死にかけた時に見たもの

2019年11月の終わり頃、男でも女でも子どもでも大人でもない紙をゆっくり握りつぶしたような音で僕を呼ぶ声、足を引っ張る冷たい手、枕元に立つ影、いつもの悪夢を見て眠れなくなって一晩中幻に向かって叫んでた夜。全身の感覚は痺れ、ほとんど動けなくなっても朝は来る。カーテンの隙間から見える空をぼーっと見ていたとき、隙間から巨大な雲が入ってきた。いや、雲じゃない何かとてつもなく巨大な異形の物体。その物体は僕の上空を回りながら身体に入ってくる。身体がバラバラになる感覚。

冷たい鋭利な鉱物が肺を満たし、体中淡い火の粉を浴びているような物体。恐怖を超えて笑みさえ浮かべる。それはきっと神なんだろう。夜が明け朝が来る。僕の中で何かが死んだんだろう。

加速した感覚はもう戻せない。仕事終わりその神に会いたかった。加速して加速して加速した。どの速さなら会えるのか分からなくなっていた。感覚は消え失せ、部屋が断絶されていく。巨大な裂け目の中心に立つ僕に向かってくる濁った銀色の物体。体を突き抜ける冷たい風。

気づいたら夜が明けていた。知らない人と知らない匂い。
きっとあの濁った銀色の物体は幻聴の正体なんだと考える。死や死神なんだと思う。
あのままの速さで駆け抜けていたら神ではない違うものに出会っていたんだろう。

感情のコントロールが効かない獣のような僕だけど、これだけは残したかった。


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