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二十歳のころ 第三十九章

僕は興奮している。イーブンらは僕に飲み物を勧めてきた。僕は勧められた紅茶に口をつけ、高揚した気分を落ち着かせようと試みる。
彼らはヨットの名前の由来を話し始めた。ヨットの名前はラ・ジュリアンヌ。彼らの子供のジュリアとアンヌの名前を合わせ、生まれたものだと説明する。なんて粋な名前なのだ。僕はいい名前ですねと受け答えし、感動していた。
ヨットの名前の由来の説明の後、イーブンは航海地図を持ってきた。そして地図をテーブルに広げ、今まで航海してきた航路を説明し始めた。三年以上の期間を経た航海だ。大西洋を横断し、南アメリカ大陸、そして太平洋を渡り、フィジー、そしてオーストラリア。航路図を指で辿りながら、説明を受けると僕はその凄さに自分自身のことではないのに舞い上がってしまう。僕もこのヨットで航海をしたい。そして僕も世界に。世界の男と言われるようになりたい。その後イーブンは船内とその設備を説明する。僕はどれを見ても感動し、航海するという気持ちを抑えきれない。
「すごい。信じられない。僕も航海をしてみたい。」
僕は何度も同じ言葉を彼らに繰り返し述べた。僕が航海に対して冷静な判断を下せないという様子を見て彼らはまた明日ヨットクラブで会おうと約束をし、その場を別れた。
翌日、僕はヨットクラブに行った。そして僕らの最後の話し合いが設けられた。僕は一晩寝ただけではヨットで航海するという熱あるいは夢は覚めなかった。その様子を見てイーブンとニコルは
「個人のヨットではなく、ケアンズからシドニーを航海する大型客船のクルーとなり航海を楽しんだ方がいいのではないか。」
と一枚の求人を勧めてきた。
「君と同じような若者がいるし、仲間ができそちらのほうが楽しいと思うのだけれど。」
と言ってくる。確かにそうかもしれないが、それは僕が乗船できるという確定的なものではない。それに英語が喋れないせいで乗船を断られるかもしれないと僕は思った。僕は大型客船のヨットよりも個人用のヨットで航海をしてみたい気持ちが勝っていた。
「僕は是非、ラ・ジュリアンヌで航海してみたいのです。大型客船よりもヨットに乗りたいのです。お願いします。できることはベストを尽くします。」
困ったなぁとイーブンとニコルは顔を見合わせます。二コルは
「聞きにくいことだけれどお金のほうは大丈夫なの?」
「大丈夫です。オーストラリアドルで一万ドル持っています。」
彼らは僕のような若者が一万ドルも持っていることに驚いたようだった。そしてまた二人で顔を見合わせた。
「日本でアルバイトをして貯めました。僕はヨットで航海の経験をしてみたいのです。」
するとまた二人はフランス語で会話をし始めた。すると以前イーブンの通訳をしていたヨット仲間の一人が話しに加わり助け舟を出してくれた。
「そんなにやりたがっているのだから。やらせてやってもいいんじゃないか。とりあえずダーウィンまで試させたらどうだろう。」
イーブンとニコルは表情が変わり、そうだなと納得している様子だ。
「我々のほうはヨットに乗せてあげることは構わないけれど。航海する前にご両親に相談してから決めなさい。これは約束です。」
僕はその言葉を聞き、やったーと心の中でガッツポーズをした。僕はヨットで航海ができるのだ。大学の入試試験に合格した時のような嬉しさがこみ上げてきた。僕はすっかり有頂天になって舞い上がった。
「はい。わかりました。今晩必ず家族と相談します。」

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