手塚治虫のサイコマンガ「MW」と「日本に本当にあった毒ガス流出事件」
今回は手塚治虫のサイコマンガ「MW」と
「日本に本当にあった毒ガス流出事件」をお届けします。
これは何のことかと言いますと
手塚治虫のエログロサイコサスペンスマンガ「MW」の中に出てくる
最恐毒ガス兵器のモデルとなったものが
1970年台の日本で存在し、その毒ガスが実際に流出したという事件が起きていたというものであります。
そんな都市伝説とも思える闇の事件を
手塚作品とともに切り込んでみたいと思いますので
ぜひ最後までお付き合いください。
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さぁ早速ではありますが
1969年に沖縄県米軍基地で神経性猛毒ガス兵器流出事件が
発生していたことはご存じでしょうか。
漏れた毒ガスとは「VXガス」であります。
ご存じですかVXガス?
触れただけで神経を破壊する人類が作った化学物質の中で
最も毒性の強い物質の一つといわれるあのVXガスです
オウム事件でも使用されましたし
金正男暗殺もVXガスと言われています
呼吸器からだけでなく、皮膚からも吸収されて毒性を発揮するため、
ガスマスクだけでは防護できない極めて危険な化学兵器。
それがですよ。
漏れたんです。
事の発端は1969年7月、沖縄本島の知花弾薬庫内にて
以前から周辺では皮膚の炎症や目の痛みを訴える人がいたんですが
米軍人ら24人が病院に収容されたことにより毒ガスの流出が発覚。
そして米軍がその毒ガス貯蔵を正式に認めた事件であります。
その量、致死性のものも含め、
なんと全部で約1万3000トン。
米軍は「安全だ」と強調したそうですが
「やかましわ」って感じです。
当然住民は不安と恐怖に怯えそして、怒りの声が広がっていき
各種団体の抗議声明が相次ぎ、
1971年ついに毒ガスの島外移送が行われることになるんですが…
実に事件発覚からなんと2年の月日が経って移送なんですね
そしてこの一連の移送作業のことを
通称「レッド・ハット・エリア」で起きたことことにより
「レッドハット作戦」と呼ばれることになります。
毒ガスを積んだトレーラーは2度に渡り、
延べ1300台以上のトレーラーで移送作業が行われ
近隣住民は避難し80校以上の小・中・高校は臨時休校するという大きな話題となりました
これがどのくらいのとんでもない事件だったのかといいますと…
この時の様子を米国情報自由法により
50年後の2019年に最高機密文書が公開されました
報告書によると
移送には
13種の神経性・びらん性ガス弾約29万発。
100キロのサリンを内蔵するMC1型爆弾が3千発以上、
4・5キロのVXガスをまき散らす地雷1万3千個の化学兵器も
含まれていたそうです
そして「欠陥品」に分類されていた約2万9千発のロケット弾には、
約8万5千キロのサリンとVXガスが搭載されていたようで
いかに危険極まりない凄まじい事件であったかが分かるかと思います。
これらの危険性については
毒ガス漏出で実際に被害にあった元米兵すらも証言しております。
この凄まじい実際の事件をモデルとして
手塚先生が描いたのが「MW」なのであります。
マンガの舞台は沖縄ではなく、
沖縄近くにある沖ノ真船島という架空の島になっており
本編では毒ガス兵器“MW”が流出して島民がほぼ全滅、
その生き残りの2人が主人公となっており
毒ガス兵器を貯蔵していた黒幕、政府に復讐をするという物語になっています
本編を読めば分かりますが物語の核心ともいえるこの設定のモデルが
「レッドハット作戦」であることは明白です
手塚先生はこの凄まじい事件でありながら
日本国民にあまり知られていない現状、
本土における沖縄の立ち位置、歴史認識の軽薄さなど
日本人が沖縄に目を向けるための問題提起のひとつとしてこの漫画を描いたのでは?と感じます。
事実、今日においても
沖縄基地問題然り沖縄の方々が犠牲になっている現状は以前から一向に変わっていません。
この「レッドハット作戦」も
当初日本政府はこの事件を「軍事機密」を理由に関与を避けていました。
見て見ぬふり、臭いものには蓋をするような風潮は以前も今も変わらず
非常にキナ臭い日本政治の闇を感じますね。
