ブラックジャックの新作が読めるだと!
今回は「TEZUKA2023」プレゼンツ
「ブラック・ジャック」新作AIマンガについて語ります。
すでに日本国民の皆様なら当然ご存じのことかと思いますが
2023年6月13日に「ブラック・ジャック」の新作を生成AIを使って生み出そうというプロジェクトが発表されました。
公開は秋口とされておりまして、その前段階としてこの記事では
手塚治虫専門YoutuberとしてAIで挑む「ブラックジャック」最新作について語り散らしていきたいと思いますのでぜひ最後までお付き合いください。
まずは本件について簡単に説明しておきます。
これは手塚治虫の「新作」漫画をAIで制作しようという企画でありまして
AIに「ブラック・ジャック」の作品を学習させ
完全新作の「ブラック・ジャック」を誕生させようという企画であります。
これはファンにとっては非常に興味をそそられる話題ですよね。
「ブラックジャック」の新作が読める!なんていう
パワーワードをチラつかせられちゃあ… 誰もが二度見しちゃいます。
手塚ファンなら間違いなく「なんだと!」と五度見してしまう破壊力があります。
そんな手塚AI企画
実は2020年にも同じような試みを行っておりましてAIが完全新作マンガを生み出し「ぱいどん」という作品が誕生しております。
その時の世間の反応は、当然のように賛否両論飛び交いまして
「AIでマンガを描くなんて言語道断」「神への冒涜だ」なんて声が多数出まして、もはや賛否というより否の方が圧倒的大多数という
無残な結果になってしまいました(笑)
しかし今回は少し勝手が異なります。
…というのも
AIに学習させ新作を生み出すという主旨は変わらないのですが
なんと、今年誕生50周年を迎えたあの名作「ブラック・ジャック」の新作ということですでにプラットフォームがあるものに対してのAIの活用ですからここは前回とは明らかに違うところであります。
さぁそんな期待のAI企画でありますが「漫画の神様の冒涜」とも呼ばれた
前回のAI手塚の再来となってしまうのか?
今回の「完全新作AIブラックジャック」
ちょっとじっくり内容みていきましょう。
概要
まず今回のプロジェクト概要も、ほとんど前回と同じで
2つの生成AIを使って、人間と「協同」で制作することになっています。
ココ、めちゃくちゃ大事なところなので押さえておいてください。
人間と「協同」で制作、これがめっちゃ大事。
テスト出ます。
大化の改新くらい歴史的重要度高いんで確実に覚えておいてください。
まず
大まかなストーリー作りをテキスト生成AIの「GPT-4」で作成し、
キャラクターの顔とコマは
「Stable Diffusion」(ステーブル・ディフュージョン)という
画像生成AIが生成します。
GPT-4には、ブラック・ジャックの物語の構造、登場人物、世界観、テーマといった「作風」を取り込んだ指示文を打ち込んで、ストーリーのプロットなどを作成させるらしいです。
その後に、
手塚プロダクションのクリエイターが手を加え完成させるわけなのですが、もう何だか横文字多すぎてよく分かんないですよね。
ようするに
人間がAIに指示の文章打ち込んで、
出てきた答えに人間が手を加えて完成、させるという感じです。
つまり人間がめちゃくちゃ絡んでいます。
おや? …って思った方も結構おられると思うんですけど
最初にココがポイントと言ったように、あくまでも「人間との共作」がメインですから完全にAIが新作を生み出すわけではないんですね。
「AIで新作」なんて、この部分だけを切り取るとAIが勝手に手塚治虫の最新作を書いた的なイメージを持っちゃうと思うんですが実際は、
全く違います。
むしろまだまだAI技術はそこまで到達していません。
AIが担当しているのは、
ほんの一部でその多くは人間の手によって進められています。
ちなみに前回、AIが担当したところは
「プロット(漫画の基本的な構成要素)とキャラクター原案」までで
今回はそこからどこまで進めるかといった程度で
ボクらが勝手に想像しているAIが自ら自動学習して、自分で考え行動するアトムのようなロボットがマンガを描くって事では全く違うのでここはしっかりと抑えておきましょう。
ここの土台の部分の認識がズレたまま、どんな意見を言い合っても
