節で折る
ラジオの電池が少なくなっているのか 声のき
こえが悪くなっている ボリュームを上げても声
が弱くなっていって 最後には最大にしてもと
ころどころでしか声が聞こえない 声が止むと
プロコルハルムの青い影が流れてきた 緩く
裏返るように揺らぐハモンドオルガンのロング
トーンがかすかに聞こえている 釣りをしている
ときにラジオがないと精神がきつくなる どこか
後ろめたいのだろう 60になったらきっぱり勤
めをやめると言った嫌いな上司はきっと60で
仕事をやめなかったろうと思う しかしもう65
を過ぎたはずなのであの職場にはいないだろう
そんなことを考えて何も快くないのに浮子を見て
いると苦い気分がゆらゆら浮かぶ
都県境の橋をちょうど青信号で渡れて 自転車
スロープに入ってからは 本当は降りて下らな
ければいけないのだけれどそのままブレーキで
下っていく 帰りは降りて押して登るのかと思え
ばそのままたち漕ぎでのぼってしまう すると歩行
者信号が見えて青ならば最後の漕ぎを強めて
上がり切る 昨日は帰りの橋の上からスカイ
ツリーが水鏡に逆さスカイツリーになっていたの
を写真に撮ったら先端の棒しか写ってなかった
あの棒の上に人は何人立てるのだろう
自転車スロープは車道の下にもぐっていって
出たところにちょうどラブホテル ラヴホテル
羅武火照留がたっている まず料金が目につく
手前が道路で車どおりが時折あるので一旦
ラブホ手前で停止する そのまま直進したとす
れば車両入り口になっているようだ こんな昼
間から ラブホって結構混んでるのね と恐らく
書かれたものをここ数日の間に読んでいたの
だが 誰かのエッセイか それとも漫画か また
は現代詩手帖の2022作品名鑑のなかの誰
かの詩か 何で読んだのかわからなくなってい
たが 書いているうちに多分漫画だと思いだし
た 快楽が満たされていない主婦が金銭で性的
マッサージを受けるという漫画だったと思う 満
たされていないのは性欲ではなくて実は精神
なのだというような内容だったかと思うがああ
そうなんですねと読み終わって冷めた 還暦も
近いから無垢ではないが 何があのホテルで
この白昼 行われているのか漫画的にしか想像
がつかない 何時通ってもあの場所のまわりに
は現実感がない
まだあの花咲いている 長い信号を待つのが
いやでいつも手前で折れていくが 椿かと思って
いたら山茶花かもしれない というよりたぶんそ
うだ 椿は花がそのまま落ちる 開き切ったま
まいつまでも咲いているから花がしなびてそれ
でも次々咲いている つつじとさつき あやめと
かきつばたのように椿に似ているのはさざんか
だったのか 椿に似た花といえば何か別の
花があったような気がしているが それが何だか
思い出せない 進化論的に言えば似たような
別種の花というのは何らかの意味を持つのだ
ろうが いらない性欲のように無駄だから統一
してしまえばいいのにと山本ならいいそうだ
山本なんていない 別のものなのに匂いだけが
同じなものは人間だけかと思ったら違って
探せばいくらでも見つかるものだね 竹やぶに
入っていったら折れて枯れ色になった竹が枝葉
を立ててとげとげしていた 取って帰ろうとして
途中から折るのではなく 節で折るときれいに
折れる もう竿用の竹は取りつくしていた いよ
いよ矢竹でも買う羽目になるかと思っていたから
心が躍った 矢竹は笹竹のなかまで笹竹なら
都県境を県に渡ったところに密集して生えてい
たが 茎が柔らかくて使い物にならなかった
汚れていたが足元ストーブであぶって油を浮か
せて 矯めながら布拭きすればいいだろうと
思った いらなくなったマスクがふきとるのに
適していると思った