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ピザカッターの右腕《VSおたま男》

【プロローグ】

「こんなもの!? ゲハハハ! 冗談はよせ!」

 俺の問い掛けに、おたま男は下卑た笑いをもって応えた。

「素晴らしい力、の間違いだろう!? この! 腕は!」
「バカな。調理器具だぞ? 不便だとは思わないのか」
「だと思うなら、このパワーはなんだ! お前の攻撃など、おれのおたまには通用しないのだ!」

 ……確かに、奴のおたまは強力であった。
 何度切りかかっても、湾曲したおたまの底面が俺のピザカッターを弾き、無力化する。

「力! 力! 力だ! 博士はおれに力を与え、救ってくださったのだ!!」

 だん! だん! だん!
 ヒステリックに叫びながら地面をたたくおたま男。
 その度に地面の土は震え、直径50センチはあろうかという巨大なくぼみを産み出す。
 圧倒的な質量と、それを振り回すだけの腕力。
 成程たしかに、はしゃぐだけのことはある。

「……では、博士の居場所を吐く気はないということだな」
「無論! おれは博士を救い主だと思っている! 裏切る真似はせん!」
「何が救いだ。客観的にモノを見ろ。出来ないと言うなら……」
「言うなら?」
「その不格好な右腕を切り離してやる」
「ほざけ!」

 逆上したおたま男が殴りかかって来る。
 直線的な動きだ。かわすのは容易い。
 少し身を反らすだけで、おたまは空振りしまた無様に地面を揺らす。
「おたまが救いになるわけだ。脳みその代わりに白味噌でも詰まっていたか?」
 鉄壁の防御を誇るおたまでも、地面にあればピザカッターを防げない。
「バカめ! お前こそおたまの使い方を知らんな!?」
「……っ!?」
 ざしゅんっ! なにかが抉れる音がして、俺は大きく体勢を崩した。
 なにが、いや、足元か!?

「おたまは掬うものだ! 文字通り、足元を掬ってやったぞ!!」

 ……誤用だ。
 だがこの場合に限りその表現は正しかった。
 おたま男は、俺の足元の地面をえぐり取ったのだ。

「おったまげたか!? これが、おれの、力だ!!」


【続く】

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