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可能性を棄てられなかった人たちのために

今この国は戦争をしているから
明日生きていられるか
出来るだけ攻撃されないところに疎開して
防空壕で暮らそう
命あっての事だから
きみを誘ったら明日死んでも
この町がいいという
私には弾は当たらないから
といって自信ありげに
微笑んだ

というおとといがあってきのう
爆撃できみは死んだ
頭の裏側がごっそりなかったが
顔面はきれいだった
抱き上げたら軽かった
タグをつけられ
トラックで運ばれていった

僕は逃げようと言ったけれど
誰もが残ると頑なだった
今爆撃機が
大編隊で素通りしていくのを
防空壕の明かり窓に見ている
通り過ぎるのに
かなりの時間がかかっていた
腹の底に響く重低音
聞いたことのない音圧
ある種の実験音楽のようだと思った
音と音楽の違いについて

可能性を棄てられなかった人たちの
ために
祈る事なんてしない
僕は逃げたから
逃げ切れたあとのことを
必死に考えるだけだ

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