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ムダにエロい!萌え狂った傑作!

今回は「エンゼルの丘」をお届けいたします

これは手塚治虫が描いた少女漫画でありますが
単なる少女漫画に留まらない
凄まじい作品だということをご存じでしょうか。

実は
日本漫画の女性キャラの立ち位置を決定づけた問題作であり
ムダなエロスをまき散らす萌え狂った傑作なのでもあります。

何を言っているのか訳わかんないと思いますが(笑)
この記事を最後まで見ればその意味が分かると思いますので
ぜひ最後までご覧になってください。

それでは本編いってみましょう。


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本作は1960年1月号~1961年12月号
少女雑誌「なかよし」に連載されました

手塚治虫の少女漫画と言えば「リボンの騎士」が有名ですが本作は手塚治虫の少女マンガの中でも二番目の長さを誇る隠れ長編作品であります。


あらすじは
人魚姫の冒険活劇で人魚姫のルーナと、
彼女にソックリな人間の少女アケミが入れ替わるという
主人公の替え玉的なキャラが登場し、ハラハラドキドキのお約束とも言えるストーリー。

「入れ替わり」って今でこそベタな設定でありますが
60年も前にこの設定は猛烈だったと思います。
そして苦難を乗り越える悲劇のヒロインという設定を巧みに織り交ぜながら展開していくストーリー運びはまさに一本の映画を見ているような、
さすが手塚治虫という物語が味わうことができます。

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冒頭の1ページ目がこれですからね。
めちゃくちゃ気になりますよね。
ヒロインが不幸からスタートするというのは
後の少女漫画のプラットフォームの鉄板を決定づけたといっても過言じゃないでしょう。

そしてなにより本作最大の特徴は
これに尽きるんじゃないでしょうか。

登場人物がやたらに「萌え」すぎるということです。

少女漫画でありながら
多くの男子諸君が得体のしれない興奮を経験させられた萌え狂った傑作だということです。

本作に限らず初期手塚の描く女性マンガには
得も知れぬ魔力が秘められていました。

特に1950年~1960年台の手塚治虫の少女漫画は秀逸です
「とんから谷物語」「虹のとりで」「ピンクの天使」
「白くじゃくの歌」「みどりの真珠」

などなど、数多くの少女漫画を発表し男の子でも普通に少女漫画を
読む習慣がありました。

というのも、そもそも少女漫画というカテゴリーや少女漫画家と呼ばれる作家自体も存在せず、男の子用、女の子用って特に区分されていなかったんですね。当時は手塚先生筆頭に石ノ森先生や藤子先生など一般の漫画家が普通に少女漫画を描いていましたし、手塚先生も当時の執筆の4割が少女漫画というくらい少女漫画の比率が高かかったんです

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あの「火の鳥」も元々は「少女クラブ」掲載で
少女漫画がスタートでしたからね。

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少女漫画の歴史、一般論を論じる上でも
これらの位置づけはかなり高いにも関わらず
この「エンゼルの丘」もそうですが
多くの手塚治虫の少女漫画があまり知られていません。

というのも
当時の少女漫画ってカラー原稿だったため、
そのほとんどが単行本化されておりません。
それは着色された原稿を単行本化する技術、
そして連載をすぐに単行本にするという習慣があまりなかったからなのです

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なので使われなかったカラー原稿は手塚先生曰くサイン替わりに上げていたそうで手元に残っている原稿もほとんどないんですって。

マジか!って感じですよね。

今ならとんでもない値がついていると思われますが
所詮、漫画なんて消耗品としか考えられていなかった時代ですから
著作権なんてのも緩いし管理も相当ずさんだったようで…
もしお手元にお持ちになっている方がおられましたら大切になさってくださいね。



そんな中においてこの「エンゼルの丘」がもたらした萌え狂い度でありますがこれがケタ外れの破壊力を持っていました。

元々手塚先生の持つ、あの丸っこい線のペンタッチに加え
手塚治虫独特の曲線美が、性別を超えたエロスを纏っているんですけど
そこに人魚なんていう両性具有的なエロティッシュさが混入されて
ムダにエロくなってしまったという問題作になりました。

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エロと一言で言っても現代のようなグロとか露骨、卑猥のようなものでなく
少年たちが異性を意識しだす健康的なエロスのことでありまして
事実多くの有名作家たちが手塚作品によって
性の目覚め、開花させられたというコメントが残っております。

永井豪先生「リボンの騎士」で興奮して
ガンダムの富野由悠季さんは「来るべき世界」で股間が熱くなったとか
今見るとどこにエロスを感じたのが分からないくらい不思議ですが(笑)
とにかく先人たちは猛烈にエロスを感じていたのは間違いありません

これ男子ならわかると思いますが
多感な男の子って
わずか数ミリの胸のふくらみに興奮する時代があるんですよね。
その微妙な空気抵抗のない線に当時の男の子はどこか気持ちよさを感じたものであります…。
しかもそれが「正しいと言われる漫画」からこのエロ光線が出ている訳ですから余計興奮しちゃうという…。

