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竹藪にて

狭いところに大人数で詰めている 来客の対応
ややらなくてはいけない情宣活動に頭を悩まし
ていたら目覚めた こういう夢の時はいつももう
辞めるんだからと投げやりな気持ちになってい
てもう構わないでほしいと人に対して思ってい
るが 裏返せば人と関わり合いたいのかもしれ
ない 人と関わるといろいろな不本意があるけ
れど それに耐える気力が残っているのかどう
か その状況に放り込まれれば慣れるしかない

晴れて暖かいというのでもったいないから外出
した 同じく外出する娘たちと別の方向へ丁度
信号が変わって振り返り手をふる いつもの坂
いつもの橋 枯草色の土手ではあってもなんと
なく春が兆してうずうずしているような どこかの
老婦人か 何か葉を摘んでいる 何か聞こうか
と思ったがもうその時はそこから二三歩遠ざか
っている 寄りたいと思った店はいつも通り過ぎ
てからそう思う 車だともうはるか後方で わざ
わざ引き返すこともない

今日も枯れ枝にレンズを向けているところに よ
く見ると腹の茶色い野鳥がいる 便乗して撮って
その人に 翡翠ですよね と聞くと ジョウビタキ
と多分言った 腹の色で決めつけて生半可な
知識で 恥ずかしかったが 通り過ぎる時に礼を
言ってマスクの中で微笑んだ 今日はカメラマン
と写生の人が多い 水路にはタナゴ師が並ぶ
細くて短い竿を水面に突っ込んでいる

私もいつもの水辺に着いて初めの網に特製の
餌を入れて水の中へ放り上げた マッシュポテト
ホットケーキミックス 味の素 パン粉 温泉
玉子 潰した白米 にんにくおろしでやわらか
く練り込んだすべて人が口にするもので餌は
出来ている 網を仕掛けて水を汲みにいって
いる間 やってしまった 餌袋をそのまま出して
いたためにカラスに袋ごと持ってかれて 途中
写生していたご婦人のところで一旦地に降り
走って追いかけたものの間に合わずに飛んで
行ってしまった もう魚捕りにはならない ああ
としばし唖然として 前回見つけた笹薮をまた
つかえそうな竹が無いか見て回ることにその
まま

何やってんだ 冷静になるな 笹薮のただ中で
竹の葉に透かされた黄色味の強い冬の終わりの
光を見ている 細い竹ばかりかと思ったら藪に
踏み込むと指でちょうど一周くらいの黒竹や
青竹が枯れた笹のような包み皮にくるまれて
所々屹立している その蔭と光の枝葉が枯れ
落ちて土のすっかり隠れた地面に国と国の境
のように斑になっているのを見て しみじみと
きれいだ と感じた 若い時に見た雑木林の
なかと同じ感覚で美しかった 老境に差し掛かり
つつ児童みたいなことで日をつぶして うつく
しかった 何をしているんだろう

藪の中で見た光とか地から生えている青くて
丸い小さな葉の密集した新しい芽が五十八
回目の冬の終わりになってゆき 直にわっと
春になる もう少し 枯れた竹を拾っていくの
は今この時期だ からからに乾いて軽い かりん
かりん音がする 日差しは束なって差してくる

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