刀鬼、両断仕る　第一話【無粋】

　夜明けから間もなくの、曇天。
　山と山の狭間に開けた草原に、つんとした血の匂いが漂う。

「……あぁ、良いな」

　小さく、男が呟いた。
　返り血に全身を染めた男は、薄暗い空に己の得物を掲げる。
　白銀の刃は一点の汚れも無く、鞘から抜いたばかりかのように煌めいていた。
　けれど……そうでは無い。
「ぅ……ぁぁ……」
「さて、お前で最後だ」
　血濡れの男は、目前の武士へと声を掛けた。
　大鎧に身を包む彼は、青白い顔で震えながら、覚束ない手付きで弓に矢を番える。
「化け物、め……！」
　意地、であったのだろう。
　若しくは自棄であろうか。
　どちらにせよ、恐怖に折れる事なく、彼は男へと一矢を放つ。
「良き」
　男は頷いた。その心の在り様に感心したからである。
　だが、放たれた矢が男へと報いる事は無い。
「冥途の土産だ。あちらで喧伝せよ」
　男が、その矢をいとも容易く両断せしめたからだ。
　そのまま男は、びしゃりと血だまりを蹴り、一足に武士の懐へ辿り着く。

「我が名は柳義。刀が銘は『破門』。化け物に非ず、刀鬼が一角である」

　名乗り、伝え、斬り伏せる。
　頑強な鎧を紙のように断ち、男の刃は武士の肉体を両断した。
「……これで全てか」
　武士が臓物を散らし崩れると、柳義は周囲を見渡し、呟く。
　草原の骸は、これで四百。左右の骸はそれぞれ違う旗印を血に染めている。

　合戦が行われる……筈、だったのだ。
　刀鬼たる彼が、この場に現れなければ。

「……む」

　変わらず汚れの無い刀を、鞘に納めようとして。
　柳義はふと気付く。荒々しく猛る何者かの闘志を。

「刀鬼、と言ったな」
「……如何にも。貴殿は？」

　柳義が振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。
（背の得物は大太刀か？　『破門』を狙う剣客、或いは……）
　推察する間もなく、青年は地を蹴り得物を抜き放つ。
　瞬間、柳義は目を見開いた。
「なんだ、その鈍らは！？」
　黒く、重い、鉄の塊。
　およそ刀と呼べる代物ではないそれを振るい、青年はただ一言口にする。

「……『無粋』」

　それが、どちらの問いへの答えか……柳義には分からない。
　言葉への対応より先ず、彼の脳裏を支配したのは目前の鉄塊である。
　ぶぉん、と鈍い音を響かせながら横薙ぎに振られた鉄塊は、命中すればまず間違いなく柳義の骨を砕くであろう。
　ならば、受けるか。『破門』を鉄塊と己が身の狭間に置き、けれど柳義はその刹那、更に深い悪寒を全身に感じる。
「っ……！」
　本能的な恐怖、とも言うべきものだ。
　柳義はその直感に従い、たんっと血濡れの土を蹴り、鉄塊を受け流すべく右へと飛んだ。
　ガギンッ！　鉄塊を受けた『破門』は悲鳴染みた振動を柳義の掌へ伝え、その重量は柳義の身体を軽く数尺は吹き飛ばした。
「これは……」
　血脂で滑る足で、けれど流儀はすぐに体勢を取り戻す。
　ちらと手元の刃を見て、再び視線を上げたその時には、青年は既に鉄塊を手に自身への距離を詰めていた。
「ぬぅ……！」
　第二打が来る。恐らくはまた横薙ぎ。予測して、受けるのは容易いと考える柳義だが……それだけは避けねばならぬと、彼の直感が再び叫ぶ。
（無暗に受ければ……『破門』が砕ける！）
　柳義は刀で受けるのを止め、流す事すらせず、ただするりと青年との距離を更に詰める。
「……！」
　青年の目が、僅かに見開く。
　同時に柳義は、『破門』の切っ先で青年の腹を狙う。
　鉄塊の重量は確かに脅威だった。であればこそ、それを振るう青年の身動きは、当然の如く柳義のそれには適うまい。
　故に、決着。……するものだと、柳義は踏んでいたのだが。
「ああ、如何にもだな」
　呟き、青年は左の掌で『破門』の峰を叩く。
　ぐん、と刃の動きに釣られ、柳義の上体が崩れた。
　柳義の腹へ痛烈な痛みが走ったのは、次の一瞬である。膝蹴りを喰らったのだと気付いたのは、それより僅か後の事。
「がはっ……！？」
「その程度の手、何度も見た」
　侮蔑を含んだ声に、応ずる余裕は無かった。
　すぐに追撃が来る。柳義は左に跳び、深く息を吸いながら青年との距離を取る。
　骨は、折れていない。だが臓物を打たれた。熱に似た鈍い痛みを感じながら、僅か乱れた息を整えんと息を吐いた、刹那。
　ひゅんっ！　飛んできたそれに、柳義の呼吸はすぐ乱される。
　咄嗟に斬り払ったものが石礫である事は、感触で理解した。
　理解出来ないのは……その一瞬を利用し、再び距離を詰める目前の青年だ。