それは不毛な時間なのでしかと抑えておいてください。
ちなみにこのプロジェクトに関して公式でも
「人間の創造性や面白さにAIがどこまで迫ることができるのか」
というコメントが出ておりますので
あくまでもこの企画の主な狙いはチャレンジなわけで
現在のAIのレベルでどこまでできるのかという実験、研究が主旨になっているのは明らかです。
ですから「手塚治虫復活」的なパワーワードだけが独り歩きしてゴリ推し洗脳されちゃうともはやこの企画は失望しか残りませんのご注意くださいね。
そしてここも重要なのですが
今のところ人間が指示したものに対して、AIが分析した解答を出すスタイルなので人間側が出す指示によって結果が大きく左右されます。
大きくというよりめちゃくちゃ左右されます。
なのでAIが導き出す解答より
指示を出す人間サイドの偏りの方がそのまま出ちゃうってことです。
分かりやすくいうと「ネット検索」で出てくる答えは、誰がどういう
「検索ワード」を入力するかで変わっちゃうってイメージです。
普通に考えれば
当たり前なのですが
そもそもAIには意識はないですから、0→1を生み出す作業はできません。
AIが得意としているのは様々なデータの蓄積から多くの選択肢を出してくれたりとか、膨大なデータを高速処理して統計的に解を導き出したりすることなので先入観のない答え、構造の欠陥を指摘するなど
客観的な解に導いてくれることには非常に向いているんですけど
自らのクリエイティビティはほぼ皆無です。
ですから、クリエイティブな入力って何なの?
…って話にもなっちゃうんですけど
ここですよね、難しいのは。
ボクらがAIと聞いて想像して勝手に期待しちゃうのは明らかにこの部分。
自立した姿、自らの意思、意識が存在しているかのような振る舞い
それこそ望んでるAIの姿って勝手に思っちゃってますから
ほんと勝手なもんですよね(笑)
なので急速なAIの進化があるとはいえまだまだレベル的には
人間の創造に到底追いついてはいません。
ただですね。
AIの使い方、AIの研究としては
大変興味深い試みであるのは間違いありません。
なぜなら世の中のAIの使い道って大半が作業効率を上げるためですけど
そういう使い方じゃない
アートやクリエティブなところにAIを突っ込んでいく試みは
前回同様素晴らしいチャレンジだと思います。
ご子息の手塚眞さんも、こうコメントしておられます。
「これは人間のためにする研究。
AIを漫画家にするという研究ではない。
あくまでも人間のクリエーターをサポートする。
どこまでサポートできるかということが今回の研究の主要目的だ」
と強調しておられました。
ここから読み取れるのは、今回の主旨は面白い作品を誕生させるというより
人類を前に進めるといった壮大なチャレンジであるという強い信念を感じさせてくれます。
正解を導き出すことが、さも正義であるような時代にあって
この不完全な挑戦はめちゃくちゃ好感持てます。
個人的にAIとクリエイティブとの相性は良くないと思っているので
その分野に足を踏み入れていくなんて
かなりドM的な挑戦でシンプルにすげーなぁって思います。
そもそもアーティストの本質って独自性とか差別化ですから
大量生産とはめちゃくちゃ相性悪いです。
大量消費できちゃう作家やアートの魅力が薄れるように、
それを知りつつAIの世界に突っ込んでいくってやっぱり父譲りのド変態の血筋と言わざるを得ませんね。
何より確実に批判が巻き起こるって見えている世界に
それを承知で挑んでゆく
批判に屈せず前例なき道を突き進む姿は、
まさしく手塚治虫の遺志そのものですから血は争えないなぁって感じます。
故に結果はどうあれ
このチャレンジ自体はボクは非常にポジティブに捉えています。
このチャレンジ精神こそ手塚先生の理念に最も近いものですし
新しいもの好きで、トレンドに敏感で、常に何かにチャレンジしていたのが手塚先生でしたから生きていたら確実にというか、
むしろ我先にと本人も手を出していたと思います(笑)
なので今回のプロジェクト
いかような結果になろうともボクは最大限の支持をしますというのが
最終的なボクの結論になるんですけど…
それだけだと面白くないので
ボクなりに思う苦言と申しましょうか、改善と申しましょうか
これってどうなの?
