も存在がピンチかもしれない。いや、少なくとも初代マンは無事か。初代マン居なかったら後のウルトラ戦士たちが地球に来ないわけだし。いや、まずはあの人を探したほうがいい」
ヒエンはレーダーを宇宙人に絞る。そして、
「いた!!」
察知すると同時にそこへ瞬間移動で飛んだ。
「!?」
荒れ果てた地。そこにやってきたヒエンの前には皮ジャケットを着た青年がいた。
「やはりいたか、クレナイ・ガイ!!」
「あなたは……誰です?どうして俺の事を……」
「ジアフェイ・ヒエンで通じないか?ウルトラマンオーブ」
「……なるほど。あなたが……」
「いきなりで悪いが情況を説明してくれ」
「……俺の事を知っている前提で話します。まず俺は魔王獣を封印するために宇宙からやってきました。ですが、想定した状況とだいぶ異なりました。俺の情報では魔王獣は1体ずつ少しずつ封印が解けていくからその再封印をするよう頼まれていたのですが、地球へやって来た時点で6体の魔王獣が全員封印を解かれて暴れていました。応戦しましたが俺はまだ未熟の身。町を守ることもできずに敗れてしまったのです」
ガイはオーブリングを見せる。本来クリスタルの部分は青く輝いているのだが今見せられているそれはひどくボロボロの状態だった。
「……今からいう名前に心当たりがあったら言ってほしい。ウルトラマン、ウルトラマンジャック、ウルトラマンタロウ、ウルトラマンティガ、ウルトラマンメビウス、ウルトラマンゼロ」
「……全員知っています。直接会ったことがあるのはゼロさんだけですが……」
「フュージョンカードは?」
「……この2枚だけです」
ガイが見せたのは初代マンとティガのカードだけだ。
「……じゃあウルトラマンベリアルは?」
「……昔聞いたことがあります。かつてエンペラ星人によって光の国が襲撃された際に闇に手を出したことで罰せられたウルトラマンがいると。その名前が確かベリアルだったかと」
「……なるほど」
ベリアルには物語が未来にしかない。銀河伝説以降だ。だからそれ以前にアナザー化されても歴史に対して影響は出ない。そのままベリアルをアナザーとして扱えるという事なのだろう。もしかしたらウルトラマンキングとかなら獄中のベリアルについて知っているかもしれないがそれを光の国の戦士ではないオーブにまで求めるのは酷な話だろう。
「……とりあえず、」
ヒエンはオーブリングに意識を集中させる。と、瞬く間に砕けたオーブリングが元の姿に戻った。
「……ありがとうございます!」
「アカデミアは恐らく今最大の戦力をこの2016年に集めているだろう。だから逆を言えばここでその戦力をすべてたたけばアカデミアはもう再生できないとみていい。タイムジャッカーからも見放されるかもしれない。……この時代で決着をつけたい。力を貸してくれるか?」
「はい、もちろんです!」
「よし、じゃあまずは恒例の仲間探しからだ」
ガイに周囲の警戒をさせながら地球全体環境のサーチを開始する。そうして世界を調べていくごとにあの2014年からとんでもなく環境が変わってしまったのだと実感させられる。榊遊矢達やドレッシングパフェたち、士やさくらは一体どこに行ってしまったのか。アナザーエンハンスのために恐らく殺されてはいないと思いたいが、士に関しては危険だろう。アナザーディケイドの餌にされている可能性は高い。
「……なあ、あんたが地球にきて魔王獣と戦ったのは大体どれくらい前の話だ?」
「数日前です。その時にはすでに魔王獣によって地球上は蹂躙されていました」
「……一応聞いておくが今ここは2016年のいつぐらいなんだ?」
「12月と聞いています」
「……確か2014年に来た時が11月の終わりくらいだったからちょうど2年くらいか。……妙だな」
「どうしました?」
「地球上に誰も人間が残っていない。アカデミアの目的はこっちの前で人を殺すことだ。2年も準備期間があったのにそれを行なわずに皆殺しにするのはおかしい。だが、どこにも人の気配が見当たらないのはどういう……」
そこまで言って推定が出来た。
「……融合次元に全員さらわれたかもしれないな」
「融合次元……?」
「アカデミアの本拠地がある世界の事だ。けどそうなるとまずいな。こっちは地球内ならいくらでも時空を移動できるが別世界となると移動手段がない」
「別次元への移動ですか。ゼロさんなら可能と聞きましたが残念ながら俺にはそんな力はありません」
「……そうなんだよな。ん!!」
突然ヒエンが立ち上がり、万雷の鞘で自らの首を守る。直後その鞘に一閃。
「お前……!!」
ガイが身構える。
「……やっぱいやがったか」
ヒエンの視線の先。
「……ちっ、やるじゃないかジアフェイ・ヒエン殿」
そこには黒スーツで日本刀をこちらに向けていた青年。
「ジャグラス・ジャグラー……!」
「お見通しか。流石流石」
「お前、ここで何をしている!?」
「いや、別に?ただお前が地球にきているって言うから俺も試しに来てみたんだが何だこれ?ずいぶん詰まんないことになってるじゃないか」
「……ジャグラス・ジャグラー。魔王獣はお前の配下じゃないのか?」
「はぁ?俺が?そんな事出来ていたらもっと昔にもっと面白い事をしていたに決まっているだろ?ガイに村1つ滅ぼさせたりとかさぁ」
「……お前!」
「……なるほど。そう言う事か」
ヒエンはジャグラーに合わせて万雷を腰に戻す。
原作に於いてジャグラス・ジャグラーはガイへの宣戦布告と言うか嫌がらせとして闇の魔王獣マガタノゾーアと光の魔王獣マガゼットンを使ってオーブがまだ制御しきれていなかった力の暴走を狙い、結果的にガイが一時期身寄りを置いていた村をその手で滅ぼさせている。その結果ガイは半世紀以上もウルトラマンとしての力を精神的に使えなくなってしまう訳だがこの世界ではジャグラーが魔王獣を使役する前にアナザーベリアルによって魔王獣が奪われているからジャグラーはその悪事を働いていない。つまり、ガイもまたあの村の悲劇を体験していないからオーブ本来の姿に変身できる訳だ。しかしそれを用いても6体の魔王獣が揃って相手じゃまあ、歯が立たないだろう。
「1つ聞くが、ジャグラー。お前融合次元への行き方を知っているか?」
「融合次元?ああ、知ってるよ。俺もこんなものを預かっているんでな」
ジャグラーが懐から出したのはアナザーウォッチだ。しかしそこに刻まれていたのはライダーでもウルトラマンでもない。
「……おいおい、嘘だろ……!?」
そこに刻まれていたのは一人の少女。
「……プリズムの使者・りんねちゃんだと……!?」
「りんね……へえ、りんねちゃんか。で、このアナザーりんねちゃんとやらのウォッチをどう使えって言うのかなアカデミアは。ガイを関係にでも嵌めればいいのか?お前ロリコン?」
「んなわけあるか」
ガイが突っ込む。すると、ジャグラーはアナザーりんねのウォッチをガイに投げた。
「お前……」
「俺に少女趣味なんてないんでな。連中のくだらない野望にも興味ない。俺が興味あるのはただ一つだけ……」
「これかな?」
「!」
新たな声。同時に銃声。一発の弾丸がジャグラーの眼前を貫いていった。
「……おい、誰だよ?」
ジャグラーがわずかな殺気を持ちながら日本刀を抜く。その視線の先には一人の男がいた。その手には青い拳銃。
「……特撮界の2大ヤンホモが揃いやがったか」
ヒエンが思わず顔を手で覆い、ため息をつく。
「僕は怪盗。海東大樹って言うんだ。君、これが欲しいんでしょ?」
海東は懐から何かを出した。それは黒いオーブリングだった。
「宇宙で最も邪な心を持つものの前にだけ訪れるダークリング」
「……それを渡してもらおうか」
「じゃあ、分かるよね?僕はお宝が欲しい。でもこのダークリングは僕には使えそうにない。だから」
「……ふん、」
ジャグラーはガイの手からアナザーりんねウォッチをひったくると海東に向けて投げる。それを海東がキャッチしようとした時。
「いや、させるかよ!!」
ヒエンが割り込んでアナザーりんねウォッチをキャッチする。
「おいおい、横取りはいけないよジアフェイ・ヒエン」
「海東大樹。もっといいお宝をくれてやる。だから今は協力しろ。どうせお前の目的は士を救出することだろ?」
「……さあ、どうかな?けどまあ、もっといいお宝ってのも興味はあるか」
軽く笑ってから海東は一度だけダークリングを手の中で回してからジャグラーに向かって投げる。
「あ、おい!」
思ったよりノーコンだったからかジャグラーが慌ててキャッチした。
「お前、死にたいのか?」
「そのセリフは君には合わないんじゃないのかな?」
「そこまでにしておけよお前達」
日本刀と銃口を向けあった二人の間にヒエンが割って入る。
「……いちいち面倒くさいなこのヤンホモ達は。……で、ジャグラー。融合次元へ行きたい。どうすればいい?」
「その前にもう1つ条件がある。それをかなえてからにしてもらおうか?」
「何だ?海東をぶっ殺せとかはまだ無理だぞ」
「まだって何だい君は」
「そんないけ好かない奴はどうでもいい。ただ、あの魔王獣を何とかしてほしいね。ダークリングがあればあれを戦力に出来る。だが、今はまだ無理だ。誰かに使役されている状態にある」
「……魔王獣を戦力にしてどうする気だと問いたいところだがまあいいや。あの魔王獣を倒せばいいんだな?」
「そう。ただし、ガイ。お前がやれ」
「……お前、何を企んでいるんだ?」
「どうでもいい。お前がやるんだよ、お前が。分かったか?ほらさっさとやる」
「……」
「わぁったよ。後でラムネおごってやるから」
「ウルトラマンさん!!ティガさん!!光の力お借りします!!」
直後、ガイは2枚のカードを行使して光の中に吸い込まれた。
「フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!スペシウムゼペリオン!!」
「うおおおおああああ!!」
6体の魔王獣に向かって変身したオーブが走っていく。
「……あいつ、どんだけラムネ好きなんだよ」
「それをこっちに聞くなよ幼馴染」
「けど彼、大丈夫なのかい?力を取り戻して多少テンション上がってるとはいえ6体の魔王獣に勝てるとは思えないけども」
「そうなんだよな」
3人が見上げる中、オーブはさっそく6体にサンドバッグにされていた。まともな攻撃1つ取れずに吹き飛ばされまくっている。
オーブが弱すぎるからではない。魔王獣1体1体は本来通常の怪獣とは比べ物にならないほどの実力を持っている。何せあのマガゼットンは、本来初代ウルトラマンがパンチ一発で倒せる通常のゼットンとは比べ物にならないほど強くなっていて初代マンが力を振り絞って何とか封印したほどだ。
そのクラスの敵が6体揃っている。対してオーブは決して弱くはないが伝説のウルトラ兄弟から見ればまだまだ若く未熟な戦士だ。1対1でも苦戦は免れない。
「……仕方ない。ここはオーブの力に甘えるか」
ヒエンはプラネットの力をサーチから創造へと切り替え始めた。
「何してんだ?」
「お前のお望みどおりにあいつを強くしてやるのさ。オーブ!!受け取れ!!」
そしてヒエンが2枚のカードを生み出すとそれをオーブのインナースペース内にいるガイに向かって転送した。
「これは……!!」
ガイが2枚のカードを見る。いずれも見たことも聞いたこともない人物が刻まれていた。しかし何もしないわけにはいかない。ガイはその2枚をオーブリングにスキャンした。
「カブトさん!!ガーゴイルさん!!時空を超えし守護の力、お借りします!!」
「フュージョンアップ!!ウルトラマンオーブ・ガーディアンタキオン!!」
光が砕けるとそこには紫色の装甲をまとい、石像のような姿になったオーブが立っていた。
「暗い道に朝日をさすように!!行くぞ!!」
オーブが動き出す。先ほどと比べるとひどくぎこちない歩き方でかなり遅くなっている。しかしその分防御力はかなり向上していて、先ほどまで吹き飛ばされていたような攻撃にもびくともせず、拳から発射されたビームの一撃でマガバッサーを空から撃墜する。
「はあっ!!」
