グローバルサプライチェーンの全体像とその重要性
IaaS・SISaaS・PaaS・SaaSを含む世界のパブリッククラウドサービス市場は、年々成長を遂げており、2020年は前年比24.1%増の3120億ドル(約34兆円)規模までに成長したことが、IDC(Worldwide Semiannual Public Cloud Services Tracker)によって報告されています。
*参考資料:https://www.imagazine.co.jp/idc20210513/
クラウド市場の拡大と共に、あらゆる業界・分野でサービスの開発と提供が進んでいる昨今ですが、私たちZenportが属するSaaS型SCM(サプライチェーンマネジメント)の分野も、同様の盛り上がりを見せています。
例えば、資産やリアルタイムの情報を追う追跡サービス、購買や調達の支援を行う購買&調達サービス、輸送プロセス代行を行うデジタルフォワーダー、燃料コスト削減や人手不足の解消に貢献する陸上自動運転や電気自動車サービス、全体の基幹統合を行うERPなど、そのサービスは各業務領域に沿って多岐に渡ります。
なぜ今サプライチェーンにテクノロジーが使用されているのか。そして、上記のような各サービスはどのような課題を解決しているのか。
盛り上がりを見せる今、それらを理解するために、まずはグローバルサプライチェーンの全体像とその重要性について知る必要があります。
なお今回の記事では、国境を越えるサプライチェーン(以後、グローバルサプライチェーンとする)を対象とします。というのは、人類有史以来の長い歴史を持つグローバルサプライチェーンは、1980年代以降のグローバリゼーションの時代を経て、今や新たな進化が求められる時代に入っているためです。世界の貿易額(輸出額)はGDPの約2割を占め、グローバルな取引を支えるグローバルサプライチェーンは世界各国にとって非常に大きな存在であると同時に、昨今の新型コロナウイルスによる各種の混乱、常態化した異常気象は、グローバルサプライチェーンに更なる進化が必要であることを突きつけています。
それでは、「グローバルサプライチェーンの全体像とその重要性」について、詳しく議論して行きましょう。
グローバルサプライチェーンの全体像
グローバルサプライチェーンとは、国境を越えて「商品が注文・生産され、手元に届くまでの一連のプロセス」のことです。
その中を見ると、以下のような「発注➡︎生産➡︎物流➡︎在庫➡︎販売」の業務プロセスと、そこに関連する金融機能があります。
多くの場合ではこれらのプロセスを各企業が分業しており、これらの企業間で複雑な連携が必要なことも特徴です。これらのプロセスを通じ、物理的に離れた場所で発注・生産・輸送などの各業務が行われ、商流・物流・金流・情報流などの複合的な活動が、国境や企業を超えて行われています。
例えば、皆さんが日頃使用している電化製品や衣類、食品など身近にあるほとんどの製品は、発注から販売まで共通した流れを経て、手元に届きます。
より具体的に言うと、電化製品などは、まず日本の企業から海外の生産拠点に発注され、次に、その生産拠点で製品が生産されます。その後、海運/空輸/陸送などの輸送手段を組み合わせ国内に届けられ、そして、その製品が倉庫での保管や店舗への配送を経て、あるいは、直接私たちの手元に届きます。
この一連のプロセスに関わる関係者には、輸入者・輸出者・通関業者・国内輸送者・フォワーダ・海運/航空会社・倉庫会社・輸入者などがあり、これらの複数のプレイヤーの間で、さまざまな種類のやり取りが行われます。例えば、契約などをはじめとした輸出者・輸入者間の商流、その契約を実現するための物流、また、その関係者間で起きる代金決済や投融資などの金流や、データのやり取りを行う情報流などです。
このように、グローバルサプライチェーンでは、国境や企業を超えて、商流・物流・金流・情報流などの複合的な活動が行われ、それを通じて、発注・生産・輸送などの各業務が進められています
重要性を増すグローバルサプライチェーン
そして今、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、グローバルサプライチェーンが抱える様々な課題が表面化しています。例えば、インドネシアでは今年度の6月後半からの感染拡大に伴い、同国内の日系製造業企業で従業員の多くが感染するなど、操業に大きな影響がでました。また、原材料を海外から調達していた一部の在インドネシア日系企業では、マレーシアから輸入していた原材料の入手が困難になり、調達先をタイに切り替えたことから「調達先変更に伴い、コストが16%増加した」という事例も存在します。
*参考資料:https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/08/d7fee71fc4403634.html
上記に限らず、東南アジアでの活動規制や工場稼働制限は、同地域の製造業の生産性を押し下げると共に、現在もサプライチェーン全体に混乱をもたらしています。例えば、特に大きな問題となっているのは、世界的な半導体不足の事例です。
中でも、特に大きな影響を受けているのが自動車産業です。自動車製造には、ワイヤーハーネス(車用組電線)とマイコン(車載半導体)という部品が使用され、日本企業は、ワイヤーハーネスの輸入の多くをベトナムに依存しています。同製品は、電線を束ねる工程で多くの人手を必要とするため、活動規制の影響を直接的に受けやすく、需給難が続いていました。一方、マイコンなどの半導体拠点はマレーシアに集中しており、同国での工場稼働停止が引き起こしたマイコンの供給不足が、日本を始めとした世界の自動車産業に大きなダメージを与えました。
*参考資料:https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=39569
また、半導体不足の問題は自動車産業に止まらず、PCメーカーやパートナー企業の製品生産をも困難にしています。例えば、2021年第3四半期の全体としてのPC市場は、成長を示していることが報告されていますが、アメリカ国内で見てみると、同市場が前年比マイナス9%以上だとされています。これは、アジア地域での渡航規制やロックダウンによる半導体不足が、電源管理用チップやWiFiチップの供給不足を引き起こしており、アメリカのPCユーザーが新製品を新調するのが難しくなっているからです。
*参考資料:https://jp.techcrunch.com/2021/10/13/us-pc-market-decline/
その他にも、ワクチン接種拡大による先進国での経済再開とホリデーシーズンの重なりによって、ここ数年で大幅に減っていた輸送量が一気に動き出した結果、コンテナ船運賃の高騰やコンテナ不足の問題が発生したりもしています。
本来、サプライチェーンが抱えるこのような構造的な課題は、世界的な新型コロナウイルスの流行に関係なく潜在的かつ普遍的なものでした。しかし、先述した様々な事例のように、世界中のどこかで起きてる事象が他の国・地域・経済に影響を与えることを、より身近な課題として実感できるようになってきたのではないでしょうか。
サプライチェーンは繋がっていて、私たちの生活に影響を及ぼしています。そして、サプライチェーンが抱えるこのような問題は、構造的な部分から改善しない限り、繰り返し起こりると言えます。
さいごに
今回の記事では、グローバルサプライチェーン全体像とその重要性について解説してきました。次回は、今回の続編として「グローバルサプライチェーンが抱える構造的な課題」について、解説してゆきます。