「ブラックジャック大全集」解説③ 幻の未収録作やレアシーン収録!
今回は「ブラックジャック大全集」解説の後半戦の後半戦をお届けいたします。結局なんだかんだで3本の記事になっちゃいました「ブラックジャック大全集」シリーズ、前回までの記事もぜひご覧になってみてください。
第6巻
この巻の面白いところは
講談社「漫画全集」の第1巻に収録されているエピソードが3話
そして2巻収録作が2話も掲載されているところが見どころです。
手塚先生にとって連載とは練習であり、単行本化が本当の作品と位置付けているのは有名なお話。しかも「ブラックジャック」においては「好きな順番で選んだ」とも語っているので「漫画全集」の1巻に選ばれると言うことは間違いなく先生のお気に入り作品であることが分かります。
第88話「報復」 第90話「シャチの詩」 第97話「幸運な男」が選ばれておりますがこれが先生にとってのお気に入りということです。
第90話「シャチの詩」については、なにかの雑誌では大好きというコメントを残しておられましたし本当に好きだったんだと思います。
ボクの個人的な事を言えばフェイバリットは第89話「おばあちゃん」。
これ最高!キングオブ再考!
まさに殿堂入り確定のブラックジャック屈指の名作。
こちらは別記事でもご紹介しておりますのでぜひご覧になってください。
第86話「絵が死んでいる!」なんかも「脳手術」というデリケートな話題に取り組んでおりながらも未収録になっていない稀有な作品です。
放射能に侵されながらも「核兵器の残酷さ」を訴える芸術家
そして残り僅かの寿命であっても「生きる」意味を問う患者
手塚先生の「脳外科」そして「戦争」「反戦」という「手塚らしさ」全開の屈指のエピソードになっております。
併せて別記事もありますのでどうぞ。
第7巻
こちらは巻末に第101話「侵略者(インベーダー)」の下書き原稿が掲載されております。
手塚先生の下書き原稿は非常に珍しく、その中でもここまでペンを入れておきながらなぜボツになったのか分からないくらい完成度の高い下書き原稿が掲載されております。
ほんとなぜここまで書いておきながら未掲載になったのか
本人のみぞ知ると言ったかなり貴重な資料となっておりますが
書き直しで有名な手塚治虫らしいといえばらしい原稿とも言えます。
本編ではさすがオリジナル原稿から直印刷と謳うだけあって
めちゃくちゃ美しい原稿が拝めます。非常にキレイです。
手塚治虫の流れるようなペンタッチ、ラインの強弱が浮き出て見えるくらい臨場感のある仕上がりはファンならぜひとも拝んでおきたい逸品です。
「全集」未収録は、第110話「デカの心臓」
こちらはその他でかなり単行本化されているので比較的読まれた方が多い作品と言えるでしょう。
なんで全集でカットされたのか…これはちょっと分かりません。
先生的にあまり好みのエピソードではなかったのでしょうか。
ちょっと謎です。
個人的にはめっちゃいい話で「カットする?」って感じですけどね。
あと第111話「タイムアウト」は「全集」では1巻収録作で、
まさにブラックジャックといった秀作。
子供の身体を切断して繋ぎ合わすというまさにマンガのような荒業ですけど
実際にあり得るような感覚になってしまうストーリー
お決まりの報酬も、「あの大手術の報酬がこれでいいの」…的な(笑)
ボクも大好きなブラックジャックの神業が炸裂する屈指のエピソードです。
第8巻
こちらは全集未収録がなんと3篇も入っている巻になっております。
第122話「三度目の正直」
第124話「きみのミスだ!」第128話「最後に残る者」の三篇が未収録。
第128話「最後に残る者」においてはチャンピオンコミックス以外ではほとんど掲載のない珍しいエピソードのひとつです。
内容は
六つ子が全員未熟児でそのうちの一人が超未熟児でしかもほぼ人間じゃないというストーリーなんですが
手塚先生は今回のような「これは人間なのか」「人間とはなにか」みたいなエピソードテーマは結構出てきます。
ドクターキリコを登場させ安楽死を引き合いに
人道的、倫理的、法律的な角度からこれらの問題に対して問いかけてきます。そしてブラックジャックの神業が新たなドラマを生むわけですが
特にこのエピソードに関しては人間の恐るべき生命の神秘と力強さを感じることができます。
改めてなぜこんないいエピソードが世に出ないのか。至極残念…。
やはり死体から移植手術を行う話、セリフや表現に問題があったと思われますがこれは出せないのか、出せないように配慮してるのか分かりませんが、うーん残念ですね。
その他は
第115話「不発弾」 第116話「ハッスル・ピノコ」 第118話「白い目」
など秀逸なエピソードもあり第100話を超えてなお面白くなるという、むしろよくぞここまで週刊連載でこのレベルの短編を継続できるのか不思議でなりません。ここまで質の高い短編を継続的に描き続けられるバイタリティ
