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リビングデッドの魂
鼓膜を突き破るような轟音で、弾丸は『能無し』の頭部を破壊した。
人形の様に倒れる男の体を見下ろして、十二歳の少年は深く息を吐く。
「残念でしたね、坊ちゃん。小遣いで何とか雇った護衛なんでしょうけど」
少年の目前には、鋼鉄の右腕に拳銃を握った大男が立っている。
機械の義手だった。最新鋭の機械腕は拳銃ともリンクしており、自動補正される銃口は、並みの人間とは比較にならない精度で対象を睨む。
先刻は役立たずの護衛の頭。そうして今は、少年の頭。逃げる術が無い事を悟りながら、少年は必死に思考を巡らせる。
「ボクの頭も吹っ飛ばすのか、『能無し』みたいに」
「『能無し』? そいつの名前ですか。いかにも役に立たなそうな」
「手持ちの現金じゃ、コイツしか雇えなかったんだよ」
カードが有効なままだったら、もっと良い護衛を付けられたろうか。
いいや、無理だ。どのみち現金でなければ追跡を免れなかったし、頭の良い傭兵なら警戒して依頼を受けなかっただろう。自分に雇えたのは、酒場の主人に『能無し』呼ばわりされていた男だけ。これが今の自分の、限界だ。
「そろそろ殺しますが……遺言とかあります?」
「父さんに伝えてくれるのか? ……どう罵倒すべきか迷うな」
少年の命を狙うのは、彼自身の父だった。長い睫毛を軽く伏せ、与えられた最期の時を引き延ばす。悪罵は湯水の様に湧いて来たが、どれも父の心に傷一つ付けられないだろう。だったら――
「地獄へ堕ちろ、だな」
「そのままお伝えします」
少年が呪いを吐き、二度目の銃声が路地裏に響いた、刹那。
くんっ。何かが少年の足を引き、姿勢を崩した彼の頭上を弾丸が掠める。
すかさず三度目の銃声が響き、大男のこめかみが血を噴いた。直撃……ではない。横に逸れ、肉をいくらか抉っただけだ。
「なんだ。脳みそ欲しかったのに」
呟かれた言葉に、少年は眼を剥いた。
頭部を壊され、即死した筈の『能無し』が。
脳も無いのに、立ち上がっている。
【続く】
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