会員企業NOW/株式会社江口組(一般社団法人石川県建設業協会会員)
土木の魅力を伝える
~SNSを駆使し、社員が活躍する江口組の土木広報!~
代表取締役社長 江口 充
広報活動を行う必要がなかった土木の世界
2000年代後半まで公共土木の仕事は、広報活動や宣伝活動をする必要がなかったと思う。なぜなら入札制度においては広報活動をしなくても工事を受注することができるからだ。これは様々な業種業界がある中で非常に珍しいことではないかと思う。一般的には広報活動、宣伝活動を通じて自社の消費品や取り組みを一般の方に知ってもらい、商品を買ってもらうことが当たり前だ。しかしこの入札制度の中で仕事をしていると広報活動の必要性は全くなかった。また公共工事は多くの制約があり、お堅い仕事だったからだ。その仕事内容をそのまま発信してしまうと、堅く敷居が高い内容になってしまうため、一般の人には受け入れてもらうことは難しい。だから公共工事中心の土木が広報を行うことは難しかったのかもしれない。
㈱江口組は石川県小松市に本社があり、2021年には創業100年を迎えた、公共土木を仕事としている会社である。弊社もこれまでは広報活動をする必要がなく、お付き合い程度に新聞に広告を掲載する程度だった。恐らく多くの公共土木を仕事としている建設会社は、広報活動についての考え方は弊社と同じなのではないかと思う。
土木広報を始めようと決心をした学生からの言葉
しかし今から10年ほど前に広報活動をしなくてはいけないなという危機感を持った出来事が起きた。それは採用活動をしている時のことだった。企業説明会に参加した学生たちからもらった質問に驚愕した。「土木って未来はあるのですか?」「親が土木だけは行くなって言っているのですが、やっぱりよくないですか?」学生たちの土木に対する印象ってこのようなものなのかと落胆したことを覚えている。さらに学生たちに詳しく尋ねるとその学生たちの親が「土木はイメージが悪いから他の仕事にしなさい。大変だから土木だけはやめておきなさい。」と言っていたということだった。学生ではなく、その保護者が土木に対して悪いイメージをもっているのだと知った。そして保護者のイメージは世間一般の方が持っている土木のイメージと一緒だということも実感した。
当時のマスコミの風潮は「建設業=悪」といった報道が多く、この報道を一般の方々は真に受けてしまい土木に対するイメージが悪くなっていた。しかし私はマスコミの影響だけではなく、これまで土木業界が広報活動をしてこなかったということも悪いイメージがついた一因なのではないかと考えた。つまり、この業界が広報活動をしてこなかったから、一般の方の多くが土木のこと、工事現場のことを知らないために、マスコミが土木は悪だという報道を聞くとそれを鵜呑みにしてしまい、「建設業=悪」の悪いイメージが染み付いた大きな原因になったのだと思う。
私は土木の仕事は人の役に立つ仕事、誇りに思える仕事だという想いを持っている。「みんなの役に立つ仕事がしたい、街の発展に貢献したい」とこの仕事を選んだ。それゆえ「土木に未来があるの?」という言葉は私に大きなショックを与えた。これでは土木の将来が危ういのではないかと思い、土木の素晴らしさを多くの人たちに伝えなければならないと決心した。
さて建設業界では、企業のイメージアップということで清掃活動などボランティア活動をする企業が多かった。清掃活動はもちろん自分たちが仕事をし、お世話になっている地域への恩返しの気持ちを込めて大事なことだと思うが、同じボランティア活動ばかりでは、大きなイメージアップに繋がることは難しく、インパクトを与える広報活動としては物足りないものだと思う。そこで江口組では、ここ数年SNS や動画を駆使し土木の魅力を発信し、多くの人とつながりを持つようになり、感謝や激励の言葉がたくさん届くようになった。このように嬉しい言葉をたくさん頂けるようになったのは、SNS を使い土木の魅力を伝える土木広報に力を入れたからだ。
エクスマに出合い「感謝と激励の言葉」を頂いた江口組の広報活動
SNSを使い土木の魅力を発信し始めたきっかけは「エクスペリエンスマーケティング」に出合ったからだ。エクスペリエンスマーケティングとは、マーケティングコンサルタントの藤村正宏先生(写真1)が考え出した「モノ」ではなく「体験」を売る視点のマーケティング手法のことであり、通称「エクスマ」と呼ばれている。(詳しくは藤村先生のブログをご覧頂きたい)このエクスマを学んだことから、弊社の広報活動が始まった。
藤村先生は「どんないい仕事、いい商品であっても、知ってもらえなければ存在しないのと一緒だ」と教えてくれた。土木は人の役に立つ素晴らしい仕事をしているのにもかかわらず、悪いイメージばかりが先行し、土木の必要性、大切さを知ってもらえていなかった。そして「公共工事は無駄」と言う風潮が広がり事業予算が減少した。また将来この業界で働きたいという若者が減少し担い手確保の課題が浮き彫りとなっていた。これでは土木の存在、そして未来が危ないと感じ、多くの人に土木の魅力を伝えなくてはいけないという使命感が芽生え、SNS と動画を駆使し土木広報に取り組むことにした。
㈱江口組ではFacebook、Twitter、Instagram、そしてブログを通じて発信を続けている。発信する内容は、地域の皆さんや就職活動をする大学生と高校生に向け、自分たちの行っている工事が何のために行われ、地域にどのように役立っているかということ。現場で働く社員の輝いている姿、そして作業中に垣間見える笑顔である(写真2 )。どのように3Kのイメージを払拭できるかと工夫し、楽しい雰囲気の発信を心がけた。
発信を続けていると、地域の見知らぬ人からコメントがくるようになった。これまで地域の方から届く声は「現場の音がうるさい」等というクレー
