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本山遥をもっと見ていたかった

どうも、ゼロファジです。

本山遥のヴィッセル神戸への移籍が決まった。

先んじてスポーツ報知より「神戸移籍が決定的」と報じられていたので、どうなることか?と気をもんでいた。「報知は放置」と信じ込む一方で、リリースがあるまでのあらゆる情報が本山移籍を裏付けるような気もしていて、正直嫌な予感がぬぐえなかったのも事実だ。

そうか、岡山を出ていくか。
まずは、なにはともあれ「おめでとう」だな。

チャンピオンチームであり、古巣でもあるチームからのお誘いなどそうめったにあることではない。岡山を離れて挑戦したくなるのも十分に理解できる話だと思う。しかし、こりゃ相当悩んだろうな。なかなかに難しい決断だったことだろう。神戸での競争は岡山のレベルとはまた一味違うだろうが、これまで通りコツコツとがんばってほしい。


それにしても、さみしくなるなあ。

普段はあまり特定の選手にそこまで気持ちを入れ込むことはなくて、割とフラットな感じで見るタイプなのだが、それでも気になる選手はいるもので。自分にとっては本山遥がそういう存在だった。彼には「できるだけ長くこのクラブにいてほしい」と、ルーキーイヤーから思っていた。その辺のことを少し話してみたい。話す機会もこれが最後かもしれないし。

(彼が残留することを前提に準備していた記事なので、おかしなところもあるかもだけどちょっとそこはごめんやで)

澤口雅彦はすごかったよな


ワンクラブマンとか、バンディエラという言葉をあまり耳にしなくなってきたなあと感じている。

同一クラブに長く在籍して戦力であり続ける存在。ある種の顔役としておなじみになるような選手。そういう選手がだいぶ減ってきた気がする。

長くJ2を見ていると対戦相手にも「このチームだとこの選手だよね」「お、あいつがんばってんな」と思うような選手がひとりくらいいたような思い出がある。

名城大の小中先生によれば、「ある年のリーグ戦出場数上位15選手について、その年を含めてそのクラブに過去に在籍した年数の合計および平均は、2.89年」だそうだ。

選手が同一のチームに留まる長さはおよそ3年ということになる。おきにいりの選手には長くチームに在籍していてもらいたい。しかし、現実的には同じクラブのファン・サポーター⇄選手としてお付き合いできる期間には、3年という目安があることを知っていた方がいいのかもしれない。

そんなことを思うと、改めて澤口雅彦さんのような存在はとても稀有だったんだなと実感する。なんとファジアーノ岡山に10年在籍して、232試合も出場してきた。

彼が岡山でプレーしたのは2009年から2018年まで。岡山がJ2昇格からPOをうかがうような立ち位置を占めるまでを、中からずっと見てきたことになる。

J2昇格直後に最下位近辺をうろうろしていたところから、2016年にPO初進出を決めたように、岡山の2010年代はクラブが右肩上がりに成長していく時期だった。

クラブが成長してリーグ内での地位が上がれば、よりクオリティの高い選手がやってくる。そうでないと上にはいけない。そうして成績が向上し、さらに地位が上がっていく。この好循環に2010年代の岡山はあったと思う。

しかし、ずっと内部にいる選手にはとても大変なことだ。なぜならどんどん強敵が新加入としてやってきて、競争のレベルが上がっていくからだ。その中で価値を示せなければクラブには残れない。

クラブが強くなればなったで、既存の選手たちの生存競争もよりハードになっていく。だって、2016年とか赤嶺真吾はいるわ、矢島慎也はいるわ、豊川雄太はいるわ、岩政大樹はいるわ、加地亮はいるわ、ですからね。

それでも、澤口雅彦は残った。だから、本当にすごいと思う。しかも、2016年のPOには2試合ともスタメン出場。さらには岡山ラストイヤーの2018年にも14試合に出ていてしっかりと戦力的な価値を示していたのもすごかった。

クラブが強くなっても、その成長についていけないと振り落とされてしまう。サワさんの岡山でのキャリアはクラブの成長と足並みをそろえることができないとクラブに残れないことを教えてくれたように思う。長く応援したくても、選手がクラブの成長とマッチしないと留めて置けないのだ。

その一方でやむを得ないこととはいえ、岡山で思うように活躍することができず新天地を求めて移籍していった選手はたくさんいる。

中でも気になる選手の移籍にはやるせなさが残るものだ。たとえば、鈴木崇文や、染矢一樹とか。絶対に実力があるのに、岡山で輝かせることがままならなかった。

どっかで歯車が噛み合えばと何度も思ったが、その思いもむなしく彼らを見送ることになってしまった。長く岡山で見ていたかったなあ。すごく歯痒さともったいなさを感じたことを覚えている。避けられないこととはいえ、やはり、少しさみしい。

枚挙に暇がない個人昇格


逆に選手が個人昇格していくパターンもたくさんある。岡山で価値を示して、J1クラブをはじめとするより有力なクラブに呼ばれていくパターンだ。

古くは2015年の荒田智之・後藤圭太・石原崇兆の3枚をまとめてぶっこぬかれた松本山雅への移籍(あれは絶対に忘れられないな)。

パッと思い出せるだけでも、押谷祐樹の名古屋行き、片山瑛一のセレッソ行き、田所諒の横浜FC行き、一森純のガンバ行き、上門知樹のセレッソ行き、武田将平の甲府行き、塚川孝輝の松本行き、徳元悠平のFC東京行き。そして、仲間隼斗の柏行き。極めつけは佐野航大のNECナイメヘン行き。

