「チェシャねこ同盟」0完0
トマスは本を置くと、部屋にあるPCのスイッチを入れた。そして、検索画面に小説の著者名を入力してみた。すると、三件だけ該当するサイトが表示された。それだけでも彼には意外だった。こんなに簡単に何かにたどり着けるとは思っていなかったからだ。彼は微かに震えながら、一番先頭に上がっている文字をクリックした。
【天然かくれ家・スペースシップ型】
というのが、そのサイト名だった。
著者のホームページの様相を呈している。サイトマップを見ると、お決まりの著作の紹介やリンク集が並んでいた。トマスが気になったのは、トップページの一番下に張り付いた得体の知れない肉球のマークだった。トマスは肉球マークをクリックしてみた。
↓
↓
↓
↓わーぷ!
↓
↓
わわわぷぷぷぷぷ
↓
わーぷるぷる
↓
↓
↓
ぼくらは自分達が思っているよりもずっと
きわどい橋をわたっている
不思議の国のアリスさながらに
至るところに扉がある
ぼくたちは脳が解釈できるものしか認識しないから
この瞬間の切なさを知らないんだね
「見えるもの」を「見る」と決めたら
あまりにすべてが語りかけて来る
ぼくらは息もつけぬほど
宇宙の渦の中にいる
それを自分に許したら
いつも泣く前みたいな気分で
砂浜に座って
海から太陽が顔を出すのを待っている
そんな心地
パーカーのジップは首まで上げて
耳の周波数は多次元に合わせて
そんなメロディー
ハートに在る渦に落っこちて行きそうになるから
ぼくらは呼吸をする
ここはいつもちょっぴり切ない
それは塩の粒を散らした蜂蜜をひと匙
舐めるようなものなんだけど
毛糸の玉にじゃれるように
時空をあっちこっち覗けたとしても
またここに戻っている
いつも少しだけ泣きたい気持ち
「I」しかいないからだ
自由の中に自我がポツンと浮かんでいるからだ
↓
↓
ぷぷぷぷ
↓
ぷわ
↓
↓わ
↓
わわわーぷ
↓
なんとなくクリックしただけ。
貴方はそう思っているかもしれない。
でも、本当にそうかしら?
<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<
妙に挑発的な三行の文字だけが画面に現れた。右下にはまた肉球がある。彼は懲りずにそれをクリックしてみた。
??????????????????????????????????
いつも頭上にチェシャネコが乗っかっているそこの貴方!
ようこそ、チェシャねこ同盟へ。
ここにたどり着いたのなら、
もうチェシャねこ同盟メンバーでしょう!
$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$
トマスは思わず失笑した。
(なんだか勝手にもろ手を挙げて招かれている…)
戸惑いながらも肉球マークを再びクリックすると、ようやく少し派手なページが登場した。チェシャねこと金髪娘の会話が、芝居のト書き風で書かれている。
??????????????????????????????????
チェシャねこ:この世界は狂っているよ。つまり、ここにいるボクもキミも狂っているってこと。
金髪娘:まさか…!
チェシャねこ:ぼくらがもしマトモなことが言いたくなったらこれしか言えないよ。
これでいいのだ!
これっきり。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そのページの文字には絵が添えてあった。ダブルベッドの上でシーツにくるまり並ぶ紫色のねこと金髪娘の絵だ。金髪娘は目を潤ませとなりを見つめ、紫色の猫は、
「これっきり。」
と言わんばかりに肩をすくめている。ベッド脇の机の上には灰皿が載り、チェシャねこの吸いかけらしきタバコが紫煙を一筋漂わせている。
(悪ふざけだ)
トマスはきっぱりと心の中でそう呟いた。とはいえ、ここで止めるほど不快でも無い。という訳で、肉球クリック。すると、また文字だけのページに戻った。しかも、今度は一行だけだ。
??????????????????????????????????
いたるところにチェシャネコは、いる。
%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%
(ハイハイ)
内心すっかり呆れているのに、興味が勝って肉球をクリックする手が止まらない。トマスは大あくびをしながら、次のページを眺めた。
??????????????????????????????????
ハートの女王は何者か?
アリスは誰なのか?
ジャックは盗んでまでタルトが食べたかったのか?
なんで?
そんなに美味しいの?
エット…
すげー食べてみたいんだけど?
OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
手のひらの上
無から空間を開く
その果てなき展開の中の
一つの窓ひらき
もし
君が
誘惑されたな・ら?
jjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjj
照る雲を成す粒子
その交差する光を見れば
思惟宇宙の時空鏡の様相をイマジンする
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
右目でみる鏡
左目でみる鏡
真ん中でみる鏡
心音でみる鏡
脳味噌でみる鏡
下半身でみる鏡
肚でみる鏡
背中でみる鏡
時空の裏でみる鏡
2222222222222222222222222222222222
一挙一動には、
とても人間には計り知れない流れがあり、
別にどういうかたちでも良かっただろうけ・ど、
こういうものと出会うことは決まってい・た、んだろうなあ~、
と思わせられる出来事が、
人生にはままあるものであ~る。
++++++++++++++++++++++++++++++++++
~*=招待状~*=
神の胎ん中で
チョイトお茶会でもどう?
