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第100回箱根駅伝で高岡が考える「影のMVP」3人

こんにちは、高岡です。

さて。

逆張りという癖を持つ僕は、事前に「今回の駒澤、勝てないこともあるかもよー」みたいな話をVoicyやyoutubeでしてましたが、とはいえ一方では「どう考えたって駒澤でしょ」と考える、二枚舌の僕もいました。

こんなにも他大学を圧倒する戦力を擁したチームがある箱根駅伝って、記憶にありません。

がっぷり四つで組み合って勝てる大学は、ない。スタート前までは、いや、1区が終わるまではそう考えていました。

しかし1区が終わった時点で僕は、ある不気味さを感じていました。その不気味さを放ってたのは…

青山学院大学です。

青山学院の1区を走るのは、僕の高校の(だいぶ)後輩である荒巻選手。

駿河台大学の留学生が飛び出し、そして駒澤の篠原選手がそれに反応して追随するや、荒巻選手もすかさず反応し、先頭集団でレースを進めました。

まだ発表されていませんが、今回の箱根駅伝の最優秀選手賞(MVP)はきっと、青山学院の3区を走った太田選手でしょう(ちなみに彼も高校の後輩です)。
注)実際のMVPは城西大学の山本唯翔選手でした

しかし僕はこの荒巻選手を「影のMVP」の1人と評価しています。

荒巻選手の果敢な走りは、きっと原監督からの「明確な指示」によるものでしょう。一切の迷いがありませんでした。

原監督も、荒巻選手であればそんな果敢な走りができると踏んでたから、1区に配置したはずです。

圧倒的な優勝候補である駒澤大学に、勝つ。

であれば、青学に一切のミスは許されません。そのヒリヒリした状況で凌ぎながら「千載一遇のチャンス」を待つ。これが青山学院をはじめとした、本気で駒澤に勝ちたいと考えている大学の唯一とも言える戦略でした。

でも、ハーフマラソンのベスト記録は、篠原選手の1時間0分11秒(日本歴代4位)に対して、荒巻選手は1時間3分11秒。3分も違います。ちなみに篠原選手の記録は、「学生歴代」ではなく「日本歴代」ですから、実業団選手も含めて、の歴代記録です。

そんな篠原選手に挑むって、生半可な覚悟では厳しいでしょう。下手したらオーバーペースで1区から出遅れて、駒澤を倒すどころか、シード争いすることにもなりかねないわけです。

しかし、原監督の指示が明確だったんだと思います。「篠原選手が出たら、ついていけ」です。

それ以外の選択肢は、なし。駒澤に勝って優勝するのであれば。

指示を出した原監督も、相当な覚悟が必要です。

結果的に荒巻選手は、篠原選手から35秒遅れて襷渡し。この時点で、僕の中では「青学、結構あるかも」になってました。

この荒巻選手の勇気を讃え、「影のMVP」の1人目として、猛烈に頭をなでなでしたいところです。

で。

荒巻選手のように「迷いなく駒澤に喰らいつく」が選手全員に浸透しているのであれば、これはきっと手強いかも、と。

そこで2人目の「影のMVP」として推したいのが…4区を走った佐藤一世選手です。

最初の1kmの入り。ここ、「千載一遇のチャンス」がやってきた瞬間でした。

駒澤の4区を走った山川選手。彼は全日本大学駅伝のアンカー8区で区間賞をとっている実力者です。

その山川選手に、最初の1kmだけで10秒ちょっとの差をつけました。それだけ佐藤選手は突っ込んで入ったということです。

ここでおそらく、山川選手の息のリズムは混乱をきたしました。

その前の区間である3区。

圧倒的優勝候補の駒澤の中でも、最も1万mの持ちタイムが速い佐藤圭汰選手が、青山学院に負けて中継所にやってきた。

おそらく駒澤の誰もが想定してなかったことが起きてしまい、次の区間を走る山川選手をはじめ、藤田監督や駒澤関係者の息のリズムが混乱したはずです。

多くの方は、ここを「ターニングポイント」と考えるかもしれませんが、あの場面で佐藤選手は実力通りの好走を見せていたと、僕は考えています。おそらく、想定通りくらいのタイムだったんじゃないかと。

