₍₍⁽⁽𓆉₎₎⁾⁾ウオウオ
𓆉は亀である。名前は巨大な無に飲み込まれて消滅した。どこで生まれたか頓と検討がつかぬ。何でも薄暗いじめじめしたところでLes sentiments sont devenus impossiblesと鳴いていたことは記憶している。
という訳で𓆉は全体的にウオウオと贖罪の旅に出たのであった(生物は存在することが罪であると東方儚月抄の下巻に書いてました)
𓆉は人一倍正義感が強く、正義感を振りかざして自分の主張を押し通し自己陶酔に浸る人間を良しとしなかった。故に正義について深く悩むことが多かった。贖罪の旅の道中に答えを見つけられれば良いと感じた。
𓆉が全体的にウオウオと奮闘しながら巨頭村へ到達すると、突然漠然とした無理が精神に襲いかかってきたのでまだ日は中天を超えぬがこの村に宿ることにした。𓆉が巨頭温泉の門をくぐると、巨頭オであった。巨頭オが2+3i人(自然数でのみ表せる数量を虚数で表すというそういうの好きな人間が多用するアレ)いた。受付を済ませ、部屋に荷物を降ろすと、𓆉は早速温泉へ向かった。
温泉は最高である。溶けるからである。
日も沈み、食事(意味の天ぷら、だし巻き虚無、存在が曖昧な茶碗蒸し)を済ませた𓆉は、退屈しのぎにロビーへと出た。ロビーにはツイッターがいたので話しかけてみた
「飢餓はあなたを見ていますか」
「見ない」
「はい」
会話を終えると、𓆉は部屋に戻って布団に潜り込み、寝た。寝るのは最高である。そして全宇宙が曖昧になるのを感じながらぼんやりと溶けていると朝日が昇った。𓆉は身支度を済ませ村を出た。
𓆉は哲学の山を歩いていた。哲学の山の木は全て岩波出版である。根元に「真理は万人によって求められることを自ら欲し~」という文言がクソ小さい字で書かれており、幹にはデカデカと「カラマーゾフの兄弟」だの「論理哲学論考」だの「空間と自由」だのとタイトルが彫られ、葉にはびっしりと文章がある。𓆉はその内の一つに近づいて見た。幹には「宇宙の半分を食べた男」とある。葉の一枚を見る。
宇宙は半分食われてしまった。宇宙は半分しかない。しかし宇宙は常に増大する。食われて無くなった部分も無くなってしまった。やがて無くなったということすら無くなった。うううううううう、いいいいいいいいいいいいい、い。
𓆉は山を降りた。何やら雲行きが怪しくなってきた。大雨前のどんよりとした匂いを嗅ぎながら、𓆉はこの世の終わりのような空の色を、かなり曖昧だと思った。