
老いた蝉・三年間ほとんど
老いた蝉 と書いてあるのを見て 面白い と感じた
実際には蝉は 半月ぐらい生きると 自由研究の小学生から
教わった
道をゆっくりと動く老いた蝉の 日齢は何日ぐらいなのだろう
外廊下に裏返っていた蝉は 何日かしたら 羽だけになってた
ン
と言う字に似ていた
三年間ほとんど同じ道ばかり 通っていたから
坂の途中の狭くて急な 階段なんて知らなかった
ほんの数メートル外れた 家と家の切れ目 くの字になった 狭い階段に
続く路地は土留めの壁に 仕切られて圧迫される
砂利の生活路地は朝の雨で 湿ってじゅくじゅく鳴る
子は現在知能テストを受けている 妻はセンターの椅子で待っている
にわかに明るくなってきた 折り畳み傘をバトンみたく持っている
土留めの壁が切れると懐かしい 板塀が乾きかけている
朝顔のつるや葉がよく這っていた こんな塀の向こうにどんな家屋が
建ってるだろう 隙間から覗くと イネ科のような草がすっすっと茂っていた その向こうにマンションの 駐輪場が見えた
その時間は一日を振り返ると ほんの雨の切れ間
になっていただけだった