今日は人とよく喋る日
水面からごぼっこぼっと水が盛り上がっている
親子連れがそれを見ていて 近くにいた私と
目が合った あれ 何でしょうね 初めて見た
と言葉を交わし合って そのまましばらく話を
した 小さい子供の栗色が混ざったきれいな
幼児特有の色艶と希薄さで髪を振ってもすぐに
元通りに整う かわいらしい顔で男の子か女の
子か 声を聞いてもわからない おじさん という
のに もうお爺さんだよ と返すのは実は見た目
に 実年齢よりも確実に若く見られることに自信
を持っていたのでわざとで お母さんは おじさん
じゃないでしょというのをいや もう年なんですよ
子供も大学生だし などと妙にくすぐったいよう
な気持ちで答えて しかし 若く見られたからと
言ってそれが何故優れていることのように思え
るのかよく考えれば不思議だ 成れてないという
事じゃないかなどと思い返しつつ
お母さんには顔を見て喋っていたので気が付か
かったが 二人目のお子さんがお腹にいて ど
うもおんなのこらしいんですよ と嬉しそうに言う
のを 一太郎ニ姫だ といった意味が分からな
かったらしい返しをしてとりなすようにうちと同じ
だ などととってつける どうですか 上が男で
下が女なのは わたしは下に弟だったからど
うなのかよくわからなくて と私も上が姉なので
と付け加えつつも 多分 妹をかわいがると思
いますよと うちは 結構 あにいもうとが距離を
とっている感じで と詳しい事情は話さずにさら
りと私事に触れ それにしてもお世辞抜きで愛
らしい子で笑ったり膝に乗ってこようとしたりや
んちゃざかりなのか お子さん 多分イケメンに
育ちますよ というと嬉しそうにそうだったらい
いんですけど とふっと女を発する顔になる
しかしこうしたその場限りの会話も楽しいけれど
長引くと飽きる 絶対にないと思いつつまたお会
いしたらお話しできるといいですね という社交
辞令に微笑んで やはりまだ 水場には本格的
に魚が戻っていない 都県道なのか埼玉から
来る道沿いの 道脇に首を細長く揺らして咲い
ていた月見草は下草とともに軒並み刈られて
いて わずかに刈りのこしの二三輪が総攻撃の
後に生き残り それと同じような淡い桃色の花
は昼顔なのか それとも昼咲朝顔なのか その
ようなものがあるのか ここ十年ぐらいで見る
ようになった萎まないラッパ形のはなが公園
のフェンスの三度のあちこちに散って 矢竹の
あたらしい突きたてがフェンスなど関係なく道の
脇に青く何本かますぐなる
その後に手網を持った子供たちに囲まれて そ
のうちの一人の子供は 家で鉄を叩いて 護身用
のナイフを持っている 何かされたらやっつけて
やる などと物騒なことを言うので おじさんは
刺さないでくろ などととがめるでもなくやり過ご
し いつも人でいっぱいの奥の池には何故か
全く人気が無くて ここでは暗黙の禁じ手てで
ある魚籠を素早く水中に沈め 長短交互の竿
づかいで雑魚釣りに入ると やはりここの魚は
擦れている 当たれどもかからず 魚籠は上げ
た時の方が手間取るのを 見れば黄緑に青め
いた五センチほどの玉虫のようなきれいな雄
のタナゴ それからテナガエビが一尾 奇跡だ
などと小喜びしてさっと網籠をしまうとその後は
長いこと釣れない釣りに入って 後から来た釣り
人とまた言葉を交わしている 初老と思われる
釣り人の そのまた年上の彼が若いころすでに
老人だった釣りの師匠の話などを聞きながら
という事はその師匠はもうとっくにこの世には
いないのだろうなどと思いながら今日は人と
よく喋る日だ と内心につぶやいている