マガバッサーが撃墜されると同時にその真上にオーブが瞬間移動してその鋼鉄鈍重ボディを肘からマガバッサーの背中に叩き落す。
「おおおおおお!!!」
頭上高くマガバッサーを持ち上げると、迫りくるマガグランドキングに向かって投げ飛ばす。
「サルファーストライク!!」
その拳の先に光のピラミッドを生じながら放つパンチの一撃。それがマガバッサーごとマガグランドキングを貫く。
「……キャストオフ!!」
その状態でオーブが宣言すると、全身の紫色の装甲がはじけ飛び、マガバッサーとマガグランドキングが大爆発する。そしてその爆発の中からカブトムシと狛犬が合わさったような紫と真紅が混ざった姿のオーブが出現した。
「クロックアップ!!」
再びオーブが宣言すると、大量のタキオン粒子が周囲にばらまかれ、時間の進みが低減する。その中をオーブは高速で動き回り、マガゼットンの瞬間移動より早く移動して的確に攻撃を打ち込んでいく。
「マーキュリーキック!!」
そしてマガゼットンが繰り出す光球に対して廻し蹴りを打ち込み、発射直前の光球をマガゼットンに押し戻して爆砕。同時にタキオン粒子が尽きて世界の時間が元に戻る。
「……ぶっつけ本番にしてはよくやるもんだ。じゃあ次だ!!」
ヒエンがまた2枚のカードをガイに向かって転送する。
「くっ、また見たことないカードが……!」
しかし迷いなく2枚のカードをスキャンする。
「剣人さん!ボーボボさん!!奥義の力、お借りします!!」
「フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ・クイックハナゲイザー!!」
「よじ登っていくぜ!!」
新しい姿になったオーブは、光の鼻毛を2本伸ばすと、マガタノゾーアの繰り出す無数の触腕をすべて切断または貫通しながら排除し、その巨体を絡めとるとその鈍重を持ち上げて、
「風毛真拳奥義!!双極・八又轟閃!!」
その手に光の鼻毛のような剣を日本生み出して、時間より早く距離を縮めると同時に左右の剣でマガタノゾーアを十字に切り裂く。しかし、その巨体の耐久を削り切れてはいない。
「風毛真拳奥義!ツイニングクロスキマイラバースト!!」
オーブは肉体の限界を感じながら双剣をX字に組み、そこから緑と黄色の光線を発射してマガタノゾーアの巨体を貫き、ついに大爆破する。
「はあ、はあ、」
ひざを折り、カラータイマーを鳴らすオーブ。
「……流石に本来全く想定されていない力をものにするにはスタミナ的にも厳しいか」
「だが、魔王獣を4体も倒せた。流石はジアフェイ・ヒエンだ。これは精一杯働けばそれだけレアなお宝が手に入るという事かな?」
「……それよりウルトラマンに鼻毛生やすなよそれを剣にするなよそこから光線出すなよ」
膝を折って肩を上下させるオーブ。その正面には水の魔王獣マガジャッパーと火の魔王獣マガパンドン。
「ヒエンさん!!新たな力を……!!」
「体がバラバラになっても知らないぞ!?」
言いながらヒエンはさらに2枚のカードを転送し、それを受け取ると同時にガイはすぐさまスキャンを開始する。
「悟空さん!!Wさん!!対を成す双極の力、お借りします!!」
「フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ・サイヤボイルドエクストリーム!!」
「俺に涙は似合わないぜ!!」
左右黒と緑の姿で金色のオーラをまとったオーブが叫びながら2体の魔王獣に向かい、そのままのタックルでマガパンドンを吹っ飛ばすと勢いを殺さないままマガジャッパーに殴りかかる。
「おおおおおあああああ!!!」
2発のパンチと飛び蹴りでマガジャッパーを蹴り飛ばし、マガパンドンと激突させると、
「ダブルボイルドかめはめ波ぁぁぁっ!!!」
オーブが左右に分裂し、左右から挟み込むようにかめはめ波を発射。2体の魔王獣を左右から猛烈なエネルギーで押しつぶして爆砕した。
「……はあ、はあ、ぐっ、があああああああああああ!!!!」
元に戻ったオーブが苦痛の叫びをあげる。あまりのダメージに変身の解除すら出来ないまま膝を折って叫ぶオーブ。
「……ちいっ!!」
ヒエンが指を鳴らすと、プラネットの権能が発動してオーブを強制的に変身解除してガイの姿に戻す。
「はあ……はあ……うううううっ!!うがああああああああああああああ!!!」
戦場跡。ガイは大文字に倒れながらやはり苦痛に叫んでいた。
「……少しやりすぎたかもな」
「少しか?これで」
「しかしこうでもしなければ6体の魔王獣をまとめて倒すなんてできなかっただろう。結果オーライって奴さ」
「はぁ?」
肩をすくめる海東。直後にジャグラーが抜刀。海東の首を狙った一閃。海東はバックステップで回避しながら拳銃を取り出してみもせずにジャグラー向けて発砲。ジャグラーは日本刀で切り払い、接近。ジャグラーが刃先を海東の首に突きつけ、海東が銃口をジャグラーの額に押し付け引き金に指をかける。
「はい、そこまで」
そこまで行って両者の間にヒエンが割り込んで左右の掌底で無理やり二人を左右に弾き飛ばす。
「ガイの体力が戻るまで待ち、待ってからアカデミアに攻め込む。それまで頼むからおとなしくしてくれ。敵の本拠地に攻め込む前に仲間を皆殺しにしたくはない」
いつの間にかヒエンの傍らにはガイがいた。既に気を失っているうえヒエンの治療を受けているのか寝息を立てている。それを見てジャグラーも海東も舌打ちしながら近くの瓦礫に腰を下ろす。なんだかんだで口論する気も内容で二人して明後日の方向を見続けている。その間にヒエンはアナザーりんねのウォッチを見る。
「りんねちゃんがアナザー化されているのか。そう言えばネプギアもプリズムのきらめきが失われたとか言ってたな。多分レインボーライブからプリパラの世界に行く途中にアカデミアの攻撃を受けてこんな姿にされてしまったんだろうな。と言うことはプリパラも語尾の果てになってるかもしれないって事だよな。まあ、それ以前に魔王獣の被害で大変なことに……うん?何かどっかで引っかかったな」
「そこ、ひとりごとうるせえ」
「はいはい」
ジャグラーがまた抜刀しかかってる。これだからヤンホモは。
「……ううう、」
「お、気が付いたか」
そこでガイが目を覚まし起き上がる。
「……俺は……」
「ちゃんと魔王獣を倒せたさ。だが、本来想定されていない力を連続で使ったから体がやばいことになってた。まあ、治療したから問題はないと思うがせっかく用意した力もこれじゃ2度は使えないだろうな」
「……いえ、必要とあれば使わせていただきたく思います」
「……そうか。じゃ、ジャグラー。教えてくれよ。どうやって融合次元に行く?」
「ああ。ダークリングを使えばいい。こいつには時空を超える力がある。ほらよ、」
ジャグラーがダークリングをふるうと、時空に穴が出来る。その先をヒエンが見る。
「……アカデミアの島がある……」
見ればそこは確かに暗雲たちめくアカデミアの本拠地である島の景色があった。
「……じゃ、行くか」
「はい、行きましょう」
「……ふん、仕方ない。手伝ってやるか」
「お宝お宝♪」
4人が時空のはざまを通ってアカデミアの島……融合次元へと渡る。
「!!」
同時、ヒエンが胸を押さえた。
「ヒエンさん?」
「……くっ、どうやらここはプラネットの力が通りにくいようだ……。一応地球だから存在を維持できるがあまり力は使えそうにないな」
「……その通りだ」
声。前方。そこには赤いドレスと赤い剣の少女。
「……アナザー赤セイバー……!!」
「ここは融合次元。そして余の黄金劇場の内部もである。貴様の権能は可能な限り封じさせてもらっている。だから悔いなくその役目を果たすがいい」
「……悪いけど、まだ死ぬわけにも仲間を殺されるわけにもいかないんでね」
ヒエンが目くばせ。すると海東が一歩前に出た。
「仕方ないね。お宝のためだから。はい、どうぞ」
海東が2枚のカードをスキャンして射撃。すると、弾丸が姿を変え、仮面ライダーアクセルとビーストに変貌する。
「アナザー態は確か面倒だったけど、警察官と魔法使いと野獣。これだけ要素があれば十分でしょ」
「いや、多分アナザー赤セイバーを倒す条件は何一つ満たしてないんだよな……」
苦笑のヒエン。その正面でアナザー赤セイバーはアナザーウォッチを取り出した。
「変身」
「キバ!!」
スイッチを押した次の瞬間、アナザー赤セイバーは姿を変えた。それは一見キバのエンペラーフォームに見えた。しかし細部がどう見ても違う。赤いバラと炎をあしらった燃えるような鎧、変身前のそれに酷似した赤い剣、そして白銀のマント。
「これが余の力、アナザーキバ・タイラントフォーム!!」
アナザーキバが炎の剣をふるうと、一瞬でアクセルとビーストが焼き尽くされて元のカードに戻った。
「おいおい、」
「逃げるぞ!キバは平成ライダーの中でも性能はかなり高いんだぞ!!」
「賢明な判断だ。しかし、出来ると思わない方がいい」
アナザーキバが跳躍。ヒエンの背後に回り込む。
「くっ!」
万雷を引き抜くと同時、そこに炎の斬撃が叩き込まれたヒエンは燃えながら10メートル以上後ろに吹き飛ばされる。
「つ、なんて力だ……!!アナザーウィザードやアナザーゴーストよりかも純粋なパワーなら上だな……!」
「当然であろう?余は皇帝、それも暴君であるぞ?他の追随を受けるほど心優しき王ではない!!」
再び放った炎の斬撃。ヒエンは防御に徹してもなお、防ぎきれずに吹き飛ばされた。
「がああっ!!」
「ヒエンさん!!」
「そなたは殺しはしない。そう言われているのでな。しかしそれ以外は殺す。既に愉快な劇場の準備は出来ているのだから」
アナザーキバがマントを靡かせると、空からオベリスクフォースの軍勢が飛来してヒエンを取り押さえ、網の中に入れて持ち上げてどこかに運び去っていく。
「ヒエンさん!!」
「貴様たちは少々劇場には入りきれない催しだ。ゆえにここで死ぬといい」
アナザーキバの炎の斬撃が放たれる。ガイはバリアを張り、その中からジャグラーが抜刀で斬撃を受け止める。しかしどちらの防御も間に合わず二人まとめて焼き払われた。
「……ん、もう一人いたような気がしたが。まあいい」
炎を払い、アナザーキバは灰燼の戦場を後にした。
AD2016~一瞬、そして刻が止まるくらいの

・ヒエンが目を覚ました時、真っ先に感じたのは絶望感だった。
「……アナザー赤セイバーいや、アナザーキバに倒されて見慣れないところに連れてこられたとなると……」
体の自由は利かない。物理的にも何か呪術的にも指一本たりとも動かせない。ただ、椅子に座らせられた状態で正面のステージが目に入るだけだ。
「……嫌な予感しかしない」
「正解だよ」
声。すぐにその主が後ろから目の前にやってきた。
「ユーリ……!!」
「やっと捕まえたよジアフェイ・ヒエン。僕が目指していたラスボス。しかしもうすでにその動きは封じ、お楽しみのとどめを刺すだけっていう状態なわけ。エンディングはもうすぐさ」
「……だがエンドクレジットは歴史には残らないぜ?たとえアナザーエンハンスを生み出しても絶対にお前達を殺す」
「くくくっ、鼻くそもほじくれない身でよく言うよ。まあ、目は見えるし口から声も出せる。音も聞こえているし、思考も十分だろ。だったらこれから始まる面白いステージを見逃すことなく楽しめるってわけだ」
「……PVでどんなステージかくらいは教えてほしいものだな」
「おやおや、プロモーションなら今まで何回も見てきたんじゃないかな?残念ながら催しの間にCMを挟むような無粋な真似はしないよ。民営放送じゃないけどね」
ユーリが軽く笑うと、ステージ上の照明が点けられた。野球場ほどの面積があるステージ。そこに6つの姿。
「……あれは……!!!」
「そう。ソラミスマイルとドレッシングパフェ。彼女達は肉体の自由を奪われた状態だ。その上でそれぞれアナザーウォッチを持たされている。……これから何が起こるかわかるかい?答えはこれから始まる」
ユーリが笑いをこらえきれずに空気を震わせるのとヒエンが力の入らない拳を固く握りしめるのは同時で、そしてやがて6人に動きがあった。6人同時にアナザーウォッチのスイッチを押す。
