手塚治虫の天才性と変態性が炸裂した傑作短編「ロバンナよ」
今回は手塚治虫の天才性と変態性が炸裂した傑作短編「ロバンナよ」をお届けいたします。
こちらは手塚治虫お得意の短編なんですが
愛と獣と異常性欲が絡み合った変態的問題作であります。
誰が狂って誰が正しいのか分からない最後まで息をつかせぬ展開で
個人的にも大好きな短編であります。
今回はそんな手塚治虫の変態ワールドをご紹介いたしますので
ぜひ最後までご覧になってみてください。
それでは本編行ってみましょう。
---------------------------
早速本編がどのような作品なのかご紹介していきます。
本編は手塚治虫の連作短編「空気の底」シリーズに掲載された一遍です。
1968年から1970年にかけて、
秋田書店の青年誌プレイコミックに連載されたもので
内容的には日常の中に潜む悲劇、異常さを描き
基本的に後味の悪い結末ばかりです(笑)
特徴は青年誌が対象なのでこれまでの手塚治虫の作風とは異なり
やや大人向けに描かれたものが多く
不条理、人間の業そしてちょっぴりエッチなものが多いです。
現にこの時期には大人向けエロテッィックアニメ「千夜一夜物語」を製作しており手塚先生は原案、構成、総指揮を行っております。
さらにこの「空気の底」終了後には
エロティックサスペンスの傑作「人間昆虫記」も執筆しておられますから
時期的にそういう作風のトレンドにあったことが伺えます。
ちなみに
同じ時期にダークエロSFの傑作「聖女懐妊」を発表しておりますが
こちらは「空気の底」ではなく
講談社手塚治虫全集版では「時計仕掛けのりんご」という短編に収録されております。
その前に朝日ソノラマから単行本「空気の底」が上下巻で発売されておりましてその時には下巻にこの作品「聖女懐妊」は収録されているんですけど
なんで全集版では漏れたんでしょうね。
理由は分かりませんけど
ここら辺のちょっとエッチで変態的な一連の流れを組んでいるのが
本作「ロバンナよ」であります。
この「空気の底」には大人向け雑誌だったということもあり
これまでの少年誌にはなかった制約の中での連載だったので
ダークでエロくて際どいものに挑戦できたのだと思います。
実際本作には近親相姦ものだけでも3つぐらい収録されておりますし(笑)
かなり攻めた短編がいくつも収録されており
且つ手塚先生自身もお気に入りの短編集でもあります。
この「空気の底」収録作についてはめちゃくちゃ語りたいんですけど
語ると長くなってしまうので
また別の機会にでもご紹介したいと思っております
ぜひお楽しみにしておいてください。
今回はその中の「ロバンナよ」という作品のみのご紹介となります。
それではあらすじ見てみましょう
主人公は手塚先生本人で、
主人公というか狂言回し的立ち位置になっています
ある日先生の大学時代の友人「小栗」の自宅を訪ねるところから始まります。
小栗は妻と二人で暮らしているんですが
ロバが放し飼いになっていたり掃除も手入れもされていない
不精な佇まいでしかも
自給自足の薄汚い生活をしていました。
…どうやら奥さんが病気で臥せっており
小栗一人では何もできないからだったようなんですね。
そしてあいにくの大雨で仕方なく
その日は泊まることになるんですが
寝静まった夜に
ミシリ、ミシリと何かの足音が聞こえてくるんです…。
実はその足音の正体は
小栗の奥さんの足音で
夜中に怪しいネグリジェを纏って
暗い家の中を夢遊病患者のように俳諧していたんです。
手塚先生はそこで奥さんは病気に臥せっているのではなく
病気だから人に会わせたくなかったのだと悟ります。
その後をつけると、
奥さんは包丁を持ち出し寝ているロバに襲い掛かります。
間一髪のところで手塚先生が止め
小栗に奥さんを精神病院に連れて行った方がいいと告げるも
これは奥さんの突然の発作で
たいしたことはないから大丈夫と言われてしまうんです。
すると今度は…
奥さんが手塚先生に泣きよってきて
実は「主人が狂っているんです」と言い出します。
主人は人間よりも獣に激しい愛情を持っており
私にはウマになれと首にクサリをつけられ調教されてきました。
「主人は性的不能者で余計残忍なのです。だから私を連れて逃げて」
とお願いされるんですね。
こりゃたまらんと翌朝に逃げる決心をする手塚先生…
実はこのあと…
とんでもない秘密が明らかになるのですが
果たして…
異常性欲の親友、小栗が狂っているのか?
それとも半裸で徘徊している奥さんが狂っているのか?
誰が正しくて誰が狂っているのか?
事の真相はぜひ本編にてお楽しみください。
…というわけでここからはネタバレ含みますので
知りたくない方はご退出くださいね。
如何でしたでしょうか
人外、獣、変身、エロ、サイコと
ド変態の手塚ワールドが展開していたと思います。
これは1986年公開の「ザ・フライ」という映画によく似た設定です
実は、ロバと奥さんが入れ替わってしまったという展開なんですね。
映画は人間がハエになってしまうという設定でありますが
本作はそれのロバ版です。
そして本作は1968年作なので
「ロバンナよ」の方が昔の作品となります。
しかしこの「ザ・フライ」の原作が
1958年に公開されたホラー映画『ハエ男の恐怖』のリメイク作品ですから、
恐らく手塚先生はこちらを原作をモデルとして本編を書いたものと思われます。
「物質転送の研究者が実験中のアクシデントにより悲劇に見舞われる」設定なんかはそのまんまです。
映画好きの先生らしい見事なホラーチョイスだと思います。
しかも実験に失敗した研究者の苦悩を、「エロスとケモナー」をミックスさせるあたりホラー要素というより変態要素を爆増させて凄まじい作品に仕上げてしまうあたり手塚治虫のミックスセンスはホントに凄まじいものがあります。
この小栗が奥さんにまたがってるシーンなんて
子供にはトラウマ級のワンシーンですよほんと。
まさに手塚治虫の「黒」要素全開の短編ですね。
ストーリー展開も
序盤ではどれがウソか本当か分からなくて
誰が狂っているのかも二転三転するサスペンス要素もあって
この短いページ数で良質なドラマをぶち込んでくる手塚治虫は
やはり只者じゃあありません。
構成、展開、スピード感、見事です。
手塚治虫の凄さはやはり限られたページ数で展開する構成力ですよね。
ムダがないからこそ切れ味の鋭さが増しますし
読者に与えるダメージも大きいんですよね。
この後に発表されるブラックジャックがいい例ですけど
恐らく日本有数の漫画家が束になっても手塚治虫の独創する展開力、構成力にはかなわないでしょうね。
それほどまでに優れた短編作家であると思います。
先にも少し触れましたが
手塚先生は多くの短編を書いており多種多様の短編集を発表しております。
この「ロバンナよ」収録の「空気の底」は
私利私欲にまみれて生きる人間たちのその業の深さを、
SFやホラー、サスペンスなどの形を取りながら描いた手塚治虫の傑作短編集となっております
あまり手塚治虫を知らない方、
または鉄腕アトムなどに代表される児童マンガの大御所というような
イメージを持っておられる方にはぜひご一読して欲しい作品であります。
新たな手塚治虫像、
そして漫画の神様と呼ばれた作家の真の一面を覗き見ることができます。
そして実はこんなにヤバイ作品も描いていたのかと
手塚治虫が持つ深い世界に足を突っ込むキッカケになって下されば幸いでございます。
という訳で今回は「ロバンナよ」お届けいたしました。
ひたすらヤバい!短編集「空気の底」
ぜひチェックしてみてください