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手ごわい暇つぶし

男は蕎麦打ち 女は金継 またはパッチワーク
または手芸 男女陶芸 いとこに芸大四浪あげ
く断念という人がいて 自宅で陶芸教室を開いた
納屋を男の隠れ家みたいに改造し 電気窯
を置いた 結構盛況だったようだ 髪と髭を伸ば
していた 浪人していた時 実家にわずかに
下宿していた時があって ビートルズのレコード
をかけてストーブを焚いていた 絵は上手い と
思ったが 玄人目には駄目だったのだろう 味の
素が嫌いで 入っていると文句を言う それなの
に母は味の素を入れる 母も人のいう事をまっ
たくきかない

それで私は変化球で 竹竿造りという訳で 竹
竿では邪道かもしれないが 接ぎ穂を小さく小さ
くして 手のひらサイズですべてを完結させたく
なる 今となってはめっきり見なくなった写真の
フィルム そのケースぐらい 電池で言えば単
一くらいの それよりはやや縦長で いずれ手に
とってポケットでかさばらないサイズ そういう
仕舞の竿を作りたくなってくる 大きい というこ
とも魅力だけれど 小さい というのも楽しい嬉
しい 美しくて小さいもの それでいて精密なもの

金継というのは 漆に小麦粉を混ぜて瀬戸物
の欠け割れをくっつけて再生する 継ぎ目に
金色を着色する 特に金色でなくても構わない
そうだ 漆というのは天然の接着剤でひとたび
かたまれば強い かたまらせるのに湿った温度
の高い 室 むろ という木箱に入りなければな
らない テレビで むろ を漆風呂と言っていた
あがり際の湯気濛々とした浴室のような環境で
一週間放置して固まる なんだか不思議だ

色を重ねる それを水やすりでこすると模様に
なる こんなことを五十半ばで知った 絵心が
なくても絵的なものができることを知った 独特
の色味 日本画は岩絵の具と膠だったか 研ぎ
はしない なんだか 少し日本画を描いている
ような気になる 素人の戯言

蕎麦打ちも色付けも 作業していると無心に近
づける気がする 若いうちは無心よりも様々な
事に有心で無心などと思いもよらない そのうち
心に溜まってきた沈殿物をひととき無心で流し
たくなる こんなありふれた心理なんて若い時
斜に見て鼻もひっかけなかったが 人が多く
熱中するものの奥にはそれだけの何かしら快楽
や効用があるのだと実感する 特に 魚を釣る
という行為に関して タナゴをすでに複数匹飼い
愉しんでいる身としてはそれほど興味もなくなっ
た けれど 竹竿を装飾しながら仕上げていく
というなかなかに手ごわい暇つぶしは楽しみを
与えてくれて満足感がある その上次を求める
中毒性もある

そういえばもう三月か だいたい三年に一度
人事異動があった 三年目になると次回は異動
か などと浮ついて 結果 総務以外の勤めて
いたところの全部門を制覇した 思えば総務も
やっておけばよかったなどと今ふと思ったが
和竿づくりとは何ら関わり合いがない あれから
6年過ぎたので部署を二回変わっていたのかも
しれないがもうやることは自分で決めて やること
を変えるもの自分で決める よく晴れている

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