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「アドルフに告ぐ」復刻版はなぜ発売されたのか?

今回は「アドルフに告ぐ」復刻版をご紹介いたします。
手塚治虫没後早30年以上経ちますが今でも手塚マンガの復刻版が毎年のように刊行されております。
復刻版はもはやファンにとっておなじみの光景でありますが
「アドルフに告ぐ」にはこれまでの復刻版とは異なるところがあるのです。

今回はその秘密に迫っていきますのでぜひ最後までお付き合いください。

アドルフに告ぐ復刻版

今回ご紹介する内容は手塚治虫公式サイトを参考にしております。
さて早速ですが「アドルフに告ぐ」はかつて"復刻する意味がない作品と言われていたのはご存じでしょうか。

「アドルフに告ぐ」は手塚先生にとっても特に愛着が強い作品のひとつで
そのため単行本化の際には全編にわたってセリフの変更やコマの入れ替えなどが行われています。
とくにラストは単行本化の際に20ページ分の描き足しがあり、
読み終えた後の印象がまるで異なります。

にも拘わらず「復刻する意味がない」というのは一体どういうことなのでしょうか。

これまで全ての手塚マンガの復刻に関わっておられた手塚プロ資料室長の森さんが「「アドルフに告ぐ」は復刻しない」と言った事から復刻しない方向になっていたそうです。
手塚先生は単行本で加筆をしたものがその作品の完成形だと思っておられました。単行本化に際して書き換えたり大幅削除したりして修正していたのはより理想の形に近づけるためだったからです。
しかし「アドルフに告ぐ」の場合は削除よりも加筆が多いので、森さんとしては、オリジナル版を出す意味はあまりないと考えていたようです。

当時の森さんのコメントがあるので引用します。

「ぼくは必ずしも絶版本を初版当時のままの形で復刻するのがベストだとは決して思っていないんですよ。(中略)
それからこれは後期の作品ですが『アドルフに告ぐ』は例によって単行本化の際に大幅に加筆修正されていて、雑誌連載時とは内容が大きく変わっているんですね。しかも単行本の方が完成度が高い。
そうなると資料的な価値は別にすると、雑誌連載時のものをオリジナルとして復刻することにどれだけの意義があるのかということです。」

つまり「アドルフに告ぐ」の修正の完成度が高いのでわざわざその前のオリジナル版は必要ないんじゃないかという事です。

実際のところ物語後半は手塚先生の体調不良により連載が一時中断しており復帰したものの予定していた期間内に終わらせることができずに不本意な形で連載は終了してしまいました。
これにより単行本化に際し連載時には描ききれなかった部分、全体で約五十頁に及ぶ加筆、描き下ろしがされています。
プロローグとエピローグの加筆については物語の完成度がガラリと変わるくらい書き加えられており圧倒的なクオリティになったのは誰の目にも明らかだと思います。

あとヒットラー出生の謎をめぐる物語にリアリティをもたせたゾルゲ事件については、手塚先生自身も相当に思い入れが深く、元々、ゾルゲを主人公と考えていた事もあってか単行本版では五ページも追加されております。

ミヒャエル・ゾルゲ


その他、細かい構成の変化、目立った修正なども沢山ありこれらについては
国書刊行会のnote記事に詳しく描かれておりますので
ご覧になってみてください


このように単行本版では手塚先生の手によってほぼ完全と言える形での修正がなされました。
資料室長の森さんもこのいきさつを知っているので「復刻は必要ない」と言っておられたのですがその森さんが2016年にお亡くなりになります。
その後にこの「アドルフに告ぐ」の復刻版の企画がスタートするのですがこれは決して森さんが亡くなったから、やっちゃえということではないということです。

それは森さんの否定ではなく後を継ぐ方の新しい視点、新たな価値を引き出すという考えあってのことでした。
「アドルフに告ぐ」は毎回わずか10ページの連載という制約の中で
見事に起承転結が作られている物語構成や飽きさせない工夫、見比べることで見えてくる細かい修正もマニア以外の方にも見応えがあるのではと復刻版への新しい解釈としてスタートされたわけであります。


出版後の反響は、とても良く売れ行きも好調購入者の声として
「雑誌版と同じB5判で箱入り3冊+別冊の大ボリューム」に驚いたという声が多かったようです。
また絵の鮮明さに感動したという意見
印刷の鮮明さや紙質の豪華さに感動したとの声もあったそうです。

そして意外にも若い方への売れ行きが良かったそうで大判で手塚作品を読めて嬉しいとの声が多数寄せられたそうです。
作品の内容だけではない別のところにも需要を感じている人たちがたくさんおられるのは嬉しいことです。

これは「どろろ」のトレジャー・ボックスの時にも同じ現象が起き18000円と高価な仕様ながら「どろろ」のファンの方たちが、単行本だけでは物足りない、内容が違う雑誌版も欲しいということで注文が殺到し品切れになったことがありました。
これによりトレジャー・ボックスは入手困難品となりプレミア化となり高値で取引されることになります。
しかしつい先日、再販が決定しこちらも大きな話題となりました。


代表作である「火の鳥」や「ブラックジャック」の復刻完全版も「どろろ」と同じ現象が起き両作品とも高額商品ながら完売しております。

こちらも一部では高値で取引されるなど
未だに根強い人気を誇っている手塚治虫の復刻版は単なるコレクターアイテムに留まらず幅広い層に支持されていることが分かります。




直近では2024年の4月19日に「きりひと讃歌」のオリジナル版が発売となりこちらも高額商品ながら好調な売れ行きとなっております。
興味がある方は是非ご覧になってみてください



今回の「アドルフに告ぐ」の復刻版内容ですが
雑誌掲載オリジナル版を初めて完全復刻されております。
連載時の扉や単行本化で削除されたページ、改変された台詞を復元し、
大判サイズ(B5判)で原画から高精細印刷した400ページ弱のボリュームが全3巻プラス98ページの別冊が1巻
それらが豪華ケース入りになったまさに愛蔵版仕様となっております 。
別冊内容についても手塚治虫が語る『アドルフに告ぐ』など読みごたえ記事が満載で制作の裏側などを知る貴重な資料となっております。

ファンならお手元に置いておきたいアイテムですね。

ではでは!


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