「貴様、一体何者か。その立ち振舞いは……！」
「名は名乗った。……振舞いなど、知らん」

　無粋、という言葉が彼自身を示す語だと、柳義はようやく気が付いた。
　薙がれる黒い一撃を、今度は後ろに避けつつ、彼は更に問う。
「力任せかと思えば、礫とは……卑怯な手を使ったものだな」
「卑怯？　鬼を討つのに、作法など必要ないだろう」
「如何にも我らは刀鬼である。人の道を降りた身だ、責める気などは毛頭無いが……」
　無粋の戦い方に、異議を唱えたいわけでは無かった。
　ただ、呑み込めなかった。無粋の手にした得物も、その力量も、柳義にある考えを浮かばせるのに十分なものだったからである。
「改めて問い直そう。貴殿はもしや、私と同じ……」
「それ以上口を開くな。問答をするつもりはない！」
　言いかけた瞬間、無粋は声を荒げ、ずざりと鉄塊で地面を薙ぐ。
　何をする気か、戸惑った柳義の顔に、赤黒く染まった砂が吹き上げられる。
　つまり、目潰しである。いよいよ以てこれは、普通の剣士の戦いではない。
「くっ……」
　口に入った苦い砂粒を吐きながら、咄嗟に柳義は後ろへ下がる。
（視界を奪って薙ぐか。だが距離さえ保てば……）
　背後に障害となるものは無い。その程度の空間把握力は、幾百幾千の骸を作る内、自然と備わっていた。否、そうでなければ刀鬼などと名乗るには値しないのだ。
　だから、問題は無い。……胸に重い衝撃を喰らうまで、柳義はそう考えていた。
「がっ……！？」
　突然、何か重いものに突き飛ばされるようにして柳義は吹き飛び、尻餅を突く。
「馬鹿な、一体……！？」
　滲む視界が開けた頃、柳義の目に映ったのは、地に転がる鉄塊を拾い上げる無粋の姿。
（投擲……！？）
　視界を奪い、すぐさま無粋が選択したのは、己が得物の投擲であったのだ。
　確かに、それであれば距離を取られても問題は無い。見えぬのだから避けようもない。
　だが、その戦いの様はあまりにも……刀というものを、軽視している。

「やはり……刀鬼ではない、か」

　僅かに失望の色を浮かばせながら、柳義は呟いた。
「尋常ならざる得物に、その実力。或いは私と同じ刀鬼か、と期待したのだが」
　言葉を発するたび、胸に痛みが走る。
　肋骨か、肺か。どちらにせよ呼吸に苦痛が伴う。
　不味いな、と柳義は内心冷や汗をかいた。息が乱れれば、剣技の冴えも鈍る。
　焦りを覚える柳義であったが、反面有利に立つ筈の無粋は、柳義の言葉に僅かに肩を震わせる。