「うううっ、あああああ!!!」
アナザーウォッチの光を浴びてらぁらがアナザーフォーゼ・ギロチンステイツに、みれぃがアナザービルド・ノースサタンハザードフォームに、そふぃがアナザーアギト・クリムゾンフォームに、シオンがアナザー響鬼・秀策に、ドロシーがアナザードライブ・タイプドロシーに、レオナがアナザーブレイド・マルスフォームに変身を遂げ次の瞬間にはそれぞれの武器を用いて互いに攻撃を始めた。
「あーっははっはっはっはっはっは!!!!どう?どうかな?最高だろ?君が大好きな人たちを操って君の目の前で殺し合わせる!!君がいつエンハンスを生み出してもいいようにタイムジャッカーの戦術班も待機している!!この僕だっている!!これを超える最高のエンディングってあるのかな!?あーはっはっはっはっはっはっは!!!!!」
爆笑するユーリ。その前方では今でもアナザーライダーにさせられたソラミドレッシングが激闘を繰り広げている。
アナザーフォーゼがツインテールに似せた丸鋸を発射すればそれを弾道学で計算したアナザービルドが回避したばかりか全力の飛び蹴りをアナザーフォーゼに叩き込む。さらにアナザー響鬼がアナザービルドに背後から炎の塊を叩き込む。その間にアナザーブレイドがアナザーアギトとアナザードライブの両者をその槍で蹴散らしていく。
「お、強いねアナザーブレイド。流石唯一の男の子。いろいろ抑圧されていたものでもあるんじゃないかな?それを力に変えてやりたい放題。くくくっ!!もっと、もっと暴れなよレオナ・ウェスト」
笑うユーリ。その隣のヒエンは東京タワーを消し炭にするほどの電気を放出しているのだがその体から1ミリでも放たれたら霧散してしまう。出来ることなら今すぐ目の前で笑うこの屑を消し炭にしてプラネットの力を使ってでも6人を救出したい。だが、今のままではそれが出来ない。視線と声を送る事しかできない。だから、
「いくよ 友達の友達はラブ ハートにくっつく宝物 どんなことだって チェンジ 変わるよハッピー 溢れ出すfried style」
歌を送ることにした。Love friend style。友達のための歌。ユーリは一瞬怪訝な表情になったがすぐに嘲爆笑へと戻った。
「歌って何になるのさ?祝えって奴?あーはっはっはっはっはっはっは!!!!!いくらでも僕が祝ってあげるよ?ぶぷっ!!」
しかし、確かな動きはあった。ステージで激突を重ねていた6人の動きが少しずつ鈍くなっていた。
「……い、一緒にいたいな、気持ちいい……」
「だ、……だって君は……ふわふわな、お布団みたい……」
「……っ!ちゃんと、褒めて讃えてさ……あのね、ありがと。照れちゃうけど……」
「何でだろ……なにかしてあげたい……」
「向かい合い、競い合えたらね……!!」
「そんで……トモチケパキろう……」
「いろいろだけど この気持ち 乙女のピュア……!!」
そして7人の歌が少しずつ呪縛を打ち消していく。ユーリはヒエンと6人を見比べるとすぐに表情を歪める。
「ええい!!どうなってるんだよ!!くそっ!!シンジ!!」
「はいはい、聞こえてるよ」
ユーリが叫ぶと、ステージの向こうから一人の少年が歩いてきた。
「……碇シンジ……いや、アナザーシンジ……!!」
「あれ?僕のこと知ってるんだ。アナザーライムから聞いたのかな?」
「アナザー龍騎に変身していて使徒がどうとか言ってたって聞いたからな……。アナザーティガは倒されたがティガの力じゃアナザーシンジを倒す条件は満たせていない筈だから生きているのは推測できていたさ……!!」
「そう。まあ別にいいけど。それにしてもユーリ。君のやり方はまどろっこしいんだよ。せっかく僕のおもちゃを分けてあげたのに」
「別にいいだろ?君みたいにサクッと首を落とすだけじゃ面白くないじゃんか」
「結局もっと面白くないことになっているだろ?まあ、エンディングに変わりはないだろうけどさ」
アナザーシンジが龍騎のアナザーウォッチを起動させるとその姿がアナザー龍騎サバイブに変貌する。
「自分が確実に生き残るには逃げたんじゃだめだ。自らの手で確実に殺して回るのさ。少しでも自分に害を及ぼすような奴らは、使徒だろうと大人だろうと」
言いながらアナザー龍騎は動きを止めているアナザーブレイドの傍まで寄る。
「やめろ!!」
ヒエンの叫びはしかし届かず、アナザー龍騎の炎の斬撃がアナザーブレイドを切り裂いた。
「きゃああああああああああ!!」
「レオナ!!」
倒れるアナザーブレイド。それを見たアナザー響鬼とアナザードライブがアナザー龍騎に向かっていく。
「おいおい、肉体を制御したんじゃなかったのか。どうせ殺す相手に手心とかいらないでしょ普通」
アナザー龍騎は1枚のカードを出す。
「Demonic vent」
発動したカードにより、アナザー龍騎の右腕にバカでかい砲が装備されて直後に発射。
「うわあああああああああ!!!」
向かってきたアナザー響鬼とアナザードライブどころか背後にいたアナザーフォーゼ、アナザービルド、アナザーアギトまで吹き飛ばされる。砲火の跡には、変身が解除されて倒れたままの6人の姿。
「アナザーウォッチがダメージを軽減しちゃったみたいだな。まあいいさ。どうせ殺すなら生身の方が刺激が強い」
アナザー龍騎が元に戻した右腕に持った剣を倒れたままのらぁらに向けた。
「うううう、」
「どうした?みんなともだちなんだろ?みんなアイドルなんだろ?かしこまって言いながら死んだら?」
アナザー龍騎が感情を載せない言葉を放ちながら剣を振りかざす。その時。
「突撃である!!」
「なの!!」
「ガァル!!」
「え!?」
完全に意識の埒外だった背後からヒエンに何かがぶつかってきた。それはガァルマゲドンの3人だった。椅子から転げ落ちたヒエンはすぐに体の自由が戻ったことを感じ取ると、
「Set up Sparkz rei Chain!!」
すぐさまスパークスの姿に変身し、何かをしようとしていたユーリを殴り飛ばすとマッハ20の速さでアナザー龍騎に迫って飛び蹴りを叩き込む。
「ぐっ!!スパークス!?動けない筈だろ!?」
「知るかぁぁぁぁっ!!!逆切れクソ陰キャ野郎が!!」
立ち上がったばかりのアナザー龍騎に拳をぶち込み、100メートル近く後方の壁までぶっ飛ばしてたたきつける。
「……え……」
「逃げろと言いたいところだがここにいてくれよ、プリパラアイドル達」
一度だけ9人を振り返るヒエン。すると、そのさらに後方で起き上がったユーリがアナザーエグゼイドに変身する。
「アナザーライダーも倒せないくせに生意気なんだよ、いいからさっさとエンハンスを作ればいいってのにさ」
「中身伴ってねぇ、力だけ手に入れただけのクソガキがいい空気吸ってんじゃねえぞ。倒せなかったらなんだ。徹底的に半殺しにしてやることくらいは出来る」
「やってみなよ、レベルアップ!!」
アナザーエグゼイドがガシャットをベルトに押し込むと、その姿が変わる。
「レベルインフィニティ!!チートゲーマー!!」
チートゲーマーになったアナザーエグゼイドが走り、マッハ25で迫りスパークスと手四つで組み合う。
「反応できたんだ!」
「止まって見えるに決まってるだろ!!」
「けど反応しただけだろ」
背後。アナザー龍騎が砲撃を開始した。標的はらぁら達9人。迫るは9000度を超える爆炎の砲弾。爆音だけで判断したヒエンが対処しようとするがアナザーエグゼイドが手を離さない。
「きひっ、特等席で見せてもらうよ」
「くそったれが!!」
アナザーエグゼイドの手首をもぎ取る勢いで力を籠めるがびくともしない。そうしている刹那に砲弾が9人を消し飛ばしてしまう。だが、しかしそれは起きなかった。
「僕を忘れてもらっちゃ困るな」
突如、9人の前に姿を見せたのは仮面ライダーディエンドだった。
「海東!!」
「Final attack ride D-D-Dend!!」
そして自身にそれが命中する前に必殺の威力が込められた砲撃を繰り出し、アナザー龍騎の砲撃を真っ向から押し戻す。
「何!?」
アナザー龍騎が右に走ると同時、先ほどまでいた場所を砲撃が貫通して大爆発が起きる。
「……面倒な奴が……」
「君にとってもっと面倒なことをしてあげるよ」
ディエンドが小さく笑いながら1枚のカードを出してディエンドライバーに装填して発射する。
「Kamen ride N-N-Nerv!!」
次の瞬間、アナザー龍騎の前に碇シンジ、綾波レイ、惣流=アスカ=ラングレー、碇ゲンドウが出現した。
「な、何だって言うんだ!?」
「あんたバカぁ?自分がやってることも分かってないわけ?」
「自分のやってることだって?僕に無理やり使徒と戦わせたのはネルフじゃないか!僕はアカデミアから力をもらってそれに答えただけだ!!」
「……あなたには自分の力があった筈」
「僕はただの男子中学生だ!どんな力があるって言うんだよ!!エヴァはすぐ暴走するし、トウジだって……!!」
「けど、それでも君以外の僕はそれを乗り越えてきたんだ」
碇シンジは一歩前に出た。
「人類補完計画。君はそれを知っているかな?」
「知らないよ、そんなもの……」
「父さんがエヴァとネルフとでしようとしていたことだよ。……僕は僕がやるべきことを1つ1つ乗り越えていくことで僕は父さんが隠してきた本当にやりたいことを知ることが出来たんだ。その上でそれが間違っているということも分かれたんだ」
「……」
「君は逃げなかったのかもしれない。少なくとも何かあるたびにどうにかなりそうだった僕よりかは前に進んでいたのかもしれない。でも、それでもやっぱり逃げていたんだよ。だから他の人たちの悩みとかそういうのを理解する前にせっかく生まれたその機会も訪れなかった。君はもしかしたら君が助けられたかもしれない人を助けずに自分だけを助けたんだ」
「……だから何だって言うんだよ!僕のようなこの力がなければ生き残れなかった!……それに、お前達だってここで死ぬんだよ。これは仕方ない事なんだよ、誰も僕を助けてくれなかった。その報いを受ければいいんだ!」
アナザー龍騎が剣をシンジに向ける。その時。
「君にしかできないことだってあるんだ!!」
シンジたちが消え、剣が空振りに終わった。代わりに正面には見覚えのある少女がいた。それはカチューシャライムだった。
「お前、アナザーライム……!!」
「アナザーライムだって……!?」
アナザーエグゼイドと組み合ったままヒエンが驚きの声を上げる。直後、その手のベクトルが消える。
「え、」
見ればアナザーエグゼイドが後ずさっていた。そして自分とアナザーエグゼイドの間には仮面ライダーカブトが立っていた。
「自分を変えられないものに想像していた未来など掴めはしない」
「天道!?」
「そいつだけじゃない」
さらなる声。それはらぁら達の方向。
「ぐあああ!!」
オベリスクフォースの隊員たちが次々と蹴散らされたその中、仮面ライダーファイズが立っていた。
「巧!!」
「俺には夢がなかった。だが、夢を守ることは出来る」
ファイズ、カブト、カチューシャライムがヒエンの傍までやってくる。
「お前達、どうして……いや、どうやって!?」
「簡単な話だ。俺たちはちゃんと自分達の世界で自分達の物語を全うしてきた」
「その際に声がしたんだ。助けたい友はいるかと」
「だから僕達、助けに来たんだ。ヒエン君を」
「……バカな、1996年、2003年、2006年から援軍だって!?」
アナザーエグゼイドとアナザー龍騎も一か所に合流する。
「俺達だけじゃない」

アカデミア管制室。
「ぐわあああ!!」
「借りは返すのが男の筋道って奴だな」
「その通りだぜ!!」
オベリスクフォースたちを薙ぎ払っていくのは大と小樽。その周囲にはライム、チェリー、ブラッドベリー、ジオグレイモンがいる。

アカデミア地下収容施設。
「……あなた達は……」
囚人服を着せられて土木作業をさせられていたさくらの前、壁をぶち破って現れたのは剣人と三銃士。
「クロウカード、いやさくらカードの司界者だな?俺の名前は風行剣人。ナイトメアカードの司界者だ」
