巡り合わせによればあるいは

うつくしい夕焼けだった
東京の方が燃えていてむらさきの
何度かシャッターを押してみたが
補正されてきちんと写らない
今日は夕焼けのあと　月蝕
140年ぶりの天体現象なのだそうで
猫がたくさんいますね
と老人に声をかけると
十匹はいるかな　とのこと
そして子猫を産むから　と猫が
数匹たむろする木の根元を見ながら
しかしさっきの夕焼けは見事だったね
と老人から言われ　本当に
と私は答えた　
猫に餌をやるおばさんがいる
とのこと　釣りの人も釣れた魚
餌に上げてるみたいですね　と
私が言うと　生魚だからお腹壊す
といけないと思ってあまりやらないんだ
と釣り人が言っていた　と老人が
言った　それでも　猫には自然
治癒力があるだろうから大丈夫
だろうと老人が言うと夕焼けの時間は
もうおわって夜になってきた
あの老人の家を知っている
あの老人の乗っているドイツの車
を知っている　私が知っている家から
老人は出てきた
そして私たちは夕焼けと猫たちの
話を水辺でした

一方通行になっている道を
自転車でしばらく逆走した
この間　警察官たちとすれ違ったが
特に何も言われなかった
丸太を模した石の柵で歩行者と
自転車の通行区分が分けられている
のだが　柵の切れ目がそれほど
あいてはいないから
逆走になってしまったということを
きっと警察官はわかっている
いちいち引き留めてどうこうと言うのは
お互いに時間の無駄だと思ったのでは
ないか　警視庁の警察官は多忙だ
と思われた

一方通行の終わりは五叉
大通りから橋へと道が上ってゆく
大通りをスクールバスが通るのを
見たことがある　私立〇〇学園
子が高校受験する際に
何故かその学校を見学していた
特に受けるつもりもない高校へ
見学に行って団扇をもらって帰ってきた
水色の団扇には学校名が書いてある
80thアニバーサリーと書いてある
と言うことは私が受験するときにすでに
その学校はあったはずだが
全く聞き覚えがなかった
私は公立が本命で私立は
共学校しか受けなかった
大学の付属校しか受けなかった
後でそのうちの一つは男女別学
ときいて騙されたと思ったが
そこへは行かなかったので問題はない
と考えてみると　その学園は多分
女子高だったのだ　おそらく
共学になる学校が増えてきた

巡り合わせによればあるいは
子はその学園に行ったかもしれない
その学園では多分　高3の女子生徒
が殺害された

巡り合わせによればあるいは
という関心からその事件の
概要を少し詳しく探った
と言ってもインターネットの中
だけであるが

ネット上の知り合いという関係だけの
かすかな関係のトラブル
今どき誰でもSNSなどしていない方が
むしろ
書かれた記事を読んだところ
その生徒に落ち度はない
あるとすれば　SNSへログインしたのみ
生徒はその学園で指定校推薦を
うけて　心理学を学ぶ大学を希望していた
もしも子がその学園に行っていたなら
推薦の座を争ったかもしれないし
仲良くなってアニメの店に日曜
連れだったのかもしれない
順当に行けば推薦を受けて
進学が内定し　家族で記念に
食事でもしていたかもしれない

私が中学一年の時　隣のクラスの
女生徒が殺された
私が大学一年のときに　先輩と同じ
クラスの女子大生が殺された
人が突然　この世からいなくなる
他人の手によってこの世からいなくなる
過失ではなく存在をかき消される
その人のいた形跡だけ残される
その形跡は生々しい
近くにあったというだけでいつまでも
心に残る
残された者の記憶に変わらずに残り続ける

と言う経験を子にはしてほしくはなかった
巡り合わせは無かったのだ

東の空に月が出て満ち欠けとは別の
欠け方をするという
月蝕はいつから月食となったのだろう
町の方角に月は奇妙な欠け方を
していたが　すぐ雲に隠されて
しまった

月蝕は　雲に隠され　12345
その5文字は
季語でなければならない　俳句では

夜の写し方を知らないカメラで
何度も東の空を写した