みんなの笑顔が一番嬉しい!
飯場のタコ部屋。
わたしのルーツである。
十代の終わりに身を寄せた場所だ。
そこで人生初の師匠に出会うことになった。
この師匠のオッサンは仕事は出来るがあまりの口の悪さに
地方に飛ばされていった問題親父だった。
仕事の応援で何日か泊まりで行ったのだが
仕事場に着いて、まず驚いた。
それなりに大きな仕事場なので5〜6人は必要なところ
そのオッサンはたった一人で切り盛りしていたのだ。
なんちゅうオッサンや! この人アホかいな?
わたしの第一印象だった。
だがこのオッサンに仕事というものをみっちりと
仕込まれることになるとはこの時はまったく
想像できなかった。
数カ月後、オッサンが地方から帰ってきてから
タッグを組むことになった。
この時オッサン50歳でわたしが20歳だった。
人の優しさとゆうものはその中にいる時は気づかない
もので後になってしみじみと思い出して、ありがたく
感じるものなのかもしれない。
若いのに行くところもなく、こんな場所に落ちて来るなんて
何か訳があるんだろうと、想ってくれたのだろう。
優しかった。嬉しかったなぁ。
その裏返しなのか仕事になるとメチャクチャ厳しかった。
いつも仕事中はピリピリと緊張の連続だし、
罵声や怒号が当たり前のように飛び交っていた。
ハヨやらんか!えーかげんなことすな!キチッとやらんかい!
毎日夕方にはフラフラになるまでこき使われた。
あまりにしんどい時は焼き肉や寿司などにつれていってくれ
たが、いっそどこかに逃げてしまおうかとも思った。
そんな時によく言われたのが他所で5年かかるところ2年
で一人前にしたる!だから辛くても辛抱せーよ、と。
オッサンの教えはいつも理にかなっていた。
どこにも手を抜かないのだ。全てにキッチリとこなし
いいかげんな事は絶対に許さなかった。
そして誰よりも早かっし綺麗だった。
職人の凄さと気迫とをまざまざとみせつけられながら
夢中でやってはいるが、やはりしんどい。辛いのだ。
なんで俺はこんなとこでボロ雑巾のように扱われてんだ!
周りの裕福な他人がこの時ばかりは羨ましかった。
親の金で車を買ってオシャレして彼女とデートして
なんて夢の夢だった。
ええか〜!何でも一人で出来るようにならんとアカンど!
そんで一人前になって金稼いで、今のお前を嗤ってる
やつらを見返してやれ! ええな、くじけるなよ!
ワイに言われて悔しかったら、いつかワイのこと
アゴで使ってやる思ってやったらええんや。
そのくらいの気持ちでやらんと何年経っても仕事なんて
覚えへんど! 昔はワイだって悔しくって、帰ってから
布団被って泣いたこと何度もあるわい!
だから今は辛抱せーよ。
オッサンの教を守って、コノクソジジー!
いつかアゴで使ってやるからな!と思いながら踏ん張った。
この頃の数年間がわたしの仕事に対するモノの見方を
形成していってくれて、その後の仕事にも
大いに役だってくれた。
その後転機が訪れて一生ものだと思える仕事に就いた。
わたしは人付き合いが得意ではないし、
可愛がられるタイプでもなかった。
後から思えば、オッサンはソレを見こした上で仕事の
なんたるかを授けてくれたのだろう。
とにかく工夫、なんでもチャレンジして、
一人でやるためにはどうすればいいか?
どうやって這い上がるか。
人より劣ってる部分は、自分の持ってるもので
カバーするしかないのだ。
色々研究したし、人に負けないくらい練習もした。
仕事していれば足を引っ張ったり、貶めたりする
失敗の濡れ衣を着せる先輩が後をたたなかった。
そんな奴らに限って、君の為を思って言ってるんだよ
なんて誰も聞きたくもないことを言ってくる。
ソイツらを見返すためには、わたしが手の届かない
ところまでブッチギリで大差をつけて登りつめるしか
なかったのだ。
そうは言っても並大抵の事ではない。
一番になりたい奴が大勢いる中で本物になるには
人の2倍3倍の努力は当たり前なのだ。
ワザと機械に不具合を与えられたり、上司に不利になる
ような嘘の報告をされたり、一人だけ仲間はずれに
されるようなことはあり過ぎてどうでもよくなった。
卑怯な連中には負けたくなかった。正々堂々と
勝負してねじふせたかった。これに安全を第一に
考えながらやると、ちょっと普通ではない。
仕事が終わった時は手から出た汗で操作スイッチが
霧吹きをかけたくらいビチョビチョになる。
そのくらい緊張していた事になる。
他は知らないが自分の場合はそうなので、
一任期終わったときに皆の無事を確認出来たら
そっとその場を後にして、半日くらい家で一人
よかった〜。みんな元気で終われて、と自分に
ご褒美の言葉でもかけてビールでも飲みながら
疲れた羽を休めるのだ。
なのでわたしの仕事に携わってくれて
わたしを一人前にしてくれた方々には頭が上がらない。
こと重要な仕事で協力してくれた方々には本当に
心から感謝の気持ちを伝えたいし、そうゆう
人達がいなかったら今のわたしはなかったであろう。
関係者の方々、その節は本当にありがとうございました。
先の仕事で一旦燃え尽きましたので、これからまた新たな
仕事を模索中です。ビンボーしてますが
楽しくやっております。
いつかまたみなさんの笑顔が見れる日を楽しみに
しぶとく生きていこうと思ってます。