ギターの破片とドクロの玄関マットの話

人が珍しいことをするとき「雪でも降るんじゃないか」と言う例えがあるけど、私がようやく実家を出て恋人と同棲を始めようとした日、史上最強クラスの超大型台風がやって来ました。雪の例えの、もっと激しいやつだ。

恋人の話」の最後に家を探してますと書いてから約1年、さすがに引っ越すぞと決めて動き始めたら一気呵成にトントンと決まり、退去日の兼ね合いなどから3週間後を引っ越し予定日に。

3連休の前半2日間を私と恋人それぞれの引っ越しに充てたところ、見事な台風直撃コースが確実となったのが予定日の数日前のこと。あらゆるところで「災害への備えを!」と喧伝される中、心をざわつかせつつも粛々と荷造りを進めるしかない状態はなかなか堪えるものがあった。


そして台風当日。引っ越し屋は普通に来るということで、日程変更も視野には入れていたものの全て予定通り実施。

結果、台風当日に引っ越しできた。

計画運休があってもたまたま災害にめちゃくちゃ強い路線で旧居→新居の移動が可能だったこと、台風が来る前までに全てが滞りなく完了したことなど、(台風直撃という不運が前提にあるものの)幸運もいくつか重なり、無事に私たちも引っ越し業者さんもガス屋さんも雨に打たれた以外は問題なく完遂。

というわけで、まずはめでたしめでたし。


で、一息つく間も無く私の片付けスイッチが猛然とONになり、エネルギーがゼロになるか片付けが完了するまで絶え間なく動き続けるターンに突入。とにかくダンボールを開けまくり収めまくる。恋人は私が持参したぬいぐるみたちをベッドに並べていつまでもくつろいでいる。

そしてすぐさま気付く、私が捨てもせず持ってきたガラクタの多さに。「これ本当にいる?」などと恋人に断捨離をゴリ押ししてきた立場が静かに形無しになっていくのを感じながら、さらに極めつけのアイテムが登場。こっそり仕舞うこともためらわれたため、恋人に「あの、こんなんあるんですけど…ハハ…」といって見せた。ギターの破片を。

このギターの破片は昔、神聖かまってちゃんのライブでフロントマンのの子が破壊したギターが客席に投げ入れられたものをキャッチして大事にとっておいたもの、なのだが、なんというか、私たちの新居においては完全なるゴミだ。なんでこんなものあるんだとあらためて感じた私と、へーといった冷ややかな態度の恋人。ほんと、欲しい人いたらあげます。まだ捨ててない。


話は少し遡るけど、恋人の旧居で一緒に荷造りをしていたとき、例の「ドクロの玄関マット」が焦点になった。というか私は半ば諦めていた、これを新居に持って行かざるを得ないことを。

色々あってほとんど何もない部屋に越してきた当時の恋人が「まずこの部屋に何か私らしいものを」と思って買ったのが、このキラキラしたラメが輝く白いドクロの玄関マットということを何度も聞いていた。つまりこれは恋人のアイデンティティ的な存在。

白い玄関マットはとにかくいつも汚れており、コロコロをかけるとワンストロークで粘着が終わるので一度に何枚も使って掃除をしていたし、そもそも旧居の玄関にサイズが全く合っておらず頻繁にドアと干渉していた。しかし、これを捨てるのは難しそうだという実感があった。

ところが、荷造りをしていた恋人の口から「捨てていいよー」のお言葉を突然いただいてしまったのだった。私は捨てていいよーのいいよーくらいの時点で玄関マットを丸めてテープで留めてゴミ袋に突っ込むまでを速やかに嬉々として行ってしまった。これを新居に持って行かなくて済む喜びにあふれてしまった。


といった経緯もある中での、ギターの破片。ドクロの玄関マットは捨ててきたのに、ギターの破片は大事に持ってきてしまった。私自身の脳が浴びせかけてくる「だったらお前ももっと捨てるものあるだろが」の音量が大きくなる。情や懐古をさばきながらシビアに断捨離をしなければいけない、それが人と一緒に住むことなんだと痛感した。まあ、まだ捨ててないんですけども。本当にギターの破片以外にも捨てるものありますマジで。

ちなみに肝心の同棲生活ですが、私が体力と引き換えに2日間くらいでほとんど片付けたこともあって、すでに良い感じ。もともと半同棲期間が長く、恋人宅の家事や片付けを私がやっていることが多かったので、それをそのまま継続してます。役割分担などもスムーズに移行できていると思う。

今は生活に必要なものをどしどし買い揃える行為が楽しくてたまらないこともあり、今度のカード請求のことを考えなければ順風満帆そのもの。これあると便利だよ〜と友人にブリタを勧められてその場で注文してしまうなど享楽的すぎる部分はあるかもしれない。宅配ロッカー付きマンションであることも拍車をかけている。宅配ロッカー最高。

私が15年以上ぶりに東京都民に返り咲けることを祝福しに台風がやってきた時は本当にどうなることかと思ったものの、かなり愉快にやれています。今は洗濯槽クリーナーをつけ置きしながらこれを書きました。

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