あの日、私の心はさらに乖離し始めた①【回顧録】
過去にできた傷は、誰にも癒せない。癒せる人がいるとしたら、私自身だけなのだ。20年ほど検証してきて答えは出ているのだけど、解決はしていない。
乗り越えるとか癒すとか、そういう類のものではなく共に生きていくものなのかもしれないと思っている。
もう20年ほど前のことを掘り起こして書いてみる。
あの日を境に、剥離を始めていた自己はさらに分離していき、心と女である私の体を分けることを覚えた。
そして今もなお、苦しむことになった。
剥離したことで、自分を守れたことも事実なのだけど。
私のような者が、許されていいのかどうかもわからないけれど。
他人とはもう、混ざり合うことはできそうにない。
ずっと孤独でかまわないから。
せめて、私は、私とひとつになりたい。
叶うかどうかわからないけど、書いてみることにしました。
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どれぐらい泣いていたのか、わからない。
空腹も喉の渇きも、麻痺しているのか感じなかった。
真っ暗な部屋で壁にもたれかかり、うつろな目には乱れた布団が映っていた。色彩がない、灰色の部屋。
なんで私は生きているのだろう。
何もかも終わらせたかった。
誰もいない、静かな一人の部屋。
激しい自己憎悪にまかせてかきむしった髪の毛と、左腕から流れている血を見て、死にぞこないがと自分を嘲笑した。
少し左腕を動かすとズキっと痛んだ。
串刺しにされるような胸の痛みがやわらいだ気がした。
頭が痛い。呼吸が苦しい。罪悪感が私を責め立てて、激しい胸の痛みが定期的にやってくる。嗚咽し、髪を掻きむしって、また腕を切る。
もっと切ったら、楽になれるかな。
いや、楽になるより、永遠に眠りたい。
私なんて生まれてくるんじゃなかった。
ごめん。
大切な人を守る力がなかった。あんなにやさしい人を心底傷つけた。
生きているのがつらい?だからって人を傷つけていいのか?
お前には未来を夢見る権利なんてないんだよ。
目の前の家庭の問題から逃げて、大切な人も傷つけて。
結局自分が一番かわいいだけじゃねえか。
誰かに助けてほしい?委ねたい?そんなこと言う権利はお前にはないんだよ。死んじまえよ。
お前なんか、生きてる意味はないんだよ。生きてたって親に利用されるだけ。逃げたって人に依存して巻き込んで、相手を不幸にするだけの疫病神だ。
脳内に聞こえてくる声が、私に死を促す。
カッターナイフを握りしめて、左手首に刃をあてる。
だけど切ることができない。
こんな時も思い出すのは、朝方部屋を出ていったSの笑顔とぬくもりだった。
そうだった。昔約束したもんね。もう切らない、死のうとしないって。
この約束さえも破ったら、さらに悲しませるよね。ずっと守ってきたのに、今日破っちゃった。ごめんね。
それに、死んで楽になるなんて都合のいい話だよね。
一度傷つけてしまったから、今度こそ一緒に幸せになりたかった。その気持ちに嘘はなかった。
でも、私にSはふさわしくない。
私の女の部分が、Sを傷つける。
私の生活習慣では、またSを不安にさせる。
そして一緒にいたころより、私のからだは欲深くなってしまった。S以外の男性を知って、私は目覚めてしまったんだ。
汚い女だった。
今日のこと、忘れない。生きてずっと背負っていくね。
*
高校生のころ付き合い始めたSとの日々は、喧嘩ばかりだったけれど幸せだった。
好きな人と、心も体も溶け合って一つになる。お互い好きなら、当たり前のことなのだと思っていた。
当たり前ではなかったと、後で知ることになる。
20歳の頃、Sと別れた。私が振った。Sのやきもちがひどく、私を信じてくれなくなったことがショックだったからだ。(これはいつか別途書こうと思う)
Sのことを引きずっていたけれど、考える暇を与えないよう男性と関係を持った。
交際を始めても、長続きしない。
恋人としてセックスを求めると、男性に引かれてしまう。
セックスの相性がいい男性と関係を持つと、心は繋がれない。心か体か、どちから一方が宙ぶらりんになる。
そんな日々が数年続いた。
愛する心と、体で繋がりたいという情欲が一般的な女性より強いのかもしれないと気づいた。そして、その両方を受け止めてくれる(相性の良い)男性は、そんなにいるものではないのだと悟った。
別れて4年後。
私はSの連絡先をどうにかして入手して、メールを送った。
返事が来るかわからない。4年も経っている。いろいろ変わっていることもあるだろう。やり直せたらなんて虫のいい話、少女漫画じゃあるまいし。
そんなことを思いながら、今のSを知りたかった。
Sは、変わらず明るい様子で返信をくれた。
久しぶりに話そうかと、食事に行くことになった。車の免許を取ったとのことで、待ち合わせの駅まで迎えに来てくれることになった。
②につづきます。
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