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アニメ・小説など物語の「接地性」について


アニメや小説などの物語の「接地性」というテーマについて考えてみます。

物語における「接地性(groundedness)」とは、読者や視聴者がその物語を現実の経験や知識に照らし合わせて共感し、信じやすく感じる要素のことを指します。
接地性の高い物語は、ファンタジーやSFであっても、登場人物の感情や行動、世界観がリアルに感じられるため、視聴者がその世界に入り込みやすくなります。

以下は物語の接地性を高める要素として考えられる点です。

1. キャラクターのリアリティ

登場人物の行動や感情が人間らしく描かれていることは、物語の接地性を高める重要な要素です。たとえ超自然的な力を持つキャラクターであっても、彼らが抱える感情や葛藤が現実的であれば、読者はそのキャラクターに感情移入しやすくなります。

2. 現実に基づいたルールや論理

物語の世界観がフィクションであっても、その世界のルールや論理が一貫していれば、物語に接地性を持たせることができます。たとえば、魔法が存在する世界であっても、その魔法がどのように機能するのか、どのような制約があるのかが明確に説明されていると、読者はその世界をより信じやすくなります。

3. 日常的な要素の取り入れ

物語に日常的な要素を組み込むことも、接地性を高める方法です。登場人物が食事をする、仕事に行く、友達と話すといった日常の描写があると、非日常的な出来事が起こった際にも、その物語が現実に根ざしているように感じられます。

4. 社会的・文化的な共通理解

物語が現実の社会問題や文化に触れることで、読者や視聴者がその内容を自分たちの現実と照らし合わせることができます。たとえば、貧困や差別といった一般的な問題、誰もが経験した学校生活やいじめなどの共感性の高いテーマを扱うことで、フィクションの中でも強い共感を得ることができます。

5. 感情的なリアリティ

物語におけるキャラクターの感情が、読者や視聴者の経験に根ざしている場合、物語の接地性が強化されます。誰もが経験する感情、たとえば失恋、友情、家族の問題などが描かれていると、フィクションであっても物語がリアルに感じられます。

6. 物理的なリアリズム

特に映像作品や小説などで、アクションや動作が現実的であることも重要です。物理法則を無視した不自然な動きや設定は、物語の接地性を弱める可能性があります。フィクションの場合でも、フィクションの世界観の中で一貫した物理原則を示す適切な説明が、虚構世界をリアルに感じさせるための大きな要素となります。


まとめ

物語の「接地性」は、現実とフィクションの境界をうまく扱い、視聴者や読者が物語に没入しやすくなるための重要な要素です。たとえ現実離れした内容であっても、登場人物の感情や行動が現実に即して描かれている場合、その物語は「接地」されていると感じられます。

作者の発信したコンテンツが読者の脳内に上手に接地するために、類型化を利用したテンプレートは接地しやすい要素となります。脳内が以前の処理パターンを踏襲して直感的に予測し理解できるからです。

物語が読者の頭の中で十分に接地している場合は、読者は物語から乖離しません。作者による物語の展開を推察したり、予測展開の裏切りを楽しむことが可能だからです。
提供される外部からの刺激としての物語世界と、自分の脳内で理解して展開される物語世界とのズレを、驚きとして修正する作業を楽しむ事が出来ます。ズレが修正された物語世界は、新たに脳内で更新され再接地します。
それは作者の世界観という外部世界を理解するという知的好奇心の充足であり、読者の世界観という内部世界が拡充されるという快感に繋がります。
拡充され・深化した自己の内部世界は、今後出会うであろう各種の外部世界等の、提供される様々な価値観へも柔軟に対応できる様に進化するからです。


追記。以前書いた「気持ち良い」と「面白い」物語の考察

自分を肯定してくれる気持ち良いコンテンツの場合は接地性は大きな要素にはならないと感じます。最大多数的に幅広く接地し、幅広く肯定して快感を与える手法として類型化とテンプレ利用が有効と思われるからです。
ただ、他のコンテンツとの差別化や、読者を飽きさせないために刺激を大きくしたり方向性を変えたりする必要があると考えられます。同程度の刺激が続くと慣れとなり飽きに繋がるからです。

自分にとっての新しい価値観・世界・快感原則が提示される面白いコンテンツの場合は、接地性は重要になります。今までの自分にない世界観や快楽原則に気づくためには、物語内で接地性を維持したまま別の世界観との橋渡しをする必要があるからです。読者に世界観の変化を促す導線や、無理なく新しい価値観を理解させる時間や、背景や展開などのバランスを失うと、物語は読者の脳内から接地性を失い、醒めにつながると思われます。

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