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映画感想『WAVES/ウェイブス』

原題「WAVES」

◆あらすじ◆
厳格な父に反発を感じながらも、恵まれた家庭で何不自由ない生活を送る高校生のタイラー。成績優秀でレスリング部のエリート選手、美しい恋人にも恵まれ、順風満帆かに思われたが、肩の負傷が発覚したことですべての歯車が狂い始める――。家族の運命を大きく変えた悲劇から1年後。心を閉ざしていた妹エミリーの前に、すべての事情を知りつつ好意を寄せるルークが現れる。不器用ながらも優しさにあふれたルークに少しずつ癒され、やがて恋に落ちる2人だったが…。





とにかく冒頭からビックリしたのはあのぐるぐる巻きなカメラ演出だなぁ。

この作品は特にカメラアングルとレンズフレアが印象的で「青春真っ只中の【目まぐるしい若さの行動リズム】をこんな風に演出するんだなぁ」って凄く感心させられた。
その映像を更に鮮明に色付ける30曲以上のサウンド♫
どうやら【プレイリスト映画】なんて言われてるみたいでカッコイイ!

で、次に思ったのは・・・あの厳格な父親像。
ホント嫌っ!
息子を立派に育てたい一心なのと自分の過去(生き方)にも或る程度自信があるパターン。
弱音を吐いたら一喝で益々課題を課すタイプ・・・無理!(笑)
でもね、自分の理想を押し付けるばかりで息子の様子の変化にも気付かない。「あぁ、そんなんじゃこの息子最終的にグレるんじゃない?」って思ったらねぇ・・・そういうもんよね。
このタイラーって子、いい子だと思うよ。親父の言う通り練習だってきちんとやって期待に応えようと必死だもん。で、親父は自分の思い描く通りの息子像に夢中でその側面をちっとも観ようとしない。日常でおかしい点が幾つか描かれてるのに「アホ親父」とツッコミながら観てたね。

そんなだから妻にも「触らないでっ!」って「アナタとはヤりたくない」とまで言われる始末。どれだけ自分本位だよオヤジ!ってね。
ただね、この親父の言ってる事ももちろん正しくて「この国では我々(有色人種)が生き抜くためには"きちんとしてなくてはならない"」理論。これは『ルース・エドガー』でも描かれてたのと同様。

でも、優等生だった息子は悲劇を起す。

それを受けて二部的な構成でその兄の悲劇を引き摺って心に傷を抱えてしまう妹のストーリーが始まる。

ワタシはこの妹主体の後半が好きだったな。
兄の悲劇から家族の中に不信感が蔓延して以前みたいな関係性が崩壊する。
いや、以前から崩壊の兆しは見え隠れしていたがそれに目を瞑ってやり過ごして来た反動が大きなきっかけを掴んでしまったと言う事なのだろう。

その妹エミリーをテイラー・ラッセルが演じてるんだけどこれが見事でね。
コチラに色んな感情を齎してくれる。

そこに独りで居る彼女に声を掛けて傷ついた彼女の心の拠り所になるルークと言うクラスメイトが現れる。
ルーカス・ヘッジがこれまたイイ感じで存在価値を見出しててね・・・かなり自然でこの年齢の若者を等身大で演じてた。

若さって無垢で感じた事が何色にでも変化する。でも少し傷ついたらその傷が深く深く余計な部分まで抉ってしまう危うさもある。
だから彼等は(多分)気付いて欲しいっていつもいつも願ってる。

お互いの気持ちを汲み取る様に描かれるその心理描写の繊細さに自分の10代の頃を重ねちゃったよね。

ルークの背景がこの作品の伏線になってるんだけどこれまた父親との関係性を描いてて、こちらはずっと交流の無かった父親の【最期】に向き合う葛藤が描かれる。
人間の心の中にある【是非】を纏わりつくもの全てを排除して素直に向き合ったら何が浮かび上がるのか?と言う課題の答えの様にも思えたね。

そしてこの作品の主体である家族の再生と言うテーマ。

親の子に対する期待。
子が感じる【親の期待】の意味。
子が見る夫婦(親)の信頼関係。
親子の目線の相違。
親の存在とその価値。
若さ故の思慮。

心の表裏・・・


心の崩壊は些細な事で訪れる。つい最近も誰も思いもよらなかった訃報に驚かされたが遺された者、置いて行かれた者は「何故気付けなかったか?」と悔しさだけが残る。

家族の信頼、青春の葛藤、喪失と癒しと再生。単なるドラマとは言い難いそうした全ての立場の心の機微の繊細さの中に【芯】を持った演出に魅せられる。


2020/07/21


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