「で、私たちは三銃士。ファンダヴェーレから来たんだよ」
4人は向かってきたオベリスクフォースの戦闘員たちを次々と撃破しながら避難のための道を作っていく。
収容施設から逃げ出したさくら達。しかし曇り空が見える外に出ると、
「ああっ!!」
外には怪獣キングゲスラがいた。しかもちょうどさくら達を見つけたのかこちらに向かって迫りくる。
「カードもないし、こんな状況じゃ……」
「けどまだ目を閉じる時間じゃない」
「まだ、君の未来は終わりじゃないよ」
うつむいたさくらの肩を軽くたたいて二人の青年が前に出た。
「あなた達は……」
次の瞬間さくらの前にはウルトラマンティガとウルトラマンメビウスが出現し、キングゲスラに立ち向かっていった。

「馬鹿な……何が起きている……!?」
アカデミア司令室。プロフェッサー赤馬零王が驚きの声をあげながらモニタをつけて状況を確認する。
管制室にチャンネルを回せば3人のマリオネットがあっかんべーをカメラ目線で送っている。
地下収容施設を見れば剣と魔法の旋律が縦横無尽に舞ってはアカデミアが時空を超えるための装置にエネルギーを送る巨大装置が破壊される。
施設の外を見れば脱走者駆逐用に用意したキングゲスラが二人のウルトラマンによって撃破されていた。
「なぜ、あらゆる世界の、修正された歴史の人間達がここに集まっているのだ……!?」
「所詮この世は因果応報って奴さ」
声。直後正面にあった巨大なドアがぶち破られ、アナザーエグゼイドとアナザー龍騎が吹き飛ばされてきた。そして、
「会いたかったぜプロフェッサー禿」
爆炎を抜けてヒエン、ハイパーカブト、ブラスターファイズ、カチューシャライムがやってきた。
「ジアフェイ・ヒエン……!!」
「タイムジャッカーに手を貸してあらゆる時空に喧嘩売ったのが運の尽きって奴だ。原作を超える戦力差で押しつぶしてやるぜ」
「……くっ、ユーリ!!何をしている!?こいつらを叩き潰せ!!」
「くっ、出来たらやってるよ!!」
立ち上がったアナザーエグゼイドが、ヒエンに殴りかかる。ヒエンはそれを飛び膝のクロスカウンターで迎撃し、怯んだアナザーエグゼイドの腰のあたりを抱え込んで持ち上げ、
「どっせい!!」
バックドロップでそのまま頭から背後の地面に叩き落す。
「馬鹿な、アナザーエグゼイド・チートゲーマーの性能はナイトスパークスをはるかに凌駕するはずだ。この2年間で戦闘経験も十分積ませてある……。何故負ける……!?」
「はっ、2年?こちとらその1000倍生きてる稲妻の騎士様だぜ?スペック差なんざ余裕で覆すほど経験値がたまってるんだよ。第一、これまで散々散々嫌がらせされてきたからな。それに今回のは流石に怒りのパラメータ振り切ってるんだ。逆にてめぇらに勝機なんざかけらほどもねえんだよ!!」
ヒエンが震脚付きで踏み込み、立ち上がったばかりのアナザー龍騎の胸に発勁パンチを叩き込む。
「がああああっ!!」
再び100メートル以上吹き飛ばされたアナザー龍騎がプロフェッサーのすぐ背後にある壁に頭から突き刺さる。
「た、倒せはしないぞ……?」
「知ってる。だが宣言したんだ。徹底的なまでに半殺しにしてやるってな」
「プロフェッサー、」
カチューシャライムが一歩前に出た。
「アナザーライム、貴様アカデミアを裏切ったというのか!?アナザーのくせに……!!」
「アナザーでも僕は幸せな人生を歩むことが出来たんだ。確かにあなたには感謝しているよ。だってあなたが僕をアナザーとして生み出して1996年に送り込まなければ僕は小樽ともヒエン君とも出会えなかったんだ。でも、だからこそあなたのやっていることは許せない。時空犯罪まで犯したあなたを僕が捕まえてやるんだ。出来るだけ殺さないようにするから……だから降参してよ!!」
プロフェッサーの知らない感情を込めた視線がカチューシャライムからプロフェッサーに送られる。
「くっ……」
「何を怯んでいるのだ?プロフェッサーよ」
声。同時に空からアナザーキバが飛来してカチューシャライムの背後に着地。
「!」
「ふん、」
カチューシャライムが振り向いた瞬間にアナザーキバの廻し蹴りがカチューシャライムの首をねじ切って吹き飛ばした。
「ライム!!」
アナザーエグゼイドをキャメルクラッチしていたヒエンの視線の先で首を失ったカチューシャライムの胴体が倒れ、そのさらに先でカチューシャライムのボロボロになった生首が落ちた。
「う、うう、」
しかしマリオネット故、カチューシャライムは生首だけでも意識があるようだった。その事実に一瞬ヒエンが安堵をして次の瞬間にはアナザーキバへと突進する。
「僅かながら躊躇が見えるな」
アナザーキバはその突進を前蹴りで迎撃、ヒエンがやや怯んでる間に抜刀して炎の斬撃を叩き込む。
「ぐああああああああああああああああ!!」
斬撃と同時に爆発が発生し、カブトとファイズまでをも吹き飛ばす。
「ジアフェイ・ヒエン。確かにそこそこ経験値はあるようだがしかし能力では余が圧倒的に上。それに余には才能がある。相手を蹂躙する才能が。それにアナザーと言えども余は一応女である。口や心構えではどのようにしていてもそなたには女である余に全力は出せずにいる。それが今の結果よ」
アナザーキバが余裕に言葉を述べながらカチューシャライムの生首の傍まで歩み寄る。
「や、やめろ……」
炎の中で立ち上がるヒエン。しかし立ち上がるのがやっとだった。無理もない、つい先ほど同じ攻撃を受けて敗北を得て気絶したばかりなのだから。呼吸をするのも激痛が走る体を起こして何とかアナザーキバへと向かおうとするが体が動かない。無理やり前に進もうとして転んでしまう。
「……こ、ここまでか……」
せめてもの抵抗に意識を落とそうとした時だ。
「胸に手を当ててみて 何にもないなんて 間違い感じるでしょ」
歌が聞こえた。
「……これは……」
ポケットから落ちたのはアナザーりんねのウォッチ。それが落ちた衝撃で起動して虹色の輝きを放つ。
「over the world Hello baby future heartのdoorbell鳴らす
Lovery days Friend Passion Change Shinig Hope and more Prism rainbow color of dream」
歌声が乗った虹色の輝きはアカデミア全域に広がった。
「これは……」
ボロボロの状態で海から這い上がったガイとジャグラーの傷がいえていく。
「……すごく、あたたかい……」
さくらの服が元に戻り、封印の鍵とさくらカードとクリアカードがその手に戻る。
「over the mind image Good bye tears 誰もがみんな持ってる 自分だけのSpecial address きっと届く七つのgift」
「……何だかどこかで聞いたことあるかも……」
ガーゴイルに誘導されて避難していたらぁら達が一度足を止めて歌声に耳を澄ませる。そして互いに視線を交わすと、その手に出現したジュエルマイクを口元に運ぶ。
「闇よ、そこをどいて今」
「俯く世界に淡い光のヴェール掛け旅立つ準備をするよ」
9人の歌が虹色に重なり、融合次元全体を覆いつくす。
「……いい歌だ。いい、プリズムのきらめきだ……」
虹のきらめきを受けて立ち上がったヒエン。
「行くぞ、轟け!!万雷ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
突き出した左手に万雷を生み出し、右手で刀身を引き抜く。
「ん、」
「うおおおおおおおおお!!」
そしてアナザーキバの斬撃を真っ向から迎え撃ち、そのままアナザーキバをぶっ飛ばす。
「ヒエン君……」
「ライム、今助けてやる」
ヒエンが手をかざすと、カチューシャライムの首と胴体がつながり、傷が完全回復する。
「……死にぞこないめ、よくも」
立ち上がったアナザーキバ。その左右にアナザーエグゼイドとアナザー龍騎が並ぶ。対してヒエンの左右にはカブトとファイズが構えた。
「行くぞ!!天道!!巧!!」
「ああ、」
「分かってる!!」
3者と3者が走り出し、戦場の中央で激突を果たす。
「いまさらお前達が!!」
「俺も確かに家族を失った際には自分を見失った。夢もなくした。だが、人の道を踏み誤った事なんてない!!」
アナザー龍騎の斬撃を回避しながらファイズは的確に打撃を打ち込んでいく。
「だからどうした!?僕は、誰にも望まれていない!!」
「望まれていなかった奴に仲間なんているか!!」
アナザー龍騎を抑え込み、手首をスナップさせると背後のファイズブラスターが起動して至近距離からフォトンブラッドの砲撃が発射されてアナザー龍騎をぶっ飛ばす。
「ぐうううう!!」
背後20メートルに倒れるアナザー龍騎。対してファイズが全身のフォトンブラッドのエネルギーを右足に集中させる。
「俺がお前を倒し、お前を肯定してやる」
「Exceed chage」
まるで小さな太陽のようにファイズの全身がオレンジ色と赤色に燃え上がり、跳躍。
「僕は、僕は……!!」
「Final vent」
アナザー龍騎もまた跳躍して全身に炎を纏う。
「僕は怖かったんだ!!」
咆哮。直後にブラスタークリムゾンスマッシュとアナザードラゴンファイヤーストームが激突を果たし、フロア全体を爆炎が包み込み、なおも爆発が連続して発生して建物全体に亀裂が走る。
「……言えたじゃねえかよ」
幾度もの爆発が終わった後。ボロボロの巧が煙を吐きながら歩み寄り、アナザーシンジとアナザー龍騎のウォッチを拾い上げた。
「……お前の否定はここで終わったんだ。……にしても、いってぇな……!!」
そして、そのまま巧は大文字に倒れた。
燃え盛る建物を見下ろす上空。
「……危ないところだった」
プロフェッサーが玉座に座っていたまま浮いていた。そしてその手には4枚のカードが握られていた。いずれにも同じ顔の少女たちが刻まれている。
「アナザー龍騎が敗れたか。アナザーライダーは数が限られているうえ明確な弱点が存在する。それを補うためにアナザー態と言うものを用意する発想はよかったかもしれないが……。中身があれではな」
そこでふとプロフェッサーが手元を見る。と、先ほどから握っていたカードがすべてトランプにさし変わっていた。
「!?」
「お探しのものはこれかい?」
声。視線を向ければ正面には気球が浮いていてそこには一人の男がいた。タキシードにシルクハットにステッキの男。
「……AD2006年の住人……怪盗百色!!」
「ご名答。ある人物からこれを盗むよう依頼されていてね。悪いが頂戴させてもらうよ」
「そうはさせない!」
怒りの形相でプロフェッサーは何かのスイッチを押す。と、
「ぎがああああああああああああああああ!!!!」
すさまじい叫び声とともに何かが舞い上がってきて百色の気球に飛び乗った。
「やれ!BB!!」
「うがあああああああああああああああああああう!!!」
BBと呼ばれた野生児じみた青年が百色に襲い掛かる。
「……やれやれ。私は怪盗であってサーカスの仕込み人ではないんだがね」
BBの迫りくる手をステッキで払い、同時に懐から出した拳銃でBBを射撃。
「がる!?」
「麻酔弾だ。多少傷は残るだろうが命に別状はないだろう。寝ていたまえ」
「BB!?」
プロフェッサーには突然BBが倒れたようにしか見えなかった。銃声すら聞こえない。
「怪盗百色は奇術に長けているというのは本当のようだな……ならば、致し方ない」
プロフェッサーは懐からアナザーウォッチを取り出した。
「……あれは……!!」
そして百色の前でプロフェッサーは姿を変えた。
「まさか私がこの力を使うことになるとはな……!」
玉座を粉砕して一瞬で百色に詰め寄ったのはアナザーディケイドに変身したプロフェッサーだった。
「くっ!!」
「動かない方がいい。動けば殺す」
懐に手を入れようとした百色の手を止めたアナザーディケイドは次の瞬間には盗まれた4枚のカードを奪還し、気球から飛び降りた。
「アナザーディケイド!?」
アナザーエグゼイドをタコ殴りにしながらヒエンがその着地に気付く。