ムが多かったが、SNS に届く声は「工事現場のことを知ることができました!頑張ってください」「地域のために大切な仕事なのですね。有り難
う!」という激励や感謝の言葉だった。これまでこのような言葉を直接頂いたことがなかったので、とてもありがたくうれしい気持ちになった。そして激励や感謝の声と反比例し、現場へのクレームが少なくなったと思う。クレームが起きる原因は「現場のことを知らない」ことが原因だと思う。知らないから不信感がつのり、それがクレームとなってしまうのではないだろうか。だから現場のことを発信し、現場を知ってもらうことで、クレームが減ったのだと思う。
また、SNS の発信により多くの人から現場を見られる機会が増え、社員一人一人が「工事現場をキレイにしよう」「現場のイメージアップを心が
けよう」と工夫し、清掃活動に取り組み、お手製ののぼりや垂れ幕を設置したりし、工事現場の情報発信を社員みんなで取り組むようになった。
業界、社員から受け入れられなかった土木広報
しかし、SNS を始めた頃は、工事現場のことを発信することで同業の方からお叱りに近いコメントや不快なコメントをもらう時もあった。またSNS を始めた頃は、社員の同意も得られずに「専務(当時の役職)のやっていることは全く分からない」と賛同してくれる社員はほとんどいなかった。このような状況が続くと「土木広報としてSNS を発信することは正しいことなのか」と悩み止めてしまおうかと思うこともあった。しかし藤村先生に教えて頂いた言葉に「とにかくやってみよう!ダメなら変えればいい」「迷ったときは、どちらが楽しいかで選ぶ」など、この業界では考えられない非常識な教えを思い出した。これまで広報活動をしないことが常識だったことで、土木業界のイメージの悪さが定着してしまった。これを変えるためにはこれまでの業界の常識を大きく変え、非常識な考え方でもいいのではないかという想いが目覚めた。この想いをいだきSNS を続けていると、段々とSNS が楽しくなってきた。そしてコツコツと続けてきたことで、先に述べたような嬉しい効果が出てくるようになった。土木のイメージ、また土木の業界を変えるにはSNS しかないと、藤村先生の言葉を信じてやり続けた結果だと思う。
社員が大活躍する江口組の広報活動
最近ではYouTube やTikTok の動画での発信にも力を入れている。きっかけは2020年3月のことである。採用活動が始まった時に新型コロナウイルスの影響で、対面で行う会社説明会等が軒並み中止となってしまい「学生たちと会えないからどうしよう?」と悩み考えた結果「動画で会社のことを伝えよう!」という発想にたどり着き、生まれたのが、2020年デミーとマツさんの土木広報大賞で優秀賞を受賞したCHIKACO姉さんだ(写真3 )。
CHIKACO 姉さんは総務部で働く土木の経験ゼロの社員で、3人の息子を持つ母親でもある。このCHIKACO 姉さんが素人目線で土木のことを分かりやすく、楽しく発信することで、一般の方や学生たちに土木を身近に感じてもらえるのではないかと考えた。その結果、予想を超えたCHIKACO姉さんのファンができ、㈱江口組に入社する社員は必ず動画を見て入社を決めてくれる。またI ターンで神奈川県から入社を決めた社員もいた。CHIKACO 姉さんは採用活動をはじめ、土木の魅力を伝える広報姉さんとして活動の幅を広げている。
またCHIKACO 姉さんだけでなく、今では若手社員や女性社員たちがSNS や動画での発信に協力してくれている。個人でTwitterの発信を続ける社員や、ブログを書き続けている社員もいる。そしてYouTube(写真4 )に出演し、動画編集も頑張る社員もいる。
SNSを駆使し土木広報をやり始めた頃は私一人での広報活動であったが、今では一緒に土木広報を頑張ってくれる社員がおり、とても心強い。その中でも入社1年目、2年目の女性社員たちは若い感性で楽しく、面白く土木を発信してくれている。その社員たちが考え江口組オリジナルキャラクターたちが誕生した。このキャラクターたちが、工事現場の看板やバリケードに使われ工事現場の安全を守っている。またグッズやLINEスタンプ(写真5 )も完成し、多くの人に喜ばれるキャラクターに育っている。土木広報にはこのように若い力や女性の感性も大切なのだと思
う。
土木をする自分たちが土木を楽しむことが土木広報の第一歩!
これからの時代、ますます土木の広報活動は必須だと思う。業界のイメージアップのため、業界のことを知ってもらうため、土木で働きたいという若者を育てるためにも土木広報は大事になってくる。以前に比べてCMを流す会社やSNS を行う会社が増えてきた。業界全体が盛り上がってきた感じがあり嬉しく思う。お堅い土木でも工夫すると、カッコいい土木、可愛い土木、楽しい土木として発信することができ、継続することで土木の悪いイメージは必ず払拭されるはずだ。
そして多くの人が土木に興味を持つためには、見ている人が楽しい広報でないといけない。そのためには、発信する土木の私たちが楽しく広報活動を行うことが第一歩であり、何より楽しくないと広報活動は続かない。SNS はスマホ一つで発信ができるとても便利で誰にでもできる土木広報のツールである。SNS を駆使し、土木広報を楽しむためには、「仕事と思ってやらないこと!遊び感覚で発信すること!」と難しく考えずに、ゆるく発信することが秘訣である。
そして「土木はカッコいいね!」って沢山の人に言ってもらえるようになり、子供たちが憧れる職業となり「将来なりたい職業ランキング」でトップ10に「土木の仕事」が入ることを夢見ている。
これからも自分たちが土木を楽しみ、土木の魅力を伝えていきたい。
【全建ジャーナル2022.2月号掲載】