実は手塚先生はこういった社会問題を積極的に作品に描いている作家でもあります
「一輝まんだら」で近代日本最大のクーデター事件 2.26事件
「シュマリ」で民族差別、北方領土問題
「奇子」で戦後最大の未解決事件「下山事件」
そして「MW」では沖縄返還とこの「レッドハット事件」
いづれも近代日本の政治の闇をゴリゴリに鋭く切り込んでいます。
これらの出来事を語り継ぐ人がほとんどいない事を見透かしてるように
真相が風化しないように描いたのではないかと思えるくらい
自身の作品の中に歴史的事件を題材として織り込んでいます。
ここら辺はもう少し掘り下げて配信したいのですが
如何せん最近のyoutubeは規制が厳しくて思うように語れないんですよね。
特にこの辺りの政治絡みは非常にデリケートでして
以前にご紹介した「一輝まんだら」動画は広告規制、制限がかけられましたし(noteは大丈夫)
「奇子」動画は年齢制限が入ってます。
まぁ「奇子」はエロいだけなのかも知れませんけど
でもそんなエロくないんですけどね。
火の鳥望郷編の動画も規制かけられましたし
風刺漫画系も規制がかけられました(笑)
とにかく厳しくなってきたんですけど
そもそもこれ規制しちゃうと手塚治虫の黒い部分がご紹介できなくなるんですけど表現の可能な限り挑戦していきたいと思っております。
ちょっと話逸れましたが…
手塚先生が沖縄の基地問題などにかなり強い関心を寄せていたことが分かる
『琉球新報』のインタビューが残っておりそれには
「十年後の沖縄を考えると本当に、今のうちに何とかしなくちゃと思っています」(『琉球新報』1966年4月26日夕刊より)
と語っておられます。
沖縄って戦後の米国による
27年間にも及ぶ占領統治期間って本当に異常な状況下ですからね
法定通貨にしたって27年間に5~6回くらい変更していますから
完全に翻弄されている歴史があります。
戦禍に巻き込まれその後は強制基地建設やら法定通貨の変更やら
そして毒ガス事件で大国の思惑や国内の都合のいい政治情勢振り回されているのでこういうことは同じ日本人としてやはり最低限知っておくべき事だと思います。
この『MW』とか『イエロー・ダスト』という短編を読むと、
手塚先生がいかに沖縄の基地問題にかなり強い関心を寄せていたことが分かります。
そして似たような作品として
『ブラック・ジャック』第81話「宝島」でも同じような問題に触れております。
「宝島」ではブラックジャックが高額な報酬を請求する意味や
使い道など読者が気になる根幹となる情報が明らかになります。
ブラックジャックが悪人に襲われ
これまでに稼いだ財産が隠されている場所を教えろと脅され
その場所が沖縄のある小さな島ということになっています。
沖縄特有の形をした「亀甲墓」というお墓の中に財産が隠してあるという設定もMWの毒ガスの隠し場所に似ていますね。
ブラックジャックは実際には財産を隠しておらず、
かけがえのない自然に魅せられて島を買っていたということに
なっているんですけどこの辺りの環境破壊問題も連載当時のリアル社会情勢に大きく影響しています。
1970年台と言えば
大気汚染や水質汚濁、騒音、悪臭のように多くの公害対策に関する法律が
整備、対策が進められた時代です。
手塚先生にとって反戦テーマと共に
地球環境問題は生涯にわたるテーマのひとつでもありました。
戦争、沖縄、環境破壊と密接に絡み合ってくる問題を
作品の中に落とし込み様々な作品でアプローチされていますね。
特にこの「宝島」のラストは誰よりも命を大切にするブラックジャックの
セリフとは思えない驚愕の言葉はこれらのテーマを如実に物語っているのではないでしょうか。(黄色に塗りつぶしているセリフです)
(ぜひ本編でお確かめください)
ちょっと違和感を感じるほどのブラックジャックのエピソードの中でも異質なラスト
まさに戦争問題、環境破壊問題を踏みにじる人間は
「生きる価値などない」
という手塚治虫の痛烈なメッセージであると思います
というわけで今回は「MW」と「日本に本当にあった毒ガス流出事件」
お届けいたしました。
手塚作品をより深く楽しむために今回のような社会情勢であったり裏設定も
配信できればと思っておりますのでご意見ご感想お聞かせください。
それでは最後までご覧下さりありがとうございました。
次回お会いしましょう。