「見事な強さだ。流石はナイトスパークス・黒主零。だから私が直接手を下そうじゃないか」
一度まるで執事か何かのような挨拶をするアナザーディケイド。次の瞬間には大地を蹴って猛烈なスピードでヒエンに迫る。アナザーディケイドの拳が、しかしヒエンには届かなかった。
「ぐふっ!!」
「天道!!」
ヒエンの眼前。カブトがその身でアナザーディケイドの攻撃を受けていた。
「ほう、ハイパークロックアップで見切ったか。しかしこのパワー、たやすく防げないだろう?」
アナザーディケイドの言葉が終ると同時、カブトは火花をあげながら後ろに倒れた。
「天道!!」
「……ハイパークロックアップでも奴の攻撃からお前を守る手段はこれしかなかった……。気をつけろ、奴は強い……」
倒れると同時にカブトの変身が解け、血だらけの姿に戻った天道はその言葉を残し、気絶した。
「天道!!おい、天道!!」
「……まだ息があるな。踏みつぶすか」
アナザーディケイドがそのまま天道に歩み寄り、その頭を踏みつぶそうと足を上げる。
「させるか!!」
ヒエンが加速し、アナザーディケイドに向かって万雷を振り下ろす。しかし、アナザーディケイドはそれを指2本で受け止める。
「!」
「これがアナザーライダーの力か。これほどの力がありながらどうして今までアカデミアは失敗してきたのか」
そのまま万雷を掴んだアナザーディケイドがヒエンを投げ飛ばす。さらに空中でアナザーキバが炎の飛び蹴りをヒエンにたたきつける。
「くっ!!」
ギリギリで防いだヒエンがピンポン玉のように吹き飛び、100メートル近く吹き飛ばされる。
「……くっ、意識が一瞬飛んだ……」
ギリギリで着地したヒエンだが起き上がろうとして一瞬頭が揺らぐ。
「アナザーキバとアナザーディケイドが厄介過ぎる……!!それにこのままじゃ天道が……」
そこでヒエンは違和感を感じた。こちらを見て嘲笑に肩を上下させるアナザーキバとアナザーディケイド。その背後で倒れているのが天道からカブトに変わっていたのだ。
「……最後の力で変身した……?最終回の加賀美みたいにか……?」
ヒエンの視線にアナザーキバ達が気付き、カブトを振り返る。
「……ふん、無駄なあがきを」
アナザーディケイドがカブトを踏みにかかる。次の瞬間、アナザーディケイドの足は液体を踏み抜いた。
「何!?」
「……やっぱりそうか!!」
ヒエンの声に反応するかのように地面から無数の水の針が出現してはアナザーキバとアナザーディケイドを弾き飛ばし、空に舞い上がる。と、
「Final attack ride G-G-Gtakiriba!」
次の瞬間、空に舞い上がった水が無数のオーズ・ガタキリバコンボに変身し、100体を超えるライダーキックが雨のように2体に降り注ぐ。さらに、
「Final attack ride K-K-KIVA!!」
最後の一人がキバ・ドガバキフォームに変わり戦いの場所が満月の夜空に変貌。月光を身にまといながら超高速でキバが飛来してアナザーキバにダークネスムーンブレイクが撃ち込まれる。
「ぐっ!!」
背後のステンドグラスを幾層も粉砕してアナザーキバが吹き飛ばされて息を切らせる。キバが着地すると同時に戦いの場が元に戻り、そしてキバの姿が変わる。
「士!!」
ヒエンが歩み寄る。今、目の前にいるのは間違いなく門矢士だった。
「力は取り戻したようだな」
「ああ。お前も無事だったんだな」
「当たり前だ。お前がいない状態で殺しても意味がないと思われたのか俺はディケイドの力を奪われた状態で地下牢獄に落とされていた。だが、念のためにと思って俺はディケイドとしての力を半分隠していたんだ。それ以降はバイオライダーの力で脱走してお前達が来るのを待っていたんだ」
「で、今度は隙をついてクロックアップを使って天道と入れ替わっていたってわけか」
「まあな」
「……おのれ、ディケイド!!」
叫ぶアナザーディケイド。対して士はケータッチを3つ取り出した。
「そのセリフは言われ慣れている。だから今度は俺が初めての戦いを見せてやる」
士が3つのケータッチをまるでお手玉のようにジャグリングしながらそれぞれのボタンを押していく。
「1号 2号 V3 ライダーマン X アマゾン ストロンガー スカイライダー スーパー1 ZX BLACK RX シン ZO J!!
クウガ アギト 龍騎 ファイズ ブレイド 響鬼 カブト 電王 キバ!!
W オーズ フォーゼ ウィザード 鎧武 ドライブ ゴースト エグゼイド ビルド!!
Grand Final Form Ride D-D-Dicade!!!」
変身を遂げたディケイドは今までに見たことがない姿をしていた。全身黄金とマゼンタ。全身のいたるところに全ライダーの意匠が刻まれ、その背後には後光のように35枚のカードが円を描いて宙に浮いている。
「き、貴様、何者なんだ……!?」
「通りすがりの仮面ライダー……はもう古いか。今の俺は、仮面ライダーディケイド・グランドコンプリートフォームってところか」
「……やりすぎだろ」
隣のヒエンがドン引きしている間にディケイドが先を歩く。
「ゆ、ユーリ!!」
「くっ!!」
アナザーエグゼイドが立ち上がって拳握って向かっていく。
「エグゼイドか。ならこんなアレンジはどうかな?」
ディケイドが指をパチンと鳴らすと、背後から4枚のカードが飛来してきてそれぞれ輝き出す。
「スーパー1!ZO!電王!!エグゼイド!!」
電子音が鳴ると同時に4枚のカードがそれぞれのライダーの半透明な姿に変わり、アナザーエグゼイドの拳をスーパー1が受け止め、ZOがショルダータックルでアナザーエグゼイドでぶっ飛ばし、空を舞うアナザーエグゼイドを電王が刃先を飛ばした剣で切りつける。
「がはっ!!」
「ぽちっとな」
ディケイドがFスイッチを押す。と、構えたエグゼイドに他3人が重なり、エグゼイドの姿が変わる。両腕が5色のファイブハンド、ZOのカラーリング、クライマックスフォームの意匠を纏ったエグゼイド。
「エグゼイド・ファイブラブクライマックスゲーマー……長いな」
文句を言っているディケイド。その間にエグゼイドが走り、ファイブハンドのあらゆる攻撃を混ぜ合わせながら空中で何度もアナザーエグゼイドを叩きのめしまくる。
「おのれ……おのれ……!!」
「お前相手に2度とどめを刺す必要はない。ヒエン、譲ってやる」
「え、あ、そうか。じゃあ徹底的にやってやる」
崩壊寸前のアナザーエグゼイド。ヒエンは万雷を納めた拳を握って歩み寄る。
「き、貴様……!!」
「お前にはたらふく恨みがたまってるんでな。ってわけで、らぁらの分!!」
全力のパンチがアナザーエグゼイドの顔面をぶん殴る。
「ぐぶっ!!」
「みれぃの分!!そふぃの分!!シオンの分!!ドロシーの分!!」
5発がアナザーエグゼイドの顔面をぐちゃぐちゃに変形させる。
「そしてこれが貴様に侮辱されたレオナの分だぁぁぁぁぁっ!!!」
100億ボルトの電気が纏われた左拳がアナザーエグゼイドの胸にぶち込まれ、下から上に雷が巻き起こり、アナザーエグゼイドを空高く吹き飛ばす。
「プレゼントだ」
そこでディケイドがPスイッチを押すと、エグゼイドのシルエットがヒエンに重なり、ヒエンの体がエグゼイドの姿になった。
「……もう何も突っ込まん。そんな事よりも!!」
ヒエンが跳躍。
「ハイパーライダークライマックススパーキング!!」
空中で赤心少林拳の構えを取ってからその勢いを殺さずまっすぐアナザーエグゼイドに突っ込んでいき、飛び蹴りを叩き込む。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
もはや声さえ出ないありさまでアナザーエグゼイドは空の彼方まで消えていった。
「……」
「何だ、気が済まなかったのか?」
「いや、あまりにぶっ飛んだ力過ぎて途中で慮ってしまった」
「気の難しい奴だ」
ヒエンの肩に手を置くと、ヒエンの姿が元に戻り、4枚のカードがディケイドの背中に戻る。そしてディケイドの視線がアナザーディケイドに向かう。
「……バカな、馬鹿な!!こんなことあるはずがない!!私の計画ではとっくの昔に門矢士は死んでいて、ジアフェイ・ヒエンはアナザーエンハンスを生み出しているはずだ!!こ、これは夢だ!!悪夢に違いない!!」
「悪夢だ?塔子ちゃんの姿が見えないなぁ?だとしたらこれは現実だ」
「き、貴様たちは世界を壊すつもりなのか!?」
「世界を壊し、世界をつなぐ。10年前から俺の旅の目的は変わっていない」
「……くっ!!うおおおおおおおおおおおお!!」
アナザーディケイドがディケイドに向かって走り出す。そのスピードはヒエンでぎりぎり追えるかどうかと言うほど。しかし、ディケイドは完全に見切っていた。
「Final attack ride D-D-Dicade!!」
「!?」
同時、アナザーディケイドを取り囲むように全ライダーのシルエットが出現する。
「オールライダーパンチって奴だ」
そして次の瞬間、ウィザードを除いたすべてのライダーが一斉にパンチを繰り出し、アナザーディケイドのボディを粉砕する。
「ぐああああああああ!!」
「さあ、フィナーレだ」
残ったウィザードのシルエットがディケイドに重なり、ディケイドはグランドコンプリートインフィニティースタイルに変身して跳躍。
「グランドディメンジョンストライク、最高だな」
無数の魔法陣とカードを通り抜けてディケイドが宙を舞い、そのままライダーキックをアナザーディケイド向けて放つ。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「アカデミアの野望、確かに砕いた」
衝撃がアナザーディケイドを貫通し、背後にディケイドが出現すると同時に大爆発。天まで届くような火柱が上がった後、爆発が収まり、ズタボロになったプロフェッサーが倒れた。
「プロフェッサーが……!!」
アナザーキバがプロフェッサーのもとへ行こうとすると、ブレイド・キングフォーム、オーズ・プロティラコンボが道を阻み、同時に攻撃。飛ぶ斬撃と凍てつく砲撃をアナザーキバは炎の斬撃で打ち砕き、突進の勢いでブレイドを切り払い、オーズの斬撃をその刃で受け流しながら炎の膝蹴りを叩き込む。
「タイラントムーンインフェルノ!!」
刃を地面に突き刺し、アナザーキバが両手を掲げると同時に周囲の地面から火柱が上がり、倒れていたブレイドとオーズを焼き払う。そのまま二人が灰となって消えそうになった時。
「そんなもったいない真似はしない」
ディケイドがカードをめくる。と、消えそうになったブレイドとオーズがカードに戻り、満月を背にゆっくりと歩んでくるキバ・エンペラーフォームへと流れていき、
「がぶ!」
ベルトのキバットが2枚のカードを口に入れる。するとキバの姿が変わる。黄金の鎧に剣、そして紫色の翼と尻尾を蓄えたキバ・キバティラエンペラーフォームへと変身する。
「余は負けぬ!!」
アナザーキバが刃を握り、火柱吹き荒れる大地を駆け巡り、キバへと迫る。
対してキバは2本の剣、紫色の翼を広げて空を舞い、火柱が届かない満月の空を背に亜光速で急接近。
「インフェルノムーンブレイク!!」
「キバティラエンペラームーンブレイク!!」
まず最初に炎の斬撃と氷の斬撃がぶつかり合い、それをロイヤルストレートフラッシュの閃光がぶち破り、同時に放たれたムーンブレイクのキックが中心点で激突を果たす。
「余は負けぬ!!」
アナザーキバの装甲は砕けた。アナザーキバのウォッチも粉砕された。しかし、赤セイバーは猛烈なやけどを負ってはいたが無事だった。
「ロサ・イクトゥス!!」
ひび割れた真紅の刃をふるい、キバにたたきつける。
「ぐっ!!」
ムーンブレイク同士の激突からさらなる斬撃を受けたキバはバランスを崩し、ついに墜落。
「はあ、はあ、」
その傍に着地した赤セイバーははち切れそうな心臓を何とか静めつつ握った刃を倒れたままのキバの首に向ける。しかし、そこでその身動きは終わった。
「……まさか……」
視線を可能な限り背後に向ける。気配を探る。そこにはとてもこの場に存在するのにふさわしくない小さな気配があった。