ただそれ以上に、太田選手がぶっ飛んでた。そこはもう、仕方ない。

だからこそ、すぐに息を整え、もう一度レースを整える必要があった。駒澤が得意としてきた「王者のレース」に。

そのためにも5秒の差は、入りの1kmで追いついておく必要がありましたし、それってそんなに難しいことではなかったはず。が、ここで山川選手と藤田監督は大きな判断ミスをしてしまった。

ここが今回の箱根駅伝のターニングポイントだったと、僕は考えます。

もしかしたら青山学院の佐藤選手には、原監督から「最初から突っ込め」」という指示があったのかもしれませんし、佐藤選手自身の判断かもしれません。

いずれにしろ、青山学院は「千載一遇のチャンス」をものにした、ということです。

この「最初の1kmで相手の息を混乱させる」ことができたという点。

僕は今大会を「息のリズム」という視点で観ていたので、僕からしたら青山学院の佐藤選手は紛れも無い「影のMVP」です。後輩じゃないけどなでなでしたいです。

ただ…

往路優勝した青山学院が、そのまま復路も独走とは思っていませんでした。むしろ僕は、駒澤が息のリズムを整え、必ず巻き返してくるはずと考えてました。

しかし、その考えも朝7時すぎには修正せざるを得ませんでした。というのも…

6区にエントリー変更が予想されていた、駒澤の伊藤蒼唯選手が、どうやら走らないということがわかったからです。

僕が「駒澤は復路で巻き返す」と考えていた根拠は、伊藤選手がいたからです。

前回区間賞を獲得した伊藤選手が後ろから追いかけるとなると、青山学院の6区の選手も気を取られかねない。山川選手がしてやられたように、今度は駒澤の逆襲があるもんだと考えたわけです。

しかし、伊藤選手はなんらかの理由で走れないとのこと。これでは、追撃はなかなか難しい。実際、6区で駒澤は、息の根を止められました。

箱根駅伝前に配信したVoicyやyoutubeでも、駒澤が負けるとすれば「自滅しかない」という話をしてました。

がっぷり四つで組み合えば、駒澤の優勝に死角はありませんでした。が、駒澤はまんまと、自滅してしまいました。

ここが箱根駅伝の難しいところなんでしょう。僕も勉強になりました。

そうそう。あとひとりの「影のMVP」を発表してませんでした。それは、青山学院の原監督です。

状況に応じた的確な指示はもちろん、その指示を選手が迷いなく遂行できる環境を作り上げてきた。

迷いなく選手が走れること。これはエネルギー代謝という視点でも重要です。迷うことがなければ、脳が余計にエネルギー消費することを防ぐことができます。

それによって、そのエネルギーを運動遂行に集中投下できるわけです。

迷いがないということは、息のリズムが整っているということ。

迷いは、エネルギー代謝にも直結します。高岡が「ウォッチを見るな!」と吠えるのも、この理由からです。

原監督が「選手を迷わせないこと」を意図してらっしゃるかどうかはわかりませんが、結果的にそうなっていたということなんだと思います。

そういう意味で、原監督を3人目の「影のMVP」とさせていただきます。画面上でなでなでしておきました。

ちなみに。

迷うことなく走れるような環境にいた選手が、次のステップ(実業団など)で同じようなハイパフォーマンスを発揮できるとは限りません。コーチが変われば、多くの場合、迷いが発生します。

ここに関しては今日のテーマではないので、また別の機会に。

なんにせよ、駅伝を「息」という視点で観ると、めっちゃ面白いなーと改めて感じた、第100回箱根駅伝でした。

それでは、また。

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高岡尚司(プロランニングコーチ)
高岡 尚司(たかおか しょうじ) ゼロベースランニングクラブ・オーガナイザー 熊本国府高校陸上競技部長距離ブロックコーチ 鍼灸マッサージ師 ランニング足袋・開発アドバイザー ALTRA JAPAN アンバサダー 合同会社エフエイト・代表社員