「当然だろう」

　低い声で答えながら、無粋は柳義を見下ろした。
　静かな怒りと、蔑みの籠った瞳である。

「剣に溺れ、化け物に堕ちたお前たちなどと、一緒にするな」

　一語一語、刻むように投げかけられた言葉に、柳義は眉を寄せる。
　憤怒。憎悪。そういった感情を寄せられる事に、彼は慣れていたが。
「……成程、貴殿はそう言った手合いか」
　好機だ、と柳義は考える。ゆっくりと立ち上がり、静かに『破門』を構え直す。
「ならば敢えて言おう。人の道など、この刀と比べれば無価値なものだ」
「……ッッ！」
　挑発、である。青年の怒りを煽るための。
　けれど同時に、柳義の言葉は本心からのものであった。
「理解せよとは言わぬ。怒りを捨てよとも言わぬ。だがそれが事実だ」
　この光景を見よ、と柳義は顎で傍らの死肉を指す。
　口を開け、目を剥いて倒れる屍は、尋常ならざる数で辺りを血の海に変えている。
　つんとした鉄の香りには、既に鼻につく腐臭が混じり始めていた。
　それを生み出したのは……『破門』と呼ばれるただ一本の無垢の刃。

「斯様な力を前に、人などという矮小な存在に、どれほどの価値がある？」
「ふざけた事をッ！」

　ダンッ！　無粋は叫び、力強く一歩を踏み出す。
　両の手で握った鉄塊は、高く上段に掲げられている。
　振り下ろし。柳義の脳天を狙う一撃は、けれど軽く右足を引くだけで躱される。
「くっ……！」
「青いな。感情を御しきれていない」
　鋭く息を吐きながら、柳義は斜めに斬り上げる。
　仕留める事は出来なかった。寸での所で、無粋は上体を引き、両断を避けたのだ。
　けれどその切っ先から完全に逃れる事は出来なかった。胸元に赤く引かれた線から、一拍の後にどろりと鮮血が流れ落ちる。
　そのまま柳義は刀を翻し、真一文字に首を狙う。
　無粋はしかし、得物から手を放し、蹴りによって柳義の体勢を崩さんと狙った。
「甘い」
　無論、それをただ通す柳義ではない。刀を止め、肘で脚を迎え撃ち、同時に一歩距離を取る。至近距離での徒手空拳は、既に彼の骨身に染みた。容易く突破し得るものではない。
　反面、無粋は死こそ免れたものの、咄嗟の格闘が為に得物を取り落としている。
　ごとりと音を立てたそれを、柳義は強く踏みつけた。
「さて、これで終いか？」
「チィ……」
　舌打ちし、けれど無粋は距離を取らない。
　至近距離を維持したまま、ずざりと地を舐めるように足を回し、蹴りを撃つ。
　それは砂埃を巻き上げ、再びの目潰しを狙ったものだった。
「姑息な。だがそれも見た」
　目を細め、軽く顔を傾ける事で柳義は目潰しを避け、一歩下がって蹴りを避ける。
　このまま刃を振り下ろせば、無粋の肉体は左右に分かれる事だろう。が、無粋の狙いはもう一つあった。
　石礫の投擲である。砂に気をやった一瞬に、拾い上げた石をひゅんと投げる無粋。
『破門』の切れ味を前にしては、振るう必要すらなくそれは両断され、命中はしない。
「そのようなつまらぬ手で、『破門』に勝てるなどと思い上がるな」
　その場しのぎの戦術は、刀鬼を前に何度も通じるものではない。
　柳義は既に、無粋の戦い方に順応しつつあった。
　……心得違いがあったとするなら、ただ一つだろう。