「……汝のあるべき姿に戻れ……!!」
背後。そこにいたのはさくらだった。封印の鍵を開放し、赤セイバーに向けて封印の呪文を唱えている。
「クロウカード!!さくらカード!!クリアカード!!」
「無駄だ!!余はカードではない!!司界者と言えどこの余を封印出来てたまるか……!!」
呪詛を叫ぶ赤セイバーだがその身に起きた現象に変化があった。徐々に、徐々にだが内側からその存在が虚無になっていく感覚があったのだ。
「……まさか、余を現界させている聖杯の力を3枚のカードに分けて封印しているのか!?」
「主亡き者よ、夢の杖の元、我の力となれ!固着(セキュア)!!」
「ぐっ、おのれ……!」
叫ぶ力はあれどしかしそれが空気に触れるよりも前に赤セイバーはその存在を世界から消した。残ったのは赤い文字で暴君と書かれた1枚のクリアカードだけだった。
「……いつかの借りを返せてよかった」
ディケイドが士の姿に戻る。
「……これで全部終わったのか」
ゆっくりとヒエンが周囲を見渡す。
ズタボロになって倒れたプロフェッサー。その前にはほとんど欠片しか残っていないアナザーディケイドのウォッチ。
先ほど地平線の彼方までぶっ飛ばされたユーリ。やはり欠片ほどしか残っていないアナザーエグゼイドのウォッチ。
さくらが握る赤セイバーのクリアカード、そして粉々になったアナザーキバのウォッチ。
「……しかしよくもこれだけ仲間を集めて来れたものだ。流石の俺も予想外だった」
「……こんなのだれが予想できるって話だよ全く」
脱力し、地面に腰を下ろすヒエン。傍らには士とさくら。そして視線の先には救出と脱出を終えたすべての仲間たちが揃っていた。
天道、ひより、大とシャイングレイモン、三志郎と焔龍、三島姉妹と一、三銃士、ガーゴイル、百色、メビウス。
ボーボボ、清磨&ガッシュ、江戸川コナン、巧、剣人とキマイラ。
悟空、小樽、バンダナライム、カチューシャライム、チェリー、ブラッドベリー、ティガ。
ソラミスマイル、ドレッシングパフェ、ガァルマゲドン、ガイ、ジャグラー、海東。
「……だがまだ決着にはなってないみたいだ」
「どういうことだ?」
「……榊遊矢達がいない。ユーリに取り込まれている可能性もあるが、あの様子だとそれも低い」
「……だがもう行ける場所など残っていないぞ」
「……あるさ。最初にして最後の戦場。AD2018年が」
そうしてヒエンは満身創痍のまま満月の空を見上げた。

AD2018~ The over for ever

・AD2018年。
「……まったく、面倒なことになったものだな」
金髪+パンクな衣装ーーーーこの世のすべてに反発する淡い意志を形にしたかのような懇切適当ファッションの青年は暗い玉座で舌打ちをしながら不機嫌そうに顔を上下させる。さも自分は苦労してます周りが情けないだけですと誰でもいいから認めてほしいとアピールしているかのように。
「ティード……」
傍らにいるのは人外。鬼を象った真紅の、しかしその風貌は鬼よりかは妖怪に近い怪物じみたスタイル&ボディ。それはかつて2014年の世界で門矢士と戦ったアナザー電王だ。だが、出した声の主は違う。
「アカデミア本部が落とされたって?ああ、それは全然かまわねえ。所詮奴らは時空を超えるだけの集団。最初からあてになんてしてない。アナザーエンハンスだって別にどうでもいい存在だ。俺は求めちゃいない。タイムジャッカーからしたって多少信ぴょう性があるだけの夢物語だってわかり切っていた計画だ。別にその失敗なんてどうでもいい。だがな、どうしてスパークスどもがこの2018年の世界にやってきそうな事になってんだ?あん?それに、どうして俺が消した歴史、2001年の歴史が元通りになりつつあるんだよ。本来なら1996年にベビーによって石ノ森章太郎は殺されて、スタジオどころじゃない。歴史も文明もツフルのものに変わって平成ライダーは誕生しない。そう言うシナリオだったはずだ。何故そうなっていない?この状況は一体どうなってるって言うんだよ」
ティードと呼ばれた青年がイライラを隠さず見据えた正面。先ほどまでは戦闘があった場所だ。しかし戦っていた相手はそのさなかにどこかに消えてしまった。相手にそんな能力を持っている者はいないし況してや自分がそんなことをしたような覚えもない。完全に想定外の状況だ。
「はぁ~、仕方がない。おい、アナザー電王。アナザーWと合流して町を侵略。適当に人質取って奴らの動きを封じろ」
「……人質ならいるのでは?」
「おいおい、馬鹿かお前。あいつらをここまでおびき寄せようってのか?シンゴにはこの際だからあいつらの存在も消してもらおう。特異点であるシンゴならそれも不可能じゃない筈だ。……おいお前達。何やってんださっさと行けよ。奴らが迫ってきてるってのがわからねえのか?門矢士もいるから気をつけろ。何なら真っ先に門矢士は始末して構わない。アナザーエンハンス発生の兆候がつかめたら俺を呼べ」
「……分かった」
アナザー電王はしぶしぶと返事をし、姿を消した。


・町。突如出現したアナザー電王、そしてアナザーW。突然それを見た周囲の人々は悲鳴を上げて逃げ惑う。
「ふん、」
アナザーWが手を伸ばすと、文字通り伸ばした手がゴムのように伸びては背を向けて逃げ走る少年の頭を掴む。
「うわああ!!」
「こいつでいいか」
手の長さを戻して少年を引き寄せる。
「お前には人質になってもらう」
アナザーWの手が完全に戻り、少年が引き寄せられそうになるその瞬間。
「させるか!」
2台のバイク音が迫った。
「!」
爆走する2台のバイクはアナザーWをぶっ飛ばし、その手から離れた少年が地面に叩き落されてしまう前に回収する。
「何だ貴様たちは!?」
「どっちかって言うとこっちのセリフなんだがな」
「まったくだ」
バイクから降り、少年が逃げて行ったのを確認してから二人の男がヘルメットを脱いでアナザーWに向き直る。それはトゥオゥンダとジキルだった。
「あいつは約束をすっぽかすし、街にはグロテスクな偽物まで現れるしでとんでもない誕生日になっちまった」
「……数えさせる罪がまた1つ多くなったな」
「……お前達、まさか……いや、そんなことあり得ない!」
動揺するアナザーW。その正面で二人がベルトを出し、それぞれガイアメモリを手に握る。
「「変身!!」」
「サイクロン!!トリガー!!」
緑と青の光が瞬いた次の瞬間には二人は仮面ライダーWサイクロントリガーに変身していた。
「「さあ、お前達の罪を数えろ」」
「馬鹿な!?仮面ライダーWだと!?どうして貴様がここにいる!?俺はお前達の歴史を奪って誕生した!!だからお前達がここに存在できるはずがない!!」
「「そんなこと知るか!!」」
両者同時に走る二人のW。ちょうど中間地点で激突を果たし、同時にWがアナザーWをバックドロップで背後のコンクリートにたたきつける。慌てて起き上がったアナザーW。同時にその胸に向かってWは射撃。4発の弾丸が立て続けにその胸を打ち抜き、アナザーWはうめき声をあげながら後ずさる。その隙を逃さずWは全速力で接近。相手の右腕を左腕で掴んでからドロップキックを打ち込み、自身が背中から地面に落ちる勢いを利用して相手を巴投げで背後に投げ飛ばす。
「ぐふっ!!な、何だこの強さは……!?強化コピーであるはずの俺より強いだと……!?」
「「強化コピー?この程度の強さ、5年くらい前には超えてたぞ?伊達に8年間も戦っちゃいないさ」」
「8年間だと!?馬鹿な!?いったいどこで歴史が狂ったんだ……!?お前は、お前達は一体……!?」
「「よくわからない話だが、好き勝手やってる人外連中相手に強い者いじめをするのが大好きなんでね。降参しない限りとどめを刺させてもらう」」
Wが銃口をアナザーWに向ける。と、
「ここまでだ!」
アナザー電王が刃を以て迫り、Wに向かって斬撃を放つ。
「「おっと、」」
Wはそれを余裕で回避しつつ、アナザー電王の接近を防ぐため足元を射撃。アナザー電王の足元で小さな爆発が発生し、わずかに後ずさったアナザー電王の胸を銃撃。火花を上げて後ずさるアナザー電王に今度は逆に急接近し、下腹部に膝蹴りを打ち込んでから相手の左角を掴んで巴投げで背後に投げ飛ばす。その際に角を掴んだままにしたことでアナザー電王は投げ飛ばされず、しかしその勢いのまま背中から地面にたたきつけられる。
「ぐっ!!」
「「ん、手ごたえがおかしいな。負ける気はしないが、倒せる気もしない。何だこいつは」」
起き上がったアナザー電王の右腕を掴んでからドロップキック、倒れた勢いを利用して背後に投げ飛ばす。
「まずいな、強すぎる」
「ああ、一騎打ちどころか2対1でも勝ち目がない」
Wから離れた場所で2体のアナザーライダーが体勢を立て直しながら耳打ちする。
「仕方がない。本来ならば門矢士対策だったがこれを使うしかない」
アナザーWがなにかをとりだして地面にたたきつける。
「「何だ、煙幕か!?」」
Wが廻し蹴りを放ち、その衝撃波で煙幕を払いのける。と、同時に強い衝撃がWを襲う。
「「くっ!何だ!?」」
受け身を取り、なるだけ低ダメージで抑えて立ち上がるW。その正面には巨大と無数の影。
「「な、何だこれは!?」」
無数の影はすべてが中身のない量産型とはいえクウガと電王とWとジオウを除いた16体のアナザーライダーで、巨大な影は遊矢、ユート、ユーゴの顔をポケモンのナッシーみたいに横に並べて化け物のような叫び声を放たせる覇王龍ズァーク。
「「……おいおい、こんなの相手にしろって言うのかよ」」
「蹂躙してしまえ!!」
アナザーWの指示で巨大と無数とが一斉に動き出す。

「何やってるんだあいつら……!!」
玉座の間。ティードが怒りのままに床を蹴りつける。正面モニターには町の様子が映っている。
「ほかのアナザーライダーはともかく、ズァークはとっておきだと言ってあった筈だ……!それをライダー一人ごとき相手に使いやがってどうしようもないぼんくらが!!」
「……荒れているみたいだね」
「あん?」
新しい声。見れば時空が一瞬歪み、次の瞬間にはユーリが出現した。
「アカデミアのアナザーエグゼイドの奴か。今までに2度も連中に負けて帰ってきた負け犬オブ負け犬が一体どの面下げてタイムジャッカーの俺の前に姿を出してきたんだ?あ?」
「確かにアカデミアは滅んだ。でもまだ僕がいる。僕がいる限り融合次元アカデミアは絶対に滅びることはない!」
「……は、それはそれはたいそうなご名分だが、今のお前に何が出来る?シンゴが次に目を覚ました時には2000年以降の歴史は再びタイムジャッカーによって完全に支配された歴史に生まれ変わる。そうなれば仮面ライダーもいない。お前もアナザーエグゼイドの力を使えなくなる。ただの14歳のガキにいったい何が出来るって言うんだ?あぁん!?」
「ただの14歳のガキじゃないから色んなことが出来るのさ。……それよりそろそろ動くはずだ」
「あん?」
ティードが返事をした瞬間。背後の水晶体に幽閉されていた少年・シンゴが目を覚ました。その瞬間ティードが作り出した超時空変換装置が作動。少年が生きていた時代である2000年にすべての時空が巻き戻されて、ifの未来が消えていく。
「「……な、何だ!?」」
奮戦していたWの動きが止まり、次の瞬間にはトゥオゥンダとジキルの姿に戻ってしまった。しかも、
「こ、子供の姿に戻ってる!?」
「な、なんだこれ小学生くらいかよ!!」
驚愕する二人。その場にいた16体のアナザーライダーは一様に動きを止める。また、アナザーWとアナザー電王は姿を消していた。
その2体はティードたちの元に戻ってきていた。正確に言えばあの場にとどまっていた場合消滅の危機があったため事前に仕掛けていた装置によって強制送還されたというのが正しいか。
「発動したのか?」
「ああ。したさ。これですべての時空から平成ライダーは消滅した。これでもう誰も俺たちタイムジャッカーを止められるものはいない。……そのはずだったんだがな!!」
