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小説『MANATAMA-マナタマ 動物界編-』第1話 邂逅
吾輩は猫である。名前は海だ。
なんかじぃちゃんの読んでた本に、こんな事書いてあったから言ってみたが、実は今、それどころじゃない。
眼前に迫り来る巨大な火の玉。灼熱の炎の中に時折「オオオオ〜」とか言って、ムンクの叫びみたいな正体不明の幽霊みたいなヤツが現れては炎の中に溶け込んでいく。うわぁ、キモっ!
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なんでこうなった!?どうして俺は今巨大な火の玉に飲まれようとしてんだ?空は清々しく快晴だ。え〜と、今日は何曜日だっけ!?
パニくって思考がおかしくなってる!さっき出会ったばかりのスサノオとかいう猫耳とシッポ生やした猫人間に片手で抱っこされてんだが、場所が場所だよ。ここ、遥か上空飛んでんだぜ?信じらんねーだろ?絶賛落下中だ。
あ、ちなみにこの人神様らしいぜ。なんで猫の姿をしてんのかは、俺が猫だからとか言ってた。5次元だの、9次元だの言ってたが、なんのこっちゃ、だ。
こうしている間にも、キモ火の玉は今にも俺を抱っこしているスサノオ諸共飲み込もうとしている。
あぁ〜…俺の人生…ニャン生か?儚くも短かったな。元はといえば、あのバカップルに捨てられたのが運の尽きだ。
あぁ、そうだ、俺はただの捨て猫だったっけ…。
まぁ、炎に飲まれる前に、最後にここまでの俺の儚いニャン生物語に付き合ってくれよ。
約半年前の話だ。俺は島根県の片田舎にある村の外れで生まれた。とうちゃん、かあちゃん、3匹の兄弟と一緒に、極貧ながらも幸せな生活を送っていた。日にコオロギ、バッタ、カエルが食事の基本で、ご馳走のスズメやネズミが獲れた日には盛大にパーティーさ。
そんな苦しくも楽しい平穏な日常は、ある日突然終わっちまった。
保護猫団体とかいう人間たちに、俺たちはすっかり騙されて捕獲されてしまった。だってしょうがないだろ?今まで食った事もない超絶美味いメシを目の前にチラつかされては、無知でいたいけな子猫ちゃんの俺たちに抗う術はない。あ、真っ先に食いついて先に捕獲されちまったのは、とうちゃんかあちゃんだけどな。子供たち差し置いていい大人が何やってんだ。
ほどなく俺たち4兄弟も、鉄の檻に仕掛けられたご馳走に騙されてまんまと捕獲され、人間の家に連れて行かれた。「まずは健康診断」とかいって、針をブッ刺されたり、目ん玉ひん剥かれて光を照らされたりしたっけ。一体何がしたいんだ人間は。嗅いだことない臭い匂いの漂う部屋で身体中調べられて、憔悴し切った俺たちに告げられたのは、「うん、皆んなオッケーだね!譲渡会に出せるよ!」だった。いやいや、俺たちのニャン権はどこ行ったって話だ。
こうして俺たちはドナドナよろしくニャン身売買の対象となり、村役場ってとこで野菜と一緒に陳列されて、順番に人間に貰われて行った。あ、俺が1番最後まで売れ残っちまったのは内緒の話さ。いや、大根一本くらいは残っていたかも。
愛想の良い兄弟たちと今生の別れを惜しむ間もなく、暴れん坊で天邪鬼な俺は待ったさ。メシくれる新しい人間を。言っておくが、人間に拾われたのは必ずしも悪くはなかった。だって、コウロギやバッタより遥かに美味いご馳走が、毎日自動で目の前に用意されんだぜ?カエルやスズメにコケにされる心配も無くなり、おもちゃが用意された部屋で悠々自適の引きこもり生活さ。まぁ、惜しむらくは外で目一杯遊ぶ自由を失った事くらいかな?とうちゃん、かあちゃん、兄弟たちが上手いメシ食える家で幸せになることを祈るよ。
新たなメシ場に淡い期待を寄せる俺を引き取りに来たのは、キンキンの頭をした金髪のねーちゃんだった。保護してくれたおっちゃんの話もろくに分かってないようで一抹の不安を覚えたが、兎も角も俺はねーちゃんに引き取られて行った…はずだった。
ねーちゃんは一人暮らしで農協に勤めてるとか言ってて、俺たちを保護したおっちゃんの家よりだいぶ狭く、メシのグレードも下がり、おもちゃの種類も激減しちまった。まぁ、メシが食えるなら文句はいわねぇ…つもりだったが、ねーちゃんの家での生活は、一ヵ月も無かったと思う。
何でかって?隠す意味もねーから言っちまうが、ようは捨てられたんだよ。俺。捨て猫になっちまったのさ。
衝撃だろ?「新しく出来た東京の彼氏のとこに連れて行けないんだぁ、ごめんね!」とか言って、Amuzonとか書かれた段ボールの山から無造作に一個取って、「拾ってください」ってテキトーに書くんだぜ?それを観た瞬間、俺のニャン生はネズミを追って洞穴に落ちた時みたいにお先真っ暗になったね。だってそうだろ?とうちゃん、かあちゃん、兄弟たちと引き離された次の瞬間に、まるで毎週ゴミ捨て場に捨てる生ゴミのように、躊躇いなく捨てるんだぜ?こんな可愛い純真無垢な子猫ちゃんを!
