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映画感想『わたしは金正男(キム・ジョンナム)を殺してない』

原題「ASSASSINS」

◆内容◆
2017年2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で、北朝鮮の最高指導者・金正恩の実兄・金正男が何者かによって暗殺されるという事件が起き、世界中に衝撃を与えた。本作は実行犯として逮捕された2人の若い女性に焦点を当てつつ、無実を訴える彼らの前代未聞の裁判の行方とともに、恐るべき暗殺事件の驚愕の全貌に迫っていくドキュメンタリー。監督は「おしえて!ドクター・ルース」のライアン・ホワイト。




昔は良く「人を見たら泥棒と思え」なんて言われたけど上手い話にはむやみに乗らない事だ。

あの事件が起きた時一般人の自分でも「あんな殺し方?プロなの?」と思った。
その犯人に仕立て上げられた二人の若い女性の裁判を通して事件の真相に迫るドキュメンタリー。

先ずは真相を追っていたマレーシアの記者のこの事件への疑問提起から始まる。
その後、二人を担当するそれぞれの弁護士、ワシントン・ポストの記者、家族や友人等、多方面の関係者からの証言で構成されている。

その証言を裏付ける監視カメラの映像やスマホのプライベート映像は彼女達が極一般の民間人で何も知らずにこの犯行に巻き込まれた様子を描き出している。

何よりマレーシアで【もし有罪となったら即死刑】だと言う事もこの作品の衝撃要素の一つになるだろうがそんな重罪犯には到底見えない彼女達の言動が犯人像からどんどん遠ざけて行く。その辺に居る普通の若者にしか見えない彼女達に犯人としての説得力がまるで無い点が恐らく観客側の気持ちを揺さぶる。

ドッキリを仕掛けるからって着て来たというドアンの【LOL(爆笑)のTシャツ】がマジで気持ちの軽さを物語ってるよな。

工作員は自分達は計画とお膳立てだけで何食わぬ顔で実行犯を一般人で作り上げるんだと思ったらそら恐ろしいわ!

それに加えて何で彼女達がこの人材に選ばれたのか?と言う・・・
特にベトナム出身のドアンに来たドッキリ番組への出演オファー。
彼女は学歴もあるのに就職出来ずフリーター生活。パブで働く一方モデルもしていたドアンに「日本のドッキリ番組」で使うイタズラ動画を撮ると言う名目で近付く工作員たち。
日本人はこう言うので喜ぶんだ的な描写があってもう色んな意味でマジで憤った。そして工作員の1人は日本人を装っているという・・・日本絡めて来るなよ!だ。

一方、貧困ゆえインドネシアからマレーシアに出稼ぎに来ていたシティ。
ご他聞に漏れず風俗に足を踏み入れていた。

そんな生活を打破したい彼女達を恐らくSNSなどからピックアップして白羽の矢を立てたんだろう。


長期の拘束で面識さえも無かった二人は拘置所でそれぞれを知る事になる。
お互いを励まし合いながら姉妹同様に心を通わせ何とかこの局面を乗り切れる事を祈った。

弁護士たちの奔走もジャーナリスト達の賢明な取材もそんな彼女達を極刑から救い出し【相手が金正男だと言う事さえ全く知らずにただのイタズラと言う認識しか無かった】事の証明を導き出す為だった。

それにしてもあの独裁国家の遣り口の一端を未だに存在する【日本と言う豊かでアジアを引っ張る国】みたいなイメージが利用されたのにはホントにショックでこの作品の裏側にこんな事が在ったんだと或る意味鑑賞した意味は大きかった。
そしてあの国の病んだ闇が露見した一幕ではあった。

国家主席になったばかりの世間知らずの若き独裁者が殺さなくても良かったであろう兄を自分の地位の為に殺害・・・それも今後邪魔になるやも知れぬ的な?
国を捨て【自由】を選んだ金正男の自国への厳しい指摘が彼への粛清を齎したのかもしれないね。

若者の警戒心が緩む昨今ホント今まさに「人を見たら・・・」だな。
ただ、今作の中でも沢山のSNS映像が登場するが或る意味そういうものが【証拠】として助けになったのは確か。
文明の利器は一長一短と言う事か・・・。

最終的には【国が自国民を助ける】と言う言ってみれば当たり前な結果に結びつくのだが関係するそれぞれの国の事情や国家間の関係性も含め勉強になった一作。

でも、詐欺もそうだけど先ずは警戒心を持とう。


2020/11/10


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