叫び。ティードが既にユーリが見ていた方へと視線を向ける。そこでは先ほどユーリが現れた時と同じような時空のゆがみが出現していた。そして、次の瞬間には玉座の間全体が全く別の空間へと塗り替えられた。そこはまるで美術館のような場所。辺りには20人の平成ライダーや平成ウルトラマン、他いくつもの無数のアニメや作品などを模した彫刻が陳列されていた。
「……何なんだよ、これは……何が起きているんだ!?」
「ここは運命だよ」
声。次の瞬間、突如アナザー電王が後ろから蹴りつけられて正面に倒れる。
「な、何だ!?」
立ち上がりながら振り向けばそこにはスーツの青年がいた。
「何者だ!?……いや、どこかで見覚えがある……何だこの感覚は……!?」
「うれしいよ、君の中にいる彼が僕の事を覚えていてくれているからこそこうして僕はここで動けるんだから」
スーツの青年はにこりと笑った。この場にふさわしくないほど純粋に。そして、
「行くよ、モモタロス」
「おうよ!!」
「変身!!」
「sword form」
次の瞬間、
「俺、参上!!!」
青年は仮面ライダー電王に変身していた。
「仮面ライダー電王だと!?どうして存在している!?」
「うるせえ!!そんなこと俺が知るかよ!!行くぜ行くぜ行くぜ行くぜ!!!!」
刀を抜いた電王が電光石火のスピードで迫り、立ち上がったばかりのアナザー電王に次々と斬撃を打ち込んでいく。相手が同じく刃で防ごうとすれば喧嘩キックが顎をぶち抜き、それでよろめけばさらなる斬撃で相手の刃を粉砕。砕けた刃をアナザー電王が再生させようとすれば頭突きで再び怯ませてから斬撃で切り伏せる。
「お、おいティード!!俺たちアナザーライダーはモデルになったライダーを強化コピーした存在のはずだ!!なのにどうして奴らには勝てないんだ!?」
「俺が知るか!!お前達があまりにもだらしがないだけだろ!!」
「……いや、そうじゃないよ」
「あぁん!?」
「君達は飽くまでも力を渡されただけだ。その使い方を少し知っているだけに過ぎない。だからこそ経験を積んでその力の使い方を120%知っている本物には及ばない。だから君達は強化したところで所詮コピーに過ぎないのさ」
「……だが知ってるぞ。お前も2014年で門矢士に負けていただろうが!!それに2016年でも負けたはずだ!!」
「ああ、そうさ。相手が悪かったからね。しかし今仮面ライダー電王もまた決していい状況ではない。……僕達もやろう。どんなに経験積んだところで普通の手段じゃ4対1は勝てないよ」
「……ちっ、」
ティードがアナザークウガのウォッチを出してスイッチを押す。
「クウガ!!」
「どいつもこいつもイライラさせやがって!!!すべては俺を笑顔にさせるためだけに存在していればいいんだ!!!」
そしてアナザークウガになったティードがアナザーWとともに電王に迫る。
「おっと、ここじゃあアナザーライダーは消えないのか。面倒なこったぜ全くよ!!」
言いながら電王はアナザー電王の角を掴んでその体を片手で持ち上げては迫りくるアナザーWに投げつける。
「俺の強さにお前が泣いた!!」
次の瞬間には電王はアックスフォームになっていて、自身の倍以上の大きさを持つアナザークウガのパンチを受け止める。
「何!?」
「借り物の力で俺に勝てると思うたらあかんで!!!」
電王はアナザークウガのパンチを押し戻し、腰から取り出した斧の一撃を相手の腰に叩き込み、アナザークウガを何メートルも吹っ飛ばす。
「がああああああっ!!」
「お前、倒すけどいいよね?答えは聞いてない!!」
次の瞬間には電王はガンフォームに変身していて、起き上がったばかりの3体に向かって射撃の雨を降らせる。
「お前も僕に釣られてみる?」
そしてロッドフォームになった電王はその釣り竿と槍が合わさったようなデンガッシャーを伸ばし、アナザー3体を払いのけながら背後にいたシンゴを回収する。
「シンゴを!?」
「やれるだけのことは僕の間にやっておかないとね」
「おのれ!!」
シンゴを片手に抱いた電王に迫るアナザー電王。
「そろそろ3枚におろすか」
その突進をデンガッシャーで受け流し、
「良太郎、後は頼むよ」
「分かった」
「linner form」
ライナーフォームとなった電王の拳の一撃でアナザー電王が宙を舞う。シンゴを背負ったまま電王はアナザー電王に向かって線路を伸ばすと、その線路の上を超高速で進みながら両腕に持ったデンカメンソードを振るう。
「電車斬り!!」
落ちてくるアナザー電王に向かって一閃。その一撃を受けたアナザー電王は大爆発。
「あ、」
中身になっていた青年アタルは空中で電王にキャッチされた。
「……仮面ライダー電王……」
「……ありがとう。君は僕のファンでいてくれた。憧れとか夢とか、そういう思いがあればたとえ空想であったとしても生きていられる。誰かの心の中にいる限り、僕は消えないよ」
「……憧れと夢……」
「そう。そして、僕だけじゃない。ここに一緒に来た仲間たちも」
電王が着地すると同時。その背後の空間に巨大な歪みが出現した。
「何が起きた!?」
「……来るのさ」
驚くティード、笑みを消すユーリ。そして正面。
「……やっと来たぜ。2018年!!」
ヒエンと士、さくら、ソウゴ、ゲイツ、ガイが出現した。デンライナーからやってきたのだ。しかし2018年に到着した時点では超時空変換装置によって2000年より先の因子を持つものが2018年の世界に行けなくなっていた。だからデンライナーと合流しても2018年の世界に行くことが出来なかった。だが、アナザー電王の中にいた青年・アタルは少年時代より仮面ライダー電王が大好きだった。その想いは記憶を消され、人格を消された状態であってもその脳裏には電王の姿があった。だから電王だけは、野上良太郎だけは2018年の世界に降りることが出来たのだ。そして電王によって超時空変換装置の媒体となっていた少年アタルが救出されたことにより2000年以降の因子を持った存在でも活動が可能となったのだ。
「でも驚いた。まさか俺達が2000年とかに行ってる間に色んな戦いが起きてたなんて」
「こっちだってまさかジオウとゲイツと出会っちまうとは思わなかったさ」
「門矢士、10人目の平成ライダー。警戒しないといけないな」
「心配するな、秋山蓮。俺は何もしない」
「明光院ゲイツだ!」
「……で、お前はまだ死に損なってるのかよ、ユーリ」
ヒエンの視線がユーリに刺さる。
「死に損なっている?僕は普通に元気いっぱいさ。一度もゲームオーバーなんてしていない」
「は!アナザーエグゼイドのウォッチなら破壊を確認してるぜ。もうお前に戦力はないはずだ」
「あんなもの僕にとってはおもちゃ。それこそゲームに過ぎないよ」
「うっせぇぞガキが!!」
そこでアナザークウガが前に出る。
「貴様たちはこのタイムジャッカー・ティード様が蹴散らして粉砕してやるわ!!」
「アナザー……クウガ……だと?よくもまあこんなグロテスクな化け物の姿にしてくれたもんだ」
「おいヒエン。お前にあいつを倒すのは無理だ。ここは俺がやる」
士が前に出る。と、同じようにソウゴとゲイツも前に出た。
「一緒でしょ?」
「お前だけじゃ心もとない」
「……好きにしろ」
「Kamenride,D-D-Decade!!」
「ライダータイム・仮面ライダージオウ!!」
「ライダータイム・仮面ライダーゲイツ!!」
アナザークウガの前にディケイド、ジオウ、ゲイツが姿を見せ、戦闘を開始する。
「……」
「……」
その戦闘の傍らでヒエンとユーリが視線を交差させている。
そして、互いに同時に床を蹴った。
「はあっ!!」
「ふんっ!!」
ヒエンの正拳突き。それを半身にそらすことで回避したユーリは前に出た足でヒエンの脇腹を蹴りつける。痛みに耐えながらその足を掴んだヒエンがユーリをジャイアントスイングで投げ飛ばし、壁にたたきつける。が、ユーリは両足をばねのようにして壁を蹴って猛スピードで接近、空中で一瞬動きが止まってるヒエンに運動エネルギーと全体重がこもったクロスチョップを叩き込む。
「ぐっ!!」
「もらったよ!!」
ダメージを負って落下していくヒエンの両足に自身の両足を絡ませて、そのままヒエンの頭から二人分の体重で床に大激突する。
「ダブルドライバー!!」
「がはっ!!」
頭蓋骨に亀裂が走る。叫び声が脳内で反射する。ヒエンは血を吐きながらユーリから解放されるとそのままうつぶせに倒れる。
「ヒエンさん!!」
「……ば、馬鹿な、変身もできないくせにどうしてこんな力が……」
「僕が2年間ただ経験値を積んできただけかと思った?アナザーエグゼイドの力とアカデミアの技術力があれば面白い事も出来たんだよ。そう、進化のGEARの力を手に入れたりとかね」
「……進化のGEARだと……!?」
「そう。君が50年後の世界とやらで戦った孫であるアドバンス・M・黒二狂が1000年以上も有していたあのGEARさ。どうやらアナザーエグゼイドのウォッチとは相性悪くてうまく作動していなかったみたいだけど、生身だと使えるみたいだ。アナザーエグゼイドに変身していれば万一の時でもエグゼイドの力を有していない者からは倒されない。だからメインで使っていたけれどももうその信用性もないし必要ない。進化のGEARを経て大幅に生まれ変わったのだから」
「……てめぇ、どれだけこっちを怒らせれば気が済むんだ……!!」
「どんなにほえたところで無駄な話さ!!」
「させてみろ!!」
立ち上がり、殴りかかるヒエン。ユーリはその拳を片手で受け止め、膝蹴りで肘を砕き、そのまま背負い投げで背中を床に強打させる。
「ぐっ!!」
「素晴らしいものだよね、これ。流石は調停者が目をつけるほどの力を有していたアドバンスの力だよ!十三騎士団をタイマンで圧倒できるんだからさ!!!」
「てめえにくれてやるためにあいつは長い間一人で生き続けてきたわけじゃねえぞ!!」
「知らないよそんな話!!何の関係もないじゃないか!!今!ここで!!君が朽ちていくことにはさ!!」
立ち上がったヒエンに向かってユーリの貫手が迫る。が、
「風よ、戒めの鎖となれ。風(ウィンディ)!!」
さくらが唱えた呪文により発動されたカードの力でユーリの前に暴風が迫り、わずかに貫手がずれて、ヒエンの心臓から2センチ横の肺をぶち抜く。
「がばぁぁっ!!」
「ヒエンさん!!」
「鬱陶しいね、君!!」
ユーリは一瞬でさくらの眼前まで迫る。その手をガイや電王が止めようとするが間に合わずユーリの手がさくらの胸に触れた瞬間。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
2台のバイクが時空をぶち抜いて走ってきた。トゥオゥンダとジキルだ。爆走しながら少しずつ肉体が再成長していき、元の25歳の姿になると同時にユーリを轢き飛ばす。
「Yesロリータ!!!」「Noタッチ!!」
「お、お前達……」
胸の傷をふさぎながらヒエンが二人の前に来る。
「何だお前、こんなところにいたのか」
「すごい傷だな。ギャグで済まされてないからボディビルダーが相手じゃないな」
「……んなことよりどうしてお前達が……」
「「あいつをぶっ倒すため」」
二人同時にアナザーWを指さした。そして
「「変身!!」」
「サイクロン!トリガー!!フェニックス!!!」
二人は目の前で仮面ライダーW・サイクロントリガーフェニックスへと変身してアナザーWに向かっていく。
「……あれは赤羽の力……?まさか2011年であの二人に力を託していたのか……!?それでアナザー鎧武との戦いでもスペックで負けることなく勝利してこの2018年になったってわけか……」
「……そろそろいいかな?」
起き上がったユーリ。その体に一切のダメージや傷はなかった。
「今までだったら間違いなく死んでいたダメージを敢えて食らってみたけどやっぱり無傷だったか。ここまで無敵だとちょっと面白くないかもね」
「は、本物の無敵とは違うだろうが。まあいいさ、少し落ち着いた」
ヒエンはちらっとさくらの方を見る。既にガイと電王によって回収されデンライナーの方へと向かっていた。