&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
結局、
どいつもこいつも、
“今”
“この瞬間”
を
“どストライク!”
に
感じたいんでしょ?
**********************************
自我とはからみあった毛糸玉である!
7777777777777777777777777777777777
お金では買えないことをやりたいわ
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
子供みたいに時空を食べたいナア。
つまりね、
朝、目が覚めて、
自分への期待も無ければ後悔も無く、ただ、
<<ぽんっと>>
ぬくぬくのフトンにくるまっているわけ。
それで
やりたいことが
浮かんだら
起きあがるのよ(キランッ!)
BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB
みんな必死で、 石と、
砂で、
スープを作ろうとしているように見えるのヨン。
この社会が美味しくないのはね、
「正義」が足りないわけじゃない。
「勝利」を入れるタイミングでもない。
「成長」の炒めかたの問題でもない。
材料も、作り方も、まるででたらめすぎるだけ。
YYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY
惑星は歌う
ほら
蝶々のヒゲの
チューニングをあわせてごらん
##################################
あなたの思い描いている理想の人生は、
(ど・う・せ)
(所詮!)
親にとっての理想の人生の『浸食』を受けているだろう。
vvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvv
心配しなくていいよ
イヤでもそのうち自我の体力が無くなるから
自分と戦えなくなる
自分を否定することにも
他人を否定することにも
うんざりするようになる
ffffffffffffffffffffffffffffffffff
制限
が
あるからつまらないんだし、
やる気が起きないんだよね。世界に
恐怖心 より
好奇心
を抱いていたころを思い出してごらん
わたしはね
この宇宙のすべてに対して
変幻自在で
ぴっちぴちのユーモアがあって
イノセントエクスタシー
てな感じのエッセンスを引き出す触媒に
な り た い の れ す
||||||||||||||||||||||||||||||||||
かの聖者曰く…
「サクッと悟っちゃう系の時代来たれり!」
かの聖者は馬小屋にて語れり…
「戦うものたちよ、子供たちに世界を丸投げしなさい」
かの聖者は群衆を諭しぬ…
「大人たちよ、
できる限り、
できる限り、
できる限り、
大人しく
していなさい!!!!!!!」
9999999999999999999999999999999999
ぜんぶ、テキトーだよ
jjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjj
テキトーで行くのが良いじゃん
テキトーでプイプイ
着の身着のまま
風の吹くまま
思いつくまま
気分の乗るまま
創造すると、
責任無いもん
1111111111111111111111111111111111
フロイトみたいな人どこにでもいるから
意味
とか?
価値
とか?
任せておけばいいってことね。
オーケー?
否定
も、
肯定
も、
ジャッジ した その人の物語 で しょ
わたしには 関係 ナーシーね
CCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCC
ホンノウにお任せするん ダ
多分 ホンノウって
シェークスピアみたいに物語上手で
わたしなんかよりずっと宇宙と仲良し デ ショ
cccccccccccccccccccccccccccccccccc
芸術とは瞑想装置
UUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU
素っ裸みたい
わたし自身の質感も
時空のすべてが
それが「今にいる」って心地かな
まあ
正直ちょっと変な感じ
だって
素っ裸なんだよ!?
8888888888888888888888888888888888
みんな
バ
ラ
バ
ラ
の
位相
にいるのですよ
ア 同じ部屋にいるとか
毎日一緒にいるとか
ぜんぜん
関係ないっす
yyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy
はてなし世界を
俯瞰するのが好きー
人間という装置を (重箱の隅つつくみたいに)
分解するのが好きー
pppppppppppppppppppppppppppppppppp
楽だってことなのよ。
他者の責任にするくらいなら、
自分勝手にやるほうがエネルギー無駄にしないし、
反省や自己否定をしてヴァージョンアップに励むより、
今の
自分を
好き
になれるよう
自
己
暗示をかける方が、
簡
単
なわけ。
もっと綺麗にならなきゃダメ?
もっと優秀な成績を残せなきゃダメ?
もっと幸せでなきゃダメ?
もっと頑張らなきゃダメ?
もっと成功しなきゃダメ?
もっと人に認められなきゃだめ?
誰からも認められるくらい完璧じゃなきゃダメ?
グウの根も出ないくらい、ありありと輝いていないとダメ?
次々と条件をつけて、
自分のこと大好き!って宣言するの、先延ばしにするより、
もう、今すぐ、
大好きになっちゃおうゼイ
5555555555555555555555555555555555
ああどうか
自分にも甘く
他者にも甘く
甘く甘く
いられますように
0000000000000000000000000000000000
忍耐もオッケー。
努力もオッケー。
我慢もオッケー。
犠牲者精神もオッケー。
集団主義もオッケー。
同じ
価値観
で
生きていくこと
は
できません
けど、
生き方
を
否
×
定
してるわけでは
ないんですよ!