…ってところを最後に少しご紹介しようかなと思います。
まず前回も少し触れましたけど「コマ割り」へのアプローチですね。
前回同様、
今回も、コマ割りやセリフなどは、漫画制作に携わるクリエーターさんが
担当しているそうなのですが、前作では「コマ割り」へのこだわり、AIとしてのデータの反映がほとんど感じられませんでした。
手塚先生ってコマ割りの革命家と言っても過言ではないほど
コマ割りオタクのド変態コマ割り大王でありまして
コマ割りだけ見ても「あ、手塚マンガ」って、わかるくらい特徴的なコマ割りを数々残してきました。
…にも拘わらず前回作では
そのコマ割りからは全く手塚要素が感じられませんでした。
キャラクターや設定ばかりに目を奪われがちでまさかコマ割りの存在を
忘れてたなんて事ないと信じていますが… どうなんでしょ。
ここも、手塚イズムを「AI」に入力する人間の裁量が大部分を占めているんじゃなかろうかと考えちゃうと
やっぱゴリゴリの手塚オタクとかガチ勢の方々のお力を借りた方が
より手塚治虫像に近づけると思うんですよね。
エンジニアはAIのプロかも知れないけど手塚治虫のプロではありません。
やはりその横に手塚治虫のプロがいないと手塚治虫を再現するということに関して半減しちゃうんじゃないでしょうか。
ボクなんかは
手塚治虫が放つ唯一無二のコマ割りがあってこそ手塚作品が完成すると思っていますから、その要素をないがしろに、
いや…眼中になかったなんて
まさか!とは思いますが、ないと信じています。
ないと思ってますよエンジニアさん。
ですから実際はAIに組み込んだけどAIが必要と感じなかったのか、
知ってたけどプログラミングできなかったのか
理由は分かりませんがコマ割りとは間違いなく
手塚マンガの世界観を構築する要素のひとつですから
今回もそこはちょっと注目してみていきたいと思います。
続いて
このプロジェクトの根幹すら揺らいでしまう疑問になるんでありますけど…
手塚治虫を蘇らせようと、
これまでの膨大な手塚作品をAIに学習させて
そこから新作を生み出そうって建付けになってますが…
インストールするのは作品じゃなく「経験」なんじゃないかって
思うんですよね。
我々ファンとしては手塚治虫の色んな経験値が詰まった脳みそから
生み出される作品が見たいわけで…
手塚マンガを大量に読ませて出てきたマンガって
それってある意味、
藤子不二雄作品じゃないですか(笑)
AIがその人の人格をコピーするってことは
作品をコピーするんじゃなく
その人と同じ体験、経験をさせないと意味ないって思うのはボクだけでしょうか。
ヒヨコを分析してもニワトリの考えには到達しない的な事なのですけど
子供の情報をいくらインストールしても
完全に親の思考を学習したとは言えないじゃないかと。
手塚先生の根底にある生命の神秘、命の尊厳というものは
間違いなく壮絶な戦争体験から来ているし
昆虫大好き少年の思考、人形大好き、変身大好きなど
手塚治虫のド変態の部分を学習してそれを全部ぶち込んで出てきた作品が本物の手塚イズムだと思うのです。
ですからAIに読み取ってもらいたい思考のクセって
作品からではなく経験から読み取って欲しいんですよね。
そうした人間にはデータ化できない部分を解析することに
AIの本当の価値があるとも思います。
天才の無意識に宿っている毒とか、潤いとか美意識を引き出して欲しいと思いませんか。
手塚治虫が持つ
蛍光灯の下で読んじゃいけないっていう危なさ
移り変わり行く変態に性的興奮を覚えるアブノーマルさ
その潜在的なアンダーグラウンドを赤裸々に暴き散らかしてくれるのが
AIの使い道として最も正しいと思うし、面白いとも思うんです。
手塚治虫の哲学的表現の継承、
唯一無二の発想力をどこまでAIで再現できるか
これが最も面白くもあり、最も難しいところ
万に一つ製作者の方がこの記事を見て下さっていたならば
アプローチのひとつの可能性として小耳に挟んでおいてくれたら幸いでございます。
…というわけで好き勝手な事喋ってきましたけれども
何より娯楽の原点は楽しむことなんで
まずは純粋にこのプロジェクトを楽しんでいきたいと思います。
では!