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シン・エヴァンゲリオン劇場版の話(ネタバレあり)

私はネタバレを気にしていない。


そうは言いつつも、今回ばかりは勝手が違っていた。決して「みた」以上のことを語ってはならない緊張感。固く閉ざしたつもりの口から、溢れた感情だけがこぼれてしまう様子が散見された。「よかった」と一言あるだけでネタバレになり得る状況下で、ひたすらに感情だけが流れてくる。それは一人一人が無事その日を迎え、確実に決着をつけられるように、という祈りの響きにも感じた。私はこの空気に素直に呑まれたほうがよい気がした。

シン・エヴァンゲリオン劇場版を観に行くまでの数日間、両手をぶらりと下げたままノーガードで普段通りツイッターなどを見ていたが、おそらくパンチは飛んでこないという確信に近い気持ちがあった。まあ、来たら来たでその時はその時、と楽しむ余裕もあったが、結局「One Last Kiss」を能動的に聴いたり歌詞を見ることもなんとなく避けながら、中央分離帯の真ん中で佇むような心境で週末まで過ごした。

そして、感激するほど被弾せずに迎えた嵐の土曜日。ついに観た。なるほど。これは「みた」以上のことが何も言えない。言わないとかネタバレどうこうではなく、この感じをすぐ言葉に起こせない。とりあえず「みた」と表明することで、こちら側の世界には辿り着きました、と示すことしかできない。ただ、これこそがシン・エヴァンゲリオン劇場版の核心なのだと観終わって程なく理解した。「みた」以上のことを知らずに観て本当によかったし、未見の他者が今後体験する「これ」を一切邪魔したくない。一人一人が向き合う物語になっていると確認した上で、私ももれなく祈る側にまわった。「みた」を超えるものを述べるには自己との対話を要する。


私がエヴァと初めて接触したのは二十代。新劇場版「破」が公開していたあたりのタイミングで、教養として知っておこうと遅まきながら追い始めた。当時の職場と家の間にあったゲオに日々立ち寄り、テレビシリーズ、旧劇場版、新劇場版、漫画版と辿り、リアルタイムは「Q」からだった。重要な作品であると頭ではわかったし面白いと思ったが、シンジに自分を重ねるほど若くもなければ元々そんな性分でもない私としては、エヴァが秘めた謎の多さやメタ的な描き方にむしろ興味を惹かれた。また何より、これはすでに「お祭り」だった。祭りは気になった瞬間に飛び込んでおいた方が絶対楽しい。

この祭りに10年以上身を置いてきたことで、私は長く続いてきた祭りがクライマックスを迎えた瞬間に立ち会うことができた。しかも見事としか言いようがないほど完璧なフィナーレで、過去作のグズグズに思えた展開たちも最後には徹底的に救い出し、これまでのエヴァにも大きな意味をもたせた。見覚えのあるシーンを無数になぞりながら、ちゃんと終わらせよう、全員を幸せにしようという意思が突き進んでいく終盤は本当に頼もしかった。

「祭りのあと」の世界にやってきた今となっては、過去の作品をこれまでと同じように観ることは完全に不可能となった。


私はエヴァをずっとゲンドウの話だと思っているので、初号機と13号機が次から次へと懐かしい場所で戦いながら動きがシンクロしていくあの様子が、この物語の主人公として二人はずっと一つだったんだという表現にも思えた。ゲンドウがシンジの呼びかけを通して自己と向き合い、かつてないほど生々しい吐露を見せたところで、本当にエヴァは終わるんだと実感した。みんな親戚付き合いなんて好きじゃないよ。

よくよく聞けば私よりもエヴァ暦が長く、そのわりには一緒に観に行くまで終始ドライな態度だった恋人が「わたしもお父さんと対話したほうがいいのかな」と、感想を述べ合う中でふいに言った。恋人の口からそのような言葉が出てくることに内心かなり意外に思い、シン・エヴァンゲリオン劇場版はこれまで抱えてきた呪いとの向き合い方を示唆するような作品なのかもと思った。


私はエヴァのことを「好き」だが「どっぷり」ではなく、それはやはりシンジを感情移入の対象として見ていないところが大きい。だからそうした視点を持ち得たままシン・エヴァンゲリオン劇場版まで辿り着いた人たちの感想を見ていると、何だかちょっと羨ましくなる。

少し落ち着いてから「One Last Kiss」をじっくり聴いていたら、むしろその後に流れる「Beautiful World」にあるとき全部もっていかれた。これって完全にゲンドウの歌なのでは。もう今ではそうとしか聴こえず、調べてみたら同じことを言っている人が結構前からたくさんいた。ただ、今回シンジは最終的に「シンジさん」になったが、ゲンドウは「ゲンドウくん」になった印象が強い。歌詞で描かれている少年性はシンジさんよりもゲンドウくんのほうがずっとしっくりくる。これまでエヴァを観てきて最も感情移入できたのは、最後の独白の中にいたゲンドウくんなのかもしれない。

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