「落ち着いた?処刑される準備は終わったって事でいいのかな?」
「まさか。だが確かにここじゃ少し都合が悪いな。ギリギリ地球の中の異空間って感じだし」
言うとヒエンとユーリだけその場から消え、次の刹那にはズァークに荒らされた町中に二人はいた。
「……覇王龍ズァーク……!!遊矢達がいないと思ったらやはり復活していたか。だがユーリは別にいる……どうなってんだ?」
「何をぶつぶつ言っているのさ。瀕死過ぎて頭どうにかなっちゃった?」
「いや、だがもう少しぶつぶつ言わさせてもらうぜ」
それからヒエンはジ・アースの力を行使するための呪文を唱え始めた。全てが現生しているどの国の言葉でもない太古のものだ。
それはヒエラティックテキストよりも古く、現生人類では聞き取ることも不可能な太古の言語。それを唱え終わった最後にヒエンの、ナイトスパークスの姿が少しだけ変化した。
「……ん?何か変わった?」
「待たせたな。ここから先はアースナイト・スパークスが相手になってやるぜ」
「?まあいいけど」
そして再び両者は光を超えた戦いを開始した。
空中を流星のように、或いは光線のように飛行しては幾度となく激突を繰り返す両者。
「くっ!」
ダメージの連続にユーリが怯む。相手が強くなっていることもあるが、初めての空中戦による不慣れが一瞬ではあるものの隙をいくつも生んでしまう。その隙をヒエンが全力で貫いてくる。ミサイルのように空を飛んでキックを繰り出そうとすればヒエンはその下を潜り抜け、真下から真上に向かってのショルダータックルでユーリの背中を打ちのめし、
「くらえ!!エクストリーム・パロ!!」
「!?」
怯んだユーリの背後に回り込んではパロ・スペシャルの要領で相手の両腕を掴んでは肘関節を決めながら背後に引き寄せ、そのまま高速で宙返りを繰り返す。秒速20回転を3秒続けてからまるで落雷のようにそのまま地面に急降下して肘関節を決めたままユーリを頭から地面にたたきつける。
「ぐっ!!」
「さっきのお返しだ!!」
脳天が割れて血の噴水を上げながら立ち上がるユーリの顔面にヒエンの拳が突き刺さる。ゆっくりと膝から崩れ落ちるユーリ。それを待たずにヒエンがサマーソルトキックで顎から蹴り上げて上空に飛ばす。
「サッシュ!!」
両腕から先がぶらぶらし、空中で気絶しかかっているユーリの真上にヒエンが回り込みユーリの尻に後頭部が来るような姿勢を取ってユーリの両足首を両手で掴んでは腹筋を使って思い切りユーリの腰の方へと引き寄せてユーリの両膝と大腿筋を決める。さらに自身の両足でユーリの両肩を踏む。
「くらえ!!ハイパアアァァァスパアアアアアク!!!」
「……!!」
ユーリが意識を取り戻した直後、ユーリは地面に全力でたたきつけられ両肩と両膝と大腿筋と腰骨を破壊された。
「くっ……そったれ……どうしてとどめを……」
「刺すまでもない。それに刺したらあいつに悪いからな」
立ち上がったヒエンはズァークを見る。既にオーブが交戦していた。
「まあ、どっちでもいいがお前はここで確保する。状況が終了し次第融合次元に強制送還する。それまでおとなしくしていろ。……尤もその状態ではもはや鼻くそ一つほじれないだろうがな」
そう捨て置き、ヒエンはズァークの方へと向っていった。
そのズァークは先ほどからオーブオリジンと戦っていた。オーブにもズァークに刻まれている遊矢達の姿が見えているため本気で戦う事が出来ない。逆にズァークはその破壊の欲望のままに町ごとオーブを焼き払わんばかりの砲撃を繰り返す。
「このままでは町が危ない……ならば!!ガーゴイルさん!!カブトさん!!時空を超えし守護の力、お借りします!!」
「フュージョンアップ!!ウルトラマンオーブ・ガーディアンタキオン!!」
黒と紫色の装甲を纏った姿となったオーブが敵の砲撃をその堅牢で受け止めていく。範囲的に防げそうにないものはビームのバリアで防ぐ。
「しぶとい奴だ……」
「これで防御は一安心だが、どうすれば……」
「いや、そのままでいい」
「ヒエンさん!?」
「こっちがプラネットの力でズァークをもとの3人に戻す。だが少し時間がかかりそうだ。ウルトラマンに言える言葉じゃないのはわかっているが時間稼ぎを頼みたい!」
「……わかりました!」
ズァークのバカでかい腕による薙ぎ払いをオーブは受け止め、肘関節を決める。その間にヒエンは攻撃されそうにない場所にいた。即ちズァークの背後にある今にも崩れそうなマンションの一室だ。ベランダの窓からズァークを見ながらプラネットの力を行使するために一度アースナイトから通常のナイトスパークスに戻る。
「いい気になるなよ、ハエども……」
ズァークはオーブの頭を掴み、片手でオーブを持ち上げては遠くまで投げ飛ばす。
「くっ!!」
空中で装甲をキャストオフしたオーブは瞬間移動でズァーク前まで着地。
「電王さん!!Wさん!!クライマックスに輝く切り札の力、お借りします!!」
「フュージョンアップ!!ウルトラマンオーブ・クライマックスライナー!!」
そしてオーブは新たなる姿となった。デンカメンソードとオーブカリバーを両手に持った真紅の姿。
「オオオオリャアアアア!!!」
ズァークから放たれたビームに真っ向から2つの剣をたたきつけてビームを両断。
「クライマックスプリームカリバー!!」
そのままズァークの翼に左右から斬撃を打ち込み、X字に翼を切り刻む。
「おのれ……!!」
「メタル・マキシマムドライブ!!」
ガイがインナースペース内でメタルのガイアメモリをオーブカリバーにスキャンさせる。と、オーブの姿が鋼鉄となり再び放たれたズァークの打撃を正面から受け続ける。が、5発と続かなかった。
「……完了」
ヒエンが口角を上げる。同時にズァークの巨体が動きを止め、その姿が少しずつ光の粉へと変わっていく。
「馬鹿な……我々の統合が解除されていくだと……あり得ぬ……」
苦しむようにズァークは声を上げ、遊矢達を吐き出す。
「っと、これで一宿一飯の借りは返したぜ」
ヒエンが3人をキャッチして素早く戦場から離れる。それを見届けたオーブはオリジンの姿に戻る。
「オーブスプリームカリバー!!!」
そして残されたエネルギーを集約させてオーブカリバーから光の一撃を発射。崩壊しかかっていたズァークの巨体を貫き、やがてその巨体を大爆発させた。
「「こっちもそろそろ決める」」
WがアナザーWを殴り倒しながらフェニックスのガイアメモリをスキャンしなおす。
「フェニックス・マキシマムドライブ!」
「「行くぜ!!ソーラースカイクラッシュ!!」」
アナザーWを上空に投げ飛ばし、自らは炎を纏った飛翔のままマッハ10でアナザーWに突撃。
「がああああああああああああああ!!!」
アナザーWの大爆発を貫き、Wが炎の空で翼を広げた。
「馬鹿な……ズァークとアナザーWが……!!」
傷だらけのアナザークウガが後ずさる。正面にはディケイドクウガ・ライジングマイティフォームとクウガアーマーを装備したジオウとゲイツ。
「そろそろお前の計画も幕引きのようだな」
「仮面ライダーは終わらせない!!」
「おとなしく地を這え、タイムジャッカー!!」
「くっ、地を這うのは貴様たちだぁぁぁぁ!!歴史の中に封印されるがいい!!英雄は俺一人だけで十分なんだぁぁぁぁっ!!!」
アナザークウガが咆哮をあげながら3人に迫る。それに合わせて3人が地を蹴って宙を舞う。
「Final atack ride K-K-Kuga!!」
「「フィニッシュタイム!!」」
それぞれ機械音を流しながら3人が宙がえりをし、アナザークウガに向かってライダーキックを繰り出す。
3つの打撃を胸に受けたアナザークウガは一瞬で稲妻と炎に包まれ、幾度となく小規模な爆発を繰り返しながら宙を舞う。
「がああああああああああああああああああああああ!!!」
そして3人が着地すると同時にアナザークウガは空中で大爆発した。
「……全部終わったみたいだな」
ヒエンが着地すると、視界の中にディケイド、ジオウ、ゲイツ、W、オーブが見え、それぞれが視線を交差させていた。


・戦いが終わった。
「Let's make dreams we can do it Let's make dreams change! my world!!」
「がははははは!!!」
全てが終わった後。ヒエンはドレパの歌を楽しみながら盛大にジキルの誕生日パーティを行なった。とは言えほぼ100%自分のための舞台だったが。
「レディースエーンドジェントルメーン!!」
「うおっ!!ここで逆転されるのかよ!!」
「次は俺が相手だな」
とは言えジキルもまた遊矢達を相手に楽しくデュエルしていた。
「ほら、catch you catch you catch me cacth me 待って こっちを向いて好きだと言って」
「がはははははは!!!」
「おい、もうその辺にしておいた方がいいんじゃないのか?」
トゥオゥンダが多少心配の声を向ける。ヒエンはダイゴやガイ、ヒロトとともに酒をかっくらいながら今度はさくらの歌を聴いている。
「けどお前もうビール何杯目だよ……」
「いいじゃねえか。……どうせもうこんな奇跡みてぇなことねぇんだからよ」
「抱きしめてLov'in you!!あなたに出会えて 目覚めた原色のエナジー」
カチューシャライムが歌っている間もヒエンはトゥオゥンダやジキルとともに士や天道、ソウゴと記念写真を撮ったり、さくらやレオナの胸をもんだりしていた。
いつまでも騒々しい宴会が続き、12月3日のド派手な一日が終わりを告げる。
「……さて、」
12時。皆寝静まった夜半。ヒエンは一瞬でアルコールを消化して立ち上がった。
「君は最初のアイドルだったぜ」
眠るさくらの頭を撫でる。
「男を好きになるなんて思ってもいなかった」
眠るレオナのおさげを握る。
「守りながら戦う事のジレンマ、確かに教わったぜ」
眠る巧の肩を軽く小突く。
「選ばれしものの務め、果たしてくるぜ」
眠る天道の肩を小突く。
「お前ぇ達に会えて、まあまあ楽しかったぜ」
眠るトゥオゥンダとジキルの小腹を軽く蹴る。
「勇気を生み出す力、確かにもらったぜ」
眠るカチューシャライムの頬にキスをする。
「……光の意思、お借りします」
眠るダイゴ、ヒロト、ガイに祈りをささげる。
「……行くのか?」
月光の下。士が座っていた。
「ああ」
隣をヒエンが通り抜ける。
「……ここは、誰の世界だったんだろうな?」
「……赤羽美咲が夢見た、甲斐廉の世界、かな」
「お前の世界じゃないって事か?」
「……こっちの世界でもあったさ。だけど、刻は前に進んでるんだ。今いるべき世界はもっと未来にある。今回のは……まあ、いい旅にはなったさ」
「……そうか」
「門矢士」
「あ?」
「お前はこの世界を旅して何を見た?」
「……そうだな。すぐに結果なんて分かるものか。ただお前はすべてを繋ぎ、すべてをその背に背負って前に進む。仮面ライダーじゃないがそういう奴だったって事はわかる」
「……そうかい」
二人は同時に手を前に出し、拳と拳を軽く突き合せた。
「行ってこい」
「ああ、行くさ」
そして、ヒエンは去っていった。それを見届けてから士もまた無人の夜を歩き去っていった。その手に1枚のカードを持って。


「いいのかよ?」
時空と時空の間。ダークの声がする。
「何が?」
「一人くらいお持ち帰りしなくて。そうしたいくらい好きな奴だっていた筈だろ?」
「……まあな。けど、多分それはまだしちゃいけないと思う」
「へえ?」
「……初代赤羽美咲にアナザーパープルブライドのウォッチを与えた。あのタイミングでそれが出来る奴がパープルブライドの正体って事になる」
「……お前はその当てがあるって事か?」
「お前だって気付いてるだろ?……それを乗り越えない限り、ジアフェイ・ヒエンは甲斐廉を名乗りなおすことは出来ないし黒主零として始めた旅も終われない」
「……へっ、そうかい。まあ、せいぜい頑張るこったな」
「……ああ、そうさせてもらう。……お前のいない未来でも」
ダークは小さく笑い、その気配は消えた。黒いイメージを超えたヒエンは再び西暦2010年の世界へと足を踏み出した。