ご安心下さいませ。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
魔法の呪文↓
「今この瞬間にある幸福に気づかせてください!」
6666666666666666666666666666666666
そうだよ。
わたし、おなじことしか言ってないよ。
宇宙のマネッコよね。
この世界って、
一つのものを、
果てしなく異なる表現で表していくでしょう?
無限性フェチ?
完全性マニア?
良く分かんないけど、とにかく、
わたしもソレ、真似ているわけ。
そうだよ。
わたし、おなじことしか言ってないよ。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
どんな服でも着こなせるくらい美しくなりたいんじゃ無くて、
自分の中にある美しさと出会いたいんじゃないの?
何でも買えるくらい豊かになりたいんじゃ無くて、
自分の中にある豊かさで誰かと遊びたいんじゃないの?
誰にでも勝てるくらい強くなりたいんじゃ無くて、
自分の中にある強さをありありと感じたいんじゃにゃいの?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
小説を書くことは、
うんざりするくらいバカでかい恐竜の
化石を掘り出すことに似ている
もう出来上がっている
うんざりするくらい長い交響曲を
譜面におこしていく作業に似ている
生きることは、
化石を掘ることに似ている
創造することは
わたしの中から
わたしを
掘り出していく作業に似ている
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。
とことん血迷えば?
だって、こっちはもうすでに嫌というほど血迷ってんの。
生きるのって、
もうすでにわたしの中に在る〈わたしの人生〉を
掘り出していく感じよ
創造していく歓びは無いのかって?
だから、掘り出してくのが、創造なの。
創造=発掘
発掘=創造
真面目にコツコツ・チョコチョコ
コツコツ・チョコチョコ
コツコツ・チョコチョコ、掘っていってごらんよ。
何度投げ出しても大丈夫。
結局のところ、決めたことからは逃げだせないし。
途方も無くて、何度も心が折れるんだけど、
最終的にはコツコツ・チョコチョコ、に戻ってくるのね。
創造性って、やっぱクセになるからさ。
TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT
わたしが言えることはただ一つだよ。
これは遊びだ!
では、また、どこかで…
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
思い返せば自分の青春時代にはいつも51%ガールが寄り添ってくれていたと、トマスは気づいた。爽やかな昼下がり、バルコニーの柵から足を出し、二人並んでプラムをかじった幼い日のことを、彼は昨日のことのように思い出すことができた。
川辺にある廃屋同然の馬小屋に隠れて彼がはじめてたばこを吸ったときも、隣には彼女がいた。男版ブロンドガールといった風貌の学友アレックスのセクシーなたばこの吸い方を真似てみせると、彼女は小粋に口笛を鳴らした。
「わたしもソレやりたい」
二人は、お互いを見ては笑い馬鹿にしながらも、セクシーなたばこの吸い方を一時間もかけて練習した。
ソファーに並んでポテトチップとチョコチップクッキーの袋を交換しながら、スターウォーズシリーズを一気見したこともある。途中でバニラアイスクリームを挟みつつ。
ワールドカップの試合は何度も一緒に見た。二人ともスポーツ観戦中は座っていられないタイプで、51%ガールなどはゴールが決まりそうになる度に興奮してぴょんぴょんはねる。
彼女にとっては、国境を越えることなど訳ないことだ。ギリシャのホテルに現れたこともある。彼がプールに飛び込もうとすると、先に51%ガールがいた。ショッキングピンクに緑色の水玉模様のキリンに似た風貌の未確認生物を模した子供用の浮き輪にのっかり、ぷかぷか浮いていたのだ。
ボタンを外して開放的になった襟元のヘンリーネックの白いタンクトップに、ショートパンツ姿だった。亜麻色の髪をポニーテールにして、ロイヤルブルー色のビキニの紐を首の所で結んでいた。赤いペデュキアを塗った足先でぴちゃっと水面を蹴飛ばしトマスに水しぶきをかけてから、
「ごきげんよう」
と、彼女は気だるげに言った。その日二人は、並んでプールに浸かりながら、夕焼けが白壁をストロベリーゴールド色に染めていくのをうっとりと眺めたのだ。三杯目のレモネードを飲みながら。
51%ガールは、ジョークみたいに現れることもあれば、明らかに彼を励ますために現れることもある。そんなときの彼女はとても静かだ。
キャプテンが死んだと聞いて泣いていた夜には、一緒に泣いてくれた。親友と仲違いして一人で自転車旅行を続けていた時には、自転車のメンテナンスをしている彼の元に現れ、道具を渡したり、汗を拭ったりしてくれた。大学受験のために泊まっていたホテルの部屋で、緊張している彼の横でただゴロゴロして去っていったこともある。
ともかく、トマスには一つだけ断言できることがある。51%ガールがいなければ、彼の地球滞在はずっと味気ない旅になっていただろうと言うことだ。
(僕はすべての事象の二パーセントを掴めているだろうか?)
まだどこか再会する時のための準備を怠らないで置こうと、彼は心に決めるのだった。