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流れ出たアルコール

「イッキ、イッキ」
ピッチャーハイボールと、行き過ぎた周りのコール。
そのコールに答えるように、数分前と比べて明らかに多くなった量のアルコールを摂取する。
「ぷはーもっと持ってこーい」
嫌いだったタバコの臭いすら今は気にならない。俺はそれくらい酔っていた。
「もーやめときなってー」
笑いながらそう言う彼女は、俺の使っていたおしぼりで、俺がテーブルにこぼしたハイボールをふき取る。

俺は彼女とセックスがしたい。

彼女は誰にでも笑顔を見せれて、息を吐くように気の利いたことができる、それでいてノリもいい、所謂いい女だ。そのため、狙っている男は俺の他にも少なくない。
「ダイジョブダイジョブ、家までの道は覚えてるから」
「えーホントにー」
彼女はきっと信じないだろうけど、俺はそれなりに強いほうだ。翌朝起きても今日のことはある程度覚えている自信はある。
「まーダメになったら泊めてください」
「何言ってんのーバカー」
彼女は笑いながら俺の肩を軽く叩く。
みんな彼女のツッコミに笑っていた。

それからしばらくして、2次会でカラオケに行くことになった。
「やっべ、ちょっと歩きずれえわ」
道のりはそう遠くないが、千鳥足せいで遠く感じる。
記憶は正常でも、体は正直みたいだ。
「おいおい大丈夫か」
「わりい、ちょっと肩借りるわ」
肩を借りたそいつは、いつも昼休みを共にしている親友だ。
唯一彼にだけには、彼女を抱きたいということを伝えている。

無事に2次会会場に着き、みんな好きなように歌い、ワイワイ騒いでいた。
飲みすぎたツケが尿意に来た俺はトイレに駆け込み、摂取したアルコールを小便器にぶつける、大程ではないが小にしては長かった。
「ふースッキリした」
元に戻る途中、例の彼女と親友の横顔が出口の方向へ向かっていったのが見えた。
通路はT字になっていたため、2人は俺に気づいていない。
出口を出た2人を見てみると、彼らは唇を交わしていた。
俺はそれを、見て見ぬふりをして部屋に戻った。
しばらくして、親友が帰ってきた。
こいつから、俺の嫌いなタバコの臭いがする。俺はこいつのこの臭いが嫌いだ。
もうしばらくして、彼女も戻ってきた。
「お酒買ってきたよー」
「お、サンキュー」
彼女は大きなコンビニ袋から酒缶を取り出すと、感謝の言葉を述べたみんなに、一本ずつ配っている。
「はい、どーぞ」
「あ、ありがとう」
彼女の明るい声に対して、俺は素っ気ない感謝を返した。
彼女はどんな気持ちで優しさを配っているのだろうか、きっと彼女はこんな簡単に、まるでこのハイボールのようにあいつのあれを掴んで、今彼女が飲んでいる酒のように飲みこんだんだろう。
2人で何をしていたかなんて、みんな気づいていない様子だった。もしかしたら、そのふりをしていたのかもしれない。俺はそうした。でも確実なのは、コンビニ袋に入った数本の酒缶、唇を交わしたという事実。そして、戻ってくるまでの空白の1時間。
童貞の俺でも、その意味を理解できた。でも俺は追求しなかった。
2次会はオケオールとなった。

終了後、俺と親友は一緒に銭湯に行ってから大学へ向かった。
授業中、あの2人のことをずっと考えていた。
銭湯に行ったときに確かめたけど、あいつの体にはキスマークなるものは1つも見当たらなかった。彼女の体にあいつのキスマークがあるのだろうか、そんなことをずっと考えていたら、あっという間に午前中の授業が終わった。

昼休みになり、俺と親友はいつも通り2人で昼飯を食べていた。
その際、今朝まで続いた飲み会の話をしながら笑いあっていた。
その会話の中に「お前あの女とヤったろ」という文章は、俺の口からは出なかった。別にそれを言ったとして、関係が崩れるわけではないのは知っていた。むしろ笑い話になる。「先にやっちゃったわ」なんて、お前は笑いながら言うだろう。俺自身も「気持ちよかったん」なんて、笑って尋ねるじゃないかと思う。でも出来なかった。

行き過ぎた酔いから何となくセックスするなんて、童貞には到底理解できなかった。

その夜、俺はいつも通り自慰した。
カラオケで目撃したあの光景が頭をよぎる。不思議と萎えず、むしろ勃ちがいい。
いつも通りならイチャラブ系だったが、今日は珍しくNTRに手を出していた。
課題が多くて、3日前から忙しくてしてなかったからか、今日はけっこう出た。

ふと、トイレで流したアルコールを思い出す。

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