『SKIN/スキン』
原題「SKIN」
◆あらすじ◆
10代で親に見捨てられ、白人至上主義者グループのリーダー、クレーガーとシャリーンに実の子のように育てられたブライオン・ワイドナー。今やグループの幹部となり、全身に差別的なタトゥーを刻み込む筋金入りのレイシストとなっていた。そんな中、3人の幼い娘を育てるシングルマザーのジュリーと出会ったことで、次第にグループからの脱退を考えるようになる。しかしグループは脱会を認めず、ついには裏切り者としてかつての仲間たちから命を狙われ始めるブライオンだったが…。
ヤクザにしてもカルトにしても一旦組織に入ってしまうと足抜けは難しい。
今作も白人至上主義者に育てられたネオナチ青年が過ちに気付き大変な思いをして心を入れ替えたと言う実話が元。
オスカーを受賞した同監督の同名短編がかなり衝撃だっただけに今作はやや奥深さに欠ける。
ブライオンを育てた義父母との経緯がイマイチよく伝わらないのとジェンキンスとネオナチとの関係、個人的な背景がやや薄い感が否めない。
ブライオンがジュリーの家族と共にする時間を少し省いて他者との関係性をもう少し深く見せてくれたらかなりの秀作になっていただろうと思うと非常に残念だ。
しかし問題提起だった短編の答えとして構成、演出には見せられるし納得は行く。
現アメリカ大統領下の極右主義が如何に無知な思想であるかと伝えるには充分な作品だ。
人生はやり直せる!
この作品はその叫びをしっかり映していると感じた。
ジェイミー・ベルがイメージを覆して気迫の好演。
訳も分からず差別主義者として育てられた青年だが【訳も分からず】と言う部分が鍵だ。
途中でこの組織にどう新顔を入信させるのか的なシーンが出て来るがその時にスカウトされるギャビーとブライオンの対比が興味深い。
スカウトする方は長年の経験から勘が働くのだろうが【ネオナチ】に少しでも憧れやカッコ良さを感じているならば染まるのは一瞬だろう。
だがブライオンはその感情も持たない内に洗脳されてしまったのだ。
そこで現れるのが差別主義から一人ひとり改心させる活動を続けるジェンキンスだが彼もまた自分の長年の勘からブライオンに目を付けていた。
この駆け引きめいた遣り取りがこの作品の肝でもあり『人間の心の葛藤やジレンマは自分以外に守るものが出来た時沸騰点に達する』って事描いてる。
どちらかを切り捨てなければ生きられないのなら捨てるべきは過去で新しい未来に目を向けるべきだと言っている。
人は変れる。
今作はネオナチ、白人至上主義者が主人公でそう聞くと何処か男性中心に感じるがいやいや、今作で異彩を放っていたのがヴェラ・ファーミガ演じるブライオンの義母とダニエル・マクドナルド演じる妻のジュリーだ。
この2人はブライオンを巡って或る意味取り合いみたいな構図なんだが女が怖いのが暴力を使わず心理戦に持ち込むってトコ。
特に義母のシャリ―ンがブライオンに「(夫達に)アナタには指一本触れさせない、でも子供達がどうなるか・・・」とシレッと耳打ちする辺りはゾッとするわ。
「母として息子を守る意思はあるけど他人は子供だろうとなんだろうと知らないわよ!」ってトコだろうか。
あとジュリーの長女を抱き込んだりね・・・。
でもこのかあちゃん結局最後は何にも出来ないポンコツだったけどね。
義父役のビル・キャンプは何だか結構観る映画に出て来るなぁ・・・今作で判明した時は「またかよ!」ってツッコんだよ(笑)
だって最近だと『ジョーカー』『ワイルドライフ』『荒野の誓い』『聖なる鹿殺し』・・・って!
でも今作はちょっといつもと違う感じに見えて過去作で一番良かった。最悪のジジイだけどね。
白人は奴隷船で黒人を強制的に特に南部の労働力としてアメリカに連れて来て、リンカーンが奴隷解放宣言した後、労働力を失った白人は今度は解放された黒人に対して理由の無い言いがかりで逮捕し囚人として労働力を確保したんだとさ。
極悪非道にも程がある。
勿論これはごく一部の白人至上主義の連中の話だけどそういう潜在意識を持つ人間は世界中に居る。だから知らなければならない。
【無知が一番の罪悪】だと言う事をね。
『SKIN 短編』
◆あらすじ◆
ネオナチのジェフリーは幼い息子を連れスーパーで買い物をする。レジを待つ間隣のレジで会計をする黒人男性がヒーローもののオモチャを見せて微笑み合っていた。それに気付いたジェフリーは言いがかりを付け仲間を呼びその黒人男性に暴行を加える。
或る日、何者かに拉致されたジェフリーは数日間行方不明になる。
その後、全身を入れ墨で埋め尽くされ路上に捨てられる・・・
僅か21分でこれだけの強烈な衝撃を与えられるガイ・ナティーヴと言う男は何者なのか?
全く無駄の無いシナリオにぐうの音も出ない。
BLM運動の最中『まさしく今観る作品』と長編の公式サイトで期間限定無料配信された。
これを観られたのは非常にラッキーだったが観終わってからあの20分間に描かれるネオナチVS黒人の図式とそれぞれの家族や仲間への感情、その背景に至るまでの緻密な構成と何度も言うが衝撃且つ悲痛で冷酷な結末がずっと頭から離れない。
現在も米国で止まない極右の黒人差別や過激で非道な行為。
それにどう対峙するのか?
この映画の結末は因果応報と言う言葉に尽きる。
2020/06/30