ネタ切どころかよりキレ味が増してくるという無尽蔵のネタを持つ手塚治虫の恐ろしさ。
「ブラックジャック」の真の面白さたる所以をヒシヒシと感じることができるラインナップと言えます。
第9巻
こちらの「全集」未収録は
第139話「魔女裁判」 第144話「金!金!金!」です。
「魔女裁判」においてはチャンピオンコミックス以外での収録はありませんのでかなり貴重なエピソードのひとつと言えます。
これはいわゆる奇形児で公害病問題を題材としながらも、宗教問題までぶち込んだとんでもない作品です。
さすがに週刊短編でこのネタをまとめあげるのはちょっとあり得ないというか無理がありましたね(笑)
至難の業どころの騒ぎじゃない難易度のめちゃくちゃ高い代物ですけど
それでも手塚治虫はゴリゴリに描いてきます。
もうむちゃくちゃです
そしてエンディングを「ここで切るのか」と言える見事な構成力というか
剛腕でねじ込んでいますが、やはりさすがにこのページ数でこのボリュームのドラマを描くには消化不良な点もあります。
公害病、奇形児、宗教裁判、リンチ、偏見、差別とあぶないネタがてんこ盛り過ぎて内容もまとまりに欠けた感もありますし、題材としても突っ込まれる要素が多数あるので見送った方が賢明という判断になったのではと思われます。
とにかく何もかもが凄まじい貴重な未収録作のひとつです。
そして第144話「金!金!金!」
こちらは比較的他の単行本にも掲載されているエピソードなので見られた方も結構多いのではないでしょうか。
まさに「金、金、金、金、金、金、金、金、…」金にガメツイお医者さんが自分の娘が死にかけている時に
お金と権力と自分の娘の命のどれを選択するかって話なんですけど
非常にブラックジャックらしい気持ちのいいラストになっています。
何で「全集」ではカットされたんでしょうね。
ちょっと疑問です…。
手塚先生的には何かがお気に召さなかったんでしょうか。
さぁいよいよ最後のご紹介です
第10巻
こちらの「全集」未収録は
第154話「失われた青春」 第158話「不死鳥」の2編です。
第154話「失われた青春」は全集以外でもほぼ掲載されているので
呼んだことがある人も多いと思います。
ちょっと皮肉で手塚先生の大好きなSF要素を絡めた作品
ラストの展開にグイグイ引き込まれていくエピソードです。
そして第158話「不死鳥」
これは手塚治虫の代表作の「火の鳥」がゲスト出演しているエピソードなんですけどカットされているようにボクも個人的には無くてもいいかなという作品です(笑)手塚治虫のライフワークとも言える代表作。
日本漫画史でみてもトップクラスに君臨するあの名作が手塚スターシステムによって登場するエピソードでありますが、、、
残念ながらブラックジャックが特に活躍するわけでもありませんし
全体的に見てもそこまでレベルの高いものでもありません。
特に何か問題があってカットされたというものではないと思われますので
純粋に一定のレベルに達していないがためのカットかと…。
…あとこの巻の収録作全体観で見てみると「全集」の2巻、3巻、4巻掲載と比較的早い巻数の作品が多いことからこの時期のエピソードは
手塚先生もお気に入り作が多かったと推測できます。
第155話「コマドリと少年」ちなみにコレ、手塚先生が一番好きなブラックジャック作品だそうです。
なんせ生粋の「鳥好き」ですからね。
本人的にはベストな一本なんですって。
あと第161話「上と下」 第164話「勘当息子」あたりもいいですね。
第148話「落としもの」 第151話「ホスピタル」 第160話「白い正義」
第163話「本間血腫」あたりなんかも最高です。
150話を超えてもクオリティの衰えどころかさらに超えてくると言う末恐ろしさ。毎週短編でこのクオリティってヤバいでしょ。
いやいや、、、、本当に驚きです。
この辺りのスゴさがプロの作家や編集達が声を揃えて「とんでもない作品」と呼ぶ所以なのでしょう
プロから見る凄さ、プロだからこそ見える凄まじさ
これが「ブラックジャック」という作品が纏うオーラなのであります
素人から玄人まで唸らせる超一線級の漫画「ブラックジャック」
今回はその大全集のご紹介でありました。
何度読んでも楽しめる名作ですので
一度読んだことある方も今一度読んでみてください。
改めて今、この時代にこそ読んでみてください。
きっと新しい発見があろうことかと思います。
そして今年2023年はブラックジャック誕生50周年の年でもあります。
50年という月日の流れを感じながら名作に触れ
時代の移り変わりも感じ取ってみて欲しいと思います。
お近くの図書館にもほぼ確実に置いてありますので
ぜひ興味がありましたら図書館に足を運んでいただいて知性をゴリゴリに刺激してみてください。
■引用 / 参考文献
手塚治虫漫画全集「ブラックジャック」/講談社
「ブラックジャック大全集」/株式会社復刊ドットコム