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抽象的な指導をしていませんか?

ミニストーリー

中村奈緒は、朝のオフィスに響く電話の音を聞きながら、深い息をついた。入社3年目の彼女は、最近異動した先輩社員の業務を引き継ぐことになり、仕事量が一気に増えていた。上司や同僚に迷惑をかけまいと必死に取り組んでいたが、時間に追われ、うまく回らない日々が続いていた。

「よし、今日も頑張ろう」と自分に言い聞かせながら、彼女は机に向かった。

しかし、次々と舞い込む業務の中で、彼女の手は止まることがなかった。やるべきことが次々と増えていき、終わりが見えない。時計を確認すると、もう昼休みの時間が過ぎていたが、中村は昼食を取る余裕すら感じられなかった。

その日、山田課長から声をかけられた。「中村さん、少し時間ある?」

緊張した面持ちで課長の席に向かうと、山田が手元の資料を眺めながら言った。「最近、処理件数が少し落ちているよね。優先順位をしっかり考えながら、もっと効率よく進めてください」

『え?』その言葉を聞いた瞬間、中村の心はガタガタと音を立てて崩れていくようだった。

これ以上どうしたらいいの??
そんな思いでいっぱいになり、課長の声も遠のいていくように感じた。返事をしなければいけないと思いながらも、頭は真っ白になり、うつむきながら「わかりました」とだけ答えた。

課長は単なるアドバイスのつもりだったが、既に限界を超えようとしている中村にとっては、その一言が重荷となり、心を突き刺すナイフのように響いた。


その晩、中村は家に帰り着くと、無意識にソファに倒れ込んだ。「もうこれ以上頑張れない…。優先順位をつけてって言われても、どうしたらいいのかわからない…」という思いでいっぱいだった。

翌朝も、体が鉛のように重く、布団から抜け出すのに何十分もかかった。会社に行かないといけないと頭ではわかっているのに、体がまるで言うことを聞かない。結局、その日は出勤できなかった。

それから数日間、同じような状態が続いた。次第に中村は、職場に行くこと自体に恐怖を感じるようになった。頑張っても認められない、役に立てないという思いが彼女の心を支配し、無力感に苛まれる日々が続いた。

「私なんていなくてもいいんじゃないか」そんな思いが頭をよぎるようになり、彼女はついに休職を決意することになった。


解説

普段は抽象的な指示が中心だと思います。細部まで説明していると時間が足りないから、通常時の指示としては問題ありません。ですが、何かを指摘したり、改善を求める際には注意が必要です。

抽象的な指摘では不十分

以前に話し合った内容で対策を考えているものに関しては、それで十分かもしれませんが、新しく指摘することに関しては抽象的な指摘では不十分なのです。

上司が期待することを察して自分で改善策を考えられる人には「もっと頑張れ」「効率を上げて」といった抽象的な指導で問題ないかもしれませんが、それ以外の人とっては適切でない指導となってしまいます。

今までに抽象的に指導をされたけれど改善しない人は、自分なりに工夫はしているものの結果が出ない現状に苦しんでいることが多いです。そんな状況の人に対して抽象的な指導をすると、今回のミニストーリーのように傷つけて立ち直れなくなる場合もあるのです。

では、こういうときにどうしたらいいのでしょうか?

それは、「どのように頑張ればいいのか」「効率を上げるために何をしたらいいのか」等、具体的なアドバイスをすることが重要なのです。

原因を掘り下げる大切さ

「処理件数を増やして」と指摘するだけでなく、「なぜ処理件数が少ないのか」を一緒に探る姿勢が重要です。

  • やり方がわからない:具体的な手順やノウハウが不足している場合があります。

  • 目的や目標が不明確:仕事の全体像が見えないため、どう動けばよいかわからないことも。

  • 感情的な負担:プレッシャーやストレスでパニックになり、効率が下がる場合もあります。

これらの要因を一緒に解決することが、部下の成長を促します。

効率的な指導のためのポイント

  1. 具体的な指示を出す
    例:「この書類を優先的に処理して、その後にメール対応をお願いします」

  2. 指摘だけで終わらせない
    指摘後、「どうしたらいいか一緒に考えましょう」と伝えて、実際に部下の業務効率が改善する手助けをしてみましょう。そうすると部下の負担感が軽減します。

  3. 進捗を確認する
    一度の指導で終わらせず、「その後どう?」と進捗確認を行うことで、部下が相談しやすくなります。

  4. 原因に寄り添う
    どういう理由でできないのか、何が難しいのかを話し合い、具体的な解決策を一緒に考えることで、効果的な指導が可能です。


まとめ

今回のケースはあるあるです。抽象的な指示でうまくいく場合もあるので、一概に全てがダメなのではありません。

大切なのは抽象的な指示で相手に伝わったかどうか、意識することだと思います。相手のリアクションが悪い時に何か納得がいっていないことがあるかもしれないと頭を切り替えることが重要です。

そして相手が何に困っているのか?どうしたら仕事を進めやすくなるのか?そういう思いで接するように心がけてみてください。

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産業医|平井
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