「思い上がりはお前の方だ」

　柳義が無粋の戦いを学んでいたように。
　無粋もまた、柳義の……そして、多くの刀鬼達の戦いを、学んでいたのだ。
「っ……！？」
　無粋は、躱された蹴りの勢いのまま、大きく一歩を踏み込む。
　吐息の触れ合うような至近距離である。そこで無粋は、『破門』を握る柳義の腕を抑えた。
「刀に溺れ、その力を過信している」
「なっ……！？」
　接近を許した時点で、柳義は己の優位を失っていたのだ。
　刀を振るには近すぎ、加えて腕を抑えられていては柳義は無粋を攻撃できない。
　それを誘発したのは、砂埃から繋がるつまらぬ石礫である。
　振る必要すら無いものと、刃を一瞬その場に留めた。
　その隙さえあれば、無粋にとっては十二分の好機だったのだ。
　腕を抑えたまま、無粋は柳義の腹部に二度目の膝を撃ち込んだ。
　よろめいたその身体を、今度は踵で蹴り飛ばす。
　それによって抑えの外れた己が得物を、無粋はすかさず拾い上げると、同時に大きく踏み込みながら前へと突く。
　三撃目。今度は先刻の投擲と同じ個所に、鉄塊の先端が付きつけられる。
　即死はしない。無粋の得物に刃はないからだ。しかし皮膚を破るには十二分の衝撃と、投擲による負傷とが相まって、柳義はたまらず悲鳴を上げた。
「ぐぅ、う……！」
　無粋は得物の位置はそのままに、自身の身体を潜り込ませるように踏み込むと、上体の力を使って横に薙ぐ。
　柳義にとっては、見えている攻撃だった。
　だが、刀で受ける事は出来ない。『破門』の刀身に、それを受ける強靭さは無いからだ。
　結果、柳義はそれを左腕で受け止める。
　ごしゃり、と音がして、その身は大きく吹き飛ばされた。
　べしゃりとその身が倒れたのは、つい先ほど柳義が両断した死骸の上である。
　血と脂で滑るそこで、柳義はふらつきながら立ち上がる。
　元より返り血に塗れていた身体は、更に泥と脂で汚らわしく乱れていた。
　息は乱れ、骨を砕かれ、最早立っているのがやっとの有様である。
「……ふ、は」
　だが、その状況において、それでも。

「ふはははははははっ！」

　柳義は、笑った。
「……何が、おかしい」
　その様に、無粋は苛立ちを露わに問いかける。
　追い詰めた筈だ。既に生死の狭間に立っていると、理解させた筈だ。
　己は強いと奢り高ぶる怪物を、泥に塗れさせたのだ。
　だのに、何故。問われ、柳義は、楽し気に答える。

「私が、刀鬼だからだ」

　多くの者を斬り伏せてきた。侍も、剣豪も、軍勢も、それ以外の者も。
「私は、私が『破門』を手にしたのは……強く、なるため」
　その為に必要であれば、いくら手を血で穢そうと構わないと。
「人の道を捨て、化け物と罵られ、けれど、嗚呼、如何でも良いのだそんな事は！　私はただ、ただ、刀鬼でありたかった。強き者、人の域を超えた者……かつて見た刀鬼を超える、至高の剣士へと……！」
　だからこそ。
　柳義は敵を求め続けた。より強くなるため、より困難な敵を求め。
　多くの合戦を荒し、剣術道場を根絶やしにし。
「だがいくら戦っても、ただの人では刀鬼の命には届かない。或いは他の刀鬼でなければ話にならぬのかと絶望もしていたのだが……！」
　故に、無粋が刀鬼でないと分かった時には失望もしたが。
　結果として、彼は柳義が求めていた敵そのものだったのだ。　

