好きな人の本
好きな人の本
起き抜けに
浮子を作り始めた
朝
バルサは
どんぐりの形に
削られて
マニキュアで
彩色され
乾かされている
午後の
釣りに間に合わせたい
眼鏡もかけずに
浮子を
削った
そして
好きな人の
本を買う
ベゾスの店で
好きな人なのに
一円で買う
ポイントを使って
実質
マイナス17円で
手数料には
郵送費が
含まれるはず
利益はおそらく
200円足らず
好きな人には
1円たりとも入らない
好きなのに
すみません
たった一円で買って
四十年近く前に
あなたの作品を読んでから
ときどき
思い出して
か細く
長く
好きなひと
あなたも私も
二十代だった
今は五十代後半
お互いに
遠い間柄
読者っていうのは
私です
見えないが
読んでます
長く
繰り返し
あの時買わずに
今買って
ただ同然で
それでも好きと言って
怒りませんか
熟読します
もうしばらく
乾かしている
朱を
塗った後は
胴を紺で
塗る
指先で
完結してる
ここしばらくの
私の生活
楽しみを
ぽつぽつ
作り出しては
つぶして
暇をしのいで
エアコンを
入れ始めた
昨日から
ひと夏
ずっとかけっぱなし
あなたの本が届いたら読みます
一円でもきちんと読みます
図書館の本のように
読み飛ばしません
部屋を冷やして
待っています