たくさんの選手が岡山での活躍を認められて有力なクラブへと移籍していった。契約ごとなので、詳細はわからないが、岡山に留めたくても魅力的なオファーが来て留められなかったケースも少なくないだろう。

岡山の地位を上回って選手が成長すれば、やはりチームに留めることは難しくなる。長く応援したくても置いておけなくなってしまう。

むろん、選手のがんばりが高く評価されて呼ばれていくことは避けられないので覚悟している。それに、「このくらい出来ちゃうんだったらもうJ2じゃない方がいいのでは?」と思うときも少なくない。そういうときは、だいたい抜かれる(笑)

移籍した先で使われるかどうかは本人とチーム事情次第だと思う。そこには運とか縁とか数値化できない要素も介在するのだろう。岡山からキャリアアップするのであれば「人生をよりよくするためにがんばってきてね。これまでありがとう。楽しかったよ」という気持ちしかない。それが誰であっても。

ただ、やっぱり少しさみしい。


本山遥をもっと見ていたかったな


2022年に岡山でデビューしたころから、本山遥には「岡山で長くプレーしてほしい」と思っていた。

卓越したスピードとスタミナを見れば一目瞭然。ポテンシャルは高い。しかし、上背もなく、飛び抜けた技術があるかといえばそうではなく、まだまだ伸びしろを感じさせるルーキーだなという印象を強く受けた。

忘れられないシーンがある。徳島戦での出来事だ。徳島の西谷和希がカウンターの場面で完全に抜け出し、それを本山遥が追走する。J2屈指のウインガーであった西谷を、明らかに後追いで本山遥が追いかけるわけだが、まず追いつくことは難しいだろうというシーンだった。

ところが、本山遥は快足を飛ばして西谷に追いつきストップしてしまう。しかもノーファウルで。何メートルか後方からの遅れたスタートであったのにも関わらず、西谷を捕捉して見せたのだ。「なんじゃそら!?」あの衝撃は忘れられない。追いつかれた西谷本人も全く想定しておらず「え?なんで?」という表情をしていた記憶がある。

この選手であれば昇格を目指していく岡山のレベルに適応するに違いない。荒削りだがポテンシャルは十分だと感じた。もしチームの求める基準に達しない選手であれば、いずれ去ることになってしまう。その点、本山遥にはそこをクリアする力があるだろうと。

また、荒削りなところがむしろいい。J2で突出してうまい選手はやはりすぐにJ1に呼ばれる。個人昇格のパターンでチームに長く残すことができない。

その点、本山遥の場合、今後成長していくとしても、まだいくぶん猶予があるのではないかと感じさせた。それこそ同期入団の佐野航大のように一年でとんでもない成長を遂げると岡山に置いてはおけなくなってしまう。悲しいかな値打ちが上がりすぎても岡山で見ることができなくなる。

むろん、本山遥がそうなる可能性も十分あった。だが、そうなったらそうなったでしゃーないわ。めでたいことでもあるし。そういう気持ちでいた。

そうして本山遥の岡山在籍3年目となった2024シーズン。ファジアーノ岡山はJ1昇格を果たした。あのときのルーキーはPOで決定的な仕事をする選手になっていた。そして移籍を勝ち取った。もう、わかっていたこととはいえ「しゃーないわ」としか言いようがない。

しかし、しかしなあ・・・

J1昇格を果たしたとき、7年という長きにわたって在籍しチームを支えた金山隼樹の存在の得難さを痛感した。

選手や監督はめまぐるしく入れ替わるが、クラブとしてのストーリーは継続していく。たくさんの選手が喜び、悔しい思いを重ねて、今につながっている。そうしてクラブのストーリーは紡がれるのであろう。そしてもちろん、歴代の選手たちが大事にしてきたスピリットも。

しかし、昔と今を繋げる存在なくしては、現在籍メンバーがそれらを実感を持って知ることは難しいだろう。

「隼樹がいるファジアーノが昇格して本当に良かった!」

は、響くのよ。ジーンとくるものがある。

奇しくも澤口雅彦の岡山ラストイヤーは2018年。金山隼樹が岡山に加入したのも2018年だ。

岡山がJ1に昇格しても、仮にまたJ2で戦うことになったとしても、岡山のストーリーは続いていく。それをずっと体験してきた選手として、本山遥にいてほしいという気持ちがあった。今後岡山がどのような道筋をたどるかはわからない。しかし、今季J1昇格を勝ち取るまでの過程で経験したことをクラブの財産としなければならないのは間違いない。

そのためには金山隼樹と同じように経験して伝えられる存在が必要だと思う。だから、サワさんや隼樹ほどにとは言わないが一年でも長く岡山でプレーしてほしいなと思っていた。

本山遥はとても岡山らしい選手だったと思う。真面目で、ひたむきに走って、成長して、できることの幅を広げて。岡山を代表する選手の一人と言って差し支えない。

そんな本山遥をもっと見ていたかったな。しかし、本山遥はもういない。

新しい人物が名乗りを上げるチャンスだ。それが誰になるのか楽しみにしながら新シーズンを待ちたいと思う。しかし、今度は忘れないぞ。「お気に入りの選手を見られる期間は長くて3年」。そのことを肝に銘じながら、日々のゲームを楽しもうと思う。


あらためて、本山遥選手の活躍をお祈り申し上げます。

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