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ダイレクトな性描写でなくとも「性の目覚め」を感じさせる絵柄
第二次性徴の感性を擽る絶妙な曲線美
この説明できない美しさを手塚治虫はビンビンに放っていたんです。

もちろんその手塚タッチの根源はディズニーに憧れ、
ディズニーの影響下にあるわけですが
手塚作品のキュートな絵柄には、
ディズニーには無いお色気を含んでいるのが決定的な違いです
(一般的にディズニーはエロ禁止ですから)

手塚治虫が繰り出した独特の曲線美は
手塚治虫が持つ変態性と動物や昆虫のように動くものに生命観
神秘性を感じる感性を取り入れた雑多的なエロス

そんな属性の違うものが混ざり合って完成した
危険なフェチズムを醸し出した奇跡の曲線美。

おそらく本人はそこまで意識していなかったと思いますが
ムダなエロさを感じさせるタッチなんです(笑)

そこに多くの男子諸君が興奮したわけであります。

ここら辺の児童マンガの書き手として「お色気」を感じさせた手塚治虫の罪は非常に大きいですよね、
意図せず性的趣向が滲み出ちゃったのは「大罪」ですよ大罪…。

「萌えエロ」という日本独特のカルチャーの基盤的作風を作り上げた罪は
大罪級ですし、ロリコンブームを作ったと言われている吾妻ひでお先生は手塚先生が開眼させたわけですから、やはり手塚治虫は
「萌えエロ」の源流といっても異論はないと思われます。

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後に、これらに影響を受けて育った書き手たちの作品が
日本風のスタンダードになり日本の漫画カルチャー発展の歴史に
「お色気」「エロス」が欠かせない要素になっていったわけですからね。

その変態性を掘り起こした功罪は絶大なものがあります。


少なからずこれまでの日本アニメのヒット作の女性キャラには
ほぼほぼエロスを持ちあわせているものです。
「ヒロインが可愛くないマンガはヒットしない」とも言われ
「絵が上手いだけでもヒットしない」というのは
そこにエロティッシュな女性像と潜在的に密接な関係があるからです。

宮崎アニメには必ず可愛い女の子が出てきますし
現代的に言えば「エヴァンゲリオン」が良い例だと思います。

ヒロインがぶさいくだったら間違いなくヒットはしていないと思いますし
可愛いだけでなくどこかエロスを感じさせるフェティシズム要素を秘めているからこそヒットしたというのは、口にせずとも誰もが感じ取っている要素だと思います。
つまりエロスって極めて重要な要素なのは間違いありません。

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そしてその系譜の転換期がこの
「エンゼルの丘」なんじゃないかとボクは定義しているのであります。

この双子のキャラクターなんか
人魚で、ナースコスプレで、メガネっ娘ドジ娘ですからね
属性盛り盛りで萌え狂ってると思うんですけどどうでしょ?
不確定ですけど「メガネ美少女」の元祖とも言われていますしね。

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ボクはそこまで「萌え」系に詳しいわけじゃあありませんけど
現在の「萌えカルチャーの原点」なんじゃないかと思えるくらい
洗練されたデザインを
60年も前に描いているのは少なからず転換点であるとは思います。

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そのキュートなキャラクターに
手塚治虫お得意の揺れ動く精神の対比描写が絶妙に絡むことによって、
余計に愛おしさが増しちゃいます。
手塚作品のキャラクターってお花畑のお星さまキラキラ的な可愛いヒロインじゃなくてほぼその対局の暗さをはらんでいるのがまたいいんです

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リボンの騎士で男女の対極
ブラックジャックのピノコもそうだし
どろろも女の子でしたしね。

こうした抗えない運命を背負って揺れ動く相反する2つの心を
キャラクターたちが抱えているからこそ
読者の心をキュンキュンさせるんですよね。

本作の「エンゼルの丘」でもキュンキュンポイントが多数でてきます。
王女様が奴隷になったり一筋縄ではいかないドラマが胸を熱くさせます。
ぜひ読んでみて欲しい作品であります。

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そして本作も相変わらず改編、修正の手が入っております。
一番最初に単行本化されたのは鈴木出版から発行されたもので
ページ数の関係上一部カットされて単行本化されました。

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続いて
二度目の単行本化の際にに手塚先生は連載時の掲載をしようと思ったのですが読者が初版のイメージを強くもっているということで
連載時に戻すことができなかったそうです。

そしてこの全集版でありますが
晴れてわりと連載時に近い形での掲載がされております。

コマ割り、ペンタッチ、ペンの筆圧など
初期のものと修正されたものが明らかに違うのでちょっと面白いです。
ぜひその違いを見てみて欲しいと思います。

そしてなによりこの萌え狂ったデザインですよね。
現代萌えの先駆的デザインを堪能して頂きたいと思います。


というわけで今回は「エンゼルの丘」お届けいたしました。
如何でしたでしょうか。
物語は今読むと古臭さを感じてしまいますが
キャラクターデザインとその動きには普遍的な美しさがあります。
現代漫画発展の歴史を紐解く上でも一度ご覧になっていただければと思います。

最後までご覧くださりありがとうございます。



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