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ひさご

休みの日に近所の新古書店を巡りがてら 地
域で有名な餃子の店に餃子を買いに行った
法律で有給休暇を5日取らなければならない
息子が 休みを取るといろいろな場所へと出か
ける 以前は家にずっといたのでたまには と
連れ出したところ楽しかったらしく 有給休暇の
たびに出かけるようになった 

息子の目当てはカードゲームのカードであり
親の目当ては落ち着いた読み物である 表紙
が文字ばかりの装丁が近頃の本は多い 文字
でお得度を知らせようと懸命な形にみえる な
けなしのお金で買う本は役に立つと思える
ようなものでなければならないという消費性向
がうかがえる 文字で表紙から選球してもらお
うと

残念ながらこちら方面の新古書店にはカード
ゲームの取り扱いはなかった 息子に謝ると
全然いいよ と許してくれた 息子は大抵の
事をあっさりと許してくれる まずめったに怒る
ことはない 知力は中央値から大きく外れるが
度量も中央値から並はずれる 親ばかだが
息子が大好きだ

餃子屋は正午からの営業で 持ち帰りのみの
商いだった 時間が余る 江口寿史の日記を
見つけた 分厚くて値付けは200円 日記が
昔から好きだ 頭を変に使わず読めるから
一日の記載が長くなくて たくさんの日付がつ
めこんである日記がいい

この店の餃子は甘い 野菜の甘さ というので
はなく 文字通りの甘味 砂糖? 水あめ? 以前
からいろいろ考えていたがネットを穿り回して
納得いく材料に突き当たった なるほど ねっとり
とした餡の具合もそれで納得がいく 

以前は通勤に使う駅の駅前にも店があった
ビルの合間に埋もれた板塀の古い店で きれい
とはいいがたいが風情があった 休みの日 通
院か何かの用で近くに来た時 昼食をそこで
食べた かなり混んでいて 買ったばかりの
新書を読みながら待っていた 摺りガラス越し
の光が古い木の窓枠を照らした 相席だったか
向かいの人はキリンの絵のラベルのビールを
飲んでいた 休日の昼間にビールというのは
勤め人の酒飲みには至福の時だろう 今 私は
そのどちらでもない その店に読みかけの本を
忘れてきた 多分 あの明るい少し幅広の窓
枠に何気なく置いてきてしまった その後 店の
あった横丁自体が消滅した

はじめ500円だったお土産餃子は少しずつ値上
って今900円になっている 子供のこぶしくらい
ある6個入りの持ち重りするパック 皮が厚く
揚げ焼してあるので表面は固くしっかりしている
にんにくがたっぷり使われるが餡は野菜中心
なので重くない そして甘い 以前は辣油が
同封されていたがそれもなくなり 別売りにな
っていた 子供が小さかったころは 買いに行
くと棒付きの飴をくれた

店の前には四角い溜池があって 以前は葦が
生繁ってこの季節なら立ち枯れしていた 今は
かなり整理され 水面が広く凪いでいた どう
やって刈ったんだろう と息子が聞いてきたの
でゴムボートでも出したのかもしれないよ と
答えた ゴムボートが何艘も葦原を囲む光景
が想像されて水面がにわかに慌ただしく見えた

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