たいしてイケメンでもない彼氏と嬉しそうにビデオ通話するねーちゃんに対して、抗議のシュプレヒコールを上げたところで虚しく、ねーちゃんは逃げ惑う哀れな俺を無造作に引っ掴んでAmuzonの段ボール箱に放り込み、あっさりと最寄りのバス停に捨てちまった。ニャン権侵害はんた〜〜〜い!!
はぁ!?嘘だろ?こんな可愛い子猫ちゃんを、長年連れ添ったぬいぐるみよりも躊躇いなくポイ捨て出来るか?普通。
もう、俺は呆れると同時に悟っちまったね。人間は断じて信用ならない、と。自分の都合が悪くなれば、命よりも簡単に都合を優先しちまうわけだ。ディナーの猫鍋にされなかっただけマシかも知れない。か弱い子猫がひとりで生きて行けるわけもなく、このままAmuzonの段ボール箱の中でひとり寂しく儚いニャン生に終わりを告げるくらいなら、村役場を探す旅に出ようかとも思ったが、突然希望を失った俺は馬鹿馬鹿しくなり、無性に眠くなって寝ることにした。まぁ、夜更かしして暴れ回ったんで寝不足もあったんだよな。あ、もしかしてねーちゃんはそんな俺に愛想尽かしたのか?
とまぁ、そんなこんな、すったもんだがあって、新居はAmuzonの段ボールハウス、最高だろ?はぁ、馬鹿らし。じゃ、おやすみ…。
どれくらい寝ただろうか?3年くらい?んなわけねぇよな。奇跡的にウサギを捕まえた夢を見て気持ちよく寝ていた俺を起こしやがったのは、しわがれたじじいの声だった。俺のウサギを返せ。
「はぁ、捨て猫か。酷いことをするもんだ」
じじいはそう言ってバス停前に置かれたAmuzonの段ボール箱を覗き込むと、寝ぼけまなこの俺の脇に手を入れた。
「雨も降ってきたし、こんなところで寝てると風邪ひくぞ」
優しく俺を抱え上げたじじいは、鼻先で困ったような微笑みを浮かべながら、独り言のように
「まったく何の因果か。神はこんな死にぞこないの酒好き愚僧に、これから一体何を見せようというのか」
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と、言った。神も仏もねーから、俺はこんな辺鄙なバス停に孤独に打ち捨てられたんだけどな!捕獲されて家族と引き離されてはポイ捨てされる、最高だよ、ホント。
釈然としない様子の俺をよそに、じじいはお構いなくこう続けた。
「仕方ないな、これも何かの縁だ。入っていなさい」
お?新しいメシ場誕生か??いやいやいやいや!さっき、人間は断固信じねぇって誓ったばっかだろ!どうせこいつもすぐに飽きてポイ捨てするんだ!
それでも期待を隠せず内心そわそわしている俺を懐に入れたじじぃは、傘を差すとバス停以外に何もない田園風景の中を歩き始めた。
「おぉそうだ。お前の名前を決めようか」
じじぃは雨脚の強くなってきた雨に傘の角度を変えながら、閃いたように
「雨が降っているから雨吉…はは、それはあんまりか」
言っては苦笑いして、ひとりカラカラと笑っていた。うん、それはさすがの俺もお断りさせて貰うぞ。こう見えても意外と繊細なんだからな!
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ザァアアアアアアアアッ!
雨はさらに強くなってきて、俺の自慢の被毛がしっとりと艶を帯び始めた。田んぼからは蛙の鳴き声がゲロゲロと大合唱を始め、夏の到来を喜んでいるかのようだ。
ほどなくして、ひときわ古い木造りの大きな門構えが見えてきた。部分的に腐食して欠け落ちている柱が頼りないが、年季が入っていても磨かれて手入れされていると分かる看板には「善龍寺」と書かれてある。どうやら、ここがじじぃの家らしい。
「そうだな…我が善龍寺が祀る海龍の加護を得られるように、海というのはどうだ?」
看板を見上げて立ち止まったじじぃは、顔をほころばせてそう言った。海か…。悪くないな。海ってもんがどういうものかは知らないが、俺はその名前の響きが何となく気に入ったから、ついつい大きな声で喜んでしまった。
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「ははは、そうかそうか、気に入ったか。じゃあ、今日からお前は海だ!」
じじぃは俺との意思疎通が出来たことが嬉しかったのか、俺の頭をポンポンと撫でると上機嫌で古びた門横の戸口を開けて入って行った。
あれ?もしかして、このじじぃいいヤツなんじゃないか?
俺の中で誓ったばかりの人間不信任決議をひっくり返し、新しく始まるであろうニャン生に期待を膨らませるのであった。
2話につづく
あとがき
漫画の2話を執筆しながら、ストーリーがどんどん膨れて行っているので、小説を並行してスタートさせようと思い書きました。
漫画を描くのは初めてで、右も左も分からない手探り状態のため、読み返してみてとても表現力が乏しいと感じています。
バトル漫画なのに一話の中にバトルが無いのは致命的で、読者を引き込むストーリーテリングが成立していません。
まぁやらないことには分からない、ってことで、突貫工事で始めていますので分かっていて書きましたが、やはり「何となく書きました感」が拭えない練習作ですね。
なので、連載が獲得できた暁には、小説を元に海視点で一話から描き直す予定でいます。
でも、拙いながらも今の一話も嫌いではないです笑
ぜひ、読んで応援いただければ幸いです🙇
2話はあと8ページ程度ですが、バトル演出に時間を取られて遅筆になっています。。。8月末頃投稿を予定しています。