「貴殿を斬れば、私は更なる高みへ辿り着く！」

　そう思えば、もう笑う他ないだろう。
　それほどまでに、柳義という男は……剣に、堕ちていた。

「……化け物だな、やはり」

　無粋はただそう言って、深く息を吐く。
　反吐が出る。剣の為などと言って、人の命を軽んじる柳義のような男が。
「どいつもこいつも同じだ。最後には自分の命さえ捨てにかかる」
「ほぅ。まぁそれも当然だろう。……どの道、それで死ぬなら、意味は無いのだ」

　優れた剣。優れた剣術。優れた剣士。
　全てを兼ね備え、その為に人の道から堕落した者。

「刀鬼とは須らく、そういう手合いなのだから」

　もういいだろう、と柳義は片手で『破門』を構える。
　理解し合えるなどとは、どちらも毛頭考えてはいなかった。
　ただそこには、互いを討つという意志と、その後の結果のみがある。

　最初に踏み出したのは、無粋だった。
　苛立ちと怒りはそのままに、強く地を震わすように踏み込んだ足。
　構えは大きく、広く、隙と引き換えに威力を高める。
　反面、柳義の踏み込みは穏やかなものだった。
　力が残っていない、というのもあるが、不要だと考えたのだ。
　相手は自ずからやって来る。こちらはそれを斬り伏せるだけ。
　刃が触れれば、『破門』は無粋の肉など空を切るように両断せしめるだろう。
　故に狙うは、先手。相手の一撃が放たれる僅か手前の、一瞬に――

「――だから、刀鬼は腹が立つ」

　ずざり、と無粋が足を止める。
　柳義へはまだ刀身の届かぬ位置。何故、と疑問を浮かべた柳義が、答えを目の当たりにするのはすぐだった。

「はぁッ！」

　無粋の得物が振り下ろされたのは、柳義ではなく『破門』そのもの。
　重みに耐えかね柳義の腕から弾けたそれは、勢いのまま地に倒れ……

　音を立て、真二つにへし折られた。

「……あぁ」

　柳義は小さく呻いて、膝から崩れ落ちる。
　それから血の滲んだ泥に手をついて、折れた『破門』の刀身を見遣った。
「お前の負けだ、刀鬼」
「その……ようだな」
　返答には、覇気がなく。それがまた、無粋の心をささくれ立たせる。
「お前の信じる力は砕けて折れた。もう二度と刀鬼は名乗れまい」
「あぁ……そうだな」
「死にたいなら殺してやる。死にたくなくとも、殺してやる」
「それも良い。それも良いが……」
　柳義はずりずりと身体を引きずって、折れた『破門』を手に取った。
　無垢だった白い刀身は、落ちたと共に赤い泥で汚れてしまっている。
　柳義はそれをしばらく眺めてから、小さく、頷いて。

　折れた刀身を、己の腹へと突き立てた。

「ぅ、ぐ……ははぁ、やはりこうなったか……」
「……っ、殺してやると言っただろ」
「悔しそうにするな、無粋とやら。お前は確かに、勝った……のだから……」
　額に脂汗を浮かべながら、柳義は舌打ちする無粋へと呼びかけた。
「何のためにかは、知らんが……復讐の一端は……遂げただろう」
「足りるか、この程度で。……全ての刀鬼が、俺の敵だ」
「そうか……なら、ひとつ……教えてやろう……」
　震える指で、柳義はある一点を指さした。
　北、である。私はそこへ向かっていたと、柳義が言う。
「そこには……天刃衆と呼ばれる刀鬼たちが……いる、らしい」
「……天刃衆？」
「詳しい事は、知らぬ……私はそこで、腕試しをするつもりだったが……」
　こうなってしまってはな、と柳義は笑った。
「そもそも器でなかった、と……いうところか……まぁ……」

　後悔は、していない。
　柳義は最期にそう言い残し、事切れる。

「………………」

　無粋はしばらくの間、眉根を寄せじっと柳義の亡骸を睨み。

「……ふざけるなよ」

　ただそれだけ呟いて、北